6 ふ・れ・ん・ど・で・き・た
「今日ってこの後、予定ある?」
帰りのホームルームが終わると雨宮さんが話しかけてきた。
「ない。今日は何かあるの?」
「叡人くんは今日が初日だから校内の紹介をしようと思った。余計なお世話だったかな?」
「全然。むしろ助かるよ、ありがとう」
「俺も行くぜ!」
「あんたはいらないわよ。それに部活もあるでしょ」
「大丈夫だよ、少しくらい遅れたって。それよりも新しい仲間と親睦を深めないとな」
「水島って何部なの?」
「バレー部。ちなみにエースで部長。誰も俺に逆らえない。あと、俺のことは慎吾でいいぞ」
なるほど、バレー部だったのか。どおりで背が高くて引き締まった体をしているわけだ。そして陽キャオーラを振りまいていることにも納得。
「あたしのことも茜でいいよ。部活は入ってないけど海鮮料理の店でバイトしてるんだ」
「こいつの接客面白いぜ。別人のように客に愛想よくなるから。
今度行ってみな。店の名前は―」
「言うなー! 知り合いに接客しているところを見られるのってすごい恥ずかしいんだから」
茜は顔を真っ赤にして慎吾の言葉を遮った。
「急に大きな声出すなよ。
叡人、今度連れて行ってやるから楽しみにしてな」
「うん、茜が接客しているところは見てみたい」
「叡人くんまで何言ってるの⁉」
「茜よ、騒いでないで早く校内を案内するぞ。俺は部活もあって忙しいんだ」
「誰のせいだと思っているのよ!
それに慎吾はいてもいなくてもどっちでもいいわよ」
「慎吾と茜は仲いいんだな」
2人の会話がラブコメすぎて会話に入れないから、こんなリアクションしかできない。そして次に続く言葉も想像できる。
「「仲良くない」」
ごちそうさまです。
◆◆◆
音楽室、実験室、家庭科室、保健室、職員室など授業や何かあったときに行く部屋などを紹介してもらった。
歩いている中で部活の見学もした。
「叡人は前の学校で部活は入っていたのか?」
「帰宅部だったよ」
「へー、その割には筋肉ついているよな。筋トレが趣味なの?」
慎吾は俺の二の腕を掴む。
「そんなところ。流行りに乗って初めてみたけど、意外と楽しくて続いているんだ」
嘘だけど。昔から父親と色々な場所に写真を撮りに行った。機材を運びながら歩いていたし、カメラをずっと構えていると自然と腕に筋肉がついた。
自分の事件がバレるわけにはいかないから本当のことは言えない。
「その筋肉をバレーに活かさないか? うちの部はいつでも歓迎だ!」
「遠慮しておくよ。高2の6月なんていう中途半端な時期から未経験のスポーツをやる勇気はないかな」
「振られちゃった。うちの部はいい選手はいるんだけど、今年は部員が少なくてなー。もっと人がいれば盛り上がるんだよなー」
慎吾は肩を落としながら悩みを吐露した。
社交辞令で誘われただけだと思っていたけど、案外本気だったのかもしれない。
「叡人くん、バイトはどうかな? うちのバイト先、今募集中だよ」
「僕はバイトはしたことないし、接客はちょっと苦手かも」
「大丈夫大丈夫。あたしがしっかり教えるし、慣れてくるよ。飲食店は動き回るし、重い物を運ぶことも多いから叡人くんみたいな人は大歓迎だよ!」
お金には困っていないけどいい経験になるかもしれない。それに慎吾の誘いも断ってしまったから、茜の誘いも断ると角が立ってしまう。
「少し不安だけど、やってみようかな。今度、茜がバイトしているところを見てから決めるよ」
「それは恥ずかしいね」
3人で何気ない会話をしながら学校内や部活を見ていると少し目を引く部活があった。
ドアに「写真部」と書かれた板が掛けられている。写真を撮れなくなってしまったとはいえ、嫌いになったわけではない。
2人に気づかれないようにそっと教室の様子をうかがう。
そこには自分の視線や興味を集中させる人がいた。その人を見た瞬間自分の視界はその人しか写さなかった。他には見えない、聞こえない、感じない。
その人が僕が見ていることに気が付いたのか、もしくは偶然なのかわからないが、こちらを振り向こうとした。
僕は目が合う前に全力で首を動かして視線が交錯しないようにした。
「叡人くん、なんか耳赤いけどどうしたの?」
「何でもない。それより次はどこに行くの?」
本当はどこに行くかなんてどうでもいい。あの人と話してみたい。カメラを持ってもシャッターは押せないけど、写真部に入ってあの人に会いたい。
◆◆◆
その後も野球部やサッカー部、科学部など他の部活もいくつか見た。けど、一番興味をひかれたのは写真部だ。写真を撮れるかどうかはわからないけど、もう1度、部室にいたあの人に会ってどんな人なのか知りたかった。
「俺は部活に行くからこれでさよならだ」
「あたしはこの後はバイト行くけど、叡人くんはまだ学校見ていく?」
「いや、僕も帰ろうかな。2人とも今日はありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃないって。また明日!」
「また明日」
慎吾は体育館の方に走り出した。
「あたしは原付でバイト先まで行くから、下駄箱までは一緒だね」
「そっか。じゃあ行こっか」
下駄箱までの道で注意したほうがいい先生とかクラスメイトのことについて茜は聞かせてくれた。
「じゃ、あたしは駐輪場行ってくるね、ばいば~い」
「色々教えてくれて助かったよ、じゃあね」
茜は手を振りながら駐輪場に行った。
僕も帰ろう。
読んでいただきありがとうございます!
作品が面白いと思った方は☆5、つまらないと思った方は☆1の評価をお願いします!
評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!
『高評価、いいね、ブックマークは命よりも重い』