59 God knows…
「たとえ神様であってもこの龍守神社の秩序を乱すことは許しません」
意識が混濁する中でもはっきりと凛とした声が聞こえた。
声の主を探すために薄っすらと目を開けると1人の女性がいた。
和服姿に年齢を感じさせない背筋、それとは対照的に白く染まった髪が助けてくれた人物が誰なのかを教えた。
「かっは。はー、はー」
クリスのおばあちゃんが白い霧に触れると霧散し、酸素が再び戻った。
『〈神殺し〉がいたか。くそ、最悪だ』
クリスのおばあちゃんは触れた人物の能力を強制的に解除する能力だったはず。そして龍守家の人間が持つ能力は神から与えられたものである。
「逃がしはしない。
その幻想をぶち殺す」
『ぐあああああああああああああ』
クリスのおばあちゃんが清正の額に手を触れると白い霧が霧散していき、神の存在感が薄れて消えた。
神が与えた能力が消せるってことは神自体も消せるってことか。
汚い断末魔を上げながら徐々にその存在は消えていった。
「勘違いしているかもしれないから教えてくおくわ」
教師のようにクリスのおばあちゃんが間違いを指摘した。
「私の能力は神を殺す。その副産物として神が与えた能力も打ち消せる。
まあ、神社にいて能力が〈神殺し〉なんて言えないから無効化ってことにはしているけど」
「おばあちゃん、なんでここに来てくれたの?」
「『おばあちゃん』じゃなくて『お母さん』の間違いでしょ、豊姫」
当たり前のようにクリスの正体がいさなの母親の豊姫であることを看破していた。
「……バレてたかー。結構いさなに寄せてたと思うんだけどな」
クリスもとい豊姫さんは目を丸くしてから白状した。
「当然よ。声や見た目は一緒でも動き方や話し方が全く違うわ。いさなはあなたと違ってもっと上品でおしとやか」
「ひどいなー。否定はできないけど。それで、話は戻るけどなんでここに来れたの?」
「この写真よ」
いさなのおばあちゃんであり、豊姫さんのお母さんである沢女さんは豊姫が乗り移ったいさなが死んでいるチェキを懐から取り出した。
「私の作戦がここで効果を発揮したのか」
あの写真は豊姫さんが未来をループしている証明をするために用意したもので実際に未来から持ち込めるのかも定かではなかったものだ。
まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「昨日写真を持っていることに気づいたんだけど、写真に書かれた日時が花火大会のタイミングと被っていて、かつ今日はトラブルで花火大会が大幅に遅れているから何か関係があると思ってあなたを探し回ったわ」
あ、そうだ。もう事件は片付いて花火大会は始めて大丈夫だからボードゲーム部に連絡しよう。
「ヘビーなものを見せちゃってごめんね」
「気にしなくていいわ。いさなを守るためにそれだけ頑張ってくれていたのだから」
「褒められるなんていつぶりだろう。いつも怒られてばっかりだったから」
豊姫さんは照れくさそうに髪の毛をいじる。
「それは豊姫がお稽古をさぼり続けるからよ。
それにしても、いさなの見た目で豊姫と話すって不思議な感覚ね」
「うん」
未来を変えたことを祝福するかのように少し離れたところで花火が打ちあがる音が聞こえ、夜空には大輪の光の花を咲かせている。
「ご迷惑をおお掛けして申し訳ございません」
「みなさんも協力してくれてありがとうございます!」
示し合わせたわけではないだろうけど、沢女さんと豊姫さんは深々とお辞儀をした。
「なんか色々驚きだったし、わからないことも多くあるけど気にしてないっすよ。な、山岸?」
慎吾は後頭部をかきながら、何でもないことのように言った。
「まあな」
山岸も静かに同意した。
「わたくしも今回の件で一気に知名度が上がったと思いますわ。感謝には及びませんの」
西園寺さんは金髪を翻した。
「彩音さんもバックアップありがとうございます。彩音さんが水島さんたちに私たちの現在地を伝えてくれたおかげで万全の準備ができましたし、小型の隠しカメラで証拠を残しておいてくれたのもありがたいです」
「そんなことないよ~。私はずっと隠れていただけだもん~」
「いえ、葉月先輩がいなかったら写真部には入っていないですし、お祭りもここまで楽しくなっていませんよ」
「……」
葉月先輩がうつむいて顔を赤くしている。
僕、キザすぎるセリフ言っちゃった?
「ヒューヒュー、七森さんついに言ったねー!」
「ちょ、別に変な意味で言ったわけではないですよ! それくらい感謝してるって意味です!」
僕たちのことを尻目に山岸と沢女さんで事後処理の会話が進められていた。
「オレたちが押さえていたあの男はどうするんだ?」
山岸は気を失っていて動かない清正を指さした。
「神社の中まで運んで色々話を聞きたいわね。さらに手伝いをお願いするようで申し訳ないけど一緒に運んでもらっていいかしら?」
「お安いごようです!」
慎吾は快諾した。
「今度何かお礼するから期待しといてちょうだい」
「やったぜ!」
そのまま慎吾と山岸は沢女さんの指示のもと、清正を運び出した。
「このネタを提供していただいて感謝を述べさせていただきますわ。なのでバレー部の取材の件、一緒に頑張りましょう。
それでは、わたくしも今日の用件は済みましたので、お暇させていただきますわ」
西園寺さんは一瞬でどこかに消えていった。やっぱ忍者かよ。
◆◆◆
「七森さん、改めてありがとうございます。あなたが私を盗撮していなかったら出会えませんでした」
「感謝の気持ちを微塵も感じないんだが」
「冗談ですよ。本当に感謝してますよ。
彩音さんも私と仲良くしてくれてありがとうございます」
「ううん。私もクリスちゃん、いや豊姫さんですね~。一緒にいれて楽しかったですよ~」
僕と彩音さんにお礼を言ってから豊姫さんは別れを告げた。
「おそらく今が私たちが会える最後です。能力を与えた神がいなくなったので私の乗り移りもじきに強制解除され、10年前に戻ります」
「また会えるのか?」
なんだかんだ言っても一緒にアニメの話をするのは楽しかったから、何年たってもまた会いたい。
「私は10年前に戻っても今の記憶はありますが、七森さんたちは私と会った記憶はなくなっているかもしれませんね。
でも未来の結末を変えたので過程がどうなるかはわかりませんが、七森さんや私が死ぬということはなくなりました。その結果に収束する未来に変わりました」
「そうか」
アニメの話をたくさんして、写真もまた撮れるようになって、葉月先輩のことを好きになって、未来を変えるなんていうアニメの主人公みたいなこともして、すごく楽しかったけどこれを覚えているとは限らないんだな。
「そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ!
私だってまた会いたいですし、記憶があるのが私だけってなったら落ち込むのは私なんですよ?」
もし僕たちが覚えていなくて、クリスだけ覚えていたらそれはもっと悲しいな。楽しかった思い出を自分だけ持っていてそれを共有できないのは。
「僕は絶対にこの思い出を忘れない」
「口約束は信じられないのでギアスをかけます。
龍守豊姫が命じる。我を忘れるな!」
「おう。交わした約束忘れないよ」
「どうなるかは、神のみぞ知るところですけどね」
そこで豊姫さんの意識が失われ、倒れ込んだ。
目を覚ました時にはいさなに戻っていた。
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