4 やはり間違っている
「ただいまー」
返事をする人なんているわけないのだが、家に帰ると言ってしまう。
自転車で走り回って、足が限界になり、僕はベッドに仰向けに倒れる。眠ってしまう前に自己紹介を再確認だ。クリスに無難な自己紹介を説いた手前、失敗する訳にはいかない。出身、名前、転校してきた理由、趣味、特技、閉め締めの挨拶。完璧だ。話し過ぎず、話さな過ぎず、いい塩梅だ。
誰もいない静かな家にいると明日から始まる新しい学校生活への不安が頭によぎる。
友達、彼女、勉強、部活、先生……これまでとは大きく違う環境だからどう対応していけばいいだろうか。
中でも不安なのは自分のことを知っている人がいるかどうかだ。嫌な記憶がフラッシュバックする。
『お前が撮った写真全部目の前で燃やしてやるよ。首に掛けてるカメラもな』
やめろ。
『パクリとか信じられない。そこまでして人気者になりたかったの?』
やめろやめろ。
『真剣にやってる人に謝れよ』
やめろやめろやめろ。
『自称写真家(笑)』
やめろやめろやめろやめろ。
『この写真私写ってるんだけどー、盗撮じゃん。写真家よりも盗撮魔のほうが向いてるよ』
やめろやめろやめろやめろやめろ。
『この恥さらしが。俺の顔にまで泥を塗る気か!』
違う違う違う違うんだよ、父さ―
苦くて酸っぱい味が口に広がる。僕はトイレに駆け込んで吐いた。
「はぁはぁ……」
◆◆◆
不快な味が張り付いた口をゆすいでぬるい麦茶を胃に流し込む。
あれだけ動き回ったからからお腹は空いているはずなのに食欲は一気に失せた。
もう寝よう。
◆◆◆
昨夜は最悪な気分だったが、それでも朝は来る。
学校に行かなければならない。
大丈夫、僕のことは誰も知らない。雑誌とかネットの記事には顔写真を出したことはあるけど、テレビに出たことはない。大丈夫、絶対に誰も知らない。
僕は登校中、顔を1度も上げずに学校に行った。
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『低評価とは嘘であり悪である』