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40 緋弾のクリス

「らっしゃーい、らっしゃーい、ららららっしゃーい!」


 威勢のいい射的屋の店主の声が響いている。どこもかしこもお祭り騒ぎなのに変な掛け声のせいですごく目立っている。


「おじさん、3人分お願い」


「お嬢ちゃんかわいいからおまけして、1人1回100円に負けてあげるよ!」


「値段変わってないですよ」


 看板には1人1回100円と書いてある。


「見抜かれちまったかー。それじゃあ、しゃあねえ。ホントは1回3発ところを4発にしてやるよ! 

 どうだ?」 


 額に手を当てた仕草をしてから、またおまけの提案をしてきた。


「ありがとう。それじゃあ3人分ちょうだい」


「あいよ」


 クリスが3人分のコルク銃と弾を受け取り、それぞれに手渡す。


「私はね、知っているんだよ~。的屋で大物を狙っても落ちないということをね~。だからお菓子を狙うよ~」


 葉月先輩の宣言通り撃ちだしたコルクの弾はキャラメルの箱のど真ん中に命中した。


 が、落ちなかった。


「お姉ちゃん、残念だね~。でも着眼点は良かったよ」


 こいつ確信犯だ。わかってて細工してやがるな。


「あんちゃん、睨むなよ。確かに()()()()だけ細工はしているがちゃんと景品は獲得できるようになってるぜ」


「僕のヘカートⅡで撃ち落とす」


 銃を構えて狙いを定める。


 普通に当てても落ちないようになっている。ならば当てる場所が重要。狙うは箱の上部。


 引き金を引いてコルクの弾を撃つ。狙い通りの場所に着弾。箱は前後に揺れる。


 が、落ちない。


「惜っしい~、あとちょっとだったねー、あんちゃん」


「おい、インチキだろ!」


「商売にケチつけるのはやめてよー。景品を獲得してるお客さんもいるんだから、インチキではないよー」


 くそ、次こそ落としてやる。銃に弾を込めて2発目の準備をしているとクリスが僕の銃を奪った。


「闇雲に撃っても意味ないですよ」


「だからって僕の銃を取るな」


「資材は乏しいからね、どんなものでも使わないと!」


「やってることはただの窃盗なんだよな。

 でも2本銃を持てばその分安定しなくなって狙いが定まらなくなるぞ」


「私を誰だと思っているのかしら? 双剣双銃(カドラ)のクリスよ」


 クリスの顔は真剣で本気で撃ち落としにいってる。「双剣はどこだよ」なんてツッコミは喉の奥に引っ込めた。


「風穴開けるわよ」


 銃弾は同時にキャラメルの箱の上部にヒット。 箱が前後に大きく揺れる。


 が、落ちない。


「あとちょっとですね」


「でもどうするんだ? 銃2丁使っても無理だったぞ」


「策はあります」


 そう言って2丁の銃を僕に渡した。


「僕?」


「はい。やり方と狙いは正しいはずです。ただ、威力が少し足りなかったんです。七森さんのほうがリーチが長いから景品に当たるときの弾速は早いです。お願いします」


 クリスの言う通りだ。クリスが撃ったときは本当にギリギリ落ちなかったという感じだった。小学生よりも景品までの距離を稼げる僕なら可能性はある。


「2丁使えば威力は上がるが、精度は落ちる。僕はそこまで正確に狙える自信はない」


「策は1つじゃないんですよ。えいっ」


 クリスは僕を両手で押した。


 急に押されてバランスを崩して横にいた葉月先輩を巻き込む形で転んでしまった。


「いったいなー、急に押すなよ」


 地面に両手をついて体重を支えたせいで手が痛い……いや、右手だけ痛くない。むしろなんか幸せな感触がある。握ってみると包み込まれるような優しさがある。


 僕の右手は葉月先輩のおっぱいに置かれていた。


「叡人君のえっち!」


 葉月先輩に下から突き飛ばされた。


 ベタだなーなんて感想を抱いていると心臓がドクンと跳ねる。全身の血が沸騰していると思えるくらいに体が熱くなる。


「七森さん、ヒステリアモードには入れましたか?」


「まあな。やれやれ飛んだお転婆娘(てんばむすめ)がいたもんだ。

 彩音先輩、失礼しました。立てますか?」


 僕は先輩に片膝をついて手を差し伸べた。


「え?」


 状況が呑み込めていないようで呆けている。


「おや、腰を抜かして1人では立てないですか? 

 わかりました。立たせて差し上げます」


 僕は彩音先輩の膝と肩に手を回して持ち上げた。


「ちょ、叡人君⁉ お姫様抱っこなんて恥ずかしいからやめて! 立てるから!」


「照れなくてもいいんですよ」


 じたばたして暴れる先輩を僕はそっと下ろした。


「叡人君雰囲気変わりすぎじゃない~?

 ホストっぽいというかキザっていうか~」


「これが本来の僕です。以後お見知りおきを」


 右手を左肩に添えて恭しく礼をする。


「もう何が何だかわからないよ~」


「彩音さん、特に気にしないでください。人には色々な面があるんですよ」


「クリスちゃん、それって……」


 彩音先輩はそれ以上の言葉は何も言わなかった。


「さあ、パーティーはこれからだ」


 6丁の銃に弾を込めて淀みのない動作で2丁ずつ引き金を引く。


 一定のリズムで銃を構えて、狙いを定め、撃つ。


 そして景品が落ちる。


「「おおおおーーーーーー」」


 周囲が拍手と歓声で包まれる。


「叡人君、すごすぎ~! 同時に3つも落としたじゃん!」


「先輩のおかげです。ありがとうございます」


 先輩の髪に優しく指を通す。


「ちょ、叡人君⁉」


 少し触れただけで赤くなって照れる姿が可愛い。


「ヒューヒュー、景品だけじゃなくて女の子まで落とすなんてやるねー。

 よ、色男!

 弾はあと3発残ってるが何を狙うんだ?」


「1番の大物だよ。3人で同時に撃ち落とす」


 目にかかる前髪をかき上げながら言った。


「あのSwitchの箱を落とせると思うならやってみな」


 僕は2人に向き直った。


「さあ、銃を持って。一緒に撃とう。掛け声はクリスに任せる」


「わかりました。彩音さんもですよ」


「うーん、ちゃんと当てられるかな~」


「この中で1番大きな標的ですから当たりますよ」


「そっか、そういうことだね~」


 彩音先輩にも意図が伝わった。


「2人とも準備はいいですか? 行きます、このバカ犬ー!」


 クリスの合図とともに銃口はSwitch、ではなくインチキ店主に向けられた。


「お前らぁ、誰を撃っているーーーー!」


 インチキ店主の叫び声で楽しい射的の時間は終わった。


◆◆◆


「こんなところにいたのね! 早く戻りなさい! 演舞の準備よ!」


 射的が終わって次はどこに行こうかと考えていたとき、凛とした声と視線でクリスが呼び止められる。


 目の前には上品な和服を身にまとった白髪の女性がいた。


「お、おばあちゃんがなぜここに?」


「それはこちらのセリフよ。急に抜け出すなんて豊姫のバカさが移ったのかしら」


「お母さんは関係ない。家に縛られ続けていれば年頃の女の子は普通嫌になる」


 さっきまでの楽しそうにはしゃいでいた声とは異なる、冷たい怒りを感じる声音でクリスは答えた。


「そんなことはどうでもいいわ。あなたのためだから。さあ、来なさい」


 クリスの祖母は強引に手を掴み、引っ張っていく。


「ご迷惑をお掛けしました」


 それだけ言って僕たちに背を向けた。


 クリスは遊びたいときはいつもこんな風に祖母に否定されているのだろうか。


 まだ小学生なのに自由にさせてくれないのだろうか。


 気づくと僕は祖母が掴んだ手とは逆のクリスの手を握っていた。


「何の真似?」


 人を殺せそうなほど鋭く尖った視線が僕を射抜いた。


「いやー、まだ子どもなんですしお祭りくらい自由に遊ばせてもいいんじゃないですか?」


「うるさい。あなたに関係のないことだわ。龍守家のことを何も知らないくせに」


 その怒気にすくんでしまい、握った手の力が弱くなる。


 祖母はそのままクリスを連れていってしまった。


「……」


「叡人君……。クリスちゃんのお家って複雑みたいだね。前に家に遊びに行ったときもおばあちゃんが途中で入ってきたよ。戻ってきたときのクリスちゃんはいつもとかなり様子が違ったし」


 あの祖母がいるとクリスの様子が変になるのか? 


 いつもは明るいクリスが祖母を前にすると人格が変わったようになる。単に怖くて委縮しているだけとも思えない。


「と、とにかくクリスちゃんの演舞を見に行こうか~。クリスちゃんはあんまり乗り気じゃなさそうだけど晴れ舞台であることには間違いないからさ~」


 悩んでいてもわからない。お祭りが終わったらどんな事情があるのか話してもらおう。簡単に答えてはくれなさそうだけど。


「クリスが神社の演舞みたいな神聖な儀式をやるなんて想像つかなくて逆に面白そうですね」


「もう、クリスちゃんが頑張ってるんだから応援しなきゃだめだよ~」


「わかってますよ、演舞の会場まで行きましょう」


読んでいただきありがとうございます!


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『武探憲章1条 高評価といいねとブックマークをする』

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