弟が生後間もない仔ネコを拾って来た日
pixiv様主催の『pixiv猫チャリティー企画~猫まみれ2024~』に参加する為に書き下ろしたノンフィクション作品です。
より多くの方達に読んで頂きたいと思いこちらにも掲載する事にしました。
それではごゆっくりご覧下さい。
ある年の7月8日日曜日の夕方。
当時中学1年生だった僕はリビングのソファに深く座りテレビを見ながら間近に迫った夏休みに胸を馳せつつ寛いでいると閉め切った遮光カーテン越しからスポーツ少年団の野球部に所属していた弟が試合を終え帰宅して来た気配を察知した。
チームメイトの保護者の車で送迎してもらった弟は玄関の戸を開けるなり、姉にこちらに来る様に呼ぶとどういう訳かその場から一向に動く事無く、何やら2人で話し始めた。
「(今日の試合で活躍でもしたのかな・・・?)」
僕はそんな事を思いながらも彼の勇姿を称えるべく相応しいであろう労いの言葉を幾つか考えていたが、暫くしてリビングへとやって来た姉の一言で驚愕すると共にその必要は無かったのだと理解した。
「大変。あの子、ネコ拾って帰って来た!」
姉の説明によると弟は会場である運動公園内にて試合終了後にチームメイトと共に生後間もない雑種のメスネコを見付けたらしく、『保護するか否か』、『誰の家で飼うのか』等、話し合っている内に、
「3カ月前までオスネコを飼っていた我が家でなら・・・。」
という考えに至った結果、その役目を自ら引き受ける形で名乗りを上げ、連れて帰って来てしまった様だ。
(オスネコに関してだが、何故居なくなってしまったかは察してほしい。)
突然の出来事ではあったが先程まで外で生活していた為、泥と埃にまみれ、誰がどう見ても『綺麗』とは程遠い姿をしている仔ネコを一先ず洗おうという事になり、時同じくして帰宅したばかりの母は戸惑いながらも状況を把握し、連れて帰って来た張本人である弟をサポート役として浴室へと移動した。
「ミャーオ、ミャーオ!」
ネコは水が苦手と言うがこの仔ネコも例に漏れず水が苦手な様でリビングからでも聞こえる程の抵抗しながらも心成しか怯えている事を窺わせる鳴き声を発していた。
また、後から聞いた話によるとシャンプーしている最中、突如仔ネコの体から外へ出る様にして黒い異物が次々と現れ始めたらしい。
始めは砂か米粒程に固まった泥ぐらいに思っていたらしいが、実際はそうでは無くその正体は何と大量のノミだったそうだ。
こんな小さな体の何処に隠れていたのだろう。
そんな疑問を覚えつつ驚きと共に不快感を覚えた2人は一旦、仔ネコに湯をかけシャンプーの泡と共に大量のノミを洗い流すと洗い残しが無い様に改めてシャンプーをし、綺麗にしたのだった。
浴室から母の呼ぶ声が聞こえ脱衣場へ向かうと僕に対し仔ネコの濡れた体をタオルで拭くように指示する。
バスタオルを手に取りいざ拭き取ろうとした瞬間、「ブルブルッ」と体を震わせ、無数の水滴を辺りにまき散らした。
「うわっ!」
やるとは思っていたが、いざやられると声を出さずにはいられない。
思わず顔を歪ませた僕は家着のTシャツで顔を拭おうとしたがグズグズしている様に見えた母から、
「良いから、早く拭いてやってよ!」
と、釘を刺されてしまい渋々ながらもそれに従う形で素早く拭いてやるのだった。
それが終わると、つい数時間前まで野良ネコとして生活していた為、食事もロクにしていなかっただろうと判断した我々は先に触れたオスネコが使用したフードボウルにミルクと廃棄せずに残していたキャットフードを与えるとやはりと言うべきか物凄い勢いで口にするのだった。
夕食時。
帰宅して来た父に向け、事情を説明する弟。
だがこの時点で既に僕らとしてはこの仔ネコを飼う事で合致しており、父自身も特に反対する素振りも見せず二つ返事で容認するのだった。
そして、話の中心は『名前を付けよう』という物になり皆で提案し合う事にした。
この時、我々のやり取りを聞き命の危険が及ぶ事は無いと分かったのか、仔ネコの中で先程まで感じていた緊張が解けたらしく、弟の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らし、目を閉じてすっかりくつろいでいたのだった。
そんな中、なかなか良い名前が思い付かず、やや煮詰まりかけていたところふとカレンダーを目にした僕は現在7月である事を再確認すると、家族の顔色を伺う様にして名前の候補を提案する。
「『ナナ』なんてどうかな?」
その提案を受け、家族一同可愛らしく尚且つ呼びやすくて良いと高評価。
満場一致でこの名前に決定した。
そして、この瞬間をもって『ナナ』は我々家族の一員となったのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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