38 クリスのひとりごと②
4月1日
新学期が始まった。2年ごとにクラス替えがあるから4年生の私にはない。去年は見知りで友達を作るのが苦手だったけど自己紹介は頑張った。ハルヒの真似をしたけど誰も話しかけてくれなかった。
ハルヒの真似をしても盛り上がらないなんて不勉強なクラスメイトだな。そいつらが悪いからいさなは気にしなくていいぞ。
4月15日
4年生になって授業も難しくなった。特に私は算数が苦手だから教科書の内容を理解するだけでせいいっぱい。
私は教科書の内容も理解できていなかった。まあ、私にとっての本当の教科書、大切なことを教えてくれたのは漫画やアニメだが。
4月26日
相変わらずおばあちゃんの稽古は厳しくて怖い。踊りや歌の練習は好きだけどおばおばあちゃんが怖い。でもその後にお母さんがこっそりアニメや漫画を見せてくれるからがんばれる。
あのばばあはマジでうざい。漫画やアニメを見ると頭が悪くなると思ってる古臭い人間。
5月3日
今日から家族で旅行。行き先は京都。聖地巡礼が目的みたい。けいおん、るろうに剣心、ぬらりひょんの孫、有頂天家族……いろいろあって覚えてない。
キョウトに家族旅行か。桐原公にでも挨拶しに行くか。
5月17日
お母さんが仕事の都合でしばらく家を離れることになった。おばあちゃんとお父さんはいるけど寂しい。
そうなんだ。いさなと会えないなんて寂しいな。
6月10日
テストで100点が取れた。うれしかった。なんかよくわからないけど、テストで出る問題が一週間くらい前に視えた気がする。そこを勉強した。
6月16日
前日に車が通って水たまりの水が自分にかかる映像が視えた気がする。私は友達が車道側に立つように歩くと、友達に水がかかってしまった。友達に申し訳ないけどラッキーだった。
6月20日
3日前、隣のクラスでいじめられている子が上履きを隠されて、上履きが体育倉庫で見つかる映像が視えた気がする。その子が上履きを探しているのが見えたから、体育倉庫に行くと上履きがあった。私が上履きを渡すと「ありがとう」と言われたけど、疑われた気もする。でも、誰かの助けになれてうれしかった。
7月10日
色々視えるようになった。抜き打ちテストや持ち物チェックのタイミング、班決めで誰がどこのグループに入るのかとかを友達に共有してみんなに喜んでもらえた。
7月14日
最近みんなと距離を置かれている気がする。もっとみんなの役に立たないと。もっと視えるように頑張らないと。
7月20日
真美ちゃんが智くんへの告白に成功することとか裕也くんが万引きすることとか担任の岸田先生が音楽の葉山先生とデートするとか視えたことを話した。女の子はこんなうわさ話が好きだと思った。本当はうわさじゃなくて視えた未来だけど。
でも、反対にみんなは私を避けるようになった。一番仲良しだった沙織ちゃんには気味が悪いって言われた。
7月22日
退屈になった。視えてしまうから出来事へのワクワクもドキドキもない。ネタバレされた映画を見てるみたい。視えたことを共有しても気持ち悪がられるだけ。
お母さんに相談したいけど、今はいない。出張中らしい。
7月25日
何もかもが1度見たように思えて、つまらない。
7月31日
最近、いいことが何もない。悪い未来が視えて避けるように行動したはずなのに、その後同じ嫌な出来事が起こった。視えても変えられないことがある。その事実は私を絶望させた。もし、自分が交通事故とかで死ぬ未来が視えて変えられないとしたら。
8月1日
私は部屋を出なくなった。家からでなければ嫌なことは起こらないし、死ぬことはない。
8月3日
お父さんが心配して部屋に入ってきた。何があったのか聞かれた。自分が未来予知をできることを言った。この家の人間は未来に関する能力を得る人間が生まれることがあると伝えられた。「今はびっくりしているかもしれないけど、いつかその力を人の役に立てるように使えるようになろう」と励ましてくれた。すごく私のことを気遣ってくれた。頭をなでてくれた。お母さんと違ってお父さんは私と少し距離を置いていたから意外だった。
でも、お父さんが部屋から出た瞬間、未来が視えた。神社にたくさんの人がいてお父さんに跪いていた。お父さんの横には私と思える人がいた。何が起こっているのかはわからないけど、何かに操られているみたいで異様な光景で怖かった。
8月4日
ますます部屋から出るのが怖くなった。
お父さんがご飯を持ってきた。そのときに「怖がらなくていい、少しずつなれていこう」と安心させるようなそれでいて本心が見えない笑顔で言った。
もしかしたらお父さんは私を利用しようとしている。このご飯にも毒が入っているかもしれない。馬鹿げた発想だと思いながらも否定できなかった。
私はすぐに部屋を出て走り出した。どうすればいいかわからなかったけど、どこにいるかわからないお母さんを探しに行った。
無我夢中で走ると、市役所の前にいた。お母さんが働いているかもしれない。中に入って探したけどいなかった。
でも、壁に展示されていたこの町のお祭りの写真に目を奪われた。お祭りの楽しい空気とか温度感がこの一枚だけで伝わってきた。
そのとき、閃いた。視てしまった嫌な未来を変える方法を。
お父さんよりも人を集められるようになる。
あのとき見た未来で集まった人はきっとお父さんが集めた。なら私はそれに対抗できるくらい多くの人に影響を与えられる人になる。なんでもいい。とにかく私が目立てばお父さんの行動を阻害できる。人の視線を集めれば動きにくくなるはず。
声優になる。アイドル、ユーチューバー、政治家……人気者になれる仕事はたくさんあるけど、声優に私はなる。アニメは好きだし、お母さんも好きだからなれたらきっと喜ぶ。そしてこの写真を撮った人みたいに上手なカメラマンにとって撮ってもらえればきっと私の存在は広まる。
このカメラマンさんの名前は七森叡人さん。
8月6日
明日からお祭りが始まる。いつもなら何か見えてしまうのにお祭りのことに関しては1度も見ないのはどうして?
いさなの日記を読み返した。そして状況の整理を行う。日記がここで途切れているということは8月7日以降に何かがあると考えられる。
まず、いさなが能力持ちになった。龍守の血を引く人間の中には未来に関する能力を獲得する場合がある。内密にしているから、本人が能力を持つようになるまでは事情は明かさない。おそらく、いさなの能力は単純な未来予知だろう。
だが、頻繁に起こりすぎである。
通常、能力を持ったばかりのときは自分でコントロールすることはできない。月に1回程度能力が発動する程度で、それを徐々に訓練して自分の能力を磨き、任意のタイミングで使えるようにする。
いさなの能力の成長は早すぎる。何もしていないのに能力を使えている。いや、制御できずに使っているような状態だ。うまく扱えるようになれば強力な予言者となり、失敗すれば心が壊れる。
次に、いさなが視た不穏な未来。具体的なことはわからないが、いさなは清正が何か良くないことをしているように見えたようだ。
信じられない。
清正は真面目で優しく、礼儀正しい超がつくくらい真面目な人だ。でも明るく親しみやすいし勉強やスポーツもできる完璧超人。少し自信家なところもあるが私が人生の中で唯一好きになって結婚した愛する人。
悪いことをする人には見えないが、いさなの言っていることを無視するわけにもいかない。清正の行動も少し注意しよう。
最後は七森叡人。心が壊れかけていたいさなを助けてくれていたなんて。感謝しかない。
私がすべきことが見えてきた。私の能力で飛べたのは2024年までで、2025年以降には飛べなかった。その原因はこの日記に書いてある内容も関係するかもしれない。
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