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16 一条楽

 眠い。朝から昼に切り替わる時間帯であり、日差しはまだそこまで強くないが、寝不足の僕には眩しすぎる。太陽なんて眩しくって闇の方が無限です。


 夜通しデートコースを調べ、僕はプランAからZまでの25個に加えて、不足の自体に備えたαプランとβプランも用意した。抜かりはない。


 待つこと数分で先輩も来た。「来た」というか「降臨」した。満を持して。


「おはよう~。ごめんね、待たせちゃって~」


「……」


 彼女の桜花爛漫な美しさを目の当たりにして言葉を失った。


 袖にフリルが付いた白いTシャツを薄いピンクの花柄のレーススカートにインしてスタイルのよさを際立たせている。


 大人っぽい落ち着いた雰囲気と可愛らしい顔立ちの両方を引き立てている。


「お~い」


 先輩が反応がない僕の顔の前で手を振っている。


「おっふ、葉月(はづき)先輩」


「なにその挨拶~。もしかして元気ない?」


「いや、そんなことはないです」


 本当はめちゃくちゃ眠いはずだけど、葉月先輩の姿を見てから心臓の動きが異常に早くて落ち着かない。


「もしかして、私の服似合ってない?」


 眼鏡の奥から不安そうな眼差しで見つめられる。


 似合っていないわけがない。似合いすぎて困っているんだ。


「いや、すごく、可愛いです……」


 もっとスマートに、もっと言葉を尽くして褒めるべきなのに、なぜこんなことしか言えないんだ。僕はヘタレラノベ主人公か!


「そ、そう? ありがとう……」


 先輩の顔がリンゴみたいに赤く染まる。


 僕もそれに釣られて恥ずかしくなる。


「い、いやー、でもストッキングは履いてくれなかったんですねー」


 雰囲気がこそばゆいので、少し昨日の下品な話題を出して空気を変える。


「この季節だし、歩く距離も長くなるかもだから履いてこなかったんだよね~。

 ご要望なら着替えてくるよ?」


「いいですって!」


「遠慮しなくもいいのに~。

 ここで話すのもあれだし、どこか行こうか~」


「ですね」


 練りに練ったプランが輝く時が来た。この場合、どのプランを使うか……。


 思い出せない。葉月先輩の可愛さに脳みそが支配されて全部吹っ飛んだ。


「ベタだけど最初は海に行こうか~。

 叡人君は引っ越してきたばかりでこの辺のことはわからないと思うから案内は任せて~」


「はい、ありがとうございます」


 頼れる男アピール失敗。


◆◆◆


 今日も天気がいい。白い砂浜と青い海、空に広がる入道雲。写真の撮りがいがある風景だ。こんな景色を写真に収めることができたら楽しいに違いない。


「これが先輩のカメラです」


 デート気分で浮かれていたが、一応写真部の活動として海に来ている。なので写真を撮らなければならない。先輩は盗撮カメラしか持っていないということだったので僕が用意した。


「ありがとう。かっこいい~、本格的」


 先輩は手渡されたカメラを色んな角度で見たり、実際に構えてみたりしている。


「カメラの設定はしてあるので、そのまま写真を撮って大丈夫ですよ」


「設定?」


「撮りたい写真に向いているレンズとかF値とかホワイトバランスとか色々あるんですよ」


「へ~、よくわからないけどありがとう~」


 不思議なことに写真は撮れなくなったが、カメラを設定やレンズを変えることはできる。もしかしたら、過去を乗り越えることもできるかもしれない。


「叡人君」


「何ですか?」


 僕にカメラを向けていた先輩はいたずらが成功した子どものように笑っていた。


 近づいて撮った写真をのぞき込むと、呆けた顔をした自分が写っていた。


「叡人君の顔、面白いね~」


「馬鹿なこと言ってないで部活しますよ」


「は~い」


◆◆◆


 最初は各自で各々写真を撮ることにして、何枚か撮った後でお互いの写真を見ることにした。


 僕は浜辺、慣れている先輩は岩場に向かった。


 波打ち際ギリギリに立って水平線を眺めながら被写体、写真に収めるときの主役を考える。


 太陽の光が反射した海を撮る?


 青い海と白い大きな入道雲のコントラストを撮る?


 波打ち際にカメラを構えて水しぶきを撮る?


 岩場の無骨さと合わせるのもいい。


 アイデアが頭の中に洪水のように溢れる。流れ出るアイデアに栓を閉めて、1枚に集中するために呼吸を整える。


 まずは太陽の光が反射した海面を撮る。


 カメラを構え、高さや角度を調整しようとする。


 不意に、心臓がドクンと鼓動する。


 手の力が抜けてカメラが落ちる。首に掛けていたが、運悪くつなぎ目の金具が外れてカメラは海水に浸る。


 早く海水から上げないと修理できなくなる。


 カメラを拾うために腰をかがめようとすると、踏ん張りがきかず四つん這いになってしまう。それでもカメラを拾おうとするがうまくつかめない。


 目の焦点が合わずはっきり見えていない。


 クソ。とにかく手を動かす。


 あった。固い無機質な感触が指先に伝わる。それをつかみ引き寄せる。



『お前が撮った写真全部目の前で燃やしてやるよ。首に掛けてるカメラもな』


『パクリとか信じられない。そこまでして人気者になりたかったの?』



 掴んだ瞬間にフラッシュバックするトラウマ。


 反射的に後ろに飛びのく。


「はあ、はあ、はあ、熱っ」


 太陽に焼かれた砂の熱さが僕の意識を現実に引き戻した。


 立ち上がって周囲を見渡す。少し後ろに黒い砂にまみれたカメラがあった。


 飛びのいたときに放り投げてしまったようだ。拾おうとするが、直前で手が止まる。


「いや、大丈夫」


 自分に言い聞かせた。


 意を決して拾う。何も起きなかった。


 砂を払い、カメラの電源ボタンを押すが動かない。


「壊れたな」


 カメラを揺らすと少し水の音がした。

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『あまり酷い言葉を使うな。アンチに見えるぞ』



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