17 写真を撮るならこんなふうに
自販機で水を買って一休みしてから僕は先輩がいる岩場のほうに行った。
固くごつごつした岩は思ったよりも凹凸が激しく歩きにくい。さっきまで砂浜を歩いていたこともあって足の感触が全く違って楽しい。
転ばないようにバランスを取りながら歩き、先輩を見つける。
「葉月先輩!」
「お、叡人君~。
ズボンどうしたの?」
さっきまで海水に浸かっていた僕のズボンを見て先輩は目を丸くする。
「写真撮るのに集中しすぎて転んでビショビショになっちゃいました」
間違ってはいない。写真に集中していたのは事実だから。
「大丈夫なの? 風邪ひかない?」
「僕は大丈夫ですけど、カメラは壊れちゃいましたね。だから、今日は先輩のサポートします」
「ええ~、カメラ壊れちゃったの! 早く修理出さないと」
先輩がわちゃわちゃ手や体を動かしながら慌てている。
「気にしないでください。年季入っているカメラだったんでそのうち寿命がきてましたよ。
それより、葉月先輩の写真を見せてください」
「どうぞ~。ご指導よろしくお願いします」
ビシっと敬礼している。かわいい。
カメラの履歴からひと通り見ていく。
設定をしていた時もだけど、シャッターを押そうとしなければ何もない。
「どうでしょうか、先生」
「後輩にへりくだる必要ないですよ。
きれいに撮れているんですけど、いいと思ったもの全部を写そうとしている感じですね。主役を決めて、それが映えるように構図を決めていくのがいいと思います」
「おお~。経験者なアドバイス~。
ところで、構図って何?」
先輩がキラキラした目を向けてくる。
「写真の切り取り方というか写真の撮り方のテンプレみたいな感じですね」
「なるほど」
僕はカメラに画面を三分割する線を縦横に引く設定にした。画面には9個の枠ができた。
それを先輩に見せながら説明する。
「例えば、今画面に引いた線の交差する部分に自分が1番撮りたいものを持ってきましょう。もしくは被写体に水平線や壁など目立つ線があればカメラに引いた線に合わせていきましょう。自然とバランスが取れた写真になりますよ」
カメラを先輩に返した。
「ほほ~。写真部っぽくなってきたね~。
早速この方法で撮ってみるよ」
淡い桃色の髪をなびかせながら撮影ポイントを探しに行った先輩は楽しそうだった。
◆◆◆
先輩が撮った写真を改めて見ると、かなり良くなった。
雑然としていた写真は型にはめることで収まりがよくなり、メインにした被写体がよりくっきりと存在感を発揮するようになった。
「どう~、かなりよくなったよね~?」
大きな胸を張って自信満々な様子でいる。
「すごく良くなってます!
特にこの山の緑を遠目からとらえて、海の中に中にポツンと存在しているかのように見せた写真が素敵です!」
「わかる~? 私もそれが1番のお気に入りなんだよね~」
褒められた先輩の、頬が緩み切った表情は浄化作用があるようで、さっきのトラウマなんて僕の中に跡形も残っていない。
「この調子で他の写真も撮りましょう!」
「だね。叡人君も撮りなよ。これは元から叡人君のだから使っていいよ~」
先輩がカメラを僕に差し出す。
「僕はいいですよ。気にしないでください」
「そんなこと言わないでよ~。2人で撮ったほうが楽しいって~」
柔らかい笑顔で言われても断ることしかできない申し訳なさとトラウマを吹っ切れない情けない自分への苛立ちで語気が強くなってしまう。
「いや、だから、僕はいいので先輩だけで撮ってください!」
先輩の肩が跳ねるのを見て一瞬で後悔した。
「ごめんなさい。急に大きな声を出して」
「ううん、じゃあ叡人君が撮れなかった浜辺の写真を撮りに行こう~」
先輩はあまり気にしていない様子で歩き出した。
◆◆◆
「浜辺ではどんな写真を撮るのがおすすめ~?」
「そうですねー、雲がきれいなので海の青を利用して白い雲を際立たせる写真とか、波打ち際ギリギリにカメラを構えて水しぶきを撮るとかいいと思います」
「了解であります」
先輩が雲にレンズを向ける。
波打ち際にカメラを構えてシャッターを切る。
何枚か写真を撮って先輩が戻ってくる。
「アドバイスよろしくお願いします~。
雲の写真はバランスよく撮れたけど、水しぶきはタイミングが難しいね~」
「雲は三分割構図を使ってうまく撮れてますね。でも、この場合はもっと雲をダイナミックに撮ったほうがいいかもです。雲2:海1くらい。
水しぶきは僕が言い忘れてたんですけど、F値とレンズを変えたほうがエモくなります。タイミングは難しいので連写しましょう」
「さっきも言ってたけどF値って何?」
「簡単に言うとレンズの明るさを示すものですね。小さいほど明るいレンズになります」
「ふふ、知らないことを知れてどんどん上達してる気がする~。
じゃあ、また撮りに行ってくるね~。そうだ、あとであの桟橋にも行かない?」
先輩に言われて見ると見覚えがある海に突き出るように設置された木の桟橋。
クリスと出会った桟橋だ。
「いいですね、行ってみましょう」
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