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12 バクニュウ。

「それではこれから第一回写真部部内会議を始めます~ 。

 よろしくお願いします~!」


 教壇に立つのは部長の葉月(はづき)先輩、僕は教壇の前の席に座る。顧問の白石(しらいし)先生は窓際の前にある教師席に座っている。


「よ、よろしくお願いします」


 よくわからない会議がぬるっと始まっているが、ことの発端は10数分前にさかのぼる。


◆◆◆


「お疲れ様でーす」


「お疲れ~、コーヒー用意したけど飲む?」


「ありがとうございます、飲みます」


「はーい」


 葉月先輩がてきぱきとコーヒーとお菓子の準備をする。


「どうぞ、召し上がれ~」


「いただきます」


 放課後の教室で美人な先輩とティータイム。平和だ。


「転校してきたって聞いたけど、もう慣れた?」


「そうですねー、クラスメイトが優しいおかげで慣れました」


「それはなにより~」


 ふー。平和だ。


彩音(あやね)ちゃん、ダージリンとカステラちょうだい」


 行きつけのカフェのマスターに注文をするかの如く、白石先生が教室に入った。


「はーい。少々お待ちくださーい」


 なぜ教室にあるのかわからないが、小型の冷蔵庫からカステラを出してお皿に乗せて紅茶と一緒に先輩が提供する。


「うん、いい香りだ。彩音ちゃんは紅茶を入れるのが上手になったね」


 先生は向かい合わせに座っている俺たちの間、つまりお誕生日席に座りながら優雅に紅茶を楽しんでいる。


「ありがとーーうございまーーす」


「おいおい、それはカフェの店員じゃなくて蒙古タンメン中本の店員だろ~」


 先生がツッコんだ。


「そうですね、ははは」


「ははは」


 そこまで面白くないと思うが、2人は穏やかに笑っていた。


「って、こんなことしてる場合じゃなーい!」


 ガタンと椅子が倒れるほど勢いよく先生が立ち上がった。


「ど、どうしたんですか先生⁉」


 落ち着いた雰囲気をぶっ壊した先生に僕は驚いた。


「七森は写真部に入ったんだね。いい部活を見つけたね。

 でも、優雅な部活ができなくなるかもしれないの」


(さき)ちゃん先生、それってどういうことですか?」


 コンコン、葉月先輩の質問の直後に教室の扉がノックされる。


「生徒会の者です」


 扉越しにそう聞こえた。「入ります」と一言の後、二人の女子生徒が入ってきた。


「白石先生もいらしたんですね。白石先生には先ほどお伝えしましたが、写真部は来月をもって廃部の予定でいます」


「ええええええええええー!」


 流麗な長い銀髪を後ろで1つにまとめ、黒縁眼鏡の女子生徒は葉月先輩の叫びとは対照的に表情筋1つ動かさず平坦な声で言った。


「な、なんでですか? 生徒会長」


「それは―」


 生徒会長と呼ばれた女子生徒が話そうとすると、もう1人の気だるげな雰囲気の女子生徒が遮った。焼けた肌にセミロングの明るい茶髪を2つ結びにしている。ピアスやチョーカーなどのアクセサリーと校則を無視した短いスカートはいかにもギャルって感じがする。そんな派手な見た目をしているが、それに負けないくらい整った顔立ちをした美少女である。


「いえ、このくらいの説明で会長の手を煩わせるわけにはいかねーっすよ。ここは副会長の自分が説明するっす」


「そうですか、ではよろしくお願いします」


「り。

 ここの部活動が廃部になるのは当然だべ。部活動に義務付けられた活動報告はあげない、写真部としての活動をしている気配もない、お茶会をしているだけ。これで部活として認めらるとでも思っているんすか?」


 言葉遣いと見た目はあれだが当然の指摘であり、ぐうの音も出ない。その様子を見て得意気になったギャル副会長が続ける。


「今月中に部室を片付けてちょ。来月からここは将棋野球部の部室になるから」


 なんだよ、その部活。囲碁サッカー部の亜種かよ。その部活のほうが活動内容が意味わからないだろ。


「異議あり!」


 葉月先輩がピンと挙手をして立ち上がる。


「何でしょうか、葉月さん」


 生徒会長が葉月先輩を見る。


「え、えーと、そのー……、あれだからその、だめじゃないですか?」


 ノープランだった。


「つまり、廃部を宣告するなんていきなりすぎじゃないですか? そもそも生徒会に部活を廃部にする権限なんてあるんですか?」


 助け船を出すつもりで自分の疑問を聞いた。


「君は、確か転校してきた七森叡人さんでしたね」


 生徒会長の視線が僕に移動する。


「僕のこと知ってるんですか?」


 もしかして写真家として自分を見たことでもあるのだろうか。


「ええ。全校生徒の顔と名前は記憶しています」


「あなたの脳みその記憶容量化け物ですね」


 安心とともに知られているかもしれないと思っていたのが自惚れているようで少し恥ずかしかった。


「いえ、人間の記憶容量は1PB(ペタバイト)と考えられ、私もそのくらいだと思います」


「マジレスしないでくださいよ。冗談に決まっているじゃないですか」


「何すか会長に対するその口の聞き方は。舐めてるんすか? それともすごく舐めてるんすか?」


 ギャルに凄まれた怖い。全然舐めてない。顔の色だって黄色と緑の縞々じゃないし。


「な、舐めてないですよー。ただ、言葉の返され方に驚いただけで」


「こいつ、生理的にダイヤモンドムカつくっす。会長、やっちゃっていいすか?」


 プラチナでもなく、ユカイでもない新しい言葉だ。ギャルのワードセンスすごい。


「駄目ですよ、さやかさん。あなたの喧嘩腰の話し方では建設的な会話ができないので直してください」


「イエス、ユアマイロード」


 生徒会長がギャルを一言でたしなめると、説明をし始めた。


「さきほどの続きですが、廃部の宣告については前々から申し上げているのでいきなりではありません。部長の葉月さんに何度も活動実績の報告書をあげるよう進言しています。提出しなければ廃部になる可能性も伝えています」


 淡々と説明をして生徒会長は葉月先輩を見た。なぜ何もしなかったのかと無言で問い詰めている。


「ヒュー、ヒュー、ヒュー」


 誤魔化そうとして口笛を吹こうとしているが、吹けていない。


「先輩?」


「いや、あのね、あれなんだよね~。部員が私1人で色々大変だったんだよね~」


「放課後にお茶飲んでるだけですよね?」


「うっ」


「図星ですか?」


 葉月先輩は机に頭をこすりつけた。


「ごめ゛ん゛な゛ざい゛~。面倒で後回しにしてました~。でも、今やろうと思っていたんです~」


「小学生の言い訳だ」


「うえ~ん、ごめ゛ん゛な゛ざい゛~」


「よしよし、落ち着いて~。もう誰も彩音ちゃんのことを怒ってないからね~」


 白石先生が葉月先輩の頭を撫でてあやしている。


 先輩のことは先生に任せよう。


「葉月先輩が提出物を出していないことはわかりました。でも、そもそも生徒会が部活を廃部にしたり、他の部の設立を許可するなんてできるんですか?」


「転校生はまだ日が浅いから知らないかもだけど、できちゃうんすよね~」


 ギャルは僕のコーヒーカップを持って一口飲んだ。「にがっ。砂糖入れろし」と呟いてポケットから取り出した棒つきのキャンディーを口に咥える。


「生徒の自主性を重んじているとかですか?」


「それもなくはないすけどー、1番は改革っすね」


「改革?」


「そ。教師の労働環境って激ヤバタニエンだから、教師の業務を生徒会に委託したんすよ。学校行事、部活動、地域活動とか授業以外を全部生徒会に任せてるんす。だから部活動の是非も自分たちが決められるっす」


 ギャルは口にキャンディーを出したり入れたりしながら説明をする。なんかエロくて説明が頭に入ってこないけど、それを見抜かれるのは癪だからギャルの口元は全力で視界から外す。


「それって結局生徒会が激務になるだけじゃないですか?」


 チッチッチ、人差し指をギャルが動かしながら説明を続ける。


「確かに忙しいんすけど、やりがいと見返りがでかいっす。どのくらいでかいかと言うと、葉月ちゃんのおっぱいくらいでかいっす」


 それはすんごいことだ。


 葉月先輩は顔を赤くして「そ、そんなに大きくないよ~」と言って腕を組んで胸を隠す。だが、むしろ強調されている。


「何がもらえるんですか?」


「もらえるっていうかー、自分の望んだ進路に行けるっす。大学、企業、官公庁選び放題っす。

 学校の看板生徒であり、トップに位置する生徒会長にはもっと大きな見返りがあるとかないとか。例えば、嫌いな生徒や教師を辞めさせられるって噂もあるっす。実際に何が与えられるのかは歴代の生徒会長しか知らされてないっすけど」


 どこの新妻だよ。


「じゃあ、ボスの生徒会長が写真部の存続を認めてくれれば誰も逆らえないってことですね?」


「そうっすけど、どうやって?」


 僕は生徒会長の方を向いた。


「転校して入った部活がすぐに廃部になるなんて可哀そうだと思いませんか?

 ただ、提出物を出していなかった葉月先輩も悪いです」


 「自分で可哀そうとか言うなし」ギャルが小声で言った。


 「ぐさっ」と葉月先輩が小さくダメージを受けている。


「なのでチャンスをください。生徒会長が出した条件を呑むので、達成できたら部として認めてください」


 僕は生徒会長の目を真っ直ぐ見て本気で頭を下げた。


「……いいでしょう」


「ちょ、会長⁉」


「別に私は意地悪で写真部を廃部にしたいわけではないのです。真面目に活動しているのなら部として認めます」


「ありがとうございます!」


「条件はどうするんすか、会長?」


 ギャルが不機嫌そうだ。


「そうですね。1か月以内にあなたたちの写真でこの学校の名前を有名にしてください。生徒会長として、学校が人気になれば実績の1つになりますから」


「有名の基準は何ですか?」


 基準が曖昧だと対策しにくい。


「その写真と反響の大きさで私が判断します」


 眼鏡をくいっと上げた。


「……わかりました」


「それでは頑張ってください」


会長は後ろを向いて歩き出したが、ギャルは僕に近づいた。


「あんた、大丈夫なんすか~。美人な先輩の前で恰好つけたい気持ちもわかるっすけど失敗したら恥ずいっすよ」


 ギャルがニヤニヤしながら煽ってきた。


「わかってます、これから何とかしますよ」


「判断の基準が会長の独断と偏見だから無理ゲーっすけどねー。精々がんば」


 咥えていたキャンディーを僕の口に突っ込んで教室の出口に向かう。


「美少女の唾液つきの飴、堪能するっすよ」


 去り際にそう言った直後、風が吹いた。風はギャルの短いスカートを捲り上げた。


 黄色と緑の縞々のパンツ。完全に舐めている。


◆◆◆


 「会長、なんであんな機会をあげたんすか?」


 転校生をからかった後、廊下を走って会長に自分は追いついた。


「言いましたよね、別に私は意地悪をしたいわけではないと」


 会長は厳格にルールを守る人で、こういう温情の措置をすることは今までなかった。


「いや、転校直後に部活がなくなるって不憫っすけど、ルール守らなかった葉月ちゃんが悪いじゃないすか。

 それに条件も曖昧だし」


「珍しいですね。さやかさんが私に意見するなんて」


「意見ってほどじゃないっすよ。引っかかったというか」


「もう一度彼の写真が見たいから」


「え?」


「何でもないです。早く行きましょう。次は『第132回時計台チキン会議~異世界に行ったらクレカに転生していた~』です」


 早足で私を横切った会長の顔は少し笑っていた。普段はずっと無表情なのに珍しい。


読んでいただきありがとうございます!


作品が面白いと思った方は☆5、つまらないと思った方は☆1の評価をお願いします!


評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


『もし僕がジャンプで一番人気の作家になったら 僕が嫌いなマンガをひとつ終わらせる権限をください。それと高評価といいねとブックマークもください』

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