42 異能バトルはお祭りの中で
「あれやりたいです!」
クリスが指さしたのはくじ引きボックスだった。
大きな箱に四角い穴が規則的にいくつも並び、その穴は紙で塞がれて穴の中に何が入っているのかはわからない。ハンマーや手で紙を突き破って中から何が出てくるかを楽しむものだ。
「縁日でしか見れないものだよね~。小さいころよくやったよ~」
「僕もやりました。あんまりいい景品が当たった記憶がありませんが」
「ああいうのは景品が出てくる前のドキドキを楽しむの醍醐味みたいなところがあるからね~」
先輩と子どものころを懐かしむ話をしているうちにクリスはすでに列に並んでいた。
「2人とも早くこっち来てくださーい!」
大きな声で呼ぶクリスのほうに早足で向かう。
「七森さん、勝負しましょう」
「何の?」
「このボックスには1等から6等までの景品が入ってます。どちらが高いものを手に入れられるか勝負です。
負けたほうが綿あめおごりです」
「いいだろう、受けて立つ」
丁度自分たちの出番が回ってきた。箱は2つあり僕が右、クリスが左を選んだ。
最初に動いたのは僕だ。正直、負ける気がしない。
「僕にはくじ引きで神引きをする能力があるのさ。
導く薬指の鎖!」
僕の右手から具現化された鎖も現れチェーンを付けた家の鍵が現れる。
「この能力でどこに大物が入っているかを探り当てることができる」
鎖を箱の上で垂らして反応を見る。大きく揺れれば揺れるほど当たりである。
「まさか、その程度の能力じゃないでしょうね? まだ本気出していませんよね?」
「もちろん。ここから本気を見せてやる」
僕は集中力を高めて高めて高めて高めた。おそらく今、僕の眼は緋色になっている。
「絶対時間!
発動中は景品のランクや中身まで当てることができる」
鎖が大きく揺れるところを探し当てた。
「ここだな。1等のPS5の引換券が入っている。
トールハンマー!」
借りた木の槌で穴を突き破る。
「中身がなんだったのかはクリスと同時に出したほうが面白いから後にしよう。
さあ、1等を当てた僕を超えることはできないだろう」
余裕綽々でクリスに悠然と問いかける。
クリスも不敵な態度で答える。
「私にだって切り札はあります。
ところでPS5ってもう発売されてたんですね」
ズゴーーー。冗談で言ってなさそうな言い方だから、驚きすぎて古臭いずっこけをしてしまった。
「世間知らずすぎないか?」
僕の「こいつマジで知らないのかよ」の視線を受けたクリスはわたわたして訂正する。
「し、知ってますよ~? ちょっとボケてみただけすー。ツッコミ係なんだからちゃんとボケを的確に捌いてくださいよ。
ま、気を取り直して私の番を始めます」
「おい、ガチで知らなかっただろ」
クリスは無視して続けた。
「私の能力は七森さんの絶対時間に負けません。
見せてあげます、ふわふわ時間!」
突然音楽が鳴り始め、クリスが歌い始める。
「あぁカミサマお願い
2人だけのDream Timeください☆
お気に入りのうさちゃん抱いて今夜もオヤスミ♪
ふわふわ時間 ふわふわ時間 ふわふわ時間」
『ふわふわ時間』って言うたびに槌を振り下ろして穴を突き破った。
「ただのズルだろ! 3回にチャンス増やしてるだけじゃん!」
「そういう能力ですからね。さあ、勝負です!」
そのお互いに開けた穴から、品を引っ張り出す。
「「せーの!」」
僕の手には4等と書かれた袋の中に『唐揚げ無料券』が入っていた。
「お兄さん、それ持って唐揚げのお店行けば無料で交換してくれるぜ。お祭りは今日までだから早めに行っときな」
「はい、ありがとうございます」
店主から説明を受けて景品の意味を理解した。嬉しいが4等はあまりいい結果ではない。
「絶対時間で強化された導く薬指の鎖も大したことないですね」
「今回はたまたまうまくいかなかっただけだ。そういうクリスはどうなんだ?」
クリスはどや顔で景品を見せつけた。
「6等のスライムと6等のうまい棒と3等のお菓子の詰め合わせをゲットしました!
3等を当てた私の勝ちです!」
「やっぱりズルしたから勝てただけだろ! チャンスが1回なら6等だった!」
「そんなのは実際に1回だけだったときに言ってくださ~い。潔く負けを認めてくださ~い」
小学生にズルされて本気で悔しがっている自分がバカみたいだ。
「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」
「その言葉が出てくるということはちゃんと負けを認めることができたということです。
ていうかよくそんな言葉を高校生の七森さんが知ってますね」
「僕は昔、嫌なことがあってその時に1日中アニメを見て現実逃避をしている時期があったから。
クリスが知っているほうが変だからな」
「私は幼いころからアニメの英才教育を受けていますから」
アニメの英才教育ってなんだよ。ただオタクが増えるだけの教育としか思えない。そこを問いただそうとしたら大きな鈴の音が鳴った。
チリンチリーン!
「大当たりです! 1等の2泊3日の温泉旅行です!」
1等が存在することにも驚いたが、デスティニードローの正体を確かめるともっと驚いた。
「叡人君、クリスちゃん、私1等当たったよ~。いいでしょう~」
ニコニコ笑顔で自慢している先輩に僕たちは開いた口が塞がらない。
「認めたくないですね、自分自身の若さゆえの過ちというものを」
この後、2人で葉月先輩に綿あめをごちそうした。
◆◆◆
「腹ごしらえも遊びも十分楽しんだということで、花火の特等席に案内しま~す」
「まだ早くないか?」
花火の開始まで40分ほどあるし、クリスが取ってくれた関係者席もそこまで離れていないはず。
「花火の直前になると人が同じところに固まり続けて動きにくくなるんですよ」
「なるほどね。それなら移動するか」
僕たちは様々な屋台に目を奪われながら歩いた。お祭りでしか味わえない食べ物の匂いに惹かれたり、心地よい喧騒に耳を傾けたり、どうでもいいことで3人で笑ったりした。
「関係者席はここですね。ちょっと待っててください。話を通してきます」
クリスは僕たちを置いて、スタッフと思われる人に声を掛けていた。
話し終えたのかこちらに手を振っている。
僕と先輩は顔を見合わせ「一緒に行けばよかったのでは?」と視線で話したけど、クリスの方に向かった。
関係者席には肘かけと背もたれのついた上等な椅子が用意されていた。
立って見るよりも快適で疲れにくく花火を最後まで楽しむ。
「すごいふわふわだね~」
葉月先輩が椅子の座り心地の感想をこぼした。
僕も座ると、確かにお尻全体が包まれるようなフィット感がある。背もたれ肘かけも体への負担が軽減されるように作られているように感じる。
「こんな椅子よくここまで運んできたね」
品質が上等なだけあって重さもそれなりにあるはず。パイプ椅子みたいに持ち運びが簡単じゃないはずだから、かなり労力がかかったはず。
「今日は偉い人がいっぱい視察に来ているらしいです。詳しいことは知らないですけど、神仕町を改革するらしく、そのための視察で協力してもらえるようにいろんな人が頑張ってるようです」
富宇賀町が大きく発展したからその波にあやかるってことか。
「私はこのままの町の方がいいな~。もちろん便利にはなると思うんだけど、ゆったりした海辺のこの町で生まれ育ってきたから愛着あるんだよね~」
先輩は懐かしむような目でお祭りを見渡した。
「僕も今のこの町の雰囲気が好きです」
都会的な便利な町にするのか、それとも今ののどかな田舎町を維持するのか、どうなるにせよ決まるのはもっと先のことだろう。
話がひと段落したところでクリスが席を立った。
「まだ開始まで時間がありますし、私、トイレ行ってきます」
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