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5 Re:ゼロから始める転校生活

「転校してきて色々不安だと思うけど、みんな優しいから大丈夫だぞ。もし困ったことがあってもあたしが何でも相談に乗ってやる。そんな構えないでリラックスリラックス」


 担任の先生は僕の肩を掴み軽くほぐす。


「それじゃ、あたしが声を掛けたら入ってきて」


「はい」


 担任の先生のフランクな接し方とは対照的に僕の返事はひどく不愛想なものになってしまった。


「みんなおはよー!」


「「おはようございまーす!」」


 先生が挨拶すると生徒もまだらにだが、元気に挨拶を返す。このやり取りだけでも先生は生徒に好かれている、という印象を抱いた。


 20代半ばくらいで生徒と歳も近く、あのフランクな雰囲気は学生からすると接しやすいのだろう。


「今日は皆さんに報告があります」


「結婚ですかー?」


「ついに(さき)ちゃん先生にも春が来たかー」


「相手は誰ですか?」


一気に喧騒が広がる。


「自分で言ってて悲しくなるけど違います。

 今日は転校生が来てます。入ってきていいよー」


 直接見なくてもわかる。今、扉に視線が集中している。


 僕は手汗を拭い、深呼吸してから扉に手をかける。


 教室に入るとみんなの視線が僕の一挙手一投足に注がれる。


 緊張で頭がおかしくなりそうだ。それでも僕は自分が考えた完璧な自己紹介は忘れていない。再度頭の中で確認する。出身、名前、転校してきた理由、趣味、特技、閉め締めの挨拶。


 よし、行ける。


 自信がわいてきて緊張がほぐれ、一瞬別のことを考えた。昨日会ったクリスのことを思い出した。



「東京都出身。七森叡人(ななもりえいと)。ただの人間に興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら僕のところに来なさい。以上」



 僕はこの日を一生忘れないだろう。


◆◆◆


 ザ・ワールドでもしたかのように時が止まったが、先生がなんとか空気を和ませて朝のホームルームを再開した。


 キーンコーンカーンコン


 どうやらホームルームは終わりのようだ。何も覚えていない。


「みんな、七森と仲良くしてやれー」


  そう言い残して先生は教室から出た。


◆◆◆


 死にたい。()()紹介が終わって僕は自分の席で青ざめていた。絶対に変な人だと思われて、誰も声をかけてくれないだろう。かといって自分から声をかけても怖がらるだけかもしれない。


 「わっ」


 頭の中でネガティブな考え事をずしている途中、前に人が立っていて声をかけられた。


「よう、俺は水島慎吾(みずしましんご)。よろしく」


 スポーツドリンクのCMに出てきそうな爽やかイケメンに挨拶され、握手を求められる。


 僕も手を差し出して握手を返す。


「こちらこそよろしく」


「叡人の自己紹介、面白かったな。あれは自分で考えたのか?」


 いきなり下の名前で呼ぶとか陽キャかよ。いや、陽キャだな。初対面の人間に自分から挨拶できるコミュ力。180センチはある身長、引き締まった体に黒い短髪は明らかにスポーツマンであろう。


 僕の完全に失敗した自己紹介を悪気なく掘り返すところも陽キャだ。


「いやいや、まさか。急に頭の中に浮かんできただけだよ。恥ずかしいからもう忘れてくれ」


 水島が声をかけてきたことを皮切りに他のクラスメイトも集まってきた。たぶん、こいつがクラスのリーダー的なポジションにいるのだろう。


「だとしたら天才だよ。あの言葉を一瞬で思いつくなんて。あ、僕は相沢俊介(あいざわしゅんすけ)。よろしくね」


「あはは、そうなのかな。よろしくね」


 苦笑いで答えていると、少し離れたところから視線を感じた。目を向けると、パッとしない眼鏡男子3人が僕を見て親指を立てている。きっとあいつらには伝わっている。そして彼らなりに賞賛を送っているのだろう。恥ずかしいからやめてほしい。


 軽く会釈すると向こうも自分たちの会話に戻った。


「七森くんはなんで6月なんて中途半端な時期に転校してきたの?」


 相沢が当然に思うことを聞いてきた。正直、あまり話したいことではないけど、理由は用意してきたから問題ない。


「親が海が近くにある町で暮らしてみたいって言ったから引っ越してきたんだ」


 あまり触れてほしくない話題だから言い方がぎこちなかったかもしれない。


「海はきれいだけど、大変なことも多いから気をつけたほうがいいぞ。

 叡人はい今どの辺住んでるの?」


 水島が話題を逸らしてくれて助かった。


天海(あまみ)駅の近くに住んでる」


「あそこか。スーパーとか近くて便利だよな。でもどうせ引っ越すなら隣の富宇賀町(とみうがちょう)のほうがよかったかもな。」


「そうなの? 富宇賀町(とみうがちょう)って何があるの?」


「あそこって5年くらい前から発展してきて、色々商業施設が増えてるんだよね。富宇賀町(とみうがちょう)の若手実業家?みたいなのが議員と協力してたらしい。まあ、黒い噂も少なからずあるけど、便利になって地元民からは歓迎されてるみたい」


 隣り合っている町でもかなり差があるのか。


「黒い噂って何?」


 富宇賀町(とみうがちょう)の話をしていると、他の女子が会話に入ってきた。


「インサイダー取引とか賄賂とかカルト宗教とか、かな」


「ほう? もう一回言ってみ?」


 怒気をはらんだ声でその女子は尋ねた。


「だから、って……茜かよ!」


 水島が話している人物の方向を振り向いて、ぎょっとした。


「色々清正(きよまさ)様の悪口を言ってたみたいね」


「ごめんって。転校生にここら辺のことを教えてただけだよ」


「根も葉もない噂を刷り込む必要ってある?」


「わかったわかった。俺が悪かった。

 叡人(えいと)、こいつは雨宮茜(あまみやあかね)富宇賀町(とみうがちょう)出身で龍守清正(たつもりきよまさ)っていう、さっき言った実業家のファンだ」


「慎吾、あたしはファンとかじゃなくて富宇賀(とみうが)を発展させてくれた清正様に感謝しているだけだから。

 叡人くん、よろしく。私がこのクラスの学級委員長だから。困ったも聞いてね」


 赤みがかったショートの黒髪で細い切れ長で少しクールな印象を与えるが、前髪をとめている星形のヘアピンは幼さを感じる。一見するとアンバランスだが、彼女の魅力を引き立てている。


「ありがとう、よろしく」


「転校生が来て色々話を聞きたいと思うのはわかるが席に着けー」


 1限目の授業を担当する教師が来た。


「じゃあ、また後でね」


 それぞれが自分の席に戻り、授業を受ける。


読んでいただきありがとうございます!


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