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凍結惑星シェフィル  作者: 彼岸花
第三章 進化の根源
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進化の根源12

「ぐぁ……!?」


 鳩尾に受けた一撃は、シェフィルを呻かせた上に突き飛ばす。ごろごろと地面を転がりつつも、勢いを利用して立ち上がり、再びマゼマゼと向き合う。

 その時にはもう、マゼマゼは再びシェフィル目掛けて突進していた。

 猪突猛進。シェフィルはイノシシなる生物を知らないが、その言葉だけは(赤子時代の自分が乗っていた宇宙船のデータベースに残っていたらしく、母から教わったので)知っている。正にそう表現するに相応しい、迷いない一直線の突撃だ。

 即座に避けたくなるが、相手の機動性が分からない。減速せず直角に曲がれる可能性もある以上、離れた位置で回避しても追い駆けてくる事は考慮すべきだ。シェフィルは限界まで引き付けてから全力で跳び、真横を掠めるようにマゼマゼは通り過ぎた

 が、左右に広げられた触手は躱せない。


「がっ!? んぎっ……!」


 手痛い打撃が頭に入り、衝撃で目眩がする。

 しかし身体は無意識に動き、マゼマゼの脇腹に向けて蹴りを放つ。

 ぶよぶよとした肉にシェフィルの足先が食い込む。そう、確かに食い込んだが……


「(これは、効いてませんね……!)」


 肉が分厚過ぎて、打撃が身体の奥まで届いていなかった。

 蹴られた事にすら気付いてないかのように、マゼマゼは颯爽とシェフィルの横を通過。背中の触手を蠢かせながら方向転換し、再びシェフィルの方に駆け出す。

 脇腹に攻撃は効かない。ならばとシェフィルは迫るマゼマゼに対し、真正面で構えを取る。

 多少なりと知能を持つ大型の生物なら、シェフィルの構えを見て警戒ぐらいはするだろう。されどマゼマゼはやはり何も考えていないのか、一直線に、減速もなく走り続ける。


「ふんっ!」


 お陰で、顔面に拳を叩き込むのに苦労はなかった。胴体はぶよぶよとした肉の所為で打撃が通らない。ならば顔面はどうか?

 答えは、面の皮も厚い、だった。打ち込んだ拳は深々と顔面にめり込むも、マゼマゼに怯んだ様子はなく突進を続ける。

 しかしシェフィルは狼狽えない。この状況もまた想定していた事である。そしてもしも悪い方の予感が当たった時、どうするかも既に決めていた。


「ぬぅうっ!」


 シェフィルは地面を蹴り、高々と跳躍。ただし腕はマゼマゼの顔面に食い込んだままである。そのため彼女の身体は、食い込ませた腕を支点にして浮かぶ。

 支えがあるため方向転換は極めて簡単。くるりと空中で向きを変え、シェフィルは再びマゼマゼの背に乗った。

 改めて優位な立ち位置を確保したが、問題はここからである。


「(頭を捩じ切っても、効果はありませんでした)」


 思い返すは、まだアゴムシの頭が残っていた時の事。

 恐らくあの時点でほぼウゾウゾの細胞が肉体の支配権を握っていた。ウゾウゾも頭を潰せば動きが鈍るが、それは地面に潜れない程度のものだ。奴等の頭には大切なものが何一つ詰まってはいない。

 マゼマゼの頭も同じだろう。切り落としたところで、大したダメージにはならない。この星において頭というのは、シェフィル以外にとっては「口がある」ぐらいなものでしかないのだ。

 弱点があるとすれば、中枢神経ぐらいか。

 ウゾウゾは極端に単純化した生物なので、中枢神経を持ち合わせていない。しかしウゾウゾより高度な運動能力を持つ、アゴムシやアカタマ、フワワンは極めて簡易だが神経を持っていた筈。マゼマゼの高い運動性を考えれば、神経は今も残っていると考えるのが自然だ。そこにダメージを与えれば、活動を一時的に止められる可能性が高い。


「ふっ、ぬがあぁっ!」


 そこでシェフィルはマゼマゼの背中に噛み付く。

 噛み付き攻撃を仕掛けた理由は二つ。

 一つはウゾウゾの弾力性に富む肉は、打撃で傷付けるのが困難だから。ウゾウゾは簡単に仕留められるが、それは身体が小さいため。シェフィル以上のサイズになると、肉厚の表皮は桁違いの防御力を発揮している。やはり星を支配する生物の肉体は一味違うといったところか。

 しかしぶよぶよとした肉は、切り裂く攻撃に強くないという弱点を持つ。鋭い爪や棘であれば貫通可能だ。厚みがあれば体内まで届かないので、決して弱くもないのだが。

 兎も角切り裂く攻撃の方が効果的である。人体にも爪はあるが、獣達のものと比べれば短くて薄い。それよりも肉を削ぎ落とすのに使える前歯で噛み付く方が、より痛烈な一撃になるとシェフィルは考えたのだ。思惑通り、彼女の歯はマゼマゼの肉を深く切り裂く。

 とはいえ前歯で削げる深さなどたかが知れている。そしてマゼマゼ側も、そのまま大人しく噛まれてはくれない。


「ブビギィイヤァアッ!」


 悲鳴、と呼ぶにはあまりにも荒々しい声を上げたマゼマゼ。

 その猛り声と共に、無数に生えている触手が振り回された。狙いは背中にしがみ付くシェフィル。触手で殴り、叩き落とすつもりなのだろう。

 されどこのぐらいの反撃はシェフィルも読んでいる。だからこそ噛み付き攻撃を選んだ。

 この方法ならば、両手が空くのだから。


「んぐ、ぎぃっ!」


 噛み付く力で身体を固定し、シェフィルは両腕をマゼマゼから離す。迫りくる触手に向けて拳を振り上げ、打撃により押し返した。

 だがマゼマゼが振り回す触手は七本。対してシェフィルの腕は二本。数が圧倒的に足りない。加えて腕の可動範囲や射程も決して広くはないのが実情。振り回される触手のうち、幾つかはシェフィルの身体を打つ。

 だが、これぐらいならば許容範囲だ。確かにダメージではあるが、細長い触手は然程質量を持たない。このため運動エネルギーが小さく、大きな傷にはならないのだから。

 無論ただ殴られるだけならダメージの小ささに大した意味はないが……噛み付き、その肉を切り裂くための対価と思えば高くはない。


「ん、ぎ、ぎ、ぎぃぃぃぃぃ!」


 深々と歯を突き立て直したシェフィルは、顎を閉じたまま身体を海老反りにする。マゼマゼの肉は当然引っ張られ、ぶちぶちと音を鳴らしていく。

 ついにその肉塊は身体から剥がれた。肉質がしっかりしていたからか、一気に数十センチ近い範囲の肉が身体から離れ、内側数センチほどの深さにある中身が露出する。

 その内側を満たすのはどろっとした液状の体組織。不透明な液体を見通す事は出来ない、が、それでも薄っすら見えるぐらい浅い位置に『何か』があるのは確認出来た。


「(神経がこんな近くにあるとは、ついてますね!)」


 神経は、それを持つ種にとって絶対にダメージを負う訳にはいかない器官だ。損傷すれば身体の動きが止まり、適切な行動が取れない。

 だから大抵の場合、身体の中心などダメージを受けにくい場所にあるものだが……急激な自己進化により中身の位置がズレたのか、或いは神経を守った方が生存出来るという淘汰が働かなかった結果か。マゼマゼの神経は背中の浅い場所にあった。

 いずれにせよこのチャンスを逃す理由はない。シェフィルは見えている神経を片手で掴む。掴まれた瞬間マゼマゼの身体はびくりと跳ねたが、今更こんなものでシェフィルは怯まない。

 渾身の力で神経を引けば、ぶちぶちと音を鳴らす。更にマゼマゼは激しく触手を動かしたが、シェフィルは一瞬たりとも止まらない。

 乱雑に、シェフィルは掴んだ神経を引っこ抜いてやった。


「(良し! これで――――)」


 一瞬でも動きが止まる。数多の戦いの経験からシェフィルはそう判断する。

 判断してしまった、という方が正しいだろうが。

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付くのが遅れたのだから。


「っ、がぐっ!?」


 反応した時には既に手遅れ。触手の手痛い一撃が頭に入り、シェフィルの身体は大きくバランスを崩す。

 それを好機と見たかのように、マゼマゼは跳ねるような暴れ方を始めた。

 これにはシェフィルも驚く。間違いなく神経は投げ捨てたのに、どうしてマゼマゼはまだ激しく暴れ回れるのか。ウゾウゾなど単純な生物の混合体なので再生能力には優れているだろうが、だとしても早過ぎる――――咄嗟に原因を探ろうとするのは人としての本能であるが、しかし暢気に考えている暇はない。

 体勢を崩していた事もあり、シェフィルはマゼマゼの背中から振り落とされてしまう。地面に背中を打つも、シェフィルの強靭な肉体であればこの程度の衝撃によるダメージはほぼない。

 しかしマゼマゼが放ってきた後ろ蹴りが胴体を打つのは、強がりでもノーダメージとは言えなかった。


「ごふっ!? がっ、ぐぅぅっ……!」


 蹴られた拍子に転がりながらも、どうにかシェフィルは体勢を立て直す。蹴りのダメージは思いの外大きく、胃の中身が逆流しそうな気持ち悪さに見舞われた。

 だがその不快な衝動よりも、意識が向くのはマゼマゼの行動。

 何故神経を引っこ抜いたのに、マゼマゼは即座に動いたのか? 身体構造が単純で、神経による情報処理の依存度が低かった? 否、神経を掴んだ時の反応からして無視出来るほど小さなものではない筈。それにあの運動性と反応速度からして、神経による高速の情報処理がないとは考え難い。ならば一体何が起きたのか。

 シェフィルには数多の戦闘経験がある。それを活かして柔軟に立ち振る舞うのが、優れた知能を持つ生物の戦い方だ。しかし言い換えれば、経験外の出来事を前にすると途端に次のやり方が分からないという弱点も内包している。

 動き出すためには情報が必要だ。マゼマゼに意識が向いたのも、知能で戦う人間の『本能』が最適解を導き出した結果と言えよう。

 そしてシェフィルの頭脳は、自分の目の前にいる存在の『強味』を即座に理解する程度には優秀だ。


「……いや、それは流石にエグいですねぇ」


 理解したがために、高度な知能は無意味な悪態も吐いてしまうが。

 シェフィルの前に立つマゼマゼは、先程受けた傷の再生が始まっているのだろう。背面の肉が盛り上がり、触手のような形となってうねうねと蠢いている。正面から見ているシェフィルでさえ観察出来るぐらい、大きなうねりだ。

 そのうねりの中に、肉以外に繊維質の集まりもある。

 恐らくは神経の一部。シェフィルが引き千切った事で再生を始めているようだ。神経が再生する事自体は、惑星シェフィルの生物としては珍しくもなんともないが……問題なのは、再生中と思われる神経が何本も見られるという事。そしてそれらの神経が、どう見ても他と繋がっていない事。

 他の生物では一つに纏まっている神経が、複数の集まりになっているのだ。


「(いやー、こんな滅茶苦茶な奴は流石に初めてですね)」


 本来、こんな馬鹿げた構造はあり得ない。

 神経というのは身体の動きなどを判断・制御する、いわば司令塔。ここから出された命令に従う事で、統率の取れた、効率的な身体動作が可能となる。

 しかし司令塔が複数あったらその仕組みが活かせない。例えば「右足を前に出せ」と「右足を後ろに出せ」という指示が同時に出たら、両方に従おうとして足の動きが止まってしまうだろう。だから最終的な命令を下す場所は一つにしなければならない。ましてや複数の、相互に連絡が取れない神経を複数身体の中に入れておくなど最悪の構造と言ってもいい。

 恐らく同等の体躯と運動能力を誇る捕食者からすれば、マゼマゼの動きは酷くぎこちなくて無駄が多いものだろう。それを神経の多さによる高い処理速度で補っているなら、無駄に多いエネルギー消費でいずれ消耗・餓死する筈だ。何世代にも渡って繰り広げられる、生存競争を生き残れるやり方ではない。

 しかし今、此処で戦うシェフィルにとっては十分な脅威。運動能力は十分過ぎるほど高く、中枢神経の破損による活動停止が見込めない。実質弱点がない状態だ。


「キャピピギィイキィイヤアァ!」


 シェフィルにマゼマゼが迫る。未だ再生が終わっていないのに、のたうつ神経が外に出ているのに、瑣末事だと言わんばかりに。


「くっ……!」


 シェフィルは後退を選ぶ。

 まともに戦っても、どうやら勝てそうにない。されどマゼマゼにはエネルギー消費が激しいという弱点がある、筈だ。あくまでも形態や性質からの推測であるが、動き回ればマゼマゼはこちら以上に疲弊し勝機が生まれると考えた。

 問題は、マゼマゼの動きがあまりにも速く、安全な距離を保てそうにない事だが。


「(速い!?)」


 思っていたよりも俊敏なマゼマゼに、またしてもシェフィルは驚く。

 この戦いが始まってからずっと、シェフィルはマゼマゼの動きを観察している。それは相手の身体能力や特殊な能力がどのようなものか探り、弱点や強さを理解するためだ。

 だからマゼマゼがどの程度の速さで動くのかもシェフィルは理解していた――――理解している筈だった。ところがマゼマゼは予想よりも遥かに素早い動きでシェフィルに迫る。

 あり得ない、とは言わない。死闘と言えどもほんの数分の観察で、その生物の全てが理解出来るなんて嘗めた事はシェフィルだって思っていないのだ。とはいえシェフィルはこの星で生きてきた十五年間、数多の生命体と食う食われるの戦いを繰り広げてきた。その莫大な経験により育まれた観察眼が、早々予想を外すとは考え難い。

 何か理由がある筈だ。過信はせずとも自信があるからこそ、シェフィルは疑問の正体を考える。考える事こそが、人間が『野生』の世界で生き延びる方法なのだから。

 そうすれば気付く事が出来る。

 この戦いが、如何に危険なものであるかを。


「ギャピァッ!」


 肉薄してきたマゼマゼが繰り出したのは、身体ごと振るうような回し蹴り。

 六本ある足のうち、後ろ足を用いた技だ。今まで体当たりや噛み付きぐらいしかしてこなかったというのに、急に技らしい技を仕掛けてきた。これもまたシェフィルの意表を突き、一瞬身体の動きを止めさせる。

 反射的に腕を構えてこれを防ぐも、巨大な体躯から繰り出された一撃だ。みしみしと、嫌な感覚がシェフィルの腕を駆け抜けていく。


「ぐぬぅ……ぅぐぁ!」


 これは無理に耐えようとしたら不味い。反射的に判断したシェフィルは腰から力を抜き、敢えて回し蹴りの威力で突き飛ばされる。これにより腕の骨が砕けるのは防げた。

 とはいえ身体が空中に浮かび上がるほどの衝撃は、これだけで流せるほど軽いものではない。強力な運動エネルギーに身体全体が軋み、内臓が押し潰されるような感覚に吐き気を催す。突き飛ばされた先にあったフカフカボーと接触し、事実上棒で全身を叩かれたようなダメージも受けてしまう。

 シェフィルは不快感と痛みを気合い(という名の優先度変更。吐き出そうとする内臓の動きを停止させ、吐き気や痛みの感覚も遮断する)で押し込めるが、受けたダメージまでは消せない。身体の動きが僅かに鈍る。

 マゼマゼはその隙を突こうとした訳ではないだろうが、がむしゃらな再突撃はシェフィルに体勢を立て直す猶予を与えない。逃げるための踏み込みも出来ず、シェフィルはこの突進を正面から受けるしかなかった。


「っがああっ!」


 しかしそれがダメージとなるかは別の話。来ると分かっている突撃ならば受け止めようがあると、シェフィルは両腕を広げて構えていた。

 思惑通りマゼマゼはシェフィルの真正面から接近。あと少しで衝突、という瞬間シェフィルはマゼマゼへと手を伸ばす。

 身体を掴み、投げ飛ばそうという作戦だ。これならば突進の衝撃をいなしつつ、相手にダメージを与えられる。普通の捕食者相手だと、向こうもこちらの動きを警戒するので合わせる事はほぼ不可能だが……ウゾウゾの、神経すらろくにない頭にそんな高度な真似は出来ない。文字通り頭空っぽで突っ込んでくるなら、例え目にも留まらぬ速さだろうとどうにでもなる。

 シェフィルの手は難なくマゼマゼの頭の付け根を掴んだ

 が、にゅるんと滑る。


「(え? 粘液――――)」


 そんなもの、今まではなかった。ちょっと前に背中へと跳び乗り、首を捩じ回したのだから間違いない。

 間違いないというのに、シェフィルの手は滑ってマゼマゼを掴めず。


「ごふっ!?」


 流す筈だった体当たりを、シェフィルは正面から受けてしまう。留まる事も出来ず、ぶつかったフカフカボーが砕けるほどの勢いで大地の上をごろんごろんと転がっていく。

 マゼマゼは何も考えていない。だからこそ転がるシェフィルを躊躇いなく追い駆け、そして肉薄するや跳び掛かる。逃げる間もなく、シェフィルはマゼマゼにのし掛かられてしまう。


「ゴプペゥオオブェエエ」


 マゼマゼは蛆虫型の口を()()()。左右かつ四つに裂ける動きは、この星でよく見られる形。シェフィルの頭を食い千切るのに適した構造は、本来ウゾウゾは持ち合わせていないものだ。

 シェフィルはマゼマゼの身体を押し出そうとするが、自身を何倍も上回る巨躯に加え、ぬるぬるとした粘液で滑ってしまう。どうにか食い止めているものの、何時までも続けられるものではない。


「ぐぅう……!」


 唸り、睨むも、それで何が変わる訳もなく。

 いや、変化はある。

 マゼマゼの身体がメキメキと音を鳴らし、変形を始めたのだ。四つに裂けた口器は、また深々と裂け、腕の付け根辺りまで割れていく。触手が縮み、腹部末端が伸び始めて長い尾のように変化する。

 マゼマゼは未だ自己進化を続けている。

 或いは暴走していると言うべきだろう。シェフィルとの戦いを『危機』と判断した細胞達が、生き残るために増殖と変化を続けているのだ。ランダムに、淘汰と変異を繰り返して。最早ウゾウゾという、惑星シェフィルの成功者の形にすら拘っていない。

 自己進化には多大なエネルギーを使う。こんな滅茶苦茶な進化を続けている以上、マゼマゼの命はそう長くはあるまい。しかし残り僅かといえども、長ければ数時間、短くとも数十分は持つだろう。

 そしてシェフィルは、あと数十分もコイツと戦える気がしない。

 刻々と変化しながら『今』この時に最適化され、『今』この時にしか星に存在せず、『今』この時に限れば弱点を持たない。

 経験と知識と知能で戦う人間にとって、マゼマゼは相性最悪の生命体と言えるだろう。


「(これは、私一人では、どうにも出来そうにない、ですね……!)」


 シェフィルは認めた。マゼマゼを自分一人の力で倒すのは不可能だと。

 そして認めた上で思う。まだ、勝機はあると。


「アイシャ! 手伝ってください!」


 何故なら此処にはもう一人、人間がいるのだから――――

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