44 龍守清正の独白
俺の実家は大きくはないが神社だった。生まれた時から神だの仏だの色々言われて育ってきた。真面目な俺は両親の言いつけを守り、信心深くなった。
幼いころから優秀だった。勉強もできた、スポーツもできた、顔もいい、背も高い、歌も上手い、絵も上手い、何でもできた。友達もいっぱいいたし、女の子にもモテた。自分がここまで恵まれているのは神のおかげだと信じていた。
小学校6年生の時、みんなに自分の家の神社を紹介した。今の自分があるのはこの神社のおかげだと話した。
私立中学の受験をする友達、好きな人に告白しようとする友達、大事な大会や発表会に挑戦する人がお参りに来て、お守りも買った。
結果は全員上手くいかなかった。第一志望に落ち、好きな人には振られ、大会では負け、発表会では失敗した。
その原因をすべて俺になすりつけられ、お守りは目の前で燃やされた。
卒業までの短い期間だが、嘘つき呼ばわりされ、俺は暴言や暴力にさらされる毎日だった。
教室に居場所がなかった俺は毎日図書館に通っていた。そしてある日目にしたタイトルが俺の脳裏に焼き付いた。
『神は死んだ』
ニーチェが書いた本だ。信心深く生きていた俺には信じがたい言葉だったが意識はその本に向いた。
神への信仰は捨てなかったが俺はこの作者の本がきっかけで立ち直ることができた。この作者の考えと自分の信仰心、相反するところもあるが合わせてこの世界を解釈した。
世界は弱者を正当化する文化で溢れている。反対に金持ちやイケメンなど強者とか勝ち組と言われる人物には風当りが強かったりする。例えば、「欲はないほうがいい」と言われたり、金を稼ぐことに必死な人を見て「がめつい」と言ったり、芸能人や政治家のスキャンダルを面白がったりする風潮がまさにそうだ。
俺に暴言や暴力をふるったあいつらは、弱者である自分たちを正当化しようと、失敗の理由を強者である俺に仕立て上げた。
強者になるためには努力するしかない。そして努力できた人間にだけ神の寵愛が与えられる。努力ができない人間のあいつらは弱者のままで、神に見捨てられ、俺のような強者を批判することしかできない哀れな存在だ。
そう考えると少し楽になった。強者と弱者で生き方が違うのだからそこから軋轢が生じてしまうのは仕方がないこと。異文化交流をしているようなものだと考えるようになった。
小学校を卒業してから俺は地元の中学には進学せず、都会の中高一貫の私立に入学した。ここには頭のいい人が集まり、その中には金持ちの家庭も多くいる強者の集まりに違いない。であれば、俺の考えも理解するはず。
俺は仲良くなった連中に自分の考えを話した。そして笑われた。
「世界の在り方なんて考えたって何になるんだ?」「神なんて本気で信じてるの?」「清正の家って神社だったんだ。意外」「清正も冗談言うんだん。面白かったよ」
冗談を言っていると思われ、俺も腹の底では怒りで煮えたぎっていたが、笑顔を浮かべて冗談だということにした。
ここにいるような生徒は努力をしたうえで入学し、無意識のうちに神の恩恵を受けているから説明すれば納得すると思ったがそうではなかった。
結局自分の神への信仰や世界についての考えを理解されないまま一生が終わってしまうのではないかと思っていた。
ある時、現代文の授業で「ノブレスオブリージュ」という言葉を知った。フランス語で「高貴なる者に伴う義務」という意味。要するに恵まれた人はそうでない人を助ける義務があるということだ。自分のためにある言葉だと思った。
世界は弱者を正当化する文化で溢れており、弱者は強者を僻んでいる。これが今の世界の在り方なんだということで俺は思考が終わっていた。そうではなく、この世界は間違っているから変えていかなければならない。神の寵愛を受けた強者がそれを弱者に分配して、強者に生まれ変われるように手を差しださなけらばならない。
この世界を変えれるのは神ではなく、神の寵愛を受けた人間だ。
そこからの行動は早かった。学校で俺は弱者に属する生徒を見返りなしで助け続けた。俺は何でもできる天才だから勉強、部活、恋愛、家族など生徒の全ての悩みを解決した。
積み上げた実績から俺の考えに賛同する生徒や受けた恩を返したいという生徒が集まり組織になった。自分の考えが理解されたことや尊敬の眼差しを受けることに自分のやってきたことが肯定され、報われた気持ちになった。
組織は形式としては部活で申請し、名前は自分の考えを広めたきっかけとなった言葉である「ノブレスオブリージュ」にした。中学でこの活動を始めて高校まで続けた。
大学に入ってからはもっと多くの弱者を救わなければならないと思い、会社を設立して規模を大きくした。会社名は株式会社ノブレスオブリージュ。
高校までは活動すべてが順風満帆に行われていたが、会社の経営となると上手くいかなくなった。俺が学生時代にやっていたことは慈善事業であり困ったことがあれば助ける何でも屋みたいなもので、お金にならない。それに知名度もないから利用する人も少ない。経営を維持できたのは俺が投資で稼いだ収入でなんとか補填していたからだ。
会社をなくすか考えていた時に社員になぜまだこの会社に残っているのか聞いた。社員は学生時代から付き合いのある人間がほとんどだ。
答えは「俺がいるから」というものだった。会社の活動内容自体も残り続ける理由だが、1番は俺と何か活動がしたいというものだった。どうやら俺は相当心酔されているみたいだ。昔から自分にはカリスマ性と呼ばれるものがあると思っていたがここまでとは思っていなかった。
この自分のカリスマ性がきっかけとなって収益が上がった。自分の才能は神から与えられたものでこれを見せれば人は興味を持ってくれるのではないかと考えた。
困っていそうな人に声をかけ、その人の悩みを聞き解決する。今まで通りの活動に加えて、解決することができたのは神のおかげだというようなもっともらしいことを言って、神の寵愛を受けられると謳った商品を売った。時には不安を煽って商品を売りつけるようなこともした。
多くの資金と信者を得ることができた俺は富宇賀町に目をつけた。富宇賀町は龍守神社のある神仕町の隣にある小さな町だ。神社の家に生まれた俺は噂を聞いたことがある。神仕町の龍守神社は不思議な能力を使える人間が生まれる噂だ。実際に昔はその力で多くの災害を乗り切っていたとか。ことの真偽はわからないが、真実であれば龍守も乗っ取り能力を独占したい。
調べればあそこには俺よりも少し年下の跡継ぎの1人娘がいることがわかった。名前は龍守豊姫。そいつに取り入って情報を収集し、能力というものがあれば婿養子にでもなり龍守家を支配しよう。
神社の生まれの人間の端くれとして一応神主の資格を持っていた俺は親に頼み龍守神社への奉職の紹介をお願いした。1度は断られたが、2度目は直接神社まで赴き、直訴したところ、バイトとしてなら雇ってくれるということで、働くことを許された。
働き始めて数日で龍守豊姫と接触することはできた。というか境内を掃除しているときに向こうから声をかけてきた。
「お兄さん、見ない人だけど最近働き始めたんですか?」
元々人と話すことが得意なのか、年上の男に物怖じせずに明るく挨拶してきた。
ハリのある高いを声はその人の快活な性格にぴったりだ。
「見ない人」と言われて、彼女もここに普段からいる人なのだと思った。
「はい、今週から働き始めました。あなたもここで働いているんですか?」
そう聞くと彼女は闇に溶ける濡れ羽色の艶やかなボブの黒髪を揺らして大きく首を振った。
「ないない。こんな辛気臭いところで働きたくないですよ。面倒事もいっぱいありますし。あ、ごめんなさい。最近ここに来た人に言うことじゃないですね」
八重歯を覗かせて茶目っ気たっぷりに笑ってそう言った。
「私はこの神社の娘なんですよ。自己紹介しますね」
彼女は居住まいをただし何度か咳払いをした。
「水翠高校出身。龍守豊姫。ただの人間に興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上」
「……」
特殊な自己紹介すぎて何が何だかわからない。これに俺はどう答えたらいいんだ?
だが、自己紹介したのは目鼻立ちがくっきりした美人であり、そして俺が探していた人物だ。
やはり俺は神の寵愛を受けている。こんなに早く目的の人物に会えるとは。
「お兄さん、知らないんですねー」
龍守さんにため息をつかれ、がっかりされている。
「何をですか?」
「ハルヒです、涼宮ハルヒの憂鬱」
「それって何ですか?」
龍守さんは諦め混じりに答えた。
「オタク界隈で盛り上がっても世間の認知度ってそんなものですよね。
涼宮ハルヒの憂鬱っていうライトノベルが原作のアニメがあるんですよ」
「へ、へー。ちなみにライトノベルって何ですか?」
文武に秀でた俺の知らない言葉が次々に出てくる。この少女は何者なんだ。
「そこからなんですね。ライトノベルっていうのは……あー、何でしょうね?」
「いや、俺が聞いてるんですけど」
「説明が難しいんですよ。ざっくり言うと、漫画の内容を小説にした感じですね」
「なるほど……」
わかったようなわからないような。
「実物持ってきますので待っててください!」
制服のスカートを翻し、ダッシュで神社に向かっていった。
しばらく待っていると足音が聞こえてきて振り返るとダッシュで俺のほうに戻ってきていた。女の子にしては足が速い、というかスカートでダッシュしたら見えちゃうから気をつけたほうがいい。
「足、速いですね」
「縮地使いましたから」
また知らない言葉が出てきたがもうスルーする。なんかに出てくる技名とかだ。
「スカートで全力疾走したら危ないんじゃない?」
「大丈夫ですよ」
おもむろにスカートをまくりあげた。
「ちょっ、あー」
驚いたが、下には白の短パンを履いていた。これなら中身を見られる心配はない。
「御坂美琴リスペクトです。それとこれがラノベです」
持ってきてくれた数冊の本にはそれぞれ女の子のキャラクターが表紙になっていた。タイトルは『涼宮ハルヒの憂鬱』『とらドラ!』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』だった。
「さっき言ってたハルヒっていうのがこれなんですね。この女の子が主人公なんですね」
表紙に描かれているし、タイトルにも出てきているからそう推測した。
「違いますよ。主人公はこのキョンって男の子です」
龍守さんは見開きのカラーイラストページでキャラクターを指さした。
「不思議ですね。キョンっていうのがこのキャラクターの名前なんですか?」
「名前というか愛称です。本名は明かされてないです」
主人公なのに名前が明かされないってあるんだ。
「ますます不思議です」
それぞれのラノベにパラパラと目を通した。女の子のイラストが多く、少しエッチなものも含まれている。
「これって男向けの作品なんじゃないですか?」
「ですね。でもいいじゃないですか。『ワンピース』や『ドラゴンボール』が好きな女の子だっていますし、『カードキャプターさくら』や『フルーツバスケット』が好きな男の子だっていますから」
「面白いと思うものに性別は関係ないってことですね」
俺はあまりアニメや漫画に興味を持ったことはないが、龍守さんはこれが好きだから、知ればもしかしたら仲良くなって龍守家との繋がりを作れるかもしれない。
龍守さんが思い出したように質問をした。
「そういえば、お兄さんの名前をまだ聞いてなかったです」
俺も言われて今気づいた。彼女の趣味の話に飲み込まれて忘れていた。
「俺は武藤清正です。今週からアルバイトで雇われました。よろしくお願いします」
「アルバイトだったんですね。わざわざここを選ぶ必要あったんですか?」
「実家が神社なのでそのまま神職目指そうかなって感じです」
本当の目的なんて言えるわけがないから適当に誤魔化す。
「ということは学生ですか?」
「はい。大学4年生です」
「あー、ということは卒業後このままうちの神社で正式に働くってことですね!」
「いや、まだそこまでは決まっていなくて。実は1度採用を断られて、それで直訴しに行ったらとりあえずアルバイトとしてなら雇うということで今に至ります」
憐れむような視線を向けられた。
「うちは部外者に厳しいですからね」
この流れは龍守家の隠された能力の噂の真偽を確かめるチャンスだ。
「なんで厳しいんですか?」
龍守さんは思案して黙っている。
この沈黙は何かあるに違いない。今の段階で教えてくれるとは思えないが、何かあるということがわかっただけでも収穫だ。
「……うーん、伝統とか血筋にうるさいんですよ」
「じゃあここで働くには血縁者じゃないと無理ってことですか?」
「そんなことはないですよ。龍守家の人が認めてくれたり、信頼の置ける人からの紹介をうけたりして龍守家と血縁がない人もここにいますから」
龍守家もしくは龍守家が信頼している人に認めてもらってここで正式に働けるのか。それなら問題はない。バイトの仕事を完璧にこなし、この家の権力者に会えればあとは俺の資質で気に入ってもらうことはできる。
「とりあえず、バイト頑張って気に入ってもらえるようにするしかないかー。駄目なら駄目で後で考えます」
俺に不可能はないが。
「どうして龍守神社にこだわるんですか?」
なんか面接みたいになってきた。発言力があるかどうかはわからないが、この家の1人娘と言っていたし好印象が残せるなら残したほうがいい。
「室町時代から歴史があって、国の海運や貿易を支えてきたっていうのがすごいですよね。神社1つがそこまで影響力があるっていうのが初めて知ったときは驚きました。しかも天候や波の動きを予知して災害を回避したっていう伝説があるのも面白いです。
毎年の龍守祭も全国から観光客が集まる盛況ぶりで、あれを取り仕切るのってやりがいがあって楽しそうだと思ったからですね」
言い終えると、龍守さんは少し黙ってそして笑い出した。
「ちょっと龍守さん、どうして笑うんですか?」
「ご、ごめんなさい。なんか面接みたいだなーって思っちゃって」
笑いすぎてたまった目尻の涙を拭いながら答えた。
「俺もおんなじこと思いました」
つられて俺も笑った。
「私のことは豊姫でいいよ。年下だから敬語はいりません。この神社って年配の人が多くて年が近い人が来てくれて嬉しいです」
「うん、俺も清正でいいよ。それと敬語もいらない」
「わかった、清正」
「あ、そうだ豊姫がさっき持ってきたラノベ貸してもらえない? ちょっと気になったんだよね」
豊姫の目が1番星のように煌めいた。
「ホントに! さっき持ってきたやつだけじゃなくて他にも色々おすすめあるから教えてあげるよ! あとアニメも見てほしいな! 録画してあるDVDがあるからそれ貸すよ!」
今日1番の太陽よりも眩しい笑顔でテンション高く言われるがままに勧められた。思った以上に好感触で驚いた。
これをきっかけに距離を縮めていつか龍守家の秘密を話してもらおう。
「そんなにたくさんは見れないからとりあえずこの3冊を読んでみるよ」
「その3冊は間違いなく面白いから読んで! 歴史に名を刻む神作品だから!」
肩をがっちりつかまれて鼻息荒く力説する姿は何が何でも読めという圧を感じる。
「う、うん」
「読み終わったら感想聞かせてねー」
最後にそう言い残して彼女は神社の裏口へ入った。
◆◆◆
豊姫に最初に会った日以来、勧められる作品を勧められるがままに見て、その感想を話すという日々が続いた。
勧められた作品について個人的には興味を引く作品は少なかった。特にラノベは主人公の冴えない男が特別何かしているわけでもないのに女の子と仲良くなってモテるというストーリーが多く気に入らなかった。まさに弱者を正当化する文化だと感じた。オタクという生き物はこういう作品を読んで弱者である自分を慰め、自分を変えようとする努力をしないのだろう。
否定的な感想を言ってはそれを好きな豊姫の印象を悪くしてしまうから感想はネットで拾い集め、人気のシーンも頭に入れた。そのおかげで豊姫との会話はかなり盛り上がった。
仲も深まって2人で出かけることも時々あった。デートを重ねるうちに豊姫が俺に好意を抱いていることも確信した。
そしてある日のデートの帰り道で告白された。
俺にとって女の子に恋愛感情を持たせることは難しいことではないが、それにしてもちょろかった。あとは話を聞き出すだけ。
「ありがとう。俺も豊姫のことが好き」
返事をした瞬間、大粒の涙を浮かべて笑顔になった。そして俺の腰に両手を回し、頭を腹にこすりつけてきた。
「私のほうが清正のこと好き」
顔を上げてそう言った豊姫の髪を優しく撫でた。
嬉しそうに目を細めた彼女はやがて目を閉じ唇を突き出した。
俺は周囲に人がいないことを確認して、差し出された桃色の唇に俺の唇を優しく重ね合わせた。
「もう1回」
「手乗りタイガーだね」
微笑む彼女の言われた通りにまた唇を重ねた。
優しく濃厚な口づけを交わしてから公園に移動した。
「改めて今日からよろしく、豊姫」
「こちらこそよろしく、清正。あー、清正の彼女になれるなんて幸せすぎて死にそう」
甘くとろけた声を出しながら俺の肩に頭を乗せる。
ここからが本番だ。付き合いたてで理性がうまく働かない今が龍守家について聞き出すチャンスだ。
「豊姫、今日から付き合う上で2人のルールを決めたい」
「そうだね。これからラブラブな関係を続けていくには大事だね」
「俺から提案したいのはお互いに隠し事をしないこと、それだけ」
「うん、いいよ」
豊姫はにっこり頷いた。計画通り。
「早速聞くけど、龍守家には何か不思議な力があるって本当?」
「うーん……」
言い淀むか。やっぱりそれだけ重大な何かがあるってことだ。ここはもう一押し。
豊姫の肩を両手でつかんで、目を見て言った。
「頼む、教えてくれ。豊姫にしか聞けないんだ。俺には豊姫しかいない、豊姫だけが頼りなんだ!」
我ながら臭いセリフを吐いていると思いながらもこういう単純な言葉は案外効果がある。
豊姫の顔はみるみる紅潮していき、視線を外された。
「わ、わかった。言うから手、離して。こんなこと話すの清正だけなんだからね」
「ありがとう、愛してる」
この女、ちょれーーーーーーーー。
ちょっとキザなセリフ言っただけで俺の頼みを聞いてくれるなんて最高すぎる。
にやけるのを我慢するのが大変だよ。
「えっと、龍守家の能力っていうのは血筋を受け継ぐ人が持っていて、全部が未来予知系の能力なんだよね。単純に未来のことを知るの能力を持つ人が多いけど、他にも起こりうる複数の未来の内1つを選べる能力、ある未来を消す能力、自分が未来にいける能力とかイレギュラーな能力もある」
そんな絶大な特殊能力がこの家の人間は持っているというのか。ならなぜそれを漁業の発展にしか使わないんだ? もっと金儲けに使えばいいのに。
「能力って豊姫にもあるのか?」
「……私にはないよ。オタクとしては自分に特殊能力とかあったら燃えるのにね。 持ってる人もいれば持っていない人もいるんだ」
「今の龍守家に持っている人はいるの?」
「いないと思う。時代が進むにつれて能力を持つ人って減ってる。もしかしたら科学の進歩で神への信仰が薄くなったから神様も恩恵を与えなくなったのかもね」
誰も未来予知の能力を使えないのか。それならこの神社にいる意味はないな。
いや、ないなら作ればいい。豊姫と子どもを作ればそいつがのう能力者になる可能性もあるんだから。
「今は誰もいないけど、能力が発現するタイミングって人それぞれで、幼いころから能力がある人もいれば大人になってから能力者になる人もいるんだよ。それに能力を打ち消す能力もあるとかないとか」
「じゃあ将来、豊姫が能力を持つかもしれないってことかー」
「うん。今は無能力だけどいつか超能力になってやる!」
「ここは学園都市かよ」
豊姫のアニメネタにもついていけるようになった。本当にいらない知識だが。
「清正の知りたかったことってこれなの?」
「うん。特殊能力ってちょっと憧れてたからね。
あと、なんで未来予知の能力があるのにそれをもっとお金のために使わなかったんだ?」
「詳しいことは誰も知らないんだけど、漁業の神様を祀っているのにそれ以外のことに使うと天国に行けないとかの記録があって怖くて誰も悪用してないみたい」
「よくわからない力を使うのって便利でも怖いし裏がありそうだもんね。
今日はもう夜遅いし帰ろうか。送るよ」
「ありがとう。今日は生まれてきて1番嬉しい日だよ」
聞きたいことは聞けた。これで用済みにしてもいいが、豊姫と子どもを作って能力者を生み出すという使い道もあるし、結婚すればより龍守家の内部に入れる。まだまだ利用価値はありそうだ。
◆◆◆
それからしばらくして俺は自分の神社への貢献と真摯な姿勢が認められ正式に龍守神社で働くことになった。
その時に豊姫との交際を打ち明けた。俺のこれまでの働きぶりを評価してくれていることから多くの人から寵愛を受けた。ただ、豊姫の母、沢女さんだけは表面上は豊姫に彼氏ができていることを喜んでいるが、実際は俺を懐疑的に見ているように思えた。
神社での仕事も豊姫との交際もつつがなく進行していることから、豊姫の父さんから結婚の話が出た。相手の両親から話が出るのであれば許可を取る手間が省けて好都合だと思い、了承。そして豊姫にプロポーズした。泣きながら豊姫に喜ばれた。
2013年に結婚しその次の年には娘のいさなが生まれた。
会社のほうも順調で信者も増えている。色々なコネも作ることができ富宇賀町の開発にも着手し始めた。発展途上の町を開発し、地元民の信頼を得て、信者を増やしつつも自分の活動の拠点にすることにした。ショッピングモールやマンションを設立し、多くの人が住みやいと思う環境を整えた。マンションには信者を住まわせ布教するように指示をした。
いさなに能力が発現すれば綻び1つなく俺の目的を達成することができる。
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『面白いって言ってくれる人が1人でもいたらきっと、大丈夫なんだよね。たとえそれが、高評価じゃなくたって』