36 瑠々疾風伝
5分ほど経って体は元に戻り、天井から体が抜ける。葉月先輩からジャージを届けてもらい着替える。
「おいクリス」
僕が呼ぶとクリスの肩がびくっと跳ねる。
「ドーピングコンソメスープと推進エンジンがあんなに原作再現できると思ってなかったんですよ~
……ごめんなさい」
言い訳したかと思ったがちゃんと謝ってくれた。
「あのスープはどうした?」
「…………捨てました」
目が縦横無尽にクロールしている。
「今の間は何?」
「そんなことよりも日も暮れて来たのでそろそろ帰りましょう。私も彩音さんも女の子なので暗くなると危ないですからねー」
絶対に捨てていない。悪用しようとしているに違いない。必ず捨てさせる。
◆◆◆
夕日すら隠れ始めた暗がりの校舎の廊下。3人の靴音だけ……ではない。校舎内や校庭はまだ生徒が残っており活気は残っている。
「もう遅いのにまだ部活やってる生徒が結構いるんですね」
「物騒な世の中とはいえ、田舎で事件も少ないから緩いんだよね~。本当は人通りがない道も多いから危ないけどね~」
「事件が少ないのはわたくしが率いる新聞部の活躍ですわ!」
通りがかった教室から暗くてもはっきり煌めく豪奢な金髪の女子生徒が現れた。
「うわっ、びっくりした!」
「うふふふ、いい反応ですわね。そういう顔が見られるから新聞部はやめられませんわ」
「なんで急にそんなところから出てきたんだよ?」
「ここが部室だからですわ」
西園寺さんは何を当然のことを聞いてくるんだと言わんばかりに答えた。
ここが新聞部の部室? 見てみるとひどい有様だ。部活で作った新聞がみんなに見えるように教室の廊下側の壁全面に貼られているがすべてに『死ね』『バカ』『嘘つき』『人間のゴミ』など悪口が至るところに落書きされていて教室の外観が刃牙の家みたいになっている。
「なんか怖いよ~。新聞部って普段はどんなことをしているの~?」
「学校の噂と本当かどうか検証してみるのが1番注目を集めていますわ。誰と誰が付き合ってるだの別れただのは定番。他にも誰が何股しているとか先生が不倫しているとかは特に盛り上がりますわ」
「悪趣味すぎますね。マジ引きますわー」
クリスもドン引きしている。高校生もだが同じ思春期で多感な時期である小学生にも新聞部の所業は堪えるに違いない。
文春砲まがいなことをしているが、情報の精度が高いからこそここまで反感を買うことができているのだろう。この能力は絶対にもっと他のことに活かすべきだ。
「部活をつぶしかけた私が言うのもあれだけど、なんでこんな部活が続けられているの~?」
「中に入ればわかりますわ」
西園寺さんが教室の中を紹介すると、そこには賞状やトロフィーが飾ってあった。それらは新聞コンクールで受賞したものや犯罪者の逮捕に貢献したことに対する警察からの感謝状だった。
新聞1つ1つも丁寧に作られており、社会問題に対して自分の分析と意見、聞き込みやネット上のアンケート調査を踏まえて様々な角度の考え方を示している。
迷惑なゴシップも行っているが部活動としてもちゃんと結果を残していたというわけだ。
もちろん学校のイベントや部活について特集しているものもある。こっちを表に出せよ。
「新聞のコンクールはわかりますけど、何で警察の協力までしているんですか?」
「いい質問ですわね! クリスさん。この西園寺・フェイルーナ・瑠々が直々に褒めて差し上げますわ」
顔を輝かせてクリスを向いた。自慢したかったんだろうな、聞いてほしかったんだろうな。
「私の名前を世界に轟かすためですわ! 犯罪者なんて証拠を残しまくる輩を見つけるなんて造作もないこと。ただ、そいつらを捕まえて得られる名声は私に箔をつけ、指名手配犯の賞金はさらに私の情報網や機材を進化させることもできるから一石二鳥ですのよ」
葉月先輩といい、西園寺さんといい、カメラをロクなことに使わないな。
「西園寺さんはどうしてそこまで自分の名前を世界に知らしめたいんですか?」
学校の下世話な話や部活動の記録、新聞コンクール、犯罪者の逮捕、この人の行っていることには統一性がない。
「ありとあらゆる情報を操って西園寺財閥をぶっ潰すためですわ」
世界の経済の3分の1を支配していると言われている西園寺財閥を潰すなんてできるわけがない。
だが、西園寺さんの目には執念を感じる。何年も積み上げてきた恨みと憎しみを煮詰めた目の色をしている。
「潰しててからはどうするんですか?」
「潰して私の妹が笑顔で安心して暮らせる優しい世界を作りますわ」
どっかで聞いたことあるな。クリスが反応しちゃうだろ。
「オール ハイ 瑠々! オール ハイ 瑠々!」
クリスは拳を突き上げて叫ぶ。
「いきなりどうしたんですの⁉」
「すいません、取り乱しました。頑張ってください、応援してます!」
「あ、ありがとうですわ。ただ、危険な活動にクリスさんみたいな小さな子は巻き込みたくないので関わらないほうがいいですわよ」
西園寺さんはクリスに面食らいながらも危険を促した。
「それであなたたちが新聞部の部室に来たっていこうことは体育館の件ですわよね?」
「……」
体育館? なんかあったっけ? 僕が呆けていると先輩が小さく耳打ちしてくれた。
「バレー部の活動の記録を新聞部に一任してくれってやつだよ~」
「あー、あれですか」
すっかり忘れてた。
「まさか忘れていましたの⁉」
「ここには用があったわけではなく、たまたま通りかかっただけだから」
「屈辱ですわ! この完璧美少女である私のことを忘れていたなんて!
まあ、いいですわ。私は見た目だけではなく心も完璧ですから寛大さを見せて許してあげますわ」
長い金髪を振り乱して怒った。
忘れていたのはこの人ではなくてバレー部の取材を独占させろって件なんだけどね。許してくれるのならその提案に甘えよう。
「そっか、じゃあね。帰りは気をつけてね」
僕は片手をあげて新聞部の部室を出ようとした。
「ちょっと待ちなさい!」
背中を向けると甲高い声で呼び止められた。
「え、何? 話終わったんじゃないの?」
「終わっていませんの」
「バレー部の取材はさっき許すって言ったよね?」
「違いますわ! 許すのは私のことを忘れていたことですの」
うわぁ、面倒くさいなこの人。一芝居打つか。
「目鼻立ちがくっきりして美しい金髪という日本人離れした美貌を持ちながら、心の中まで澄み切った青空のようにきれいな西園寺さんならバレー部の件も新聞部と写真部で一緒に頑張ることを許してくれると思ったんだけどなー」
西園寺さんは顔を赤くしたり鼻の穴をひくひくしている。
「ま、まあそこまで言うなら許してあげますわよ」
満更でもなさそうな顔で腕を組んでそう言った。
この女、ちょろいな。
「さすが、女神のような人だ!」
「ただし、交換条件がありますの」
「交換条件?」
「バレー部の取材以上の特ダネを私に提供しなさい。私が既に掴んでいるネタは論外ですわよ」
あくまでも自分の方が目立てるようにしろということか。この条件を吞めば今日みたいに絡まれる機会は減らせるだろう。
「分かった、その条件でいいよ」
「良いお返事が聞けて何よりですわ。それじゃあ私はやることがあるので」
西園寺さんは部室のハンガーに掛けていた黒いジャンパーを羽織り、黒いキャップに豪奢な金髪をしまい込んだ。
そして窓から飛び降りて暗闇の中に姿を消した。
「西園寺さんって忍者とかなの~?」
「さあ? 謎ですね」
火影とかを目指しているのかもしれない。
「謎と言えば七森さん、髪の長いアニメキャラがキャップの中に髪を全て収納しきれているのって謎ですよね。
しかもキャップを取ったらきれいな長い髪がサラサラ露わになるってよくわからないですよね。なんで髪がほつれたり乱れたりしないのでしょうか?」
「知るか」
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