進化の根源11
「プピィイアキィイヤアァヒィイイッ!」
幾つもの声色が混ざり合った、奇怪にして不快な鳴き声。
思わず耳を塞ぎたくなる叫びと共に、マゼマゼはシェフィル目掛けて突っ込んできた! そしてシェフィルの首に向けて、鋭い爪の生えた腕(厳密には前脚と言うべきだろうが)を振るう。
爪の長さは五センチ以上あるだろうか。
喉笛を切られた程度であれば、シェフィルの生命力なら致命傷には至らない。されど腕の速さは凄まじい。爪など飾りと言わんばかりの『打撃』を顔面に喰らえば、恐らく首が捩じ切れる。
「くっ!」
シェフィルは上体を逸らし、顔面に迫る攻撃を回避する。合わせて片足を大きくしならせ、迫ってきたマゼマゼの下顎に蹴りを放った。
大振りの一撃を外したマゼマゼは隙だらけの体勢。シェフィルの蹴りは狙い通り、無防備な下顎を打つ。人間的な顎がガチンッと閉じ、仰け反った巨体は仰向けに転倒する。
その仰向け体勢のまま、腕の向きをぐるんと回転。背中を地面に向けた不自然な体勢でマゼマゼは六本の足を動かし、駆け回る小虫のような速さでシェフィルから距離を取る。
「うへぇ、気持ち悪い動きですね」
率直な感想を漏らしつつ、シェフィルは未だへたり込んだままのアイシャの傍へと寄る。
いきなり襲い掛かってきたマゼマゼに驚いたのか、アイシャは口をぱくぱくと喘がせながら震えるばかり。シェフィルは彼女の腕を強めに掴み、意識を自身に向けさせてから強引に引き上げて立たせた。
「アイシャ、遠くに逃げてください……と言いたいところですが、今は母さまがいません。一人でいると大型の獣に襲われると思います。なので、付かず離れず、アイツの意識が向かない程度の距離まで逃げてください」
「ちょ、注文多くない? というか、適切な距離とか言われても分からな」
「うーん。多分ですけど大体このぐらいの距離ですか、ねっ!」
戸惑うアイシャ。気持ちは分かるが流石に説明している暇はないと判断し、シェフィルはアイシャの身体を素早く掴んで……後ろに放り投げた。
その気になれば、時速七百キロの速さで槍を投げられるのがシェフィルの運動能力。重さ五十キロ程度しかないアイシャの身体を、十数メートル投げ飛ばすなど造作もない。
「きゃあああああああああああべしっ!?」
アイシャの方も、頭から落ちても致命傷にならない頑丈さを持つ。それこそ、落ちた後シェフィルに批難の眼差しを向けられるぐらいには余裕だ。
とはいえアイシャも状況を理解している。文句は視線だけで終わらせ、落下地点で立ち上がるとそこから動かず、シェフィルをじっと見つめた。
シェフィルの傍にいるからアイシャは捕食者に襲われない、なんて事はない。成長と繁殖のエネルギーを得るため、捕食者達は隙あらば襲ってくる。しかしシェフィルという『強者』から遠く離れるよりはマシだろう。そしてこれ以上は気にしても仕方ない。
意識を切り替えて、シェフィルはマゼマゼとの戦闘に集中する。
「ピギィピィイヤァア……!」
マゼマゼはぐりんと身体を捻り、背中を地面に向けていた体勢をひっくり返す。やはり腹ばい体勢の方が幾分楽なのか、裏返しの体勢よりも力強い気配がある。
睨み合うシェフィルとマゼマゼ。互いに相手の隙と出方を窺う中で、シェフィルは思考も巡らせる。
マゼマゼと戦う上で、一番の懸念事項は何か?
それは『情報』だ。シェフィルは長らくこの地で暮らしており、大小問わず様々な生物と戦ってきた。母から教わった知識もあるため、実際には目にした事もない ― ウゾウゾ達が持つ自己進化など ― 能力についても知っている。
この星に暮らす生物の中では、母達の種族を除けば、格段に優れた知能を持つのがシェフィル達人間だ。その知能と知識の組み合わせこそが、身体能力で劣るシェフィルがこの星の生存競争を勝ち抜いてこれた最大の要因と言えよう。
しかしその強みが、マゼマゼには使えない。何故ならマゼマゼは色んな生物の細胞が混ざり合って生まれた生物。おまけに緊急自己進化により、個々の肉体の形質も大きく変化している筈だ。
「(混ぜこぜの身体ですから中身の構造も滅茶苦茶でしょうし、近縁種から予想する事も出来ない。全くの未知の相手ですねこりゃ)」
自身の強味を活かせない相手。通常ならば撤退も視野に入れるところだ。自然界において『逃げ』を選択するのは、決して恥ずべき事でもなんでもないのだから。
しかしシェフィルは今回、撤退という選択肢を切り捨てる。
理由は三つ。一つは此処が自宅のすぐ傍であるから。ここで逃げ出した場合、マゼマゼが自宅である横穴の中や、付近に棲み着くかも知れない。こちらに襲い掛かってくる生物が住処の近くにいては、安心して眠る事も出来ないだろう。飼い慣らしたり、仲良くなったりする可能性も、即座に襲い掛かってくる性質からして期待出来ない。
だからといって住処を変えるのも難しい。平坦な大地が広がる此処惑星シェフィルにおいて、盛り上がった丘自体が極めて珍しいからだ。今の住処と同程度以上の丘を見付け出すには、かなりの時間が必要になるだろう。そうなると探している間は野宿となるが、丘すらない大地に身を隠せるような安全地帯は存在しない。そしてこの星に昼夜は存在しない。何時でも何処でも、様々な捕食者達に襲われる可能性がある。
狭い横穴で暮らす事の利点は、単に狭くて落ち着く場所で眠れるというだけではない。狭苦しい出入口であれば巨大な生物は入れずに諦める。入ってこれる大きさの獣であれば戦える相手であるし、警戒すべき方角を出入口にだけに絞る事が可能だ。想定外の危険や予期せぬ襲撃を考慮せずに済めば、睡眠や休息をしっかりと取れる。つまり言い換えれば、家がなければあらゆる天敵に襲われる可能性を考慮し、全方位を常に警戒し続けなけれらればならない。
惑星シェフィルに暮らす生物の大部分は、それを可能としている。数学的情報処理に適合した肉体は、絶え間ない計算を続けても然程疲弊しないのだ。だが人間であるシェフィルはそうもいかない。四六時中警戒を続ける生活は、いずれ限界を迎えるだろう。
この洞穴を放棄して逃げ出すのは、大きな賭けだ。勿論どうやっても勝てない相手なら賭けに出る方が『合理的』だが――――シェフィルの感覚的に、マゼマゼはそこまでの敵ではない。
「ヒィキピィイイィィイイッ!」
考え込むシェフィルの姿を隙だらけと考えたのか、甲高い雄叫びと共にマゼマゼが突撃してくる。
だが、シェフィルに言わせれば隙は見せていない。視線はそれとなくずらしたが、意識は明確にマゼマゼに向けていた。
故に振られた前脚をしゃがんで躱し、隙だらけの腹に拳を叩き込む事など造作もない。
「ブッ、ビィイキ!」
打撃に怯まずマゼマゼは次の攻撃を繰り出す。
ただしその攻撃は、のし掛かり。
即ちシェフィル目掛けて倒れ込もうとしてきたのだ。予想外の攻撃であるが、しかし自由落下に任せた動きはシェフィルの動体視力からすれば遅過ぎる。
転がるようにしてマゼマゼの下から離れた後、シェフィルは大地を蹴って突進。今正に倒れようとするマゼマゼの側面に向け、今度は自分から体当たりを放つ!
倒れる最中のマゼマゼにこれを避ける術はない。シェフィルの全体重を乗せた『打撃』はマゼマゼの横腹を打ち、体躯で勝るマゼマゼを突き飛ばす。ウゾウゾに似た弾力のある皮膚は体当たりの衝撃を殆ど吸収してしまっただろうが、それでも数メートルは動いた。ごろごろと転がるマゼマゼは、六本の脚を滅茶苦茶にばたつかせ、偶々地面を蹴った一本で空高く跳ぶ。
このまま空中で方向転換、と思いきや途中でその動きが硬直する。脚を動かせばもう少し体勢も変わっただろうに、止まったものだからマゼマゼは背中から地面に墜落。付近にあったフカフカボーの森を粉砕し、その衝撃の大きさを物語った。また脚をばたつかせて跳び上がり、今度は最後まで暴れたお陰か、二度目でようやく腹側から着地する。
距離が離れた事で挟まれるインターバル。その中で思考を巡らせていたシェフィルは確信した。
「(やっぱりコイツ、戦い方を知りませんね)」
マゼマゼは元を辿れば、ウゾウゾなどの細胞から生まれた存在だ。アゴムシやフワワンは一応捕食者であるが、アゴムシは自分よりも遥かに小さな生き物を獲物にし、フワワンは奇襲からの高速離脱を得意とする。どちらもまともに戦いやしない。ウゾウゾに至っては土壌有機物であり、戦いすらしない。
生きた獲物を襲い、戦って喰い殺す……生まれながらの捕食者であれば、戦い方は本能に刻み込まれている。無論その戦い方を優れたものとするには経験の蓄積が必要だが、「攻撃したくなる動き」などが本能に刻まれていれば、隙を見せた瞬間に的確な攻撃をしてくるだろう。それも迷いなどない綺麗な太刀筋で。
幾億の月日を重ねて進化してきた本能は、幾万の戦闘経験に匹敵する完成度を誇る。生粋の捕食者は、生まれた時から捕食者なのだ。マゼマゼがどれだけ身体が大きく、力が強くとも、本能がなければただの『デカブツ』。恐れるに足りない。
ついでに言うと、理性的な判断をする頭も足りていないと思われる。最初に攻撃を仕掛けた時、狙いがシェフィルだった事がそれを物語る。戦いにおいて頭数を減らすのは基本であるし、単に食べたいだけなら一番弱い奴を捕まえて連れ去るのが合理的だ。無論シェフィルはそれを邪魔する気満々だったが、だからといってアイシャを狙わない理由はない。
要するにマゼマゼはより襲いやすいアイシャではなく、より自身の近くにいたシェフィルの方を狙ったという事だ。何も考えず手当たり次第に襲ったのが見え見えである。頭も悪いとなれば身体の欠点を補えない。
これぐらいの強さなら戦っても十分勝てる。これがシェフィルが逃げを選ばない理由の二つ目だ。
そして最後の理由は。
「(アイツ、食べたら美味しいのですかねぇ)」
自分の中で湧き立つ食欲が、抑えられそうにないから。
マゼマゼはアイシャが作っていた料理から生まれた存在だ。その身体を形作るのは、アイシャ曰く出汁入りの脂肪スープと選りすぐりの具材。危険だらけの自然界で、それでも手間暇を掛けて作ってしまうほどに美味いもの。
それで身体が出来ているマゼマゼは、さぞや美味なのではないか。
全く以て非合理的な考え方だ。脂肪分は細胞分裂のエネルギーと資源にされているし、出汁はアミノ酸なのでやはり消費されているに決まっている。焼いたウゾウゾは美味であるが、煮込まれたウゾウゾ肉は再生して肉体を得た状態。だからその肉は生きているウゾウゾと同じ味と考えるのが妥当である。アゴムシやフワワンの肉だって同じだ。
冷静に考えれば、美味しい筈がない。
なのに食欲が止まらない。一度食べて確かめないと気が済まない。今までこんな気持ちになった事など、ないというのに。
――――シェフィルは知らない。人間達がその食欲により、様々な生き物を絶滅させてきた事を。有識者にこのままでは絶滅すると警告されても、それでも食べるのを止めない、絶滅する前に食べてしまえと考えるほどに貪欲で浅ましい生き物である事を。
人間は美食を求める。美味なる食事という、高栄養価の食べ物を得る事で栄えてきたがために。
理屈で抑え込めない食欲こそが、人間の本能なのだ。
「があぁっ!」
獰猛な笑みを浮かべながら、今度はシェフィルの方からマゼマゼに突撃する!
マゼマゼは驚いたように身を強張らせた。或いは捕食する気満々なシェフィルの姿を見て、喰われる側の本能により防御態勢を取ってしまったのかも知れない。
小さくて動きの鈍い虫であれば、その行動は間違っていない。どうせ逃げきれないし勝ち目もないのだから、縮こまって動かなければ目立たなくなり、自分以外の誰かに狙いが逸れるかも知れないからだ。だが、大きな身体を持つマゼマゼがやったところで無意味。ましてや襲われている最中ではただの愚策。
「ふんっ!」
逃げる事も迎撃する事もなかったマゼマゼに肉薄したシェフィルは、力いっぱい振り上げた拳で顔面を殴り付ける。
殴られたマゼマゼは身体を強張らせたままで、衝撃で身体が僅かに動いた。
数瞬遅れてようやく身体を解し、シェフィルに噛み付こうとしてくる。人間に似た上下に動く顎を、人間ではとても真似出来ない角度で開いていた。ずらりと並んだ歯はいずれも綺麗で、研ぎ澄まされた刃物のよう。まともに噛まれたなら、手首どころか腕さえも容易く食い千切るだろう。
ところがシェフィルに迫るための動きは、脚だけで身体の向きを変えるというもの。身体を勢いよく曲げる事もしておらず、極めて緩慢だ。
軌道を読み切ったシェフィルは敢えてギリギリの位置までしか下がらず、マゼマゼの噛み付き攻撃を空振りさせる。ガチンッと顎を閉じた瞬間、今度はシェフィルが肘打ちをマゼマゼの頭に向けて叩き込む。
肘打ちは頑丈な肘骨で殴るため、威力は絶大だ。反面射程距離は短い。ギリギリで躱す事で、大きな一撃を与える事が出来た。
「ビ、ギィ……!」
「せぃっ!」
呻くマゼマゼだがシェフィルは手など抜かない。肘の一撃で下がった頭に対し、今度は膝で下顎を蹴り上げる。おまけにシェフィルの肘はまだマゼマゼの頭に乗ったままだ。
肘と膝の力が合わさり、マゼマゼの頭を押し潰さんとする。頭蓋骨を取り込んでいた頭部だが、分厚い皮下脂肪がなければ防御力は然程高くない。確かな手応えと共に、潰れた頭の中身がマゼマゼの口から溢れ出す。
「ギャッ!」
頭が潰れても反撃してくるのは、ウゾウゾ由来の生命力か。マゼマゼは前脚を力強く振ってきた。だが今までと同じくこの攻撃も、シェフィルから見れば遅い
「(いや、思ったより速い!)」
と思い込みで判断していたなら、シェフィルは脇腹を殴られていたたろう。
しかしシェフィルは油断などしない。手負いの生物の反撃は極めて恐ろしいものだと、経験的に知っているのだ。相手が活動停止しない限り、迂闊な判断は下さない。
迫るマゼマゼの脚に対し、シェフィルは回し蹴りで応戦。これを弾き返す。今まで以上の速さでの奇襲だったが、撃退された衝撃で逆にマゼマゼの方が体勢を崩す。
マゼマゼはまさか迎撃されると考えてなかったのか(そもそも考えられるほど高等な神経は持ち合わせていないだろうが)、自らの身体が傾いてもすぐには反応出来ず。まるで呆けたように固まるマゼマゼに対し、シェフィルはこの隙を逃さない。
シェフィルの回し蹴りは一度で終わらず、むしろ回転時の勢いを利用してより強力な一撃再び放つ。威力を増した蹴りを顔面に受けたマゼマゼは、がくんと前脚二本が膝を付いた。
この好機をシェフィルは逃さない。
「はぁっ!」
体勢が崩れた瞬間、シェフィルは即座にマゼマゼの背中に跳び付く。更に腕をマゼマゼの身体に巻き付けながら、跳んだ時の勢いを利用してくるんと方向転換。マゼマゼの頭の方を向いた体勢でしがみ付く事に成功した。
次いで両手で掴むは、マゼマゼの頭。
大きくて丸い頭は極めて掴みやすい。このまま頭を捩じ切ってやると、掴んだ状態で力を込めていく。マゼマゼは六本の脚をばたつかせてシェフィルを振り落とそうとするも、これまで数多の生き物の背に乗ってきたシェフィルからすればぬるい暴れ方だ。
容赦なく、シェフィルはマゼマゼの頭をぐりんと回す。
シェフィルが大物を仕留める時の決まり手だ。首を捩じ切られた程度で死ぬ生物なんて殆どいないが、これで体内が露出する。身体の内側に手が入れば後はどうとでも――――
「(ん? 何か手応えがおかしい?)」
数多の戦闘経験から導き出された有効な攻撃。ところが何時もと異なる手応えに違和感を覚える。
ここで違和感を覚えたからこそ、シェフィルはその後の変化に対応出来た。
マゼマゼの背中から生えてきた、無数の触手が迫ってくるという予想外の事態に。
「くっ!?」
全く想定していなかった展開。されどシェフィルの身体は『ヤバい』と思った瞬間動き出すぐらいには、様々な危機的状況に遭遇してきた。考えるよりも前に、四肢の全てを使って跳び退く。
有利な立ち位置を捨てる事となったが、それを惜しいとは思いもしない。
マゼマゼの背中から生えた触手は七本。奇数である上に、対になっている様子もない。極めて雑に生やした事が窺える。触手の肉質はぶよぶよとしており、真っ白な体色も含めてウゾウゾの肉体と酷似していた。
恐らく、ウゾウゾの遺伝子から咄嗟に作り出したものか……最初はそう考えていたシェフィルだが、すぐに事実は異なると察する。
ぼとりと、アゴムシとよく似た頭が落ちたがために。
「……成程。道理で動きが鈍い訳です」
シェフィルは理解した。
どうしてマゼマゼは身体の動きが鈍かったのか? それは奴の身体が、複数の生物の遺伝子を含んでいたから。生物種によって生態・身体構造は異なるものであり、それぞれの機能が矛盾している事もあり得る。時折動きが止まっていたのは、異なる本能的判断や身体動作方法がぶつかり合っていた結果だろう。
しかし今、シェフィルの手によってアゴムシの頭が落ちた。
断面がもごもごと蠢き、新たに生えてきたのは蛆虫とよく似た頭部。ウゾウゾの頭だ。よく見れば尻尾のようになっていた腹部も太さを増しており、黒い玉が萎んでいく。最早蛆虫型であるウゾウゾの身体に、ウゾウゾを何匹も生やして獣にしたかのような外観だ。これではマゼマゼとは到底言えない。
よりウゾウゾに近い形へと変化している。即ちウゾウゾの細胞が他細胞との生存競争に打ち勝ち、勢力を広げているという事。食材とした生物の中では断トツで非力なのに? と思うようでは生命の事を理解していない。ウゾウゾはこの星のあらゆる環境に分布する、最も成功した種族。細胞同士の戦い……エネルギーや資源の争奪、増殖速度で優位に立つのはむしろ当然だ。間もなくあの身体は、自己進化したウゾウゾが完全に征服するだろう。
もう、異なる本能で動きが鈍る事はない。
「ここからが本番ですか……上等です! ウゾウゾに負けるつもりはありません!」
それでもシェフィルは退かない。確かに気配は洗練されたが、まだ実力ではこちらが勝ると判断した
瞬間、背筋に走るのは悪寒。
不味いと本能的に思う。思うが、此度は間に合わない。
今までとは比にならない速さで突進してきたウゾウゾの頭が、シェフィルの鳩尾を打ったのだから。




