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2 邪神が生まれた日

「君の名は?」


 僕は話していた少女に問いかけた。


「人の名前を聞くならまずは自分から名乗ったらどうですか?」


 ツッコむところはそこなんだ。アニメ好きなみたいだし、何か言われると思ったけど。


 スルーされてボケたことが恥ずかしくなって苦笑しながら自己紹介をする。


「そうだね。僕は七森叡人(ななもりえいと)水翠(すいせん)高校2年だ。といっても本格的に通うのは明日からだけど」


「この辺りで1番の進学校に通うなんて七森さんって頭いいんですね。

 明日から通うってことは転校してきたのですか?」


 女の子は少しの敬意の目と当然の疑問をぶつける。


「うん。色々あってね。

 改めて聞くけど君の名前は?」


 転校した理由については聞かれないようはぐらかし、女の子に話を振った。


「よくぞ、聞いてくれました」


「さっきは自分から名乗れとか言ってたくせに」


「小っちゃいことは気にすんな」 


 そしてそのまま毅然とした声で続けた。


「水上小4年。綾辻(あやつじ)クリス。ただの人間に興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上」


 なんとなく予想はしてたけど本当にやるとは。この歳でここまで完成しているとは、末恐ろしい。


「もう少し普通の自己紹介をしたほうが人間関係は円滑に進むぞ。その自己紹介はオタクの誰もが行い黒歴史になる通過儀礼だからな」


 人生の先輩であり、経験者である僕はしっかりと伝えた。どうか犠牲者が増えませんように。


「普通とは何ですか?」


「それは難しい質問だな。言い方を変えよう。無難な自己紹介をするんだ。クラスに40人いたら30人くらいはやる自己紹介だ」


「ふむふむ、なるほど。では改めて」


 顎に指を添えてうなずきながら、別の自己紹介を考え思いついたようだ。


「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、綾辻クリスです」


 仮面ライダーの変身ポーズを決めて言い放った。


 僕はため息しか出なかった。


「それがクラスの30人がやる自己紹介か?

 さっきよりもネタは伝わりにくいし情報が名前しかない」


「むむっ。七森さんは手厳しいですね」


 綾辻さんは眉を寄せてムッとした表情をする。


「一般論を述べているだけだ。それを本当にやったら取り返しのつかないことになる」


 僕は初対面の女子小学生にガチの注意をしている。本来なら出会ったばかりの人間がするようなことではなく、他人が踏み込むべきではないかもしれない。


 それでも、人生の先輩としては何も言わずに放置なんてできない。


「七森さんは何を心配しているのやら。私がやったときはクラスメイトから『おもしれー女って声かけられましたから」


 駄目だこいつ…早くなんとかしないと…


 クラスメイトからバカにされていることを暗に気づかせてあげないと。


「綾辻さん、」


「クリスでいいよ。女子小学生に『さん』なんてつけないでくださいよ」


「ああ、うん」


 女の子をいきなり下の名前で呼ぶのは気が引けるが、本人がそう言うなら従うしかない。


 いや、待て。自己紹介が強烈で気づかなかったがこいつの名前、明らかに偽名だろ。


「クリス、君はいつから小学生探偵になったんだ?

 本名名乗れ」


「ちょっと何言ってるのかわかりません」


「ミステリ作家くっつけた名前だろ」


「人の名前にケチつけるなんて最低。七森さん、引くわー」


 右手で左肩を、左手で右肩を掴んで手をクロスする形にしてそう言ったクリスにすごくムカついた。


 1度深呼吸だ。スー、ハー。


 年上をおちょくっているようにも見えるが、防犯意識かもしれない。最近危ない大人も増えているから。高校生なんてまだ子どもだが、小学生からしたら十分怖い存在だ。


「詮索するようなことをしてすまなかった。初対面の男なんて警戒して当たり前だ」


 これに関しては僕が悪い。怖い思いをさせてしまったかもしれないから、素直に謝罪をした。


「……そうそうそうそう! わかればいいんですよ。これは自己防衛だよ、自己防衛。七森さんで遊んでたなんて全然ないですから」


 前言撤回。こいつ、おちょくってるだけだわ。明らかに意識していなかった言葉を言われた反応をしている。


「ろこす」


「許してヒヤシンス」


「……」


 僕は無言でクリスを見下ろす。


「無言で睨まないでくださいよ!

 少しふざけたけど、警戒しているのは本当だよ。

 だって顔と名前がバレたらいつ殺されるかわからない!」


 クリスは弁明を始めたかと思ったが、まだふざけている。


「デスノートなんて持ってるわけないだろ」


「嘘だ!

 七森さんの後ろに死神がいます!」


「だとしたら、お前もノート持ってるだろ」


「くっ、盲点だった。まさかノートの保持者を炙り出すための誘導尋問とは!

 その推理力、Lですね」


「違うわ。そんな的外れな推理をするのは学校で勉強してないからだろ。なんでクリスは学校に行ってないんだ?」


 最近は学校に行きたくても行けない子が多いから配慮に欠けるかもしれないが、そうなったらアニメの話で誤魔化せばいい。


「今日は午前中で学校が終わりだから、散歩していただけです」


「一人で散歩とか寂しいことしてないで小学生らしく友達と遊んだらどうだ?」


「友達なんていらない。なぜなら」


 もうクリスの言いそうなことは大体わかった。


「人間強度が下がる、だろ」


「私のことがよくわかってきたみたいですね」


 クリスは楽しそうに笑いながら言った。


「小学生とは思えない作品のチョイスをするな。まあ、今時はサブスクで見放題だからおかしくはないけど」


 イマドキの作品の話をしないことに驚きながらも自分で勝手に納得する。


「サブスク? 何それ?

 食べたらスースーするの?」


 さっきまでのボケとは違い、本当に知らないようで、きょとんと首をかしげて俺を見上げている。


「クリスが言っているのはフリスクだ。

 サブスクはサブスクリプションの略。毎月定額払うとうアニメとか映画が見放題になったり、音楽が聴き放題になるサービスのこと。アマプラとかdアニが有名」


「アマガミ?  D.Gray-man?

 そんな便利なサービスが今はあるんですねー 」


 興味深そうに関心している。サブスクを使っていないなら別の疑問が生じる。


「アマプラとdアニな。

 サブスク使ってないとしたらどうしてそんなにアニメに詳しいんだ?」


「DVD借りてくるか、録画する」


 方法がアナログだなー。録画って言っても、もう放送してないだろ。地方のテレビ局だと昔の作品を再放送してることが多いからそれを見てるってことだろうか。


「今後はサブスクを使うことをおすすめする。月額もそこまで高くないから親に頼んでみな」


「そんなのがあるんですね、いいことを聞かせてもらいました。ありがとうございます。

 ところで、七森さんはどこに住んでいるんですか? 七森さんとは話していてとても楽しいから今後仲良くしていきたいです!」


「ここから20分くらい歩いた天海(あまみ)駅の近くに住んでいる」


「駅近物件。まあ、こんな田舎だと電車よりも車のほうが使いますけど。

 この町にはもう慣れました?」


「まだ来たばかりだ。引っ越しの片付けしかしてない。さっき学校に行って色々説明を受けたのが初めての外出だ」


「ほほう、ならば私がこの神仕町(かみつかちょう)を案内しようではないか!」


 目をキランっとさせながら手をパンッと叩いてクリスは提案した。


 ありがたい提案だけど、小学生の案内って信用していいのだろうか。自分の秘密基地みたいなしょうもないものを紹介されそう。


「まだ引っ越しの片付けが途中だから今日は大丈夫。また、今度ね」


 やんわりと断ったが、そうは問屋が卸さない。


「まあまあ、遠慮しなさんなって。私はこの町に10年住んでいるのですよ。10年、言葉にすればたったの2文字だが人を腐らせるには十分な時間。そんな私には案内されたほうが絶対にいい!

 それじゃあ、レッツゴー!」


 クリスは強引に僕の手を引いて桟橋を駆けだす。


 それに連れられて僕も走るが、海に落ちそうで気が気じゃない。


「最初は七森さんの家に行きますよ! 案内よろ!」


「なんで僕の家!?

 しかも案内するのが僕になってる!」


「あははははは、わかちこわかちこー」


 向日葵のような満面の笑みを浮かべる少女に道を言いながら僕は自分の家に向かった。


読んでいただきありがとうございます! 


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