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 スマホの通知音で目が覚めた。外は暗くて僕は学校をさぼって1日眠っていたようだ。通知先を確認するために画面を覗くとやたらとZの通知があった。


 写真部の投稿中で一際いいねやリポストが集中している投稿があった。昨日僕が編集した写真だ。いいねとリポスト両方が1万を超えている。バズっている。


 コメントには『かわいい』『美人』『これから推します』など好意的なコメントが多く寄せられているとともに『この制服どこ?』『水翠高校じゃない?』『アカウント名が写真部だけどそんな部活なくね?』『この人水翠高校の生徒⁉』『誰⁉』『モデルさんかな?』など高校やモデルが誰であるかについて盛り上がっている。水翠高校や水翠高校写真部がトレンド入りしている。事態を概ね把握したところでスマホが振動し、コール音が鳴る。


「もしもし」


「ようやく出た~! 叡人君学校にもいないし電話も出ないから心配したよ~! 体調悪かったの?」


 開口一番叫ばれて耳がおかしくなりそう。


「ずっと寝てました」


「ぷっ、なにそれ~。私の心配返してよ~」


「すいません。それよりもうちの部のアカウントなんかヤバくないですか?」


「ヤバいなんてもんじゃないよ~。バズってるよ~。私の写真じゃんとか色々言いたいことがあるんだけど直接話したいからまた今度ね~。

 今日は叡人君がいなかったから生徒会の人も正式な判断は後日ってことだったけど明日は来れそう?」


「明日は行きます」


「おっけ~。じゃあ、明日放課後部室でね~。ばいば~い」


 とりあえず廃部の危機は去ったかもしれない。水翠高校がトレンド入りしているから学校の名前はかなり売れたはずだ。不安なのは判断基準が生徒会長の独断と偏見であることだ。


◆◆◆


 「お疲れ様でーす」


 1日ぶりだけど久しぶりに感じる部室の扉を開けると紅茶の匂いが僕を迎えた。


「叡人君お疲れ~、そしてありがとう~」


「七森、でかしたなー。あの写真すごいよく撮れていたね」


「ありがとうございます。僕自身あそこまで反響が大きくなるとは思っていませんでしたけど」


 SNSで色んな感想もらって嬉しかったけど、直接褒めてもらえるのが一番嬉しくて心が温かくなる。


「それと、叡人君! なんで私の写真をアップしてるの~! すっごく恥ずかしいんだけど!」


 恥じらいと怒りで顔を赤くしているが、ぷくっと膨らました頬が可愛くて迫力は皆無。


「すごくきれいな人がいたから癖でカメラで撮りたくなったんですよ。おかげで昔のことを乗り越えることができました。本当にありがとうございました」


 改めて感謝の言葉をはっきりと伝えると先輩の顔からは湯気が出そうなほど真っ赤にのぼせていた。ついでに眼鏡もずり落ちた。


「ま、まあ叡人君も言いにくいことを言ってくれて私もスッキリした部分があるからいいんだけど~。

 以降は勝手に人の写真を撮ってネットにあげないこと。私だったから良かったもののどんなトラブルになるかわからないからね~」


 ずり落ちた眼鏡を直して注意した。照れながら言っているから可愛くて注意されている気がしない。


「先生もいることをわすれるなよー。ラブコメはよそでやってくれ。適齢期にきている女性には結構こたえるんだぞ」


 切実なクレームだ。


「すみません、いい人見つかるといいですね」


「なんか私の扱い雑くない?」


「ところで、あの写真で先輩は色んな人から声かけられるようになったんじゃないんですか?」


「え、無視?」


 適齢期で神経質になっている女性はめんどくさい。


「それが聞いてよ!」


 机をバンっと両手で叩いて立ち上がった。


「葉月も先生を無視するの?」


 先生は1人で泣いている。


「誰もあの写真の人物が私って気づいてないんだよ~」


 立ち上がったと思えば力なく腰を下ろして顔を伏せて泣き始める。


 妙齢の女性と年頃の女の子が僕の目の前で泣いている状況は修羅場だ。僕の先輩と先生が修羅場すぎる。


「気づかれたかったんですか?」


 おっとりした性格の先輩はあまり目立ちたいと思うタイプじゃないと思っていた。勢いで投稿してしまった写真であり、ここまで広まるとは思っていなかったから配慮が足りていないと反省していたところだった。


「うん、あんなに可愛く撮ってもらえたんだから気づいてもらいたいよ~」


 そう言ってもらえるのは撮影者冥利に尽きる。


「自分から話してみたらどうです?『この子可愛くない?』って言って写真を見せるんです」


「それはちょっと痛いよね~。もしかして写真と実物が違いすぎるのかな~、うう~」


 手鏡に映る自分の顔と写真を見比べ、項垂れる。


 色味や明るさなどは編集で変えているが、顔の造形はいじっていないから実物と違うということはない。


「葉月ちゃんだとバレてないのは葉月ちゃんには顔よりも目立つ部分があるからっすよー」


 棒付きのキャンディーを咥えながら気だるげな声を発するのは校則を無視した短いスカートとネックレスや指輪などキラキラしたアクセサリーを身につけているギャル副会長だ。


 あー、納得かも。


 先輩はギャルの視線に感づいてある部位を手で隠す。


「叡人君の変態」


 唐突な罵倒。


「僕ですか⁉」


 ギャルの発言で少しだけ、ほんの少しだけ見てしまっただけなのに気づかれた。


「もしかしたら顔バレならぬパイバレはするかもっすねー」


 呑気なことを言っているがあり得る。超高校生級の大きさを誇る先輩のおっぱいは全男子が注目しているからな。あの写真におっぱいが写っていれば、水翠高校の生徒かつ巨乳という特徴を持つ先輩は、いつ見抜く生徒が現れてもおかしくない。


「そんなふ不名誉な身バレ嫌だよ~」


 またしてもシクシク落ち込んでいる


「それにしても女の子と女の人、2人を泣かせるなんて罪な男っすね~」


 挑発的な笑みを浮かべた僕に言うが今のはお前だぞ。ていうか先生は無視されただけでいつまで泣いてるんだよ。


「僕が泣かせたわけでは―」


 訂正しようとするとより大きな訂正が割って入った。


「なぜ女の子と女の人で区別した! ばばあって言いたいのか! あん?」


 急にしゃべり出したかと思えば鬼の形相でギャルにメンチを切る。鋭い眼光は教師が生徒に向けるそれではない。殺してやる殺してやると目から呪詛を吐き散らしている。


「さーせん、無意識っす」


 意にも介さず浅い謝罪で受け流した。


「無意識? 無意識に人をばばあ扱いするとは一体どんな教育を受けてるんだ?」


 あんたも教育してる側だからな。


「白石先生、申し訳ございません。彼女には私から言っておきますので」


「……」


 無機質で機械的な声が仲裁に入る。正確無比なお辞儀で流麗な長い銀髪をなびかせる。その美しく洗練された所作にこの場にいる人間は息を呑んだ。


「本日写真部に参りましたのはこの部の存続結果について報告するためです。

 条件は、1か月以内にあなたたちの写真でこの学校の名前を有名にすること」


 一瞬で場の空気を支配したことに顔色1つ変えず会長は本題に入る。


 誰もが今から発される言葉に耳を傾けている。飄々(ひょうひょう)としていたギャルも今では固く沈黙している。


 生徒会長の冷たい声とギャルの表情から結果は見えた。


 確かにトレンド入りしたとは言え、そんなのは一過性なものであり、すぐに忘れられてしまう。有名という条件が曖昧だが、一般的に言えば全国区で名前が通るという意味合いだろう。写真1枚がバズっただけでそこまではいかない。


「結論から言えば合格です」


 黒縁の眼鏡を上げて言った。


 写真部はボロ雑巾のように捨てられると思っていたから発せられた言葉に声を失い、硬直した。僕の中の時が止まり、心臓も止まった。


 そしていつの間にか横に先輩がいて僕の頭を撫でている。ヘブンズタイムでも使ったのかな?


「叡人君、ありがとう~。君のおかげで部活を続けられるよ~」


 感謝と安堵に満ちた陽だまりのような先輩の笑顔を至近距離で浴びて昇天しかける。


「七森のおかげでお茶会が続けられる」


 アラサー独身女性の声で昇天しかけた魂は現実に引き戻された。


「七森、今失礼なことを考えなかったか?」


「まさか。滅相もございません」


 目的は達せられたから生徒会の人には早く帰ってもらいたかったが、そうはならず生徒会長に当然の疑問が投げられた。


「やっぱりそうなんすね。ちなみに理由はなんすか?

 この写真だけがたまたまバズっただけでこの先はしょうもない写真しか撮れないかもしれなっすよ」


 態度からしてギャルは生徒会長の結論を聞いていなかったようだ。だが、予想はついていたような反応だ。


「それはあり得ません」


 生徒会長はギャルの言葉を真っ向から確信を持った声で否定した。その声にはこれまで機械的な声しか聞いていなかった僕には新鮮に感じる感情が籠っていた。


「あの写真は一朝一夕で撮れるものではありませんし、編集も細部まで技術やこだわりが詰まっています。あの1枚はこれまで写真に真摯に向き合った人間だけが作れます。なので、今後手を抜いた活動をすることはないです」


 真っ直ぐ僕の目を見た。


 体中から熱い何かがこみ上げてくる。


 僕が写真家として活動していて1番嬉しい瞬間はいつか? いい被写体を見つけたとき? いい写真を撮れたとき? いい編集ができたとき? 僕にとってはどれも違う。人の心を動かしたときが1番嬉しい。


 生徒会長の心を揺さぶることができたから部の存続を認めてくれたし、今の言葉を聞くことができた。


「ありがとう、ございます」


 絞り出した感謝の言葉は少しだけ湿っていた。


「当然の評価をしただけです。これからも精進してください」


 仕事が終わった途端、生徒会長は颯爽と教室を出た。


「七森っち、次はウチの写真撮ってよ。美少女の口で温めた飴代は高くつくっすよ」


 前回同様に自分の舐めた飴を僕の口に突っ込んだ。


「ギャルはお断りです。好みじゃないので」


「次会うときは清楚になってくるっすよ。ウチの名前は東城さやか、今後ともよろ~……ぶべ」


 言いたいことだけ言って会長の後を追い走り出した。そして転んだ。短いスカートから覗いたのはいちごパンツ。いらんのよ、ドジっ子属性。


「次会うときは清楚になってくるっすよ。ウチの名前は東城さやか、今後ともよろ~」


 テイク2。今度は無事に教室から出た。


「じゃあ、あたしも職員会議があるからこの辺で」


「頑張ってください~。引き続き顧問よろしくお願いします~」


「おう、美味しい紅茶と活動記録は忘れないようにな」


読んでいただきありがとうございます!


作品が面白いと思った方は☆5、つまらないと思った方は☆1の評価をお願いします!


評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


『40秒で高評価しな』

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