愛されていないことは分かっていました
「番なんて必要ありません、父上!」
中から鋭い声が聞こえてくる。
私はその声を、ドアの外からじっと、ただ立ち尽くして聞いていた。
「何を言うんだ。竜人族にとって、番とは必要不可欠なもの。己の命よりも大切な……、そんな存在なのだぞ」
「僕にとってはそれがヴィオラなんです! セルマは……、あいつは、違う!!」
心からの叫びといった風な彼──ウィルフレッド様の台詞に、もう乾いた笑いしか出てこない。
分かっていたのだ。最初から。ずっと。
彼が私を愛していないこと、必要としていないこと、それどころか、疎んでいることを──。
「セルマは完全にお前の番だ。初めて見た時、それを実感したのであろう? ならばそれは覆せないこと。我ら竜人族にとっては絶対のものだ。お前がいくらヴィオラを好こうとも、それは変わらん」
「いいえ父上、変えてみせます。それが竜人族としての運命ならば、そんなもの、僕が覆してやる!」
「ウィルフレッド! 聞き分けなさい、これは竜人族の掟だ!」
「うるさい! 僕は絶対に認めませんからね!」
ドタドタと中から人の歩く音が聞こえて、私は慌てて曲がり角の方へと身を隠す。
「僕が愛しているのは……心から大切だと思うのは、ヴィオラです! セルマなんて、きっと偽物の番なんですから!!」
決め手の一撃が私にクリーンヒットした。崩れ落ちそうになるのを、ぐっと堪える。
するとすぐにウィルフレッド様が現れて、落ち着かない足取りでどこかへと消えていった。……きっとまたヴィオラ様の所へ行くのだろう。
彼はヴィオラ様の隣が一番幸せで、癒されると言っていたから。
「ウィルフレッド! ……はぁ……、あいつにも困ったものだ……」
そんなご当主様の疲れた声が聞こえてきた。
一方、その場で立ち尽くすしかない私。
「…………」
「セルマ様……」
傍についていたメイドのララが心配そうな声で私を呼ぶ。
私はそれに微笑みながら「大丈夫よ」と答えた。……笑えて、いるわよね? 私。
「でも、セルマ様。あれはいくら何でも」
ひどい、と、暗にそう言っているのだろう。
私もそう思う。あんな言葉は酷いものだ。聞いた誰かを確実に傷つけるもの。
「……大丈夫だから」
でも、私はそんなことしか言うことが出来ない。
少しでもマシな答えが言えれば、と思うけれど、それも出来ず。ただ遠くを見るだけ。
そんなことしか──出来ない。
(こんな日々は、いつからだろう……)
懐かしい故郷の景色、あの日々が恋しかった。
そう、こんなことになったのは、数ヶ月前──。
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