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41 龍守さん家の縁結び

 演舞は本殿で行われる。たくさんの人が本殿を囲んでおり、とてもじゃないが後方から演舞を見ることなんてできない。


「この腕章が役に立ちますね」


「だね~。クリスちゃんに感謝」


 今日は水翠高校の写真部として部活動の一環で来ている。堂々と最前列で見させてもらう。


 係の人に腕章を見せて関係者席に腰を下ろす。


 屋台を巡っていたときは人の流れがあって写真が撮れなかったけどここならじっくり腰を据えて撮ることができる。


 演舞は和太鼓から始まった。


 大太鼓のズドンと来る力強い音は直接心臓に響き体ごと震わせる。


 そして鞨鼓や竜笛、琵琶など他の楽器の演奏も始まる。


 クリスの祖母や清正さんも演奏に参加している。


 少しアレンジが加わっているのかわからないが、聞き馴染みがない演奏に最初は違和感というか異物感みたいなものを感じた。が、慣れてくれば今まで聞いたどの演奏よりも心地よい。


 そしてクリスが現れた。神楽鈴を持ちながら音楽に合わせて優雅に舞う。指先から足先に至る1つ1つの所作が丁寧で目を奪われる。


 心地よい音楽と舞を見ていると心が穏やかになり、眠ってしまいそうになる。構えたカメラを下げて目を閉じたくなる。この奇妙な快感はどこかで感じたことがあるような。少し気にかかるけどよく覚えていないし、どうでもいいことかもしれない。


 このまま演奏に身を任せてしまおうとした矢先、笛の音が少しずれる。これまで非の打ち所がない演奏だったからこそミスが目立ってしまう。


 眠りに落ちそうだった意識がそのミスで覚醒して脳が動く。


 この妙な感覚には心当たりがある。記憶を遡るとかなり最近のことだった。前に神社のPVを見た時と同じ感覚だ。あの時はクリスが途中で割って入ってきたけど今回はそんなことできない。


 変な感覚になる演奏で危ないと感じるがそれだけでこの演奏を止めることなんてできない。


 周囲の様子を見まわすと僕と同じような感覚に陥っている人がいる。葉月先輩もだ。


 危険だと判断してはづき葉月先輩の体を揺らして起こす。


「起きてください、起きてください」


「うー。もうちょっとだけ~」


 寝ぼけている。もう少し強い刺激を与えないといけない。


 僕は強みに先輩の頬をつねる。


「痛っ。なんでつねったりするの~」


 つねられた頬をさすりながら不平を言う。


「少しここを離れましょう」


「え? なんで~?」


「なんか危ない気がするので。詳しくは後で話します」


 僕は無理矢理先輩の手を引いて席を立ちあがった。


◆◆◆


「ちょっと、叡人君~。せっかくきれいな演奏が聞けてて気持ちよかったのに~」


 先輩は不満そうだが、音楽が聞こえないところまで離れた。


「あの音楽を聴いた感覚って身に覚えないですか?」


 クリスを見にきたのにクリスの感想が出てこないのはおかしい。


 葉月先輩は顎に指を当てて考え込む。


「そう言われてもな~、あんなに幸せな気分になる音楽ってなかったと思うけど~」


「前に一緒にここの神社に来た時のことを思い出せますか?」


 再度考え込み、顔色が変わる。


「男の人に見せてもらった動画にちょっと似てるかも~?」


 思い出したが確信も持っていない、あやふやな回答だった。


「クリスのことも含めてこの神社は何かありそうですよ」


「神社のことはともかく、クリスちゃんのことは絶対に何かあるよね~」


「演舞も終わったので、今日はこの辺で解散しましょう。送っていきますよ」


「ありがとう~」


 今日の演舞に違和感はあったけど違和感でしかないし、演奏している人にも変なところはなかった。せいぜい誰かが少し音を外したくらい。


 明日は花火大会だけだし何も起こらないはず。それに告白をするつもりだから決意が鈍るようなことはしたくない。


◆◆◆


 個人的には昨日のことでお祭りがどうなっていたのか気になって周囲の様子を気にしてみたが、特に変わった様子はない。


 みんな楽しそうにお祭りに参加している。


「七森さーん!」


 元気な声で僕に手を振る小学生と横で小さく手を振る先輩がいた。


「お待たせ」


「女の子を待たせるなんてよくないですよ」


「遅刻しているわけじゃないんだからいいだろ。

 それにこれは女の子を先に待たせるという新しいレディーファーストだよ」


「最悪なレディファーストですね。それにボケの担当は私なんですから七森さんはツッコミに徹してください」


 額に手を当ててげんなりしながらクリスは言った。


「いつからボケとツッコミで役割分担されたんだよ。僕たちは芸人じゃないだろ」


「2人は仲良しだからメテオ漫才って感じがしていいと思うよ~」


 ボケ担当もう1人増えた。


「夫婦漫才のことですね。空から降ってくる漫才って意味わからないですよ。無理にボケなくていいですから」


「七森さんは私と夫婦漫才したかったんですか? 夫婦犯罪ですよ?」


「次から次へとわけのわからない言葉を作らないでくれ。ツッコミが追いつかん。

 早く屋台に行こう」


「私、たこ焼き食べたい~」


「私も食べたいです!」


 葉月先輩とクリスの両方がリクエストしたからたこ焼きを食べることにした。


「クリスちゃん、屋台って内容かぶったりするけど、どこが美味しいかとか見分けつくの~?」


 それは僕も気になる。クリスと葉月先輩の会話に耳を傾ける。クリスは神社の人間だし、お祭りに精通していそうだから何か知っているかもしれない。


「どこも変わらないんじゃないですか?

 あーいうのはみんなで材料費出し合って商売してるんで素材に違いはありませんよ。売り上げの差は立地条件ですよ。

 屋台の料理を食べ比べする人なんていないんでここが美味しいとかあそこは不味いとか噂も流れないですし」


「え~? そうなの~?」


 夢がないな。お祭りの屋台にたこ焼き職人とか焼きそば職人がいる思ってたのに。


「冗談です。見分け方なんて知らないです」


「美味しい屋台の見分け方かい? ラッキーだねー! うちが1番うまい店だよ!」


 いつの間にか順番が来ていて店主に会話を聞かれていた。


「たこ焼き3個でいい?」


「はい、3つください~」


「あいよ。お嬢ちゃんたち可愛いし、お兄さんはイケメンだから1個おまけしておくよ!


 お代は1500円」


「ありがとうございます~」


「毎度あり!」


 たこ焼きを購入して座れる場所を探すが、なかなか見当たらない。


「昨日は運よくベンチが空きましたけどやっぱりどこも埋まってますね」


「七森さん、イスになってください」


「僕は杉田じゃない!」


「たこ焼きなら立ってでも食べられるからいいんじゃないかな~」


「そうしますか。冷めちゃうのももったいないですし」


 中も外もとろとろのじゅくじゅくたこ焼きだ。ソースがたっぷりついていて味が濃い。おまけにたこも小さい。ほとんど生地だ。でもお祭りだから許される。


「はふはふ、あふいです」


 クリスが口を半開きにして悶えている。


「なんで丸ごと1個食べてるんだよ。熱いに決まってるだろ」


「だっへ~、あふいものはあふいうひにはへはいはないへすはー」


「なんて言ってるのかまったくわからん」


「私、飲み物買ってくるよ~」


 先輩は飲み物を買いにこの場を去り、僕とクリスの2人だけになった。


「クリス、昨日の演舞ってなんかおかしくなかったか?」


「おかしい? 別にいつも通り退屈な……」


 話し出した途中でクリスが口ごもる。真顔になって黙り込む。もしかして何か気が付いたのか? もしくは心当たりがあるのか?


「具体的にどんなところがおかしかったですか?」


「前に神社で見たPVと似た感覚になった。ふわふわするような、気持ちいいような感覚だ」


「ふーん、なるほど」


 またしばらく黙って何か思案している。


「何か知っているのか?」


「いーえー。ただ、退屈な曲なんで、『もってけ!セーラーふく』とか流してほしいと思っただけです」


「雰囲気ぶち壊しじゃねーか」


 何か知れると思ったけどはぐらかされてしまった。


「お待たせ~、クリスちゃんやけどしてない~?」


 3本のペットボトルを持った葉月先輩が戻ってきた。


「大丈夫です! ありがとうございます!」


「叡人君もどうぞ~」


 なっちゃんのオレンジジュースをもらった。


「ありがとうございます、いくらでした?」


 僕はポケットから財布を取り出す。


「そんなこと気にしなくていいよ~。先輩のおごり~」


「いや、悪いですよ」


「叡人君は真面目だな~。先輩らしくかっこつけさせてよ~」


「わかりました、ありがとうございます」


「さっきもお礼は聞いたよ~。どういたしまして~」


 そんなやり取りをしているとクリスの顔が引きつっている。


「はー、たこ焼き以外が原因で胸やけするわー。お腹いっぱいです」


 いちゃついているように見えたか?


読んでいただきありがとうございます!


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『勇者になれなかった読者はしぶしぶ高評価といいねとブックマークを決意しました』

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