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24 お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

 校門を出て先輩と帰る途中、見知ったランドセル姿を発見した。


「クリスー!」


「あ、なななもりさん!」


 呼ぶとこちらに気づき、天真爛漫な笑顔を見せる。


「『な』が1個多い」


「失礼、噛みました」


「違う、わざとだ」


「噛みまみた」


「わざとじゃない⁉」


 クリスと懐かしいやり取りをしていると葉月先輩が不思議そうに尋ねてきた。


「その子と知り合いなの?」


「前に神社に行ったときに会った子ですよ」


「あの巫女服の女の子か~。私服で気が付かなったよ~」


 すぐに思い出すが、また別の疑問が出てきた。


「でもあの時は叡人君と知り合いには見えなかったよ~?」


 そういえば、なぜあの時は僕のことを知らないふりをしたのだろうか。そもそもふりだったのかすら疑うレベルの自然さで本当に僕のことを知らなかったようにも思える。


「クリス、あの時何がしたかったんだ?」


 Lのマネをしたのかと僕は思ったが違っていた。特にクリスからは何も言わず、祖母が現れてそこで終わってしまった。


「昨日、神社の別館で会ったときのことは詳しくは言えないですね。神社の内部的な事情が原因なので」


「その時のことじゃなくて、最後に鳥居の前で会っただろ」


 見た目は同じだったが、いつもの元気なクリスとは違った。


「鳥居の前……? えーと、そんなことありましたっけ?」


 覚えていないというよりも、知らないという様子だ。そしてまだ疑問はある。


「クリスのおばあちゃんらしき人から『いさな』って呼ばれてたけどあれが本名なのか?」


 クリスの顔色が真剣なものに変わった。顎に手をつき、何かを考え込んでいる。全ての事情を把握したかのように深く瞑目してから目を開く。


「多分、それは私の妹だと思います」


「え? 妹?」


 思ってもいない答えに聞こえていたのに聞き返してしまった。


「はい。双子の妹がいるんですよ。私と性格は正反対。私みたいにうるさくないお淑やかな女の子でしたよね?」


「クリスだと思って声をかけたら雰囲気が全然違くてびっくりしたよ」


「見た目はそっくりですからね」


「ていうことは叡人君は見知らぬ小さな女の子に声を掛けてたってことになるんだね~」


 日曜日の状況の整理が終わると葉月先輩がとんでもない話のまとめ方をした。


「僕をナンパ師扱いしないでくださいよ」


「ナンパ師というよりも変質者じゃないかな~?」


「よりひどくなってる!」


 自分の扱いに愕然としていると先輩はクリスに話を向けた。


「ところでクリスちゃんは叡人君とどんな関係なの?」


「七森さんは私のお兄ちゃんです!」


 元気いっぱいに何を言っているのだろう。


「兄ね~、仲良しなんだね~」


 暗い目をしながらそう言った。僕のことは血のつながりがない小さな女の子に「お兄ちゃん」と呼ばせる人と思われてそうで怖い。


「ただ、『お兄ちゃん』と書いて『恋人』と読みますけどね」


 さらに変なことを言わないでほしい。僕が幼女を兄兼恋人として扱っている紛れもない変態じゃないか。


「ふーん、お姉ちゃんが社会のルール、教えてあげようか?」


「お兄ちゃんでも愛さえあれば関係ないって知らないんですか?」


 バチバチ視線で火花を散らす2人。やめてー、僕のために争わないでー。


「「ふふふふ、ははははは」」


 お互いなぜか笑い合って握手をする。


「私は綾辻(あやつじ)クリスです。お姉さんの名前はなんですか?」


「私は葉月彩音(はづきあやね)~。よろしく~」


 急に2人が仲良くなった。何か裏があるのではないかと疑う。


「ところで七森さん、彩音さんはあなたの彼女ですか?」


「いや―」


「もう、クリスちゃん何言ってるの~! 私と叡人君はそんなんじゃないって~。ただ、この前は2人で出かけたりもしたけど、そういうのじゃないんだよ~」


 バシバシとクリスの背中を叩きながら先輩は否定する。そこまで強く否定されると傷つきます。


 僕がしゅんとして落ち込んでいるとクリスが言った。


「こんなところでラブコメ主人公ムーブしないでください。

 異端者には死の鉄槌を。これより異端審問会を始めます。判決を述べます。有罪、死刑」


 クリスはいつのまにか黒づくめの恰好をしており、顔は額に「F」と書かれた黒い三角形の頭巾をかぶっている。手には髑髏のついた杖を持っている。


「FFF⁉ 判決早すぎるって⁉」


 大きく振りかぶられた杖が僕の脳天に振り下ろされる。


「冗談とかじゃないから! 本気で殺すから!」


 僕の意識は途絶えた。


◆◆◆


「邪魔者は消えました」


 クリスは彩音の方を振り向いた。


「ひっ」


 彩音は黒づくめに杖を持って叡人を気絶させたクリスに歯をカタカタ言わせながら尻もちをついてしまった。


「いい反応ですね。その畏れを集めれば私が総大将になる日も遠くないです」


「へ?」


「何でもありません。ボケが不発しただけです。とりあえず立ってください」


 黒づくめの服装を脱ぎ捨て、クリスは手を差し出す。差し出された手をおずおずと握りながら彩音は立ち上がった。


「わ、小さい~」


「何がですか?」


 クリスの視線は彩音の胸に集まっている。


「あ、ごめんね。手が小さくてかわいいなって思っただけ~」


「小学生ですから」


 はにかみながら話す彩音の対してクリスは淡々と事実を述べた。


「叡人君は大丈夫なの?」


 彩音はついさっき殴られたばかりの叡人を抱きかかえた。


「少し眠ってもらっただけなので大丈夫です」


「それは大丈夫じゃないんじゃない?」


「心配なら膝枕してあげればいいと思います。すぐに目を覚ましますが」


「ひ、膝枕⁉」


 赤面し、手をわちゃわちゃして落ち着いたかと思うと頬を両手で押さえたり。結局、丁寧に叡人の頭を持ち上げ自分の膝の上に乗せた。


「叡人君には聞かれたくない私と話したい何かがあるの~?」


「はい。あなたたちの関係はじれったいので早く決着をつけてください。鈍感難聴やれやれぼっち系ラブコメ主人公を早く落としてください」


「お、落とすって言われても叡人君にはそういう感情じゃ……」


 両手の人差し指を突き合わせながら小さな声で答えてもじもじし始める。


 対してクリスは大きな声で喝を入れる。


「甘い! 甘すぎます。コーヒー牛乳に砂糖とシロップと蜂蜜と練乳と愛情を混ぜたくらい甘いですよ」


「なんで私の気持ちが分かってるの? 叡人君が鈍感かもしれないってことも」


「何となくですよ。これまで色々な文献を読んできましたから」


 クリスが読んでいる文献とはラブコメ漫画やラノベです。


「すごい……。小学生でそこまで恋愛に真剣に向き合うなんて。

 クリスちゃん、叡人君と付き合うにはどうすればいいの?

 他の人に盗られる前に付き合いたいの」


 彩音の懇願に対してクリスはもったいぶった口調で答える。


「私のこれまで読み込んだ文献から最適な攻略方法を教えましょう。

 この方法なら確実に好きにさせることができます」


「その方法とは……?」


 ゴクリと生唾を飲み込む。


「攻め過ぎずに攻める、です」


「攻め過ぎずに攻める、深い」


 アドバイスになっているかわからないアドバイスだが、彩音はクリスの言葉を復唱して噛みしめる。


「古来より、ガンガン攻める女の子は統計的に好きな男性と結ばれる可能性が低いです。その理由は自分から何かしなくても相手から求められるからそこに男性は慢心が生まれてしまうと考えられます。

 ただ、行動を起こさなければ相手からの印象は薄れてしまいます。なのでその匙加減が大切なんです」


「なるほど、具体的に私はこれから何をすればいいの?」


 クリスの言葉を一言一句メモしながら彩音は尋ねた。


「少し耳を貸してください」


 彩音はしゃがんでクリスと高さを合わせる。


「ごにょごにょ……こそこそ……ひそひそ……」


「なるほど……そういう方法が……えっそれは大胆すぎっ」


「私から伝えたいことは以上です。

 それと彩音さんは化粧っけが全然ないのでメイクの仕方を教えてあげますので土曜日に神社に来てください」


「うん、わかった」


「もう、七森さんは起こして大丈夫です」


◆◆◆


「叡人君、起きて」


 鼓膜を優しい声が震わせる。ゆっくりと目を開けたが何も見えない。僕の視界は大きな何かに覆われている。


「うっ」


 意識が覚醒した瞬間、頭に鈍い痛みがした。よく覚えていないが鈍器のようなもので頭を殴られた気がする。


「大丈夫~?」


 この包容力や母性を感じる声は葉月先輩だ。それが上から聞こえてくる。そして寝っ転がっているのに頭には柔らかい感触がある。


 つまり、膝枕だ。ということは僕の視界を塞いでいるのは、言うまでもないか。あまり反応しているとかっこ悪いから、何事もなかったかのように起き上がろう。


「大丈夫です。どのくらい寝てましたか?」


「数分くらい~」


「なんでこんなところで僕は寝ていたんですか?」


「えーと~」


 なんて答えようか先輩は言い淀んでいる。


「七森さん、急に意識がなくなったみたいに倒れたんですよ。フィリップですか?」


頭上からクリスのボケが聞こえた。


「ドーパントなんて見たことないよ。

 あーでも、急に倒れたから頭打ったのか。ちょっとズキズキするし」


 鈍い頭痛の正体に納得すると、クリスが口元を押さえて笑っている。何も覚えていないけどこいつが原因な気がしてきた。


「クリス、何で笑ってるんだ?」


「何でもないですよー。それより家に帰って早く冷やしたほうがいいと思いますよ」


 考えてもしょうがないし、クリスが教えてくれるとも限らない。痛みが悪化しないうちに家で冷やそう。


読んでいただきありがとうございます!


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評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


『バカとテストと高評価』

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