星の継承者04
「まず確認したいのですが、あなた達はどうしてこの星に来たのですか? 目的を教えてください」
母から伝えられた質問内容を、アイシャは人間達に伝える。
アイシャは長年人間社会で暮らしてきた身だ。故にその言葉は間違いなく人間社会で使われていたもの。惑星シェフィルでの生活に慣れてきたとはいえ、此処での暮らしは人間社会の暦に換算して一年どころか半年にも満たない。この程度の時間で、使用言語に差異が生じるとは考え難い。
人間達はアイシャの言葉を理解した筈。ところが人間達は誰もすぐには答えない。
しばし待っていると、やがて一人の人間が立ち上がり、歩き出す。シェフィルよりも大きな、宇宙服を差し引いても百七十センチを優に超えていそうな長身の人間だ。
そいつはアイシャのすぐ前まで来ると、自らの手で首元を弄る。すると頭を覆っていた物質が透明になり、中にある顔を晒した。アイシャが着ていた宇宙服と、同じ機能があるらしい。
「ひぁっ!?」
それを目の当たりにしたシェフィルは、思わず声を上げて驚いてしまった。
顔が見えた事に、ではない。かつてアイシャの宇宙服でその機能は見たのだから、同じ事が出来る可能性は想定している。
驚きの理由は、宇宙服の中にあった顔だ。
中にあった顔の形は、とても人間とは思えないものだった。いや、基本的な形態は確かに人間的ではある。目も鼻も耳もあり、髪だって生えていた。しかし肌はしわしわ、頭や顎は妙に角ばって見える。顎には無数の毛が生えており、頭部の毛は明らかにシェフィル達よりも少ない。目付きは鋭く、鼻も大きい。
個人差、と呼ぶにはあまりにもシェフィルやアイシャの顔付きと違う。本当にこの人物は人間なのか? そんな疑問が過ぎるほどだ。正直、シェフィルはその顔付きを少し苦手に感じ、思わず身動ぎしてしまう。
対して、人間をよく知るアイシャは無反応だ。むしろシェフィルの反応に驚いた様子である。
「え? シェフィル、どうしたの?」
「どうって、アイシャ。この方、顔がちょっと変というか」
「え、顔? ……いや、普通の男の人だと思うけど」
「……………?」
件の『男の人』は眉間に皺を寄せ、怪訝そうな表情を浮かべる。
その顔になんとも言えない『感情』が込み上がる。得体の知れないものに戸惑ったシェフィルは、思わずアイシャの背後に隠れてしまう。普段と立場が変わり、アイシャは戸惑いを露わにした。
それから、ピンと来たと言わんばかりに目を見開く。
「……あー、そっか。シェフィルは今まで『男』の人を見た事ないのね。大丈夫、この人は普通の人間だから」
そして優しい声で、シェフィルの戸惑いに答えてくれた。
アイシャが言った、『男』という言葉。それはシェフィルも知っている。人間は本来雌雄同体ではなく、男と女という性別に分けられるのだと。
しかし惑星シェフィルの生物は、その大半が雌雄同体。シェフィルは『雄』という存在自体に見慣れておらず、同一種でありながらこうも見た目が違うとは思ってもいなかった。
アイシャの説明を聞いても、未だシェフィルは目の前の男が、自分と同じ人間には思えない。今でもちょっと不気味に感じてしまう。
とはいえ、ただの異性であるなら恐れる必要はない。感情の制御はシェフィルにとって難しいものではない。気持ちを落ち着かせたシェフィルはアイシャの背後から出て、アイシャの横に並ぶ形で男の前に立つ。
シェフィルが落ち着いたのを見てから、『男の人』は深々と頭を下げた。
「ひとまず自己紹介をさせてくれ。私はダリウス。今回の『調査隊』を率いている隊長だ」
男の人間……ダリウスは、自らの名前を教えてくれた。そういえばこの人の名前を知らなかったなと、シェフィルは今更ながら思う。
「ダリウスさん、ですね。調査隊という事は……」
「ああ、我々はこの星の調査に来た。しかし科学者ではない。連邦政府より派遣された、正規の軍隊だ」
ダリウスは話を補足した後、どのようないきさつがあったか話す。
曰く、民間船の救難信号を巡回中の軍艦が捉えた。
救難信号をキャッチ出来たのはほんの一瞬。しかも恒星活動に由来するノイズと見間違うほど弱いものであり、内容も欠けている部分が多くて殆ど分からなかった。何より通信に使われた媒体が、今や殆ど使われていない電磁波(ここ数百年は超光速通信であるタキオン波通信が主流である)。発信源が未探査区域という事もあって、軍艦内部でも誤検知だろうという意見が多かった。
だが辛うじて読み取れた通信内容に、十五年以上前に行方不明となった船体番号が含まれていた。更に発信源は恒星の存在しない領域である事が判明。何かがおかしいと、調査隊が派遣される事になった。
結果を言えば民間船は発見出来なかった。
代わりにこの星を発見した。周りに恒星がない、浮遊惑星の一種。不時着した民間船がいるかも知れないと、軍艦に備わった機器で観測を試みたが……なんの情報も得られない。
そう、何も分からなかった。
多くの軍艦は惑星表面を詳細に調べられるセンサーを装備している。科学調査船とは必要とする情報が違うため、一概に優劣は競えないが……惑星戦闘距離である百五十万キロ地点からでも地表面にいる一人の『人間』の詳細ぐらいは観測可能。勿論地形や建造物ほど大きければ、もっと離れていても詳細な画像・数値データが得られる。これらは戦争をする上で欠かせない情報だからだ。
なのにこうした情報が全く得られない。機器の不具合、照射位置の調整などあらゆる可能性を探った。しかし何をどうやっても、まともなデータが得られない。肉眼では明らかに黒い星があるのに、まるで何もないかのような結果ばかりが得られる。
黒い星自体は、幾つか確認されている。だがここまで、不自然なほど『秘匿』された星は人類にとって初めての遭遇である。
政府や科学者、軍部は、この未知の惑星を「知的生命体による人工物または遺物」の可能性があると判断。調査を行う必要があると判断し、大規模な部隊が派遣された。
尤も、遠距離から観測をいくらやっても成果なし。そこで更なる接近を試み――――
「墜落した、と」
「ああ。船は一切のコントロールを失った。厳密には、エネルギー切れで動かせなくなったんだ。どうにか減速を試みたが……」
全くの無傷とはいかず、半数が死亡する惨事になった。
……ダリウスは言わなかったが、そういう事なのだろう。
船が動かせなくなった理由は、この星にエネルギーを吸い尽くされたからか。『ぐんかん』とやらがどのぐらい高性能なのかシェフィルには分からないが、惑星シェフィルの力には敵わなかったのだろう。体格差を考えれば当然の結果ではある。また、奇妙な星があったから調べるという動機も、気持ちとしては分からなくもない。
今のところ、ダリウスの話に不審な点はないとシェフィルは思う。人間達が捉えた『きゅーなんしんごう』とやらは、時期を考えればシェフィルが乗ってきた船のものだろう。電磁波は光の速さで飛ぶが、宇宙は光が届くのに何十年どころか何百億年も掛かるような広さがある。十五年前の電磁波を、遠く離れた人間の宇宙船がキャッチしてもなんら不思議ではない。むしろたった十五年で感知した事を驚くべきか。
シェフィル的には、この話に怪しいところはないように感じられた。
しかしアイシャには何か思うところがあるのか。しばし考え込むように、唇に指を当てながら思案している。そして母も、アイシャの耳許で何かを話す。
母の声はシェフィルにも聞こえてこない。それほどまでに隠したい話なのだろう。アイシャは頷いたり、首を横に振ったりして答える。アイシャとしても聞かれたくない話らしい。
その相手は、言うまでもなくダリウス達だ。シェフィルにも聞こえない声を、あの人間達が聞き取れるとは思えない。実際人間達も、アイシャと母を観察するように見ていたが、ダリウスの怪訝そうな顔からして盗み聞きは上手くいっていないようだ。
秘密の話を交わした後、アイシャは再び人間達と向き合う。
「……事情は分かりました。帰還したいのであれば、こちらの種族が手助けしてくれるそうです」
【我々は宇宙空間を移動する事が可能です。必要であれば、貴方達の宇宙船まで運びましょう。ただし宇宙空間を移動する事となるため、貴方達の服がその負荷に耐えられる事が前提となります。もし耐えられないのであれば、事前に申告してください】
アイシャが提案し、母が具体的な方法を提案する。
人間達は驚いたように身を仰け反らせた。それから仲間内でひそひそと相談を開始。
「……こちらの種族は、この星の先住民族か?」
ややあって尋ねてきたのは、母達に関して。
質問と異なる返答に、アイシャは一瞬キョトンとする。それから、少しバツが悪そうな顔になりながら答える。
「え、ええ。そうです。彼女達は昔からこの星に住む、先住民族になります。私達は後から来た身です。彼女達も私達の言葉を使えますが、価値観が独特なので、私が仲介しています」
「高い知能があるのか……だとすると、この星を作り出したのも彼等が?」
「え? えーっと……」
【はい。我々はこの惑星の形成に関わっています】
アイシャが僅かに口ごもると、母は肯定を返した。
実際に星を形成したのは起源種シェフィルの筈だが、母達は『シェフィル』の端末。自らもシェフィルの一部と考えているので、我々という表現になるのだろう。母の答えを聞いて、人間達はまたざわめく。
「……少し、仲間と相談したい。宇宙に浮かぶ船とも通信を行いたいが、良いか?」
【構いません。ただ、通常の通信はほぼ不可能です。見たところタキオン通信を用いているようですが、それも此処では使用出来ません。通信可能なのは、我々が現在会話に用いているこの周波数帯の電磁波だけです】
ダリウスの要望を母は許可する。それでいてやり方も指示。ダリウスは(疑っているのか念のためか)色々な通信を試すが、最終的に母が言った周波数帯での電磁波通信を始めた。
通信はある程度集束しているようで、あまり『漏れ』はない。しかし全くない訳ではなく、シェフィルにもその声は聞こえていた。「先住民が」や「豊富な生物相」などの言葉が聞き取れたが、意味の分からない単語も多く、どんな会話かはよく分からなかった。
母であれば全部聞こえているかも知れないが、冷静沈着な母の反応から会話内容を窺う事は出来ない。母も聞き取った内容をシェフィルに説明する事もなく、アイシャとひそひそ会話する。こちらは全く聞き取れない。アイシャも言葉が漏れるのを嫌ってか、言葉ではなく首や手の動きで返答していた。
蚊帳の外になったシェフィル。ちょっと不貞腐れて、ぷくーっと頬を膨らませた。尤も、母もアイシャもシェフィルの顔を見ていないので、気付いてもなさそうだが。
しばらくして、ダリウスはアイシャと向き合いながら話を切り出す。
「……こちらの相談は終わった。まず、救助の申し出に感謝する。その上で、不躾とは承知の上だが今後について一つお願いをしたい」
「お願い、ですか?」
「ああ。この星に、人類の開発拠点を置かせてはもらえないだろうか」
ダリウスが切り出したのは、この星を開発するための場所を作る許可。
言い換えれば、彼等はこの星の開発がしたいらしい。開発とは、以前アイシャが話していた内容通りなら、星を丸ごと改造するという事か。
『人間』であるアイシャは、その申し出に眉を顰めた。
「……開発、するつもりなのですか?」
「そうだ。我々人類は今、宇宙に版図を広げている。この星にどのような資源があるか、どのような価値があるかは分からないが、版図の一つとして組み込みたい」
「……成程、軍人さんならそう言いますよね。人類宇宙条項にありますから。人類の更なる繁栄のため、全ての惑星・星系を積極的に管理するって」
【ふむ。要するにこの星も人類のものにしたい、との事ですか】
「ま、そういう理解で良いんじゃない。言葉でどう言い繕っても、本質的にはそうですよね?」
「返す言葉もないな。とはいえこの方針はあくまでも基本であり、そのために虐殺も厭わないという訳ではない。我々にも倫理観はあり、無秩序な破壊は許されていないからね。あなた達のような知的生命体がいるなら尚更だ」
ダリウスはそう言いながら、母を見遣る。母もダリウスを観察するかのようにじっと見つめ、けれども何も言わない。
ハッキリとした反応を示さない母であるが、ダリウスは特段気を悪くした様子もない。母に提案するように話を続ける。
「勿論、ただで開発や移住をさせてくれとは言わない。必要であれば様々な支援をする。例えば我々の持つ恒星間航行技術、資源採掘技術、娯楽用品の提供も可能だろう。それに開発と言ってもこの星の環境を壊滅させるような事もしない。一部、ほんの一部だけ、人間のために使わせてほしい」
「……まだ、連邦政府がその許可や方針を出したとは思えないのですが。そもそも連邦法で、惑星外に進出していない知的生命体のいる星への干渉は禁止されています。不慮の事故とはいえ、交渉自体好ましくはない筈です」
「ああ。だからこれから政府を説得する。その上で、この星の知的生命体から要請があったとなれば、連邦政府も無視は出来ない筈だ」
ダリウスの答えを聞いて、アイシャはしばし黙る。否定や批難をしないのだから、全くの出鱈目とは考えていないのだろう。
けれどもすんなり受け入れてもいない。
何か、思うところがあるのだろうか? 怪しさがあるにしても、知識がなければ嘘かどうかも判断出来ない。故に教えてほしい気持ちがシェフィルの中にはあるものの、問い詰める機会はなくなった。
【開発は許可出来ません】
母がハッキリと拒絶の意思を示したからである。
断られるとは思わなかった、という訳ではないだろう。しかしこうも即座に断られるのは想定外なのか。ダリウスは呆けた表情を浮かべた。
「……我々の支援内容が不服だったか? それとも、開発内容に不明瞭な部分があっただろうか。譲歩してほしい点があれば、こちらとしても上と掛け合うが」
【いいえ、開発行為そのものが許可出来ません】
「……それは、あなたの判断か?」
【はい。同時に、我々シェフィルの総意でもあります】
母達は特殊な電磁波により、離れていても交信が可能だ。星の中心に潜む起源種シェフィルとも話が出来る。
恐らくほんの一瞬の間に、母は一族や起源種シェフィルと話していたのだろう。そして基本的な方針を決め、ダリウスに伝えたのか。
シェフィルやアイシャは母がどんな生物が知っているので、何があったのか想像が付く。しかし人間達は母の一族を知らない。明確な拒否がどのようなプロセスで下されたか分からず、混乱している様子だった。
なら教えてあげれば話がスムーズに進むのでは、とシェフィルは思ったが……しかし口は開かないでおく。
今し方考えた事を、アイシャと母が分かっていない筈がない。二人が何も言わないのには、何かしらの理由があると意図を汲んだのである。
「……分かった。開発は望んでいないと、上層部に伝えよう。だが研究拠点だけは置かせてもらえないだろうか。この星の状態や生命について、詳しく知りたい」
【研究ですか。それも出来れば拒みたいのですが】
「不躾なのは承知している。しかしこの惑星の性質は……我々の船が落ちたように、危険と言わざるを得ない。人間側の安全を確保するためにも研究は行いたいのだ」
【……少し待ってください】
ダリウスの新たな提案。母は一言挟むと、再び黙ってしまう。
また、仲間達と話しているのか。
【この星の生命体を外に運び出さない。機材を動かすエネルギーや物資は外部から搬入し、星の資源は利用しない。この二点を守れるならば考慮します】
しばらくして母が返した答えは、制約付きの同意。
ダリウスはこの返事に、先程の母と同じようにしばし黙る。それから仲間達、そして宇宙にいるであろう船に連絡を行う。どんな話をしているのか、やはりシェフィルには上手く聞き取れず。
やがてダリウスは、にこりと笑いながら母の下に歩み寄る。
「ありがとう。上層部に貴方の意見は必ず伝える。後日また会談を行いたいが、船の墜落を避けられる場所はあるだろうか?」
【この星にはありません。そこで、我々の方からあなた達の船に向かうのはどうでしょうか。我々は単独での宇宙飛行が可能なので、場所を指定していただければ私自身が出向きます】
「それで構わない……差し出がましいが、我々を船まで運んでもらっても良いだろうか。この服なら、余程の衝撃を与えない限り宇宙空間の移動は問題なく耐えられる筈だ」
【分かりました。私以外の個体ではありますが、貴方達を船まで送ります。可能な限り、衝撃は与えないよう配慮もしましょう】
母の言葉を合図とするように、ぞろぞろと母の一族が十体ほど人間達の傍に迫った。巨大生物に囲まれた人間達は困惑した様子を見せるが、母の一族はお構いなしに触手を伸ばし、人間をぐるぐる巻きにしてしまう。
次いでふわりと浮かび上がり、宇宙目掛けて飛んでいった。速度は、地上から見る限り控えめ。恐らく人間の『強度』に配慮しているのだろう。
それでも段々と加速しているらしく、数十秒もすればシェフィルの目にも母の一族は見えなくなった。人間達の目にも、きっとシェフィル達の姿は見えない筈である。勿論、こちらの『声』なんて聞こえやしない。
「ああああぁ……もう疲れたぁ……」
がくんと膝を折り、アイシャは疲弊しきった声を出した。人間達との会話でかなり疲れたらしい。
ただ話しただけなのに、どうしてそんな疲れたのか。聞いていただけのシェフィルには分からず、どう声を掛ければ良いか迷う。
対してダリウスと会話していた母は、アイシャと『話題』を共有していた。
【あなたから聞いてある程度想定していましたが、かなり攻撃的ですね。この状況でシェフィルを人間達の勢力に取り込もうとする意思を見せるのは、可能性の低い行動と考えていました】
「あれぐらいは割と普通なのよ……むしろ穏健なぐらい。それぐらい自分達の技術に自信があるし、実際横暴を押し通すだけの力はあるわ」
【ふむ。先程の研究提案は、シェフィルの情報を得て攻略するためでしょうか】
「多分ね。この星のエネルギー吸収がある限り、着陸すら儘ならない訳だし。倫理規定に引っ掛かるから積極的な侵略はしないだろうけど、結局は解釈次第だから相手の意欲次第では強気に出てくるかも……というかそこまで人の事が分かるなら、私の仲介いらなくない?」
【かも知れません。ですが不測の事態もあり得ます。交渉時は通信を行いますから、しばしアドバイスをお願いします】
「はいはい。やれるだけはやってみるわ。私だって、今の生活を脅かされたくないし」
【よろしくお願いします……少しシェフィルに報告があります。あなた達を家に送るのは、その後で問題ないですか?】
「うん。私もちょっと休みたいから、それでお願い」
アイシャが了承すると、母は一旦シェフィル達から距離を取る。
アイシャは、また大きなため息を吐いていた。
「えっと、お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「あ、うん。平気よ。ありがとう、気遣ってくれて」
シェフィルが声を掛けると、アイシャは笑みを返す。柔らかで愛らしい微笑みに、シェフィルは少し胸が昂ぶってしまう。
とはいえ流石に此処で抱き着く気にもならないので、高揚した気持ちを鎮めるように軽めの息を挟む。
「……ところでなのですが、人間達との話は結局どんな感じに纏ったのですが?」
それでもちょっと頬の熱さを残したまま、シェフィルは疑問だった部分をぶつけた。
「うーん、一言で言うのは難しいけど……さっきの人間達は言葉巧みに騙して、この星を自分達のものにしようとした。それを見抜いて私とお義母さんは拒否し、妥協点を見出したって感じかしら」
「……はぁ。よく分かりませんが、アイツらは私達の暮らしを壊そうとしていたという事でしょうか。それならボコボコにしてしまえば良いのに」
「気持ちは分かるけど、色々駆け引きがあったのよ。お義母さんも言ってたでしょ、無闇に敵対したくないって」
「そういうものですかねー」
納得は出来ない、が、母とアイシャがそうすると決めたのならそれが良いのだろう。
詳しく分からないのなら、あれこれ口を出すのはお門違いというものだ。
まだ疑問は残っているが、今聞く必要もあるまい。アイシャや母がそれを意識していないとは考え辛いのだから。
なら、きっと大丈夫だ。
シェフィルは細かな事を気にするのを止めて、暢気に微笑むのだった。




