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33 クッキンアイドル パイ!パイ!ぼいん!

 ぐるるー。体育館を出たタイミングでクリスのお腹が鳴った。だが、お腹の音を気にする素振りはなく言った。


「少しお腹空きましたねー」


 今は夕方になりかける晩御飯前の時間で小腹が空き始めるタイミングだ。


「じゃあ料理研究部いこうか~。私もお腹空いたからなんか食べたいかも~。

 叡人君は次に行くのは料理研究部でいい~?」


「部活は問題ないですけど、目的は写真の練習とアルバム用の写真ですからね?」


「分かってるって~、次は任せて~」


 不安しかない。葉月先輩は料理研究部が活動している家庭科室の扉をノックする。


「失礼します~」


「はーい、って彩音じゃん。どうしたの?」


 葉月先輩の後に続き家庭科室に入ると甘ったるい匂いに体が包まれる。室内は生地を混ぜたりしていて、絶賛お菓子作り中だった。


 出迎えてくれたのは紫色の髪と泣きぼくろが特徴的な人だった。いや、もっと特徴的なものがある。おっぱいだ。Yシャツのボタンを第二ボタンまで外しているにも関わらずはち切れそうなボリュームのおっぱいだ。


「藤原さんって料理研究部の部長だったよね~?

 実は今、写真部で卒アル写真と写真を撮る練習をかねて部活にお邪魔させてもらっているんだけど、大丈夫かな~」


「うん、いいわよ。バレー部のほうも盛り上がってたの聞いてるよ」


「ほんとに⁉ ありがとう~」


「ところで、そこの女の子は彼氏との子ども?」


 藤原先輩は僕とクリスを見た。このやり取りって毎回やらなきゃいけないの?


「ち、違うよ~。同じ部活の後輩と社会科見学?みたいな子かな~」


「私は藤原紫苑(ふじわらしおん)よ。よろしく」


「七森叡人です。よろしくお願いします」


「クリス、綾辻クリスです」


 髪をかきあげながら、下の名前から名乗った。


 なんでちょっとかっこつけた自己紹介してるんだ?


「ゆっくり見ていってよ」


 藤原先輩は自分の作業に戻った。


「葉月先輩は藤原先輩と知り合いだったんですね」


「同じクラスなんだよね~」


「へー。その割に葉月先輩は少し距離を取っているような感じがしますけど」


 呼び方が相手は下の名前なのに葉月先輩は苗字でさん付けである。


「ちょっと苦手なタイプなんだよね~。美人でスタイル良くて、料理もできて完璧な人なんだよ~。私みたいな虫けらは近寄りがたいんだ~」


 隙がなさすぎて取っつきにくいってことか。可愛いというよりかはきれいで大人っぽい見た目も人によっては怖く見えるのかもしれない。


「それにかなりの男たらしって噂だから。あんだけ美人ならそりゃそうだよねーって納得だけど。叡人君も気をつけてね~」


「男たらしって言っても人は選びますよね。僕は大丈夫ですよ」


 もしその噂が本当だとしても、たぶらかしてるのはイケメンだけだろう。僕みたいな陰キャには関係ないことだ。


 何の気なしに藤原先輩の方を見ると目が合った。藤原先輩は妖しく微笑んで小さく胸の前で手を振った。天然なのか計算なのか計算された天然(結局これも計算)なのかわからないが男を食ってる姿は想像できる。


◆◆◆


 葉月先輩は友達がいる所に行き、クリスは他の部員に囲まれ愛でられている。写真を撮ることが目的なのにいつしか2人ともお菓子作りに参加している。予想がついていたことだからすぐに諦めがついた。


「はぁ、僕だけでもちゃんと部活をしよう」


 教室全体の様子や作業中の手元や表情をカメラに収める。だが、イマイチ集中できていない。理由は明白。知らない人が多くいる上に室内は全員女の子。自分が場違いすぎる。


「他の2人はすっかりお菓子作りに夢中みたいだけど、後輩くんは真面目に部活していて偉いわね」


 モデル歩きをしながら話しかけてきたのは藤原先輩だった。肉感のある唇から発せられる言葉は普通の言葉なのにエロく聞こえる。


「そんなことないですよ。先輩はお菓子作りから離れて大丈夫なんですか?」


「問題ないわ。もう焼き上がりを待つだけだから。

 時間あるから少しお話しましょ。そこ、座って」


 言われるがまま近くにあった丸椅子に座ると藤原先輩も隣に座った。長く白い脚を組んだ瞬間にスカートの丈が少し上がる。太ももが露わになり目のやり場に困る。


「ふふっ。後輩くんは可愛いわね」


 この先輩やりづらい。


「藤原先輩はどうして料理研究部に入ったんですか?」


「料理して、食べるのが好きだから」


 男を、って言外に言ってそう。


「深い意味はないわ。食べ物って生きていく上では不可欠で人の体を構成しているものじゃない? もしそれをすべて自分で調理したものにしたらその人を支配したことにならないかしら? そう考えると楽しくてどんどん上達したわ。『男を掴むなら胃袋から』って至言よね」


 両手で頬杖をついて口の端を吊り上げている藤原先輩の顔が何を想像しているのか知りたくない。


「その言葉にそこまで怖い意味は含まれていないと思いますよ」


「そうかもしれないわね。でも言葉の解釈なんて人それぞれだから、私はそう解釈することにしたの」


「解釈は人それぞれですけど、その言葉を作った人は絶対にそんなドSな意味を含んで言っていないことは確かですよ。

 藤原先輩の話からすると料理を始めるきっかけは好きな人ができたからなんですか?」


 このまま藤原先輩の怖い性癖を深堀りしたくないからピュアな話に逸らす。


 すると僕の唇に人差し指が当てられた。


「それを後輩くんに話すのはまだ早いわ」


「……」


「せっかくだから私が作ったお菓子も食べて行ってよ」


「さっきの話を聞いた後だと怖いんですけど」


「変なものは入ってないわよ。他の子とも作ってるから」


 1人で作るときは何か入れてるってこと? もし藤原先輩に手料理が振舞われることがあれば先にレシピを見せてもらおう。


「わかりました。いただきます」


「うん。焼きあがったら教えるからレイン交換しよう」


 ポケットからスマホを取り出しレインを開く。


「叡人君~? 何してるのかな~?」


「あら、来ちゃった♡」


 『ゴゴゴゴゴゴ』と背景にでてきそうな迫力がある葉月先輩が僕に話を聞きに来た。藤原先輩は楽しそうなリアクションをした。


「あ、あとで藤原先輩からお菓子もらおうと思って焼き上がりの時間を知るためにレ、レインを交換しようとしてました」


「ふーん。ちょうどいいね~。私もお菓子作って後で食べにくるから藤原さんのお菓子もその時でいいよね~? だからレインは交換しなくて大丈夫だよね~?」


「そーですね」


 笑っていいともみたいな返答になってしまった。


「七森さん尻に敷かれてますねー」


 葉月先輩に言い返せないところをにやにやしながらクリスも見ていた。


「うるさいなー、お前もお菓子作ってたのか?」


「私はスープ作ってました。甘い物だけだと飽きると思って」


 やっぱり写真は撮ってないんだな。


「お菓子は出来上がるまでまだ時間がかかるようなので他の部活を見に行きませんか?」


「それには賛成するけど、今度こそ真面目に活動するんだぞ?」


「わかってますよ」


 釘は刺したけど、鋼のメンタルだから刺さってないな。


読んでいただきありがとうございます!


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『3分の1の純情な感情。残った3分の2は高評価といいねとブックマークをしたくなる感情』

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