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56 僕は友達が少なくない

「遅くなってすいません」


「もう、遅いよ~。2人だけで何の話をしてたの~?」


 葉月先輩は両手を腰に当てて1人で待ちぼうけをくらっていたことの不満を言った。


「彩音さん、すいません。七森さんが連れしょんに誘ってくるのがしつこくて困ってたんですよ」


「叡人君そんなことしてたの! セクハラだよ~」


「え、いやそんなことして―」


 否定しようとするとクリスが僕にだけ聞こえるように言った。


「連れしょんしてたなんて彩音さんが本気にするわけないじゃないですか。ここは冗談を言って誤魔化しましょう」


 かなり重要な話をしたはずなのに突然下品な話になった。しかし、ここで先輩の好感度を下げるわけにはいかない。先輩なら良い感じに解釈してくれる可能性もあるけど、危険は排除すべき。


「実はそうなんですよねー。トイレの場所がわからなかったこともあって一緒に来てもらおうかと思って、ははは」


「そういうことね~、こんだけ人が多いとトイレの場所ってわからなくなるよね~」


 僕の説明に先輩が納得してくれて良かった。幼女を連れしょんに誘う変態だと思われずにすんだ。


「七森さんの変態性の誤解が解けたところで、屋台を回って行きましょう!」


「誰のせいだと思ってるんだよ」


 ループしているという事実を聞いたもののお祭りデートはつつがなく始まった。


◆◆◆


 チョコバナナや焼きそばを食べたり射的をしたりして過ごした。クリスからすれば何度も経験したことかもしれないが、楽しんでいたように見える。


 今は葉月先輩がお手洗いに行っているところで龍守清正の対策について話すにはベストだ。


「明日はどうするんだ?

 死にたくないから何とかしたい」


「これまで色々試してきたんですけど上手くいってなくて手詰まりなところはあるんですよね。大勢の人が関わったり誰かの強い意志によってもたらされた未来っていうのは変えるのが難しいですし変えられない場合もあるんですよ。今回がそのパターンかもしれないって思ってしまっています」


 クリスから出てきたのは諦めの言葉だった。何度も僕の死を目の当たりにして心が折れてしまっている。それでもお祭り中はそんな姿を見せていなかったのはクリスの強さと優しさのおかげだ。


 クリスは僕が死ぬという未来を変えるためにここまで頑張ってくれたんだから今度は僕が頑張る番だ。


「クリス1人なら清正を越せない、しかし2人なら清正と並べる。清正を追い越せる」


 そう言うと、クリスは目尻に水滴がたまるほど大きく口を開けて笑った。


「あははははは!」


「そんなに面白かったか?」


「はい。私の励まし方を熟知しているなと思いました。具体的に何か方法があるんですか?」


 お祭りの間は何も思いつかなかったけど、クリスの話を聞いて思いついた作戦がある。


「大勢の人間や強い意志でもたらされた未来は変えられないって言っただろ? ならこっちも大勢の人数と思いで未来を変えれば結果は違うものになるんじゃないか?」


 クリスの表情は一瞬明るくなったがまた表情は沈んだ。


「言っていることは正しいかもですけど、人数や意思の強さなんてどうしようもなくないですか?」


 クリスの反論はもっともなことだし、僕もこのやり方に確信を持っているわけではない。


「そうだな。成功するかどうかはわからない。失敗すればまたクリスを傷つけてしまう。だからこのやり方で明日を迎えるかどうかはクリスに任せる」


「参りましたねー。ここはかっこよく『俺に任せとけ!』とか言ってほしかったんですけど」


 クリスは呆れて不満が混じった声で話した。


「僕はマグルだからそんな無責任なことは言えない」


「私は魔法族ってわけですね。いいですよ。やってみましょう。

 協力してくれるあてはあるんですか?」


「これから頑張る」


「ノープランだったんですね」


「僕は友達が少ないわけじゃないから大丈夫だよ」


 明日のことについて話がまとまってきたところで葉月先輩がお手洗いから戻ってきた。


「お待たせー。そろそろクリスちゃん演舞の準備だよね~。移動しようか~」


「ですね」


「頑張れよ」


「はーい。気づくと思いますが今日の演舞に少しでもおかしなことがあったらすぐに会場から離れてくださいね」


 僕も葉月先輩もきょとんとしているとクリスが付け加えた。


「聞かないほうがいい音楽かもしれないので気をつけてください。

 行ってきます!」


 意味深な言葉を残してクリスは演舞の準備に行った。


「どういうこと~?」


「よくわかりませんが何か危ないことがあれば戻れってことでしょう」


 僕たちはまだ時間に余裕があるから屋台を適当に散策して時間を潰してから会場まで移動した。


◆◆◆


 演舞は本殿で行われる。たくさんの人が本殿を囲んでおり、とてもじゃないが後方から演舞を見ることなんてできない。


「この腕章が役に立ちますね」


「だね~。クリスちゃんに感謝」


 今日は水翠(すいせん)高校の写真部として部活動の一環で来ている。堂々と最前列で見させてもらう。


 係の人に腕章を見せて関係者席に腰を下ろす。


 屋台を巡っていたときは人の流れがあって写真が撮れなかったけどここならじっくり腰を据えて撮ることができる。


 クリスに何度もループしていると言われたからだろうか、今日1日のこと全てに既視感を感じる。この演舞だってクリスが忠告をしてきたということは何かあるのだろう。


 演舞は和太鼓から始まった。


 大太鼓のズドンと来る力強い音は直接心臓に響き体ごと震わせる。


 そして鞨鼓や竜笛、琵琶など他の楽器の演奏も始まる。


 クリスの祖母や清正も演奏に参加している。


 少しアレンジが加わっているのかわからないが、聞き馴染みがない演奏に最初は違和感というか異物感みたいなものを感じた。が、慣れてくれば今まで聞いたどの演奏よりも心地よい。


 そしてクリスが現れた。神楽鈴(かぐらすず)を持ちながら音楽に合わせて優雅に舞う。指先から足先に至る1つ1つの所作が丁寧で目を奪われる。


 心地よい音楽と舞を見ていると心が穏やかになり、眠ってしまいそうになる。構えたカメラを下げて目を閉じたくなる。この奇妙な快感はどこかで感じたことがあるような。少し気にかかるけどよく覚えていないし、どうでもいいことかもしれない。


 クリスの忠告どおりだ。この演奏は危ない。


 僕は葉月先輩の手を引いて本殿から離れた。


「どうしたの? すごくいい演奏だったのに~」


「クリスの忠告どおりでした。あの演奏は前に神社で清正に見せられたPVの感覚と同じで催眠作用みたいなものがあります」


「ええ~!

 じゃ、じゃあ他の人に教えなくていいの~?」


 手をわたわたさせて慌てながら葉月先輩は会場まで戻ろうとするが、僕は手を引いて引き留めた。


「演奏を無理矢理止めたら僕たちはどうなると思いますか? こんなことをしている人たちですから何をしてくるかわかりません」


「で、でも」


「部外者が何かやって解決できるものとも思えないです。クリスに明日相談して解決します」


「解決できるの?」


 葉月先輩が不安そうな顔つきでこちらをのぞき込んでくる。


「できます。危険も何もありません」


 僕は先輩を安心させるために強気な言葉を自信満々に笑顔で言った。


「そっか~。全然よくわかってないけど、私にもできることがあったら何でも言ってね~」


「ありがとうございます。そういうことで明日は葉月先輩と花火を見に行くことはできないです。ごめんなさい」


「いいよいいよ~。花火見れないのは残念だけど、代わりに今度一緒に手持ち花火とかできたらいいね~」


「ですね。ただ、それまでは一緒にお祭りを楽しみましょう」


「大丈夫なの~?」


「はい、なるべく状態はこれまで通りにしたいので」


「わかった~。今日と同じ時間に明日また会おう~」


「はい、また明日会いましょう」


◆◆◆


「慎吾、もしもし」


『おう、どうした叡人』


「頼みたいことがあるんだけど―」


 葉月先輩と別れた後、僕は手当たり次第に電話をかけた。 


読んでいただきありがとうございます!


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『無限の時が鼓動を止め、人は音も無く高評価する。誰一人気づく者はなく、世界は外れ、紅世のいいねに包まれる』

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