19 しゅらいん
「この後はどこに行くんですか?」
食事が終わり小休止。プランAからZ及びαプラン、βプランも白紙になった現在、デートの趨勢を担うのは葉月先輩の双肩にかかっている。
「神社に行こうかなって思ってる~。大きめな神社だし、地元民だと忘れがちだけど観光スポットだからね~」
「龍守神社ですか?」
「そうそう、知ってたんだ~」
「家から近いんで」
「もしかして行ったことある~?」
「実は小さいころに家族と龍守神社の夏祭りに来たことがあるんですけど、引っ越してからはまだ行ったことないですね」
ここのお祭りがカメラを始めたきっかけだったかも。お祭りの風景写真を撮って、それをこの町の賞に出した。そしたら入賞して市役所に飾られてたのが嬉しくて写真を撮るのが楽しくなったんだよな。
「夏祭りか~。そろそろだね~。お祭りも部活として写真撮りに行きたいね!」
「活気のある雰囲気を写真を通して伝えられたらいいですよね」
「うん。まあ、部活を続けられたらだけど~」
自分のせいで廃部の危機になっていることを思い出したのか徐々に語尾が小さくなり、下を向く。
「きっと何とかなりますよ! そのための予行練習です! ガンバルビーです!」
「過去の失敗よりもこれからどうするかを考えることが大事だよね~!」
◆◆◆
神社の手前にそびえたつ階段。これを見上げると気が遠くなる。
「食後の運動にはぴったり~」
げんなりした僕とは違い、先輩は意外とノリ気だ。
「体動かすのは好きなんですか?」
「そうでもないけど、ここから見下ろした景色がきれいだから楽しみ~。私のお気に入りスポット」
「それは写真部としては見に行かなきゃってことですね」
「だから歩きたくないっていう顔してないで階段上るよ~」
心の中を見透かされていたようだ。
気持ち的にも身体的にも重たいが上がるしかないようだ。
Stairway Generation 階段をあがれあがれ~♪
自分を鼓舞して足を上げてなんとか階段を上がりきる。息はもっと上がっている。
膝に手をついて呼吸を整え、顔を上げると長い参道の先には御社殿が鎮座していた。歴史を感じさせる緑がかった瓦葺きの屋根、それを支える赤く力強い柱、そしてそれらに包まれた金色の本殿。
神様を信じているわけではないけど、そこに神様がいると思わせる説得力のある神聖さを感じる。
「んんー、広いね~」
階段を上るために使った筋肉をほぐすように先輩は大きく伸びをした。
確かに広い。神社の境内というより公園って言っていいくらい広々としている。
「それじゃあ、絶景まで案内するよ~」
「その前に写真撮りませんか?」
「あ、そうだったね~。部活だから撮らないとだね。地元民だと観光名所だとしても身近すぎて、あんまり記録に残したいと思わないから忘れちゃう~」
首にかけたカメラを持ち上げて構える。
建物だと目立つ線が多いから三分割構図が使いやすい。
「どう~?」
撮れた写真を見せるために先輩が体を寄せる。さっきまで階段を上がって汗ばんでいるはずなのに、いい匂いが鼻孔をくすぐる。意識しているとバレないように答える。
「さっき教えたことを活かせたいい写真ですね。今日1日でかなり上達しています」
「やった~。
それじゃあ、次は私のお気に入りの景色を見に行こう~。レッツゴ~」
行先にビシっと指を向ける。向けられた場所は木がアーチ状になってトンネルのようになっている。そこまで大きな形じゃないから意識しなければ見落としてしまうかもしれない。
木でできたトンネルみたいな場所を通るだけでワクワクが止まらない。冒険しているみたいで、いい感じの木の棒を持ちながら歩きたい。
木のアーチをくぐり抜けると景色が見渡せる広場になっていた。
柵まで近づいて大きな海を見渡す。吹く潮風を全身で受け止め、吸い込み、吐き出す。体の中を丸洗いしたみたいに晴れ晴れした気持ちになる。
太陽に照らされた海面は星に見える。その上に浮かぶ船を見ると星空を旅する飛行船のようでロマンチックな気分になる。
「叡人君、こっちにもおいで~」
遠くから聞こえた先輩の声をたどる。
「こっちこっち~」
「うわぁ」
思わず声が漏れる。
手招きしている先輩の隣に立つと、深い緑に包まれた山が視界を埋めた。乱立した木々かからは自然の強さを感じ取れる。
「次はこっちね~」
先輩が場所を移動し僕もついていく。
次に見えたの町だ。様々な色の屋根の一軒家が立ち並び、海と山とは違う、人が出す生活感や空気感がある。
眺める場所によって海が見えたり、山が見えたり、町が見えたりして飽きない。
「面白いでしょ~。悩んだ時にここに来て色々な景色を見ると心が軽くなるんだよね~。つらいときって物事を一方向からしか見えてないんだよね。でもここに来ると色んな角度で考えられるようになって、楽になったり解決したりするんだ~」
先輩は町の景色に向けていた視線を僕へ移動させた。
「叡人君ももし何か悩みがあるならここに吐き出していいんだよ。今は無理でも大丈夫な時に」
「え?」
呆けた声が出てしまった。葉月先輩の瞳は僕の心の奥を覗いているように見えた。
「何か悩み事があるんでしょ?
岩場で私が叡人君にカメラを渡そうとしたとき様子が変だったから。それに叡人君はカメラを雑に扱うような人じゃないと思うから、海に落としちゃうってこともないと思うんだよね~」
「悩み事なんてない」と言って心配かけたくないけど、そう言わせない雰囲気が瞳から放たれていた。
「お見通しでしたか」
「初めて会ったときに私が写真を撮るコツを聞いたときに叡人君は観察することが大事って言ってたからね~。叡人君のことを観察しまくってたよ~」
手の指を丸めて双眼鏡みたいにしながら言った。
「そんなに見られてたって思うと恥ずかしいです。あまり見られたくないので早めに解決できるように努力します」
「その意気だ! ただ焦ってもうまくいかないこともあるから無理しない範囲でね~。
それと、ここは私の秘密の場所だから他の人には秘密だからね~」
先輩は人差し指を口に当ててウインクをした。
その仕草で秘密を共有されたら、どんな拷問を受けたとしても最後まで秘密を守り抜ける自信がある。
◆◆◆
木のアーチを抜けてまた境内に戻る。
「龍守神社って他に何かあったりするんですか?」
「う~ん、さっきの景色とお祭り以外でここに行くことってあんまりないからわからないんだよね~。
折角だし、少し探検してみようか~」
「はい。ここまで広い神社だと何かありそうですもんね」
◆◆◆
とりあえず大きな御社殿を一周してみることになった。
「なぜテニスコートがある」
御社殿の裏にも大きなスペースがあり、そこにテニスコートがあった。
越前南次郎でもいるのかよ。いや、あれは寺の住職だからここにはいないか。
境内を見て回ったが、社務所や手水舎、絵馬など大きいだけで普通の神社となんら変わったものはない。
「なんか拍子抜けですね。ここまで大きいなら何か珍しいものがあると思ったんですけど」
「ね~」
改めてぐるりと見渡すと、木々に隠れて見えにくいが古いさな小屋があった。
「あれ、なんですか?」
「私も初めて見た~。ちょっと行ってみようか」
何の変哲もない神社だったけど、少し面白そうなものが見つかった。
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