凍える星の姫君06
「ようこそ、私の家へ。好きなところに座ってください!」
アイシャを連れて自宅こと横穴に辿り着いたシェフィルは、明るくそう伝えた。
アイシャは一瞬固まり、次いで目だけで辺りを見回す。穴の方はあえて見ないようにしながら。しかしシェフィルが率先して入れば、現実逃避していた視線をいよいよ横穴に向けた。
「本当に此処? これが家?」と言いたげな顔をしていたアイシャだったが、一緒に来ていた母が【此処で間違いありませんよ】と告げると、表情を引き攣らせながら駆け足で横穴へと入ってくる。獣に追われて逃げるような入り方だなーと、横穴の奥で腰を下ろしていたシェフィルは思った。
中へと入ったアイシャは、部屋の真ん中にある解体途中のゴワゴワを見ると飛び跳ねるぐらい驚いていた。動物の死骸一つで何を驚いているのか? シェフィルにはよく分からない。
アイシャは胸に手を当て、大きく深呼吸。自力で落ち着きを取り戻すと、部屋の中の道具を避けるように動き、隅っこで座る。そこはシェフィルと向き合う形になる位置だった。
【落ち着きましたか。では、そうですね。まずはあなたが知りたい事に答えるとしましょう。我々から先にあれこれ聞いても、混乱に拍車が掛かるだけでしょうから】
アイシャが落ち着いたところを見計らったように、家の外にいる母は『話し方』について提案する。
母から話し掛けられたアイシャは少し怯えた様子を見せた。しかし短い沈黙を挟んだ後、こくりと頷く。
あっさりと話の方針が纏まった。これから色々質問攻めにしようとシェフィルは考えていたが、母曰くそれをしたらアイシャが混乱してしまったらしい。流石は母さま! 相手の事をよく観察しています! とシェフィルはちょっと自慢げに思う。
とはいえその自慢に何時までも浸らない。アイシャが頷いたという事は、彼女はすぐにでも質問を投げ掛けてくるかも知れないのだ。話を聞き逃さないよう、シェフィルはアイシャが発するであろう言葉に耳を傾ける。
予想通り、アイシャは早速シェフィルに尋ねてきた。
「じゃあ、聞くけど……あなたは、何者なの? 人間、じゃない、わよね?」
アイシャがした最初の質問は、シェフィルの正体について。
しかしそれはシェフィルにとって、何故確認されねばならないのか分からない問いだった。
「何と言われましても……人間ですよ? ほら、あなたと大体同じ姿形をしてますし」
「見た目以外全然違うじゃない! 電磁波で話し掛けてくるし真空で平然としてるし窒素も凍る寒さの中で生きてるし! アンドロイドかと思ったら血は流すし肉はあるし! なんなのよ一体!」
「そう言われましてもー……」
【シェフィル。あなたの生い立ちを説明すると良いでしょう。それが彼女の問いに対する答えになると思われます】
激しく詰め寄られて困惑するシェフィルに、母がアドバイスをくれた。そうすれば良いのかと、シェフィルは指示通りに話す。
自分がどうやってこの星に来たのか。
どうやって蘇ったのか。
他の人間がどうなったのか。
全て包み隠さず話すと、アイシャはすっかり顔を引き攣らせていた。納得するどころか疑いを向けているようだ。どうしてかはシェフィルには分からないが、自分の生い立ちはアイシャにとって怪訝なものらしい。
「信じられない……死んだ生物が、生き返るなんて。星々を自由に移動出来る今の人類だって、起きてしまった死は覆せないのに」
【厳密には蘇生ではなく置換です。私の細胞がシェフィルの遺伝子を取り込みつつ変異しました。正確には人間ではなく、我々との交雑種と言うべきでしょう】
母から補足され、アイシャはますます表情を強張らせる。
その顔はシェフィルを人間とは思ってなさそうなものであるが、しかし今までのような半狂乱の否定もしない。多少は、受け入れてくれたのかも知れなかった。
或いは、もっと大きな疑問に意識が逸れただけかも知れないが。
「……ねぇ、一つ確認したいのだけど、その宇宙船はどうして落ちたの?」
「どう、と言いますと?」
「私の宇宙船の場合、この星に近付いたら急に大半の電源が落ちたの。それも星の重力圏内に入った途端にね。予備電源も動かして復旧しようとしたけど、全然出力が足りなくて。ナノマシンすら殆ど止まっちゃうし……」
「でんげんってなんですか?」
「……電気が使えなくなった、って事よ。兎も角、それと同じ事が起きたのかもって考えたの。でも、うん、よく考えたら赤ん坊だったあなたがそれを覚えてる筈ないし、そこの黒い生き物も、墜落現場に居合わせただけなんだから、知ってる訳ないわよね」
自ら切り出した質問だったが、話している間に解決したらしい。アイシャは一人納得したように独りごちる。
実際、シェフィルにはなんの話なのかすらよく分からない。どうにもアイシャの話は難しい事ばかりだ。人間というのはこんなに難しい話をするものなのかと、ちょっと苦手意識が芽生えてしまう。
【成程。何故船が落ちてきたのか私も疑問に思っていましたが、あなたの話のお陰で解消しました】
対して母は、先の会話を理解していたらしい。
流石母さま、とシェフィルが声に出すよりも早く、アイシャが身体を乗り出す。そして切羽詰まった声で問い質す。
「ど、どういう事!? 何が分かったの!?」
【まず、この星には様々なエネルギーを吸い取る性質があります。あなたの乗る船、そしてシェフィルの乗っていた船が落ちたのは、動力として生み出された電気エネルギーの大半が吸収された結果でしょう】
「エネルギーを、吸い取る……? 待って、それってどういう事? 今や人類は何億もの星を直に調べているけど、そんな性質を持った星なんて聞いた事もないわ! それに重力圏に入るまでそんな現象の兆候はなかったわ! 大体エネルギーを吸い取るなら今会話で使ってる電波や電磁波は!? 光だって電磁波の一種だから視覚だって不十分になる筈よ!」
【兆候がないのは当然でしょう。一定範囲より外側であれば、影響圏外ですから。この性質が今も発揮されている事を知りたいのであれば、あなたの宇宙服のエネルギー残量を確認すれば良いかと】
「え? ……ほげぇ!? なんか滅茶苦茶電力消費してる!? 通常使用なら千年持つ核熱電池が一月ぐらいしか続かなそうなんだけど!?」
ヘルメット内に表示された『模様』を見て、アイシャは顔を青くしながら悲鳴を上げた。でんち、とやらはシェフィルには分からないが、アイシャにとって大事なものらしい。
あわあわするアイシャは、ややあって深呼吸。顔面蒼白ながらどうにか落ち着きを自力で取り戻す。母はアイシャの様子を窺いながら、話の続きを語る。
【それと電磁波についてですが、こちらは一部帯域の吸収範囲が狭く設定されています。我々の活動圏内でそれらを全て吸ってしまったら、我々の活動が困難になりますからね。ちなみに熱エネルギーは本来無分別に吸収するのですが、我々以外の生物体、つまり星外からの来訪者は対象外となっています。今回のように、交流の可能性がある事を想定しての事です】
「……どういう事? 設定とか対象って、誰かがこの星の性質を調整してるの?」
母に躙り寄りながら問うアイシャ。
【シェフィルです。エネルギーを吸収するのはシェフィルの能力ですから】
母は、なんの迷いもなくそう答えた。
アイシャはくるりとシェフィルの方を見遣る。一瞬敵対心を感じさせる鋭い眼差しになっていたが、しかしすぐに怪訝そうに眉を顰めた。
そう、シェフィルの仕業で船が落ちたのだとすれば……辻褄が合わない。シェフィルが乗っていた船とアイシャが乗っていた船は、同じ理由で落ちたのだから。もしもシェフィルが原因であれば、この星に訪れる前にシェフィルが乗っていた船は落ちている。
矛盾した物言いにアイシャは不信感を積もらせているようだ。確かに、今のは母の言い方が良くないとシェフィルも思う。
母の言うシェフィルは、自分の事ではないとシェフィルは知っているがために。
「……母さまの言うシェフィルは私の事じゃないですよ。母さま達の事です」
「は? だって、あなた自分の名前がシェフィルって……」
「ええ、私はシェフィルです。母さま達もシェフィルです。シェフィルというのは、母さま達が自分達について呼ぶ時に使う言葉なのですよ」
母達の種族は、どうにも自他の認識が曖昧だ。個体の識別が出来ない訳ではないのに、区別する気が全くない。
母がシェフィルにその名を与えたのも、自分達の仲間だからに過ぎない。というより日々の言動を知る身からすれば、仲間かどうかですら分けていないようにシェフィルは思う。何しろその辺の野生生物すら全部シェフィルと呼ぶのだから。
シェフィルにとって『シェフィル』の名は特別なものであるため、自分以外にその呼び方をしないでほしいと常々言っているが……母には理解出来ず、今もこうして全部纏めてシェフィルと呼ぶ。
【区別する必要があるとは思えません。我々はシェフィルなのですから】
「……自他認識が曖昧、なの? その割には、随分と自我がハッキリしている気がするけど」
【集合意識という訳でもありませんからね。我々は個として誕生しており、他個体との意識共有もありません。情報伝達は密に交わしていますが、伝達されていない情報は知りようがありません。私も、他個体に黙っている事はそれなりに多くあります。人間流に言うなら、公私はキッチリ分けるタイプです】
「ええええぇぇ……なんでそれで自他認識が曖昧なの……?」
母と話しているうちに、アイシャは頭を抱えてしまう。
「うう……そもそもこの星が変なのよ。直径二万キロ程度の自由浮遊惑星なのに軌道が周期的に変化してるし、惑星質量とその核熱を考えると地表面温度は精々氷点下二百度程度なのに実際には絶対零度に近いし、そんな星なのに生物はいるし……」
余程混乱しているようだ。ぶつぶつと早口で何かを呟いている。
言葉の意味が分かれば宥めようもあるのだが、やはりシェフィルには理解出来ない。
【ところで、そろそろ我々からも質問をしてもよろしいでしょうか? 何故あなたはこの星に来たのです?】
母は特段戸惑った様子もなく、今度は自らがアイシャに尋ねた。
今まで(アイシャは納得していないかも知れないが)質問に答えてくれた母からの問い。アイシャは大きなため息を吐いた後、母の方を見ながらぼそりと答える。
「……資源調査よ。人類文明は今急速に発展して、様々な星に入植している。長年の政策の結果として、人口もどんどん増えてる。でもその分資源消費も増えているから、新しい資源採掘場が必要なの。私の仕事は未探査宙域を探検し、新しい資源惑星を発見する事よ」
【資源目的でしたか。でしたら残念ながら、この星には人類文明が必要としている物質はほぼありません。鉄やニッケルは微量ですし、核融合炉の燃料である水素も氷の状態で地表面に薄く散らばるだけ。採掘出来ないとは言いませんが、採算は取れないかと】
「……なんか、随分と人間の文明に詳しいのね。採算って事は貨幣制度も理解しているし。あなた、本当にこの星出身の生き物なの?」
【ええ、その通りです】
「なら、その知識は何処から得たの? というかそもそもどうして人間の言葉を使えるの?」
アイシャは再び母に疑問を投げ掛ける。確かに母は、人間であるシェフィルよりも人間に詳しいが……どうにも詳し過ぎるとシェフィルも思う。
ただ、何故詳しくなったのか心当たりはあるのだが。
【シェフィルが乗っていた船や、あなたの船が積んでいた電子機器からです。あれらから情報を読み取りました】
「……え、ハッキング!?」
【そのような技術は持ち合わせていません。少し電磁波を流し、メモリやデバイスが持つ情報を読み取っているだけです。それに暗号化されているものについては、現在も解析している途中です】
母は『でんしきき』を読み取る力を持つ。シェフィルが持つ人間の知識は、母が読み取って得たものの又聞きなのだ。
シェフィルが乗っていた宇宙船はバラバラになるまで壊れていたため、母の知識は極めて断片的なものだった。しかしアイシャの宇宙船は原型を留めている。完璧に全てが残っている訳ではないだろうが、それでも多くの新情報が得られたに違いない。
恐らく、今の母ならば人間達となんら問題なく会話が行えるのだろう。
――――ちょっと羨ましいと、シェフィルは思う。自分も人間なのに、どうして母さまばかりが話しているのか。アイシャも話が通じる母とばかり会話していて、もうシェフィルの方を見てもいない。シェフィルも初めての人間と話したいのに、取られたような気持ちになる
いや、そもそもにしてである。
「母さまばかり話していてずるいです! この子、私の繁殖相手にするつもりなのだから、私とお話させてください!」
シェフィルがわざわざ人間と接触したのは、その人間と繁殖するため。
なのにこれでは、まるで母とアイシャが繁殖する流れではないか――――シェフィルからすれば、あまりにも面白くない展開だった。
「……繁殖? え、なんの話?」
【おや、これは失礼しました。確かに本来の目的はそれだったのに、つい興味深い情報があったためそちらに意識が向いてしまいました】
「全くもう!」
「いや待って待って。繁殖って何? え、何?」
困惑した様子のアイシャ。母とシェフィルの顔を交互に見てくる。
繁殖が分かっていないのだろうか。それとも此処で繁殖する理由が分からないのか。
多分後者だろうと考え、シェフィルは説明する。
「私も繁殖能力を得た年頃ですから、繁殖したいと思っているのですよ。普通の人間達もこのぐらい成長した頃には繁殖するでしょう?」
「そりゃまぁ、十代で子供を作る人もいるにはいるけど。つか、いきなり私と子供を作りたいとか言うのは非常識というか、ふつーにセクハラで……ああ、いや、アンタに常識はないわよね。うん」
アイシャは哀れむような、呆れるような、そんな眼差しをシェフィルに向けてくる。こてんとシェフィルが首を傾げると、アイシャはため息を吐きつつ話す。
「兎も角、初対面の人に繁殖したいとか言うもんじゃないわ。人によっては猛烈に怒らせるから。そもそも私ら女同士だから無理でしょ……実は男ってオチじゃないわよね?」
「おとこ? おんな? なんです、それ」
【さぁ? その単語はシェフィルの乗っていた船の電子機器にも記録されていましたが、現在も解明されていません。暗号の類ではなさそうなので、恐らく我々にはない概念かと思われます】
「ええぇぇ……性別の概念ないのこの星……」
頭を抱えながら、今度はアイシャが説明してくれた。
曰く、人間には二つの性別があるとの事。
それが男と女。人間の繁殖は、この二つが揃っていなければ出来ないという。そしてアイシャは女であり、シェフィルも見た目(と股間部分の状態)からして女である。故に二人の間で繁殖は行えない、らしい。
普通の人間であれば、知っていて当然の知識。しかしシェフィルにとっては初めての知識だ。まさか人間の繁殖方法にそのような『欠陥』があるとは、予想もしていなかった。折角同族と会えたのに、五十パーセントの確率で繁殖出来ないなんて非効率極まりない。実際、今のシェフィルとアイシャは同性故に繁殖出来ない状態となっている。
ただ、手がない訳ではない。
【どうしますかシェフィル。彼女を殺した後、私の細胞で置き換えますか?】
母が言うように、アイシャを殺した後母の細胞で蘇生させる……シェフィルと同じ存在に変えてしまえば良い。
母達は性別を持たない。人間はこれを『雌雄同体』と言うらしい。シェフィルの遺伝子は大部分が母に由来するものであるため、その遺伝子を元に形作られたシェフィルの身体も雌雄同体の筈だ。だから相手も雌雄同体であれば繁殖可能だろう。
実際には人間の遺伝子もかなり強く作用している(でなければシェフィルは人の形をしていない。身体の外観も大体は遺伝子の産物だ)ので、断言は出来ないが――――シェフィルの本能は確信している。自分は雌雄同体だと。だからこそ『元』同性であるアイシャを繁殖相手と認識しているのだ。アイシャが自分と同じ存在になれば、繁殖出来る可能性はかなり高い。
そして今し方母が発した言葉は、シェフィルにしか聞こえていない。電磁波の範囲を絞り、アイシャには届かないようにしたのだ。アイシャが呆れた顔を浮かべるだけで、恐怖も何もなく平然としているのはそれが理由である。
母に頼めば、アイシャをさっくりと殺してくれる事だろう。いや、母に任せずとも、自分の手でやっても構わない。今までに見せた動きの鈍さから考えるに、アイシャの身体能力は然程高くない筈だ。首をへし折るぐらい、簡単に出来るだろう。
今すぐ繁殖をしたいのなら、そうすれば良い。
しかし、シェフィルの答えは首を横に振る事だった。
「そこまではしなくて良いです」
【良いのですか? 繁殖相手を得る機会なんて、早々ありませんよ?】
「まぁ、そうなんですけど……ただ、私はもうしばらく『人間』のアイシャとお話したいのです」
我ながら、非合理的な理由だとシェフィルは思う。
されどこれはシェフィルの偽らざる本心だった。母の細胞を用いた蘇生で、記憶や人格がどうなるかは分からない。実例であるシェフィルは物心も付いていない頃に蘇生された身であり、そして少なくとも母達が知る限り初めてのケースだからだ。
もしかすると人格も記憶も完璧に残るかも知れないが、欠片一つも残らないかも知れない。きっと大丈夫などという願望に基づいて行動し、悪い方に転んだら取り返しが付かない。
そもそもにして人間の人格や記憶なんて必要なのか、と聞かれたら返す言葉もないが……少なくともシェフィルはそこに価値を置く。失われれば勿体ないと思う。
【分かりました。あなたがそう言うのであれば、こちらから無理強いをするつもりはありません】
シェフィルのそんな気持ちを、母は許してくれた。やろうと思えば無理矢理にでも出来るのに、それをしないでくれたのだ。
……尤も、認めたのは心を尊重したのではなく、アイシャが死ねば何時でも蘇生は出来るからだろうが。正直シェフィルもそれはちょっぴり思っている。
ただしアイシャは、すぐにでも帰るつもりなのだろう。
「そーいう訳だから私は繁殖相手にはなれないわ。遠からぬうちに助けが来るだろうし、婚活ならその人達相手にでもしたら?」
【助けですか?】
「ええ。宇宙船の機能を復旧させて、救難信号を送るつもりよ。エネルギーを吸われて墜落したけど、全力で稼働すれば少しは残る。それは墜落時の逆噴射で証明しているわ。エネルギーさえあればナノマシンで自己修復可能だから、どれだけボロボロでも問題はない。まぁナノマシンって結構電力使うから、時間は掛かるかもだけど。でも救難信号さえ送れたなら、三日もあれば助けが来る筈ね」
「ほへー。きゅーなんしんごーって凄いんですね。人間を呼べるなんて」
人間がこの星にぞろぞろと訪れるのだろうか。なんとも賑やかになりそうで、シェフィルは少し胸が躍る。
ただ、果たして本当にそうなるのか、という疑問もあるが。
何故なら母達が、壊れた船を何時までも野放しにしているとは思えない。
【あなたの船でしたら、既に解体が始まってますよ】
シェフィルの予感が的中した事を、母が語る。
その言葉はアイシャに届き、彼女はぴたりと固まった。ガチガチに強張った動きで母の方を見て「かい、たい?」と呟く。
そしてアイシャは母の答えを待たず、洞窟の外へと走り出す。
何処に行くのか。わざわざ聞くまでもないと思いながら、シェフィルは母と共にアイシャの後を追うのだった。




