54 エンドレスエイトⅧ
結論だけ、言う。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した私は失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗
って、バイト戦士になってる場合じゃない。
今、何回目だっけ?
もう覚えてない。
でも、やらなきゃ。未来を変えたいから。
◆◆◆
どうしたらいいのかわからない。
七森さんを私に近づけないようにしても、お祭りに行かなくても、清正を先に殺そうとしても、全部うまくいかなかった。
今思えば、清正を殺すことに成功してもいさなが殺人犯扱いされるだけだった。自分の短慮さにため息が出る 。
また繰り返すだけになる。だとしても何もしないわけにはいかない。ここで辞めたらもう怖くて能力を使えなくなってしまう。
◆◆◆
「俺の計画を邪魔するな」
七森さんと彩音さんの元を離れて、トイレに行く途中で私は突然さらわれた。そして、その犯人は清正だった。
いつも通り。これでいい。最後の結末だけ少しだけ変える。
「それがいきなり話すことなの? 親子なんだから強引に人がいないところに連れ込むんじゃなくて普通に声かけてよ」
「普通に声をかけてもおとなしく話に応じてくれるとは思っていなくてね。いさなは僕に対する警戒心が高いから」
今、清正は私のことをいさなだと思っている。自分の話し相手が小学生だと思ってくれていたほうが油断しやすく話を聞き出すことがしやすい。いさなの日記だけでは情報が足りない。
ただ、悲しくもある。自分の娘の中身の人格が入れ替わっているのに清正は全く気付いていない。しかも入れ替わっているのはいさなの母親であり、清正の妻でもある私、龍守豊姫であるのに。もちろん、清正に自分の能力については伝えていない。それでも毎日接していれば何か違和感を感じるはずだ。何も気づかないということはつまり、妻にも子どもにも興味がないということだ。
「計画ってなんなの?」
自分の中から込み上げてくる何かに拳を握りしめて耐えながら質問をする。こんなところで泣いている場合じゃない。自分が人生で1番愛した人間が自分にも子どもにも愛が一切なかった事実に挫けている場合じゃない。
「とぼけるなよ。いさなの能力で未来予知したんだろ? 俺が自分の宗教を作っている未来を見たんだろ?」
いさなが未来予知で見た光景は清正が作った宗教の集まりということか。
「そんな計画は初めて知った。なんで私を巻き込むの?」
「宗教には心が脆い人間が集まってきやすい。現実が辛くて救いを求めているやつらさ。そいつらにいさなが持つ未来予知なんて超常的な力を見せつければ1発で信者にできる」
「なるほど、カルト宗教の教祖にでもなってちやほやされたいの?」
そう言うと、清正は大きく笑いながら否定した。
「違う違う。宗教なんて道具だよ。宗教を使って人員とお金を稼ぐ。信者から金を巻き上げるのは簡単だし、天国に行くためだよとか天罰が下るぞとか言えば無償で手足となって動いてくれるからコスパがいいんだよ」
とんでもない最低野郎だ。自分がこんな奴と結婚していたのかと思うと寒気が止まらない。
崩れ落ちそうになる膝を気持ちで落ち着けて次の質問をする。
「宗教が道具ってことは他に目的があるんでしょ?」
「みんなが幸せになれる世界を作ることだ」
堂々とした態度であり、曇り1つない眼で言い放った。
絶対に嘘をついていないと確信できる。
それに清正なら可能かもしれないとすら思える。
人の目を引く容姿、人に耳を傾けさせる声、人を惹きつける表情や仕草が備わっている。天性のカリスマ性を持つ清正なら宗教を作って自分に従う人間を組織化することだってできるだろう。
「みんなが幸せって言ってるけど、騙されてお金や時間を奪われている信者の人たちは幸せって言えるの?」
さっきまで自信にあふれた様子だった清正の表情が一瞬だけ陰る。
「あちゃー、痛いところを突かれちゃったね。
でもそんな小さな犠牲なんて考えてもしょうがない。考えてごらん。
今この国は平和な世の中と言えるよね? もちろん、犯罪がなくなったわけではないけどそれでも平和と言えるはずだ。その平和を作るために多くの人が血を流し、命を落とした。でも現代に生きる俺たちは教科書でその事実を認識するだけで、普段は考えもしない。
それと一緒。実際にそうなればそれまでの犠牲なんてみんな考えなくなるから気にしなくていいんだよ」
「っ―」
何かを言おうと口を開きかけたが言葉が出ない。即座に反論ができなくて歯嚙みする。
清正の言っていることは間違っていないけど間違っている。否定したいけど否定できない。
口論になったら清正に勝てるわけない。こいつはむかつくくらい頭もいい。とりあえず話を変えてより多くの情報を引き出す。
「みんなが幸せな世界って言っているけど具体的にはどんな世界を作るの?」
清正の口角が上がり、これまでよりも明るい声が出る。
「ノブレスオブリージュ」
「ノブレスオブリージュ? それって身分の高い人とか優れた人はそれに相応しい義務を果たさなければならないってやつ?」
「そう、博識だね。さすがは俺の娘だ」
本当にそう思っていることはないだろう。清正は龍守の能力を利用するために近づいた。私と結婚したのも子どもを作ってその子供に能力が現れるのを期待してのことだ。
バカな私が騙されたばっかりにいさなの身に危険が生じている。私がなんとかしなければならない。
「で、ノブレスオブリージュと宗教って何の関係があるの?」
「俺は才能に溢れていてそれを活かして、会社を設立してお金ももうけている。これは俺の才能で成し遂げられたものだが、才能は誰が与えてくれた?
神様だよ。才能は神様からの贈り物だよ」
高らかに言った清正に私は辟易している。神社で生まれ育った私が言うのは違う気がするけど、才能が神様からの贈り物だなんて本気で思っている人間を初めて見たし、滑稽だ。神様なんて不確定なものにそこまで恩義を感じれる清正は頭がおかしい。
「才能を最大限に活かすにはやっぱり金が必要。俺1人で稼ぐより多くの人間から集めたほうが効率的。集めたお金は町の発展や人々のために使う。どうせみんなお金なんてロクなことに使わない。そのお金をほんの少しもらって俺の才能で世界に貢献している。まさにノブレスオブリージュだ」
自分の言いたいことを言いきった清正は晴れやかな表情をしていた。
目線で私に自分の考えに同意するように訴えてくる。同意する気なんてさらさらない。
「そういうことがしたいなら政治家にでもなればいいんじゃない?」
「もっともな意見だがああいうしがらみだらけの世界は面倒くさい。内部の人間として動くより外部の人間として利用するほうが扱いやすい」
清正がそう言った瞬間、突然、近くから発砲音が響いた。
何の音だと周囲を見渡すと木々の隙間かか花火が見えた。
花火大会が始まったようだ。
「お祭りもクライマックスに入ったね。俺たちの話もそろそろ終わりにしよう。いさなは俺に協力してくれるよな?」
「人から騙し取ったお金で世の中に良くしているようだけどそれはただのエゴよ。善意の押し付けでしかない。
私は協力しない」
「残念だな。いさなが協力してくれればもっとうまく世界を良くできるのに。
でも、これでも断るかな?」
清正は懐から銃を取り出した
「もはや脅しね。娘に銃口を向ける父親がこの世界にいるなんて思わなかった」
「さあ、どうする?」
「私は触れたもののベクトルの方向を変える能力を持ってる。撃っても返り討ちになるからやめたほうがいい」
「そうか。でも、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだって学んだから、その覚悟はできているつもりだよ。
時間稼ぎのつもりか知らないが早く決めてくれ」
清正に協力なんてしたくないが、ここで断って撃たれた場合、私もいさなもどうなるかわからない。一旦協力する素振りをして安全を確保しよう。
◆◆◆
ここで清正が撃つ。
「いいよ、協力す―」
言いつつ私は清正の銃口が移動するのに合わせて私も移動した
パンッ。
銃の発砲音が響いた。
銃弾が私の体を貫いた。感じたことがない激痛が体に走る。叫びを上げたくなる痛みにも関わらず、流れ出る血とともに私の生命活動は一気に停止に向かっていた。
「クリス!」
やっぱり銃口の先には七森さんがいた。七森さんは私を抱き上げて呼びかける。
「あ、あなたが、生、きてい、てよかった。ようやく、助ける、こと、ができた。げほっ」
口からも血が出てきた。血が止まらない。
銃で撃たれたらこんなに痛いって初めて知った。七森さんにこの痛みを何度も経験させてしまっていたのは謝っても謝り切れない。
「ちっ」
清正は舌打ちをしてどこかに電話を掛けている。
「おいっ」
七森さんが清正に向かって吠える。私は七森さんの袖を掴んで首を振る。
清正はほっといていい。多分私を殺した罪を七森さんに擦り付ける手配をしている。あいつは警察ともグルになっているからそれができてしまう。
それに、あいつは私の能力目当てだから七森さんが狙われることはないから、七森さんにはこのまま何もしないでいてくれたほうが安全だ。
清正はそのままどこかに走り去った。
「お願いがあります」
最後の力を振り絞る。ここで私の生命が途切れたら、ここまでやったことが台無しになる。
「私の、写真を撮って。おばあちゃんに渡して。絶対に肌身離さず持つように伝えて」
成功するかどうかわからない賭けだ。それに七森さんには負担が大きい。血みどろの死体の写真を撮らなきゃいけないからだ。
首に掛けたインスタントカメラを渡そうと手を動かす。
「そんなことよりも救急車だ!」
「私は大丈夫だから、お願い写真を撮って。私には時間がない。
あなたはプロなんだから、仕事をして」
七森さんの表情は感情が混ざりすぎていてどんな顔をしているかわからない。そりゃそうだ。死にかけの人間が写真を撮れって言ってるんだから。
「なんでだよ! そんなことできるわけないだろ! 諦めるな! まだ助かる!
七森叡人が命じる、死ぬな、クリス!」
私にそれを言うのは反則だよ。絶対遵守しなきゃいけないじゃん。
「分かりました。何度生まれ変わってもきっと七森さんにまた会いに行く。これって運命ですよね」
「死ぬな、クリス、死ぬな、死ぬな!」
こんな時でも私の意図を汲んでくれる。それならきっと。
「綾辻クリス、いえ、龍守豊姫が命じる。写真を撮って」
七森さんは大きく息を吸ってから唇を噛みしめ、私の首にかかったインスタントカメラで写真を撮った。
「命令は聞いたぞ! だから僕の命令も聞けよな!」
それだけ言って七森さんは走った。
七森さんが写真を届け終わるまで私の意識、持つかな?
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