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26 かくしごと

 1人で動画を見ながらメイクの練習をする。


 ビューラーでまぶたを挟んだり、ファンデを塗りすぎて首との色が違くなりすぎたり、眉毛を揃えようとしてどんどん太くなったりした。


 数多の苦難を乗り越えて一応完成。


 うーん、わからない。自分の顔って客観的に見ることが難しい。自分ではうまくいったと思ったけど、他の人から見たらあまり変わっていなかったり、おかしなところがあるかもしれない。


 クリスちゃん早く戻ってこないかなー。


 コンコン。


清正(きよまさ)だけど入って大丈夫かな?」


 クリスちゃんだと思って期待したけど違った。


「どうぞ」


「お邪魔します。彩音(あやね)ちゃんにちょっと頼みたいことがあるんだけどいいかな?」


「何をですか?」


「ちょっとまた見てほしい動画があってさ。神社のプロモーションビデオの第二弾!」


 魅力的な笑顔でピースサインをする彼に瞳が吸い寄せられる。改めて見ると悪魔的にきれいに整った顔立ちをしている。他にも声や仕草など一挙手一投足が洗練されている。


 富宇賀町(とみうがちょう)を大きくしたのは彼の経営手腕だけではなく人を惹きつける何かがあるからに違いない。何もしていなくても彼に好印象を抱いてしまう。彼ならアイドルグループにいればセンターで歌う、選挙に出馬すれば当選、Vtuberのようなアバターになってもその魅力は陰りを見せないだろう。


 そんな人が田舎の神社で神主をして、地元の発展に奮起しているのかが不思議だ。


「さっきまで動画の編集してて今できたてほやほやなんだよ。自信作だから見てよ!」


 屈託のないきれいな顔で頼まれるとつい首を縦に振ってしまいそうになる。が、クリスちゃんの言っていた言葉を思い出す。


 『絶対に関わらないでください』


 実の父親に言う言葉とは思えない。それでも、だからこそ信じるに値するお願いだ。


「そろそろ娘さん戻ってくると思うので部屋から出ないと嫌われちゃいますよ」


「大丈夫。お義母さんがしばらく説教しているから戻ってこれないよ」


 間髪入れずに言い切った。


 お説教が長くなるのはいつものことだからなのか、クリスちゃんが戻ってこないことに自信を持っている。


「メイクの練習の途中なんで、キリのいいところまでできたら私から声かけますよ~」


 一瞬、私を見る目が鋭くなった。体が強張り、金縛りにあったように固まる。動けない。声も出せない。このままだと息もできなくて窒息死しそうだ。


「……そっか。じゃあ、終わったら声かけてね」


 扉が閉まり、部屋は私1人になった。


「はあはあはあはあはあはあ」


 止まっていた酸素の供給が再び始まる。


 乱れた呼吸を整えてから横になる。


◆◆◆


 体を優しく揺すられている。


 瞼をゆっくり開けるとちょこんと座ったクリスちゃんがいた。


 いつの間にか眠っていたようだ。体を起こしてからスマホで時間を確認すると、18時前だった。そろそろ帰らないと迷惑になる。


「ごめん、クリスちゃん、寝ちゃってた。私ってどのくらい寝てた?」


「クリスって誰? お姉ちゃん、前にも神社で見たことがあるけど誰ですか?」


 警戒心と怯えが混じった声で問いかけられた。


 見た目はクリスちゃんだけど、私のことを知らないのだとしたら、クリスちゃんの双子の妹のいさなちゃんかな。


「初めまして。私は葉月彩音です。よろしく」


 怖がられないように精一杯の笑顔で明るく自己紹介をした。


「龍守いさなです」


 小さい声で私の目を見ることなく言った。


 目が部屋の明るさに慣れてわかったことだけど左頬だけ赤い。


「いさなちゃん、ほっぺが赤いけどどうしたの?」


 すぐに頬を手で隠した。


「何でもないです。わたしがなぜかお稽古サボってておばあちゃんに怒られただけです」


 なるほど、ぶたれたのか。今時そんな教育をする人っているんだな。人の家の教育方針に口を出すべきではないけど、暴力を使ってはいけない。子どもにトラウマを植え付けてしまって一生の傷になるかもしれない。


 ていうか、クリスちゃんだけじゃなくて妹のいさなちゃんも稽古サボったんだ。まあ、あのおばあちゃんと稽古はしたくないよね。


「大丈夫なの?」


「うん、もう許してもらえたから」


 小さく頷いて答えた。


「あんまり無理しなようにね。

 私はさっきまでお姉ちゃんのクリスちゃんと遊んでたんだけど、どこにいるか知らない?」


「お姉ちゃんってわたしの?」


「うん、クリスちゃんのこと」


「誰? わたしはお姉ちゃんいないよ」


「え?」


「わたしに兄弟や姉妹はいない。一人っ子」


 どういうこと? 性格こそ違うが見た目は一緒なのに姉妹がいない。


 クリスちゃんは何者? 幽霊? 


 今までのクリスちゃんとの出来事を整理しよう。最初に会ったのは叡人君と神社に行った帰り際。あのときもおかしかった。叡人君は知っている人に声を掛けているつもりだったけど、声を掛けられた女の子は叡人君のことを知らなかった。ということはあの時会ったのはいさなちゃん。そして、叡人君が海辺で会ったことがあるって言っているのはクリスちゃん。


 2回目に会ったのは部活で写真の編集をした後だ。あの時に会ったのはクリスちゃん。自分に双子の妹であるいさなちゃんがいることを説明した。


 3回目が今日。おばあちゃんに連れていかれる前はクリスちゃんで、お説教が終わって戻ってきたのはいさなちゃん。クリスちゃんは双子と言っていたけど、いさなちゃんは姉妹はいないと言っている。ここが二人の主張の違いだ。


「いさなちゃん、本当に姉妹がいないって誓って言える?」


「うん。でもどうしてそんなことを聞くの?

 前にもクリスって男の人にも呼ばれたけどそれと関係あるの?」


「実はあなたにそっくりな綾辻クリスちゃんっていう女の子会ったことがあるんだけど心当たりない?」


「ないよ」


「そう、ごめんね。変なこと聞いちゃって。私は帰るね」


 足早に部屋を出ながら思考を加速させる。


 クリスちゃんはいさなちゃんを知っているけど、いさなちゃんはクリスちゃんを知らない。2人が一緒にいてくれれば比較して違いわかるから今後間違える可能性は低くなる。数回しか会ってないからそれでも区別できるかはわからないけど。


 2人が一緒……。2人が同一人物の可能性は? クリスちゃんに部屋を案内されたけどベッドや机などの家具は全て1つだけで2人部屋には見えなかった。クリスちゃんの部屋だと思っていたけど、いさなちゃんもあの部屋を使っている。やっぱりあの2人は同一人物で二重人格だと思う。いさなちゃんはそのことに気がついていないみたいだけど、クリスちゃんはそのことを知っている。だから別の名前を名乗っている。


 二重人格説が正しいのかどうかは置いておいて、家族はクリスちゃんのことを認識しているのだろうか。知らないという可能性が高い。クリスちゃんは家族の前では雰囲気が暗くなる。これは自分が別人格であることを隠すためにいさなちゃんの性格を真似しているのではないか。


 今のところできることは叡人(えいと)君にも相談することとクリスちゃんに確認してみるくらいだ。でも、真実を明かすことが正しいかはわからない。クリスちゃんが隠しているということは知られたくないのだろう。


 それにここまで考えたけど二重人格なんて考えにくい話だ。アニメやドラマみたいなフィクションでしか見たことがない。


 考えるのはやめだ。クリスちゃんが二重人格かもしれないとか言って違ったら恥ずかしすぎる。もし、叡人君と一緒にいるときにまた気になることがあったら今回のことをそれとなく話してみよう。


読んでいただきありがとうございます!  


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『ふるえるぞ高評価!

 燃えつきるほどいいね!!

 おおおおおっ

 刻むぞ血液のブックマーク!』

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