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35 【選】僕の脳内選択肢

 ボードゲーム部の部室から出てクリスに聞かなければならないことがあった。


「なあ、クリスなんで最初にキングを動かしたんだ?」


「王様から動かないと部下がついてこないだろ?」


 わかってたけどね。ていうか今回は僕も写真撮ってなかったな。


「よくわからなかったけど、クリスちゃんチェス強いんだね~」


「あのくらいはたしなみですよー。でも頭を使った分お腹が空いたのでおやつが楽しみです!

 彩音さんは何を作ったんですか?」


「食べるまでのお楽しみ~」


 家庭科室に入ると最初に葉月先輩が呼ばれた。


「彩音ちゃん、ちょうど焼けたよー」


 葉月先輩と一緒にお菓子を作っていた人だ。


「今行く~、どんな感じになった~?」


 葉月先輩はお菓子の様子を見に行った。


「クリスちゃんクリスちゃん、よく煮込めておいしくなってるよ!」


「ほんとですか! 味見します!」


 クリスの作ったスープも完成しているようだ。


 そしてまた僕だけ取り残されるってわけね。僕はちゃんと部活やってたのになんで疎外感があるんだろう。 


「ちょうどいいところに来たわね。後輩くん、お皿とか運んでくれない?」


 その様子を見かねた藤原先輩が僕に声を掛けてくれた。


「わかりましたー」


 僕は机にお皿やコップを並べた。気づかいに感謝。


 でもやっぱりこの部活はいづらい。女の子ばっかで目線のやり場に困るし何の話をすればいいかわからない。


 よし、ここは頭を切り替えよう。僕はこの女の子ばっかりのお屋敷に雇われた敏腕執事だ。キャラ設定としては糸目なのにちゃんと見えてるイケメン執事キャラになりたい。CVは遊佐浩二で。


「後輩くん、お皿並べ終わった?」


 不毛な妄想をしていると藤原先輩から声がかかった。


「はい、今終わりました」


「ありがとうね。お礼と言ってはあれだけど私の作ったケーキ食べてくれないかしら?」


「もちろん! ぜひ食べたいです!」


 年上美人で料理研究部の部長が作るケーキを食べれるなんて最高!


 僕の前には生地の上にひも状のクリームが山の形に盛り付けられたケーキが用意された。


「モンブランですか?」


「そう。でも、栗じゃなくてさつまいもで作っているのよ」


「さつまいものモンブランって初めて食べます! それにモンブランって手作りできるんですね」


 モンブランってなんかケーキの中でも上位のカーストにいて一般人が作れるものとは思っていなかった。


「意外と作るのは簡単なのよ。モンブランを象徴するあの見た目もモンブラン用の口金(くちがね)があれば再現できるわ。

 料理は見た目を楽しむのも大事だけどやっぱり味が1番だから早速食べてみて」


「すべての食材に感謝を込めて、いただきます」


 ふわっとしたさつまいもクリームをフォークですくって口に運ぶ。滑らかな舌触りから始まり、口の中はさつまいもの優しい甘さが広がる。


 フォークですくったところを見ると中は白い生クリームが顔を覗かせている。その生クリームも合わせてさつまいものクリームを食べる。さつまいもの味が生クリームに負けると思っていたが、違う性質の甘さがお互いを引き立てている。土台の少し固めの生地とクリームの相性が抜群である。


 なるべくゆっくり味わいながら食べようと思っていたがモンブランはすでになくなっていた。


「ごちそうさまでした! 2種類のクリームとサクサクの生地の相性が良くて何個でも食べられそうです!」


「お粗末様でした。後輩くんの胃袋は支配できたかしら?」


「はい、とても美味しかったです! また食べたいです!」


「いつでも家庭科室に来ていいわよ。可愛い後輩くんにごちそうしてあげるわ」


 藤原先輩のモンブランを堪能していると葉月先輩も来たが、顔に影が差している。


「叡人君、なんで私のケーキよりも先に藤原さんのケーキを先に食べてるのカナ? カナカナカナカナカナ?」


 なんで葉月先輩は鉈を持っているのカナ? 家庭科室にそんな物騒なもの置いてあったっけ?


「藤原先輩のほうが先に用意してくれていたので食べただけですよ」


「ふーん、叡人君はそういうこと言うんだ~、へ~。

 ま、いーや。お口直しに私の作ったチョコレートのパウンドケーキとコーヒーを楽しんでね~」


 いや、お口直しって。藤原先輩のモンブランは普通に美味しかったぞ。


 葉月先輩はラスクくらいの大きさに切り分けた3切れのチョコレートパウンドケーキを作っていた。ケーキには白い粉砂糖がかかっており見た目もきれい。添えられたバニラアイスもとてもおいしそう。


「この世のすべての食材に感謝を込めて、いただきます」


 ケーキを一口サイズに切ろうとフォークを入れるとずっしり沈む。生地のふわふわな弾力が口に入れなくてもわかる。


 味は甘さよりも苦みが少しあるビターな仕上がり。さっき甘いものを食べたばかりと言うこともあって今はこれくらい落ち着いた味の方が食べやすい。


 生地によって失われた水分をホットコーヒーで潤す。やはりチョコレートとコーヒーのペアに外れはない。


「そのパウンドケーキにアイスをつけて食べてほしいな~。食べるのがもっと楽しくなるよ~」


「はい! 最強の組み合わせですよね!」


 ケーキとバニラアイスを同時に口に運ぶ。


 しっとりふわふわな生地に冷たいアイス。苦みのあるチョコレートと甘いバニラアイス。美味しくないわけがない。


 冷えた口の中にホットコーヒーを注ぎ、温まった口の中を冷たいアイスで中和する。甘いと苦い、冷たいと熱いの2種類を交互に楽しめる永久機関の完成だ。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です。叡人君の幸せそうな顔が見れて私も作った甲斐があったよ~」


 満足そうに笑う先輩だが次の一言で表情が切り替わる。


「あらー、私の後輩くんが泥棒猫に寝取られちゃったわ」


「泥棒猫は藤原さんでしょ~?」


 なんか不穏な空気になっている。


「それはどうかしら? 今日ここに来て叡人君は彩音よりも私のことを見ているわよ」


 藤原先輩は自分の太ももや胸を指で擦りながら言った。


 その仕草に自然と目が行ってしまう。


「ほらね?」


「叡人君? 悪いのは叡人君じゃなくてその目だよね? 今から抉るから動かないでね?」


 目にハイライトがない葉月先輩が鉈を構えて近づいてくる。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!


「後輩くん、こんなメンヘラは放っておいてあっち行きましょ」


 藤原先輩が腕を組んで引っ張る。やばい、当たってる。


「うん、その腕ももいであげる~。あと、腹の中には藤原さんが作ったお菓子も入ってるんだよね? それも取り出さないとね」


「後輩くん、私と彩音のどっちのほうが美味しかった?」


「耳元で意味深なこと言わないでください!」


 吐息が耳にかかってむずがゆい。


「食べるってそういう意味なの~?」


「違いますよ! お菓子食べただけです」


「ちなみに私と藤原さんのケーキ、どっちが美味しかった~? 私だよね~?」


「私のモンブランのほうが美味しそうに食べていたわよね?」


 藤原先輩を選べば葉月先輩に殺される。葉月先輩を選んでも「私のことのほうが好きなのになんで藤原さんのところにいたの~? お仕置きが必要だね~」とか言われて殺される。


 もう、終わりだ。


『選べ』


 絶望していると、突然男性のダンディな低音ボイス(中田譲治似の声)が聞こえた。周りを見ても男は僕しかいないし僕以外に聞こえている人もいなさそうだ。


 脳内で再生される声は続けてしゃべった。


『①パウンドケーキよりもふわふわそうな彩音の胸にダイブしてしゃぶる。「こっちのほうが美味い!」と言う


 ②サツマイモのモンブランも美味いけど、やっぱり栗がいい。「お、ちょうどいいところに栗があるじゃん」と言って料理研究部部長の股間をしゃぶる


 ③クリスが作った謎のスープを飲み干す』


 意味不明な事態に混乱していると、徐々に痛みは増していく。


 早く選べってことか。


 ①は論外。捕まる。


 ②も論外。捕まる。


 そうなると怪しさしかないが③を選らばざるを得ない。 


『③だ!』


 心の中で叫ぶと頭痛は引いた。


「七森さーん! 私の作ったコンソメスープも食べてください!」


 選んだ瞬間にクリスがスープを持ってきた。この険悪な雰囲気に小学生の明るさは助かる。


「お、おう。どんなスープなのか楽しみだ!」


 見た目と匂いはすごくいい。小学生がなんでこんなに料理ができるんだと思うほどだ。


「私の作ったコンソメスープは成功を呼びます! 至高にして究極です!」


 なんか怪しい謳い文句だけど頭に出てきた選択肢に従わなければならない。


 湯気が立つスープを1口飲む。


 美味いが……。


「どうですか?」


「美味い。が、料理という感じがしない」


「流石は七森さん、よくぞ気づきましたね。この料理の正体を教えてあげましょう。

 『魔界777ツ能力(どうぐ) 断面への投擲(イビルジャベリン) 』」


 クリスの手が刃のついた槍に変形し、スープを一刀両断したが、変化はない。


「この槍は物体を切断する槍ではありません。通過した物体の原材料を解析するための道具です」


 その手はどうなってるんだ? 魔人か? パラサイトでも住みついてるのか?


 これでもうどんなコンソメスープか想像ついたよ。


 クリスが解析結果を僕に見せながら解説する。


「数えきれない高級食材とコカイン、へロイネ、モルヒネ、各種麻薬、ステロイド系テストステロン、DHEAなど筋肉増強剤を精密なバランスで配合・煮込むこと7日7晩!」


 さっき来たばっかりだろ。どうやってそんな長時間煮込んだんだよ。


 あれ? 体が膨れていく妙な感覚がある。足・腕・胸など体の様々な部分の体が隆起していく。やがて膨らむ筋肉に制服が耐えられず千切れ飛ぶ。


「名付けてドーピングコンソメスープです!

 ちなみに血管から直接食べれば効果は何10倍にも上がりますがどうしますか?」


 ドーピングコンソメスープが入った注射器を見せながら言った。


「絶対にいらない!」


「きゃっ//」


 赤面して顔を手で押さえながらもしっかり指の間から僕の裸を見る葉月先輩。


「うふ♡ いい男じゃない。いきなり裸になってどうしたのかと思ったけど、着やせするタイプなのかしら」


 うっとりした笑みを浮かべながら僕の裸を見る藤原先輩。


「料理勝負はおはだけを引き出した私の勝ちですね!」


「そうね、これは私の負けだわ」


「小学生に料理で負けるなんて情けないよ~」


 藤原先輩と葉月先輩は膝をついて敗北宣言をした。


「2人ともこれで納得してるんですか⁉」


「「これなら仕方ない」」


 ハモったよ。まあ、争いが終わったならいいか。とりあえず一件落着。あとは体をもとに戻してもらうだけ。


「クリス、この体早く元に戻してくれ。あと、着替えのジャージを持ってきてくれ」


「無理です。戻し方わからないので」


「はあぁ⁉」


「ちょっと声大きいです。体がでかい分余計に」


「いや、お前がそうしたんだろ!」


 この体動かしにくいし、裸だから寒いんだけど。いやそれ以前に目立ちすぎる。


「ちょっと邪魔なんで目立ちにくくします」


「そんなことできるの?」


 人の視線は気になっていたところだからそれだけでも助かる。


 ポチっ


 クリスが何かのスイッチを押した。


 すると僕の足元からエンジンの音が聞こえ、さっきまで座っていた椅子が垂直に飛び僕の尻に突撃。


 いーつーもひーとりーでー♪


 そのまま僕の体も飛ばされ、天井にめり込んだ。


「ふう。七森ロケット成功です」


「……」


読んでいただきありがとうございます!


作品が面白いと思った方は☆5、つまらないと思った方は☆1の評価をお願いします!


評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


『この作品の読者はもう吾輩の舌の上だ』

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