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45 エンドレスエイトⅠ 後編

「ノブレスオブリージュ? それって身分の高い人とか優れた人はそれに相応しい義務を果たさなければならないってやつ?」


「そう、博識だね。さすがは俺の娘だ」


 本当にそう思っていることはないだろう。清正は龍守の能力を利用するために近づいた。私と結婚したのも子どもを作ってその子供に能力が現れるのを期待してのことだ。


 バカな私が騙されたばっかりにいさなの身に危険が生じている。私がなんとかしなければならない。


「で、ノブレスオブリージュと宗教って何の関係があるの?」


「俺は才能に溢れていてそれを活かして、会社を設立してお金ももうけている。これは俺の才能で成し遂げられたものだが、才能は誰が与えてくれた?

 神様だよ。才能は神様からの贈り物だよ」


 高らかに言った清正に私は辟易している。神社で生まれ育った私が言うのは違う気がするけど、才能が神様からの贈り物だなんて本気で思っている人間を初めて見たし、滑稽だ。神様なんて不確定なものにそこまで恩義を感じれる清正は頭がおかしい。


「才能を最大限に活かすにはやっぱり金が必要。俺1人で稼ぐより多くの人間から集めたほうが効率的。集めたお金は町の発展や人々のために使う。どうせみんなお金なんてロクなことに使わない。そのお金をほんの少しもらって俺の才能で世界に貢献している。まさにノブレスオブリージュだ」


 自分の言いたいことを言いきった清正は晴れやかな表情をしていた。


 目線で私に自分の考えに同意するように訴えてくる。同意する気なんてさらさらない。


「そういうことがしたいなら政治家にでもなればいいんじゃない?」


「もっともな意見だが、あんなしがらみだらけの世界は面倒くさい。内部の人間として動くより外部の人間として利用するほうが扱いやすい」


 清正がそう言った瞬間、突然、近くから破裂音が響いた。


 何の音だと周囲を見渡すと木々の隙間から花火が見えた。


 花火大会が始まったようだ。


「お祭りもクライマックスに入ったね。俺たちの話もそろそろ終わりにしよう。いさなは俺に協力してくれるよな?」


「人から騙し取ったお金で世の中に良くしているようだけどそれはただのエゴよ。善意の押し付けでしかない。

 私は協力しない」


「残念だな。いさなが協力してくれればもっとうまく世界を良くできるのに。

 でも、これでも断るかな?」


 清正は(ふところ)から銃を取り出した


「もはや脅しね。娘に銃口を向ける父親がこの世界にいるなんて思わなかった」


「さあ、どうする?」


「私は触れたもののベクトルの方向を変える能力を持ってる。撃っても返り討ちになるからやめたほうがいい」


「そうか。でも、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだって学んだから、その覚悟はできているつもりだよ。

 時間稼ぎのつもりか知らないが早く決めてくれ」


 清正に協力なんてしたくないが、ここで断って撃たれた場合、私もいさなもどうなるかわからない。一旦協力する素振りをして安全を確保しよう。


「いいよ、協力す―」


 パンッ。銃の発砲音が響いた。


 全身に鳥肌が立った。慌てて体のあちこちを触るがどこにも異常がない。


 脅しの射撃か。安心したのも束の間。


「威嚇射撃じゃないからね。後ろを見てみな」


 清正の言葉に従い、後ろを振り返った。


 草むらから血が流れているのが見えた。


 駆け寄って姿を見ると、右足を撃ち抜かれた七森さんがいた。


「きゃああああああああああああああああ!」


 赤黒い血がとめどなく流れているのを見て肺の酸素を使い切る悲鳴を上げた。


 一瞬で息がつまり、過呼吸になりながら七森さんに声をかける。


「だ、だ、だ、だい、じょ、うぶ、ですか。ど、うして、ここ、に」


 七森さんは痛みをこらえながら、笑みをつくった。絞り出したような声で話し始める。


「戻ってこなくて心配だった」


 そんなの彩音さんと2人きりになれてラッキーくらいに思っておけばいいのに。


「すぐに救急車呼びますからじっとしててください」


「状況はわかったか? 撃ったのは足だから死にはしないよ」


「協力する! 何でもする! だからもうやめて!」


 私は地面に額をこすりつけてお願いした。状況がこれ以上酷くならないように早くこの場を納めなければいけない。


 清正が歩いて頭を下げる私の近くまできた。足を上げて私の頭の上に置いた。


「最初からそうしていればよかったんだよ。さっきは適当に協力する振りでもしようとか考えてたでしょ?」


 何も言えなない。悲しみと屈辱に耐えるので精いっぱいだ。


「2度と下手な嘘なんてつけないようにもう1発そいつに撃ってやる」


「やめ―」


 頭を上げようとし押さえつけるように清正の足に力が入った。


「すまない。急に動いたからつい踏みつけてしまった。まあ、友達が苦しむ様子くらいみせてやるよ」


 清正は左手で私の首を掴み、起き上がらせもう1度地面に叩きつけて顔だけ上げさせた。


「そこで見てろ。ギリギリ死なない程度に1発撃ってやる」


「やめてーーーーー!!」


 私の制止の叫びを無視して発砲音が2回響いた。


「間違えて2発撃っちゃった。もう死んだな」


「いやあああああああああ!」


「これ以上、犠牲を出したくなければ協力しろ。警察に通報しても根回しはできているから意味はない」


「……」


「涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった汚いブス顔を直してから神社に戻れよ」


 清正はそれだけ言ってこの場を離れた。


「七森さん! 七森さん! 七森さん!」


 何度も呼びかけるが返事は返ってこない。おびただしい量の血だけが周囲にたまっている。


 そして私の意識は飛んだ。

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『この作品を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体高評価・いいね・ブックマーク用ヒューマノイド・インターフェース。それが作者』

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