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30 試しの門

「何で生徒会室の場所まで知ってるんだよ」


「偉そうな人間は高いところにいるって相場が決まってるじゃないですか」


 僕と先輩とクリスは4階にある生徒会室の前まで来ている。大きな扉が待ち構えており、いかにも権力者がいますって雰囲気だ。


 この学校の生徒会の権力を知らされる前であれば扉を開けることに抵抗はなかったが、知ってしまった今は開けたくない。


 コンコン 。


 クリスは僕の思考を無視するようにノックをした。


「どうぞ」


 無機質だけど扉越しとは思えない明瞭な声が返ってきた。


 クリスが扉を押すが、びくともしない。


「ふざけてないで早く入るぞ」


 許可を得たのであれば早く入って用事を済ませたい。僕も扉を押したが1ミリも動かなかった。


「なるほどね。これを開けられない人は生徒会室に入る資格がないってことですね。重さは大体片方2トンずつってところですかね」


 よく見ると扉にはⅠ~Ⅶまで書かれている。生徒会室はいつからゾルディック家になったんだよ。


 クリスは腕まくりをして、息を大きく吸い、力を溜めてもう1度扉を押す。


 ギギギと音を立てながらゆっくり扉が開いた。


「ふー、ようやく開きました」


「クリスちゃんすごーい」


 呑気に感心できるところじゃないだろ。


「お前どんだけ力あるんだよ! あれは明らかに人間が開けられる重さじゃなかったぞ!」


「か弱いレディーになんてことを言うんださわ。閉まる前に入るんだわさ」


 驚いているのは僕だけで2人は何食わぬ顔で生徒会室に入った。


 一般的な教室とはかけ離れた絢爛豪華(ごうかけんらん)さは貴族の洋館を思わせる。シャンデリアとかよくわからない絵画が飾ってあり、4階全てのスペースを使っていそうなくらい広い。上品なテーブルクロスが敷かれた長机には生徒会長とギャルがいる。


「随分と可愛らしい来客だと思ったら七森っちたちのガキっすか。来る場所違うっすよ。市役所とかじゃないすかー?」


 キャンディーを口に咥えて椅子に踏ん反り返ったギャルが最初に話しかけてきた。生徒会に所属するような人間には見えない態度だ。いや、この学校の生徒会は他とは違うからきっと常識という物差しで測ってはいけない。


「どう見ても僕たちの子どもじゃないですよ! この子何歳だと思ってるんですか!」


「騒がしい。静かにしてください」


「す、すいません」


 冷や水を浴びせられたように生徒会長に冷たく注意される。


「ご用件を伺います」


「今度写真部の活動として部活をしている生徒の写真を撮ろうと思っているんですけど、そこに(わたくし)こと綾辻クリスも参加させていただけないでしょうか」


 会長は書類作業の手を止めてクリスを見つめた。


「そもそも綾辻さん、入校の許可は取りましたか?」


 相手が小学生でも表情も声色も全く変わらず機械的だ。小さい子にとっては威圧的とも思われる態度だがクリスは全く動じることなく答える。


「入校許可は生徒会長からこの場でもらいます。水翠(すいせん)高校は生徒会長が認めれば問題ないですよね?」


 微笑を浮かべながら生徒会長と会話するクリスの強気な姿勢は周囲を凍らせる。いつもの明るいクリスではない。『いさな』と呼ばれる子が持つ暗さが成熟したような異質な空気を放っている。


「おいガキ。ガキだからってお願いすれば許されると思ってるんすか? その油断と甘さは命取りっすよ」


 生徒会長への態度が気に入らなかったのかギャルが苛立った様子である。


「油断? 何のことですか? これは余裕というものですよ」


 クリスとギャルの視線が交錯する。


「それで、そちらがお願いに来たのであれば私たちにも見返り、メリットがあるはずです。それを提示してください」


「まだ勘違いしているんですか? これはお願いではなく命令です。私に入校許可を出してください」


 呆れ混じりのため息をついてから生徒会長が答えた。


「お断りします。最低限の礼儀を勉強してから出直してください」


 申し出を断られたクリスは生徒会長の作業中の机に横から座り何かを耳打ちした。


「……」


クリスは生徒会長の顎を指で固定し自分と目を直接合わさせる。


「もう1度言います。綾辻クリスが命じる。我を認めよ」


 会長は短い沈黙の後、瞑目して答えた。


「わかりました」


 諦観が含まれた承諾の意を示した。


「ありがとうございます! 高校の部活動を経験できるなんて楽しみです! にぱー」


 さっきまでとは正反対の純真無垢・天真爛漫な笑顔でお礼を言ったクリスは生徒会長の元を離れ、僕たちのほうに戻った。


「生徒会長の許可が取れましたし、部室に戻りましょ。七森さん、彩音さん」


「お、おう」


「だね~」


◆◆◆


「さっきのクリスちゃん、あの生徒会長にあそこまで言えるなんてすごいね~」


「そんなことないですよー。少し怖い感じしましたけど話せばわかる人でよかったです!」


 話せばわかるというよりかはわからせたと言ったほうが正しい気がする。


「クリスはあの時耳打ちして何を言ったんだ?」


「何でしょうね。権力者の上には権力者がいるんですよ。生徒会長って絶大な権力を持っているみたいですけどそれは学校内に限った話ですから。外の世界では無力です」


 戦略と戦術の違いとか言ってたけど、要は権力でねじ伏せただけじゃん。


「クリスちゃんが生徒会長と話しているとき、いつもと雰囲気が全然違っててびっくりしちゃった~。まるで別人に切り替わったみたい」


 声に強張りはまったくなく、自然な会話の中の質問に思えるが今抱えている疑問をストレートにぶつけている。


 ここでのクリスの答え方によっては何か掴めるかもしれない。


「絶大な権力を持つ生徒会のトップと話すってことで変な中二病スイッチが入っちゃっただけですよー。言葉と言葉の殴り合いというか知略と知略のぶつかり合いみたいなことをしてみたくて変な雰囲気というか言葉遣いになっちゃいましたね」


 アニメ好きにとって中二病というのは職業病だからこの回答に不自然な点はない。


「それでもあそこまで雰囲気変わらないよ普通~。演技とかやってたの?」


 先輩はさらに掘り下げようとする。クリスに会える機会は多くないから今のうちに隠している何かを掴めるヒントを聞き出しておきたいのだろう。


「やってないですよ。そこまで褒めてもらえてうれしいです!」


 多分、この会話を続けても何か手がかりが出てくるとも思えない。クリスに何か隠し事があったとしたら、それを探ろうとしてると知られるのはまずいし、何もないのに変に質問を繰り返していると気分を害すかもしれない。


「ところで部活の撮影はいつにするんですか?」


「来週のどこかでやる予定なんだけど、無理な日とかある~?」


「僕はいつでも大丈夫です」


「私は金曜日がいいです」


「じゃあ来週の金曜日にしようか~」


◆◆◆


 迎えた撮影日。それぞれがカメラを持参。葉月先輩は神社に撮影に行ったときに使ったカメラ、クリスも自前のカメラを持ってきていたがチェキが現像されるタイプのインスタントカメラであり、卒アルなどに使う記録用には向いていないため僕の予備カメラを貸した。


「まずはどこの部活を見る~?」


「七森さんや彩音さんの友達がいる部活がいいんじゃないでしょうか?」


 今日のクリスはちゃんと入校の許可を取っているため、腕には腕章がついている。これで不法侵入でなくなった。


「叡人君って何部に友達がいるの~?」


 転校初日から仲良くしてくれた慎吾が思い浮かんだ。彼なら撮影も快く引き受けてくれそうだし、運動部って動きがあって撮るのも楽しそうだ。


「バレー部に友達がいますから、そこに行くのはどうですか?」


「よし、じゃあ体育館に行こう~」


読んでいただきありがとうございます!


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評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


『中二病でも高評価がしたい!』

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