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凍結惑星シェフィル  作者: 彼岸花
第三章 進化の根源

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進化の根源02

「ブェラゴロロォオオオッ!」


「ふぎゃぁーっ!?」


 新たな食べ物を得るべく自宅こと洞穴から出た瞬間、猛烈な勢いで鳴き散らす獣とシェフィル達は遭遇した。おどろおどろしい声に驚いたアイシャが、悲鳴と共に飛び跳ねる。

 しかしシェフィルと母は、声を聞いても警戒態勢すら取らない。

 何故なら二人は声の主が体長三十センチ程度の、自分達よりも小さな生き物である事を知っているのだから。


【おや、珍しい種がいますね】


「ええ。テトポポですね」


 その生物の名を呼びつつ、シェフィルはじっと姿を観察する。

 テトポポ。

 体長三十センチほどの獣であり、短い四本の足を持つ。身体は細かな白い体毛で覆われていて、ずんぐりとした可愛らしい体躯をしている。頭も大きくて丸く、目が複眼である点と、口が左右に分かれる構造である点を除けば、とても愛らしい顔立ちだ。

 その目にしても大きくて丸みがあり、口は小さくて目立たないのでやはり可愛い系の顔である。触角が大きくて太い、三角形の『耳』のように生えているのも、可愛らしさを際立たせていた。尻尾も生えているが、長さ十センチぐらいの小さなもの。威嚇のためかぶんぶん振っているが、そんな事をされても可愛さしか感じられない。

 総じて、『可愛い』という評価が似合う生き物だ。ちなみにテトポポという名前は、歩く姿がテトテトという擬音が聞こえそうな、ちょっと不恰好なものである事からシェフィルが名付けた。動きさえもとても可愛い、惑星シェフィルにおける可愛いの権化である。


「……あ、あれ? 今の声、この子の?」


「ブルルゴルゴォオオオッ!」


 アイシャも少し遅れて、その可愛さに気付いたらしい。もうテトポポが吼えても、少しびくりと震えるだけ。

 それどころか表情を綻ばせ、威嚇するテトポポに歩み寄ろうとする。

 いや、動きの怪しさで言えば躙り寄るというのが正確か。恐らく可愛いテトポポに興味を惹かれたのだろう。未知の相手に『外見』を根拠にして近付くのは自殺行為だが……テトポポに関しては問題ないとシェフィルは考えている。テトポポは自分より大きな動物に対し、有効な攻撃手段を持たない生物だ。精々噛んでくるぐらいで、それだって指から血が滲むだけだろう。

 とはいえ、無力な生物では惑星シェフィルの生態系を生き残る事なんて出来ない。いくら可愛くても生き物である以上、捕食者は容赦なく襲い掛かってくる。一部の『珍種』を除けば、多少なりと天敵への対処法は持ち合わせているものだ。

 例えば、臭い汁を飛ばすとか。


「ブェロロロロッ!」


 テトポポの場合それは口から放たれる。今回は、迂闊に近付いたアイシャの顔面目掛けて。

 吐き出された汁の量は膨大で、アイシャの顔面をびしゃびしゃに濡らす。身体の大きさに見合わない量を出しているようにも見えるが、テトポポの吐き出す汁は密度の極めて低い物質で、体積の割にとても軽い。顔面がびしょ濡れになっても、掛けられた量は僅かなものだ。

 尤も、量よりも重要なのは顔面が液体に覆われた事。嗅覚を担う鼻が汁塗れになっては、何をどうやっても悪臭からは逃れられない。


「ぶぎゃあああああぁっ!?」


 アイシャはお世辞にも可愛らしくない、テトポポに負けじ劣らず不気味な悲鳴を上げた。

 アイシャが怯んだ隙に、テトポポは逃げ出す。短い足を忙しなく動かしていたが、走るのに向いていない体躯故に極めて遅い。

 シェフィルが本気で追い駆ければ、捕まえるのは簡単だ。汁にしたって、臭いだけと分かっていれば耐えようもある。そして毒もないので、食べようと思えば食べられる。

 だが、それでもシェフィルはテトポポを狩ろうとは思わない。


「テトポポは身体中に今の汁が巡っているんです。というかアレ、成分的にはほぼ血液なんですよね。だからもう、臭くて臭くて。殺すのは簡単ですけど、食べられないならやるだけ無駄ですし」


【天敵達からしても、食べられない獲物を狩る暇はありません。極めて効果的な身の守り方と言えるでしょう】


「ぞういうごどばざぎにいぇ〜!」


 白目を向きながら悶えるアイシャ。昔の自分を思い出す姿に、シェフィルの顔には笑みが浮かぶ。

 対して、シェフィルの育ての親である母は、何か考え込むように黙り込んだ。触手の蠢き方から、様々な思考を巡らせているとシェフィルは気付く。


【しかし奇妙ですね。あれの生息地はもっと過酷な、極寒地域の筈ですが】


 やがてぽつりと、疑問の言葉を漏らした。

 惑星シェフィルは何処も大気が凍り付くほどに寒いが、決して均一の環境ではない。星のエネルギー吸収の強さにムラがあるからだ。シェフィルが暮らしている地域は比較的『温暖』であり、此処よりもっと寒い地域はあり触れているし、もっと暖かい地域も珍しくない。

 そして気候が違えば、生息する生物種も異なる。

 母が言うように、テトポポが暮らすのはもっと寒い地域だ。寒い環境では食物となる生物が少ないため、高い身体能力を維持するだけのエネルギーを得られない。また、体温の確保にも多くのエネルギーを使う。加えて生物がいないのだから天敵も少なく、攻撃能力を有したところでエネルギーの無駄でしかない。

 うすのろで攻撃力のない身体も、極寒地域では極めて『優秀』な進化系だ。臭い汁、それに伴う肉の臭さも、数少ない天敵への対策として低コストながら効果的なものと言える。

 ……とはいえそれが生存に役立つのは、天敵の数が少ない環境だけだ。天敵だらけの環境では臭い汁(体液)を頻繁に吐き出す羽目になり、却ってコストが高くなってしまう。おまけに天敵の種類が多様であれば、臭いを気にしない種も幾つかいるだろう。身体能力が低いため、そうした天敵に襲われたら一溜まりもない。

 故に、テトポポが暖かな地域に好んで来る事はない。天敵のいない過酷(安全)な環境こそが彼等の住処だ。ちなみにシェフィルがより暖かな地域に行かないのも同じ理由である。暖かで生き物が豊富な土地には、獰猛で強大な生命体がいるものなのだから。逆により寒い地域では食べ物が足りず、冬以外でも飢えに苛まれて生きていけないだろう。


「迷い個体か、縄張りを追い出されたとかじゃないですか? 私が前に見た個体も、そういうのでしたよね?」


 しかし生き物に『絶対』はない。うろうろしているうちに別の地域に入ったり、若い個体が新天地を目指して進出したりする事もある。そうやって生物は新たな生息地を開拓するものだ……大抵は失敗して死ぬが。

 稀な事ではあっても、あり得ない事ではない。だからシェフィルは気にしていなかったが、母は何か違和感を覚えたらしい。


【……ふむ。少し気になりますので、彼等の生息地を調べてみましょう。しばし遠出をしますのでそのつもりで】


 母はそう言うと、《《忽然と姿を消した》》。

 一瞬の出来事だった。尤も、シェフィルにとっては見慣れた光景である。今更驚きもしない。


「ううぅ……酷い目に遭った……あれ? あなたのお母さんは?」


「なんか気になる事があるから、遠出するそうです。ところでアイシャ、どうします? テトポポぐらいなら簡単に捕まえられますよ。無毒なので食べられなくはないですし」


「……遠慮しとく。可愛いから殺したくないし、こんな味のもの食べたくないし」


「まぁ、私も同意見ですね。出来れば食べたくないものです」


 アイシャの答えにシェフィルも同意する。以前出会った時には捕まえて食べたが、肉の臭さに耐えきれず吐き戻し、挙句しばらく食が喉を通らなかった。あれは、食べるだけ損である。


「それより! もっと美味しいもの食べましょ。春なんだから、きっと他に食べ物はあるわよね?」


「そうですね。食べ物自体はたくさんあるかと。あちらで探してみましょうか」


 アイシャからの提案に同意し、シェフィルは家の入口から見て右方向に広がる大地を歩く。

 白い雪の降り積もった大地に、無数のフカフカボーが生えている。棒状という極めてシンプルな造形をしたフカフカボーは繁殖力に優れるが、攻撃能力は全くない。精々ほんの少し毒を持っている程度。多くの生物が餌として利用しており、それがたくさん生えている場所には多くの生き物が生息している。

 アイシャの要望である、モージャ以外の食べ物を探す事は難しくない筈だ。


「よーし、美味しいもの見付けるわよー!」


 アイシャも目的を思い出したようで、拳を高々と掲げながらシェフィルの後を追ってくる。やる気満々なのは良い事だと、シェフィルも思う。

 ただ問題なのは、その期待に『世界』が応えられるかどうかであり――――

 ……………

 ………

 …


「もゔいやだぁあぁ〜……」


 二時間も歩いたところで、白目を剥いたアイシャの半開きの口からは弱音が吐き出されていた。

 ついでに、咀嚼はしたものの飲み込めなかったブツもだらだらと零れ出している。


「アイシャ。折角の獲物を吐き出したら勿体ないですよー」


「むりむりむりむり」


 シェフィルがそれを窘めると、アイシャは顔をぶんぶんと左右に振りながら拒む。一緒に中身も口から撒き散らされたが、自分に掛からなかったのでシェフィルは特に気にしなかった。

 それにアイシャの気持ちは分からなくもない。

 今アイシャが食べているのは、フカフカボーだ。春を迎えた大地にいくらでも生えており、大人しくて無力。そしてこの種の毒は弱いので、少量であれば一応食用になる。

 ただしその味は、かなり酷い。

 噛み潰した瞬間に出てくる汁は、苦いを通り越して『痛い』の域に達している。渋みも強く、口全体が萎むような、干からびるような、ダメージと言っても差し支えない影響を及ぼす。おまけにその身は極めて生臭く、飲み込んでも腹の奥底から湧き出すほど。

 一番マシなのは食感だが、肉に含まれる繊維で口の中がボロボロになるほど硬い。更に舌の上で妙にざらざらとした、砂粒のようなものが残る。これでも表面に生えている毛を手で削ぎ落としたのだが、それでも極めて酷い舌触りと言わざるを得ない。

 一言で言うなら、凄く不味い。

 それでもシェフィルにとっては慣れたもので、無心で食べる事が出来るが……アイシャはそうもいかないようで。


「ううぅ……酷い、酷過ぎる……なんでこんな、美味しいものが一つもないのよぉ……!」


 『今まで』の記憶が蘇ったのか、口から噛み切れなかった繊維を出しながら、アイシャは悲痛な声を上げた。

 ――――母が遠出してから二時間。その間に、シェフィルはたくさんの獲物をアイシャのために捕まえた。

 ドロドロやコロコロという、春によく見られる生物も捕まえ、食べている。しかしどちらも味の評価は散々だ。ドロドロはべちょべちょした食感が最悪な上、纏う粘液が臭過ぎて口にも運べない。コロコロの味はほぼ無味であり、無心で食べる事が出来るが……殻があまりにも硬く、人間の力では噛み砕けない。小さいので丸呑みには出来るが、桁違いの防御力で消化管を素通りし、便と共に平然と外に出てくる。食べるだけ無駄だ。

 他にもオダマ(尾の先に丸い玉を持った体長四センチ未満の虫型生物)やゲリゲリ(体長二センチの液性生物。水溜りのように地面に広がっている)なども食べた。だがいずれも味は最悪。苦くて渋くて、アイシャは食べた分以上に何かを吐き出している。


「……口直し、口直しぃ……!」


 余程応えたのか、アイシャは地面を掘り始める。素手での掘削など普通の人間には極めて困難な行いだが、曲がりなりにも今のアイシャはシェフィルと同じく、母の細胞に『置き換わった』肉体。頑丈な地面を素手で削るぐらい造作もない。

 そしてアイシャが何を求めているのか、シェフィルはすぐに察した。アイシャの願いが難なく叶う事も知っている。

 アイシャの手が二十センチぐらい地面を掘り抜いた先で、体長十センチほどの蛆虫型生物・ウゾウゾが姿を現した。


「ウゾウゾ〜! あなただけが私の食べ物よぉ! もう私これだけ食べて生きる!」


「私に偏食は駄目だと言った傍からこれですか……」


「忘れたわ、そんな昔の事。いただきまーす!」


 シェフィルのツッコミを都合の良い脳細胞で誤魔化し、ばくりとアイシャはウゾウゾの身体に齧り付く。見ただけで失神し、悲鳴を上げていた時の事も忘れてしまったようだ。

 満面の笑みでしばし咀嚼。最初は可憐で可愛らしい(ので思わずシェフィルはじっと見つめてしまった)笑顔を浮かべていたアイシャだが、その顔は段々と曇っていく。

 咀嚼はしばし続けていたものの、やがてフカフカボーやドロドロを食べた時のような、絶望した表情になっていた。


「……何、これぇぇ……!? わ、私の知ってる、ウゾウゾの味じゃないぃぃ……!?」


「そりゃまぁ、冬が明けたらウゾウゾの味は落ちる一方ですからね。というかむしろ春はまだマシな方で、これより酷いのが本来の味ですよ」


 困惑した様子のアイシャに、シェフィルは容赦なく現実を突き付けた。

 生き物の味を決定付けるものは何か? 要素は様々かつ複雑で、一概に言えるものではないが……環境というのは、その中でも大きな要因と成り得るものだ。

 冬の予兆を察知したウゾウゾの味は、極めて良質である。何故なら冬を越えるため、身体に多くの脂肪分を蓄えるからだ。また普段その身に含まれている苦味成分の大部分を排出し、空いたスペースに糖分を詰め込む。天敵のいない冬に苦味やらなんやらを持っていてもあまり役に立たず、エネルギー源となる糖分を蓄えておく方が合理的だ。

 しかし冬が終われば、天敵達が目覚めて動き出す。何時襲われるか分からない状況であるし、温暖な気候で体力を温存しておく必要もない。残った脂肪はどんどん消費して成長に費やされ、糖質も必要最低限を残して消費。代わりに天敵達が嫌がる苦味や渋味を蓄えていく。

 春になってから幾分時間が経った今、ウゾウゾ達はとても『不味い』状態になっているだろう。そして天敵達が増えるのに合わせて、これからどんどん不味くなる。おまけに高濃度の『苦味成分』が毒性を発揮する始末。死ぬほどの猛毒ではないので食べても問題はないが、大量に食べると下痢などを引き起こすのである程度制限しなければならない。春の最初期であっても、何十匹も食べ続けるのはあまり推奨出来なかった。

 ――――シェフィルは知らない事だが、これは所謂『旬』の概念だ。季節変化などにより環境が変わり、それに適応もしくは繁殖のための準備などで体質=味が変わる。地球生命ならば何処でも見られた性質であり、人間の文化でもある。

 尤も、『今』の人類文明は惑星の気候を完璧にコントロール出来る水準に達した。最早旬に縛られず、その食べ物が一番美味しい時期を制御出来る。店に並べられているのはどれも最高の味に至った 食材達ばかり。


「き、季節によって、味が変わるぅぅ……!? し、しかも、毒性までぇ……」


 現代っ子であるアイシャも、旬の概念を全く持ち合わせていなかった。


「だ、だからって、こんな、なんでみんな吐き気がするほど不味いのよぉ……!」


「そりゃ、そうでもしないと食べ尽くされちゃいますし」


 春を迎えた惑星シェフィルの生存競争は苛烈だ。数多の生物が、他の生き物を食べていく。

 生き残る方法は多岐に渡るが、味が悪いのもやり方の一つ。しかし天敵が多くなれば、多少不味いぐらいなら気にせず食べるものも多くなる。不味ければ不味いほど生き残れるのだから、次世代がもっと不味くなるのは進化の必然。

 長年続いた生存競争の果てに、食べやすい生き物の殆どが『不味い』のは当然の結果と言える。


「モージャばかり取ってきたのは、勿論楽ってのが一番ですけど、他の生物よりはまだ食べられる味だからって理由もあるのです。アイツら冬の間は敵がいませんから、産卵後の死骸はそこそこ味が良いんですよ。腐り気味のやつでも、そのフカフカボーよりはマシでしょう?」


 それ見た事かと言わんばかりに、シェフィルはアイシャに問う。アイシャは何も答えなかったが、返事としてはこれで十分。

 とはいえ、シェフィルはアイシャの行いを馬鹿な事だとは思わない。

 何事も経験であるし、味というのは実際に食べてみなければ分からないものだ。アイシャの思い付きだって、他の生き物達の味を知るには丁度良いきっかけになった。それにアイシャはこれからもこの星で生きていく。色々な不味さに慣れておくというのは、きっと大事な経験になるだろう。

 うんうんと、自分なりに納得のいく答えが得られたシェフィルは大仰に頷く。しかし彼女は失念していた。納得するかどうかを決めるのは、シェフィルではなくアイシャの方であると。


「ふ、ふふふ。いいえ、まだよ……まだ私は美味しさを諦めないわ」


 そしてアイシャはへこたれた様子がない。どうやら本気で、まだまだ食の美味しさを追求するつもりのようだ。


「諦めないって……まぁ、他にも色々捕まえるのはやぶさかではありませんが、どれも似たような味ですよ?」


 半ば呆れ気味に、シェフィルは現実をアイシャに突き付けておく。

 確かに比較的美味しい(マシな味の)生き物もいる。しかしそういう連中は揃いも揃って強い。何故なら味の悪さで身を守る必要がないからだ。或いは身体能力を維持するのに必死で、苦味やらなんやらを作り出す余裕がないと言うべきか。

 生物が豊富な春は、そんな猛獣も少なくない。だから狙うのは簡単だが、圧倒的な強さの相手を仕留めるのは困難、というより無理だ。返り討ちに遭うのが関の山である。運良く死骸が見付かれば良いが、この星における死というのは大概天敵に殺された結果なので、死骸が残る事は稀。仮に生じても、数時間もすれば小さな生き物達に食べられるか、蘇生して動き出してしまうので滅多に見付からない。モージャのように種全体が一斉に死んで死骸だらけという状況でもない限り、何日も死骸が残る事はまずあり得ない。

 確実に死骸を得るには戦うしかない。いくらなんでもそれは危険過ぎる。何より苦労して捕まえても……大抵身がパサパサだったり味気なかったり、《《不味くない程度》》なので割に合わない。アイシャから頼まれても、流石にこれはお断りする話だ。

 ただ、不敵に笑うアイシャを見るに、シェフィルに頼ろうとしている訳ではなさそうだ。

 ならば一体何を考えているのか? 思考を巡らせても何も浮かばず、シェフィルはアイシャの顔をじっと覗き込む。するとアイシャは自慢気な、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらこう語った。


「料理よ! 私がこの星での食生活を改善してやるんだから!」


 リョウリなる、シェフィルの知らない単語を。

 そして人類が地球の覇者となった、大いなる『力』の一つを――――

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― 新着の感想 ―
とても面白くて、ここまであっという間に読み終わってしまいました エネルギーが吸収される星ということで火が熾せないから調理は難しいのかなと思ってましたが、アイシャには何らかの策があるようですね 次回も楽…
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