第三王子は魔法使いを翻弄したい
【魔法使いは王子に翻弄される】のフェリクスの回想になります。先に前作をお読みいただいた方がわかりやすいかと思います。ただただフェリクスがうるさいだけなんです。
私は王国の第三王子フェリクス、10歳の時突然の体調不良に陥った。とにかく頭痛がする。何をしても良くならない。むしろ年数が経つにつれ酷くなっていった。
常に眉間に皺を寄せていた。頭痛が少しでも和らげばと常に体を動かしていた。
15歳になった時にはすでに180cmを超えるまで成長しそこから18歳まで貴族学校で学んだ。第三王子だが幼い頃から婚約者はいなかった。学園で見つかるだろうか。淡い期待を抱いていた。仲の良い両親を見て育った。恋愛結婚をしたかった。
それは簡単に打ち砕かれた。ご令嬢である女生徒は遠巻きで目を合わせない。たまたま近くを通ったら「ひっ」と言いながら意識を失いそうな者までいた。いつも眉間に皺を寄せ、口数も少なく、睨んでいて機嫌が悪そうに見えるようだ。絶望だ。頭痛はするし彼女は出来ない。
卒業と同時に騎士団に入団した。頭痛はひどいが訓練中は和らぐ気がした。そうしているうちに190cm90kgの筋骨隆々な身体が出来上がった。
同僚達は慣れたというが、職務で巡回をしていても国民からは遠巻きに見られる。『凶悪で綺麗なゴリ』という通り名が付いているらしい。悪口と称賛が同居している。ゴリとは何だ?
ある日騎士団の誰かが魔法薬というものを手に入れた。魔法?今はほとんど魔法なんて使われてない。怪しい。しかもなかなかのお値段らしい。詐欺だなと横目で見ていた。手首を負傷した騎士が飲んだ。即座に痛みが取れたと騒いだ。
怪しいが藁にもすがってみる。上司であり護衛の第一騎士団団長にこっそり数本入手してもらった。彼が毒味を買って出た。しなくてもいいのに。何事も無かったので飲んでみた。数年来の頭痛が治った!なんて清々しい!!感動した!!!
しかし効果は長続きしなかった。三日だ。上げて落とされた気分だ。がぶ飲みするしかない。買い占めた。そのころ母である王妃が寝たきりになった。原因不明だ。父である国王は心労で政務が出来なくなった。優秀な兄二人が代行した。
魔法薬の存在を伝えた。侍女が毒味を買って出た。王妃の口に含ませてみた。即座に呼吸が落ち着いた。国王は喜びの雄叫びを上げた。
また買い占めた。飲ませ続けても意識は戻らない。自分も魔法薬が切れた途端十年来の頭痛が戻ってくる。辛すぎる。こうなったら作成者に聞くしかない。国王にも頼まれた。販売している薬屋に聞いても教えてくれない。頑固だ。張り込んだ。
真っ黒いマントを羽織りフードを目深に被った小柄な者が大きな箱を抱えて薬屋に入っていった。いかにもザ・魔法使いの出で立ちだ。おそらくこの者だ!
これがエマとの出会いだ。
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day1
薬屋もマントの者も私を見ても怖がらなかった。顔は見えないが声を聞く限りマントの者は女性だろう。可愛らしい声だ。まさか、声変わり前の男性か?頭痛を抱えながら考えた。エマと言った。女性だった。
話がしたいから城に来てと言ったらあっさり来ると言った。もう少し危機感を持った方がいいと思う。騎士団長の証だって本物かどうかわからないのに。(本物だけど。)
馬車に乗った。三時間話題はどうしようと頭痛をする頭を抱えていたら、エマが頭痛を治してくれた。一瞬で!おお神よ!!エマは私の女神だ!!心の中で拝んだ。
そこからは三時間では足りないほど話した。女神の境遇に同情したが、全く不幸と思っていないようだった。この短時間でとても博識で聡明で穏やかな女性だと思った。完璧な女神だ!!
城に着いた。一瞬で女神は迷子になった。しかし私は鼻が効く。すぐに女神は見つかった。不安げに立っている女神は可愛らしかった。顔は見えないけど。城の中では手を繋いでいる約束を取り付けた。よし!!
早速国王以下兄達は私の変貌ぶりに非常に驚いていた。すぐ叫ぶんだよな父は。あまりに驚いているから私はだいぶ見た目が変わったのか?凶悪が外れてただの綺麗なゴリ?になったのか?
女神が王妃を治せるかもと言ったら、すかさず国王は女神の手を取った!それは私だけの特権だ!父といえども許せん!父は母の手だけを握っていればいいのだ!すぐ興奮する癖は直したほうがいいと思う。
母を治すのに五日滞在するという。よし!有給を取ろう!部屋は隣で移動は常に手繋ぎだ!本が好きみたいだから図書館も案内しよう!滞在中はずっと女神と一緒だ!
女神の見立てでは母は魔力回路が壊れているという。溜まっている魔力を取ったら母の症状が落ち着いた。早速一つ目の回路をあっという間に作成した。さすがだ私の女神。
昼食休憩だ。フードを被っているからか、少しずつ食べている。小動物みたいで可愛い。チョコレートのデザートにウキウキしてる。おそらくこれは好きなやつだな。
話を聞けば生活全般の魔法が使えるらしい。流石だ。兄1が興味津々になっていたが、これ以上は興味を持つなよ。既婚者だしな。何なら子供もいるしな。早く話題を変えよう。女神を図書館に誘った。女神が浮かれている。可愛い。
図書館に向かう途中、急に女神が動かなくなった。体調不良?心配だ!お姫様抱っこした。柔らかくていい匂い!ってダメだ!邪な気持ちは捨てた。
図書館に着いた。沢山椅子があるけれど、ソファを勧めた。隣に座った。女神が何かあったらすぐ対応するためだ。決して邪な考えではない。
女神が物凄い速さで分厚い本を読んでいる。何もかもが規格外だ。さらに回路作成を短縮出来るかもと言う。出来たとしても約束の日よりも前には家には帰したくない。
あっという間に残りの回路を作成してしまった。母は二、三日で意識が戻るようだ。有難い。非常に有難いが、女神はもう帰りそうな雰囲気だったので、魔術指導をお願いした。
夜、ばあやが女神に部屋を案内した。ばあやと呼ばせていた。ずるい!同じく名で呼ぶようにと言ったら呼んでくれた!可愛い!あとは一人で部屋を出ないよう釘を刺しておいた。すぐ迷子になるからね。
今日会ったばかりなのに女神の事しか考えられない!何て事だ!こんな気持ちは初めてだ!眠れない!
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day2
女神は朝弱いらしい。せっかく一緒に朝食を取ろうと思ったのに。でも今日は魔術指導の日だ!楽しみ!
自室で指導を希望したら広場になった。ちぇ。魔力、魔術の説明を受けた。さすが女神とてもわかりやすい。ちなみに私は防御専門らしい。
記憶力には自信がある。すぐに魔法陣を作ったら女神に褒められた!嬉しさのあまり思わず抱きついた。決して邪な気持ちはない。
図書館は好きだ。ソファがあるからな。隣にいる女神に明日は国立図書館とチョコレート店に行こうと誘った。予想通りウキウキしている。可愛いな。
その晩、母が意識を取り戻した。そして女神は母に治癒魔法をかけてくれた。有難い。
母もどうやら私が綺麗なゴリ?になったのに気付いた。女神のおかげというのも気付いた。さすが察しがいい。そう女神は命の恩人だ!女神の称賛を心の中でしていたらどうやら口に出ていたらしい。家族はドン引きしていた。
明日は朝から丸一日女神を独占出来ることになった!予定変更だ!あまり関わりたくないが、女性が好みそうなレストランを知らないので、うるさい二人におすすめを聞いた。
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day3
約束の時間に迎えに行った。お揃いの黒マントで。そしたら透過の魔法をかけてくれた!完全なお揃いになった!嬉しすぎる!
行き先は国立図書館だ。馬車で女神の隣に座ったら、向かいの護衛のアレクセイが目を閉じた。眠たいのだろう。
女神は国立図書館に感動していた。迷子になるから手を繋ごうと思ったら断られた。悲しい。
レストランで楽しく食事をしていたら、女神はそろそろ森に帰るのだと言いはじめた。早すぎる。少々駄々を捏ねてしまった。しかし、聞くと女神は王国を守っていた。しかも秘密まで教えてくれた。
移転魔法があるならば…ふむ。決して邪な事は考えていない。よし!切り替えて今日を楽しもうと思ったら、うるさい二人が突撃してきた。
案の定、うるさい二人もとい義姉達は私達の邪魔をした。一時間も無駄になった。しかも女神を疲れさせたし。覚えてろよ。
いかん。女神の前では穏やかでいないと。気を付けよう。気を取り直してチョコレートの店だ!絶対女神は喜ぶぞ!
まるで天国だった。念願のあーんをしてもらったしした!しかも女神はちょっと楽しそうだった。これは脈ありだな!
城に戻りまた駄々を捏ねてしまったら、通信魔法をかけてくれた!二人だけの!お揃いの指輪にしたかったけど、断られた。悲しい。
通信魔法陣は白くてキラキラしていてとても美しかった。ふと思い付いた。キラキラの色を変えてもらおう。女神には私の色。私には女神の色。ナイスアイデア!
何と女神の色はアメジストの色だった。見た事ないから珍しいのかも、父と母は微かに反応してたな。何かあるなこれは。
試してみたらちゃんと通信できた!めちゃくちゃ嬉しい!毎日話しかけちゃおう!
現実に引き戻された。女神は明日帰るって。女神がいなくなるなんて地獄だ。
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day4
一言でも発すると暴走しそうだから我慢した。とにかく今日は毎日の通信と森への訪問の許可取りだけを話そう。
許可は取れた!嬉しいけど悲しい。女神が遠くなってしまう。
薬屋に着いたらおかみと抱擁しているではないか!しかもあっさりと見送ってるし。
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day5•6•7
もうこうなったら一日二回は通信してやる!昼と終業後だ!
就業中に国王と王妃に呼ばれた。西の辺境に行って欲しいと。聞けばアメジストの瞳が関係している。絶対女神と関係あるな!もちろん行きますとも!今すぐにでも!
その前に女神に聞いておかねばならない事がある。もしかしたら血縁関係がある者が見つかるかも知れないしな。
それとなく森に一人で寂しくないのかと聞いてみたら、寂しいとは言わなかった。ただ、城に来て、他人と関わった事で、本当にひとりぼっちになったと実感したようだ。私と一緒にいればそんな思いはさせないのに。
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day8•9•10•11
秘密裏だから少数での移動だ。本当は馬で行きたかったけど止められた。防御魔法があるのに。全員と馬に防御魔法をかけた。とにかく急いだ。馬さんたち無理させてごめんね。皆頑張ってくれたから一日早く着いた。有難う。
女神に連絡したかったけど、皆頑張っているのに自分だけ浮かれてはいけない。到着するまで我慢だ。
到着した。めちゃくちゃでかい辺境伯が立っていた。しかもちょっと感じ悪いんだよね。合わなそう。けれども、アメジストの瞳について聞き出してやる。絶対女神と関係あるよね!
感じ悪いって思ってごめん。辺境伯って壮絶な人生だったんだ。でも一筋縄ではいかないな。単刀直入に聞くしか無い。
でもやっぱりめちゃくちゃ感じ悪かった!女神の事を侮辱するような言い方してさ!私の大切な存在なのに!って言ったら黙り込んだ。え?何?
肯定しないけど、紛れもなく女神は辺境伯の孫だった。判明した途端森から物凄い音がした。爺さん目が見えないのに物凄い早さで駆け出した。ぶつからないのか?心配だ。急いで後を追った。
いきなり魔獣が現れた。攻撃は出来そうだから大丈夫だ。とりあえず人と建物に防御魔法をかけておこう。隣で爺さん驚いてる。ふふっ女神から教えてもらったやつだよ!
その時いきなり腕輪が光った。女神!女神から連絡が来た!初めてだ!嬉しい!
でもこの後、意識が遠のいたんだよね。
誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。それから体がポカポカしてきた。まるで女神の魔力みたい。女神…さっき話の途中だった!
目を開けたら、目の前にこの世のものとは思えない程の美女が泣いてた。え誰?誰?
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a few days later
美女はエマだった。両目で見れないのは残念だが。でもいいんだ。エマが助けてくれたおかげで、魔力は失ってないし、な!ん!と!口付けしたからね!覚えてないけど。もう嫁だね。
今は辺境伯城の病室みたいな所で爺さんと同室で寝かされている。むさすぎる。
嫁はこの城ではなぜか迷子にならないんだよね。聞いてみたら移転魔法の魔法陣をかけまくっているみたい。この城はあまり人がいないからいいけど、ちょっと無防備じゃないか。心配。
嫁が食事を運んできてくれたから、あーんしてもらおうとしたら爺さんに横取りされた。片脚を失ったのは同情するが。くそ!しかもあの勝ち誇った顔!やっぱり感じ悪すぎる!!
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last
嫁は爺さんの娘になった。爺さんが義父か。しかも義父泣いてるし。ちょっと中央に行ってくるだけだからさ。ほら娘もすぐ戻るって言ってるし。
今の嫁は世界一の美しさだね。見た目も中身も。城の皆腰を抜かしてた。うるさい二人もとい義姉達なんか嫁に拝み始めたし。女神だからね!
城の訪問の目的は結婚の許可取り。一応王族だから形だけでもしておかないと。もう嫁だけど。そしたら、国王が嫁に許可取ったのかだって。
あれ?目を覚ました時から嫁になってたから、改めてプロポーズしてないかも。これはまずいのではないか?初心に戻ろう。
「エマ殿、どうか私と結婚してください。」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。」
はぁ可愛すぎる!一生大切にする!幸せにする!命が尽きるその時までずっと一緒だ!こんなに幸せな気持ちなのに。。。
ギャラリーがうるさすぎる!
(完)
ゴリはゴリゴリの筋肉の略でした。