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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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24.妖怪嫌いの少年と出会う話

 遥か昔、妖怪に助けられた為、神様として信仰している村の人から、妖怪嫌いの子供に妖の素晴らしさを伝えてほしいという依頼が届いた。早速、白雪と水綺で村に行く。村を救った英雄みたいな歓迎を受けた後、二人は案内を受けて小さな一軒家に招かれた。そんな二人の前に現れたのは、ぶすっとした仏頂面で睨んでくる少年。歳の頃は恐らく一桁。何があったのか、水綺達に向ける視線は、親の敵でも見るような鋭さだ。


「初めまして。私は——」


「妖怪の癖に俺に話しかけるな、視界にも入れたくねぇんだよ!」


 膝を曲げて視線を合わせ温和な笑みを浮かべた水綺を、尻尾を踏まれた猫みたく毛を逆立てて突っぱねる少年。木で鼻を括ったような態度に、水綺は「あらら、予想以上に嫌われてるなぁ」と、苦笑を頰に含ませた。が、大切な仲間に罵詈雑言を浴びせられた白雪は、怒髪天を衝かれたらしい。


「えっ、何この餓鬼。寿命削っていい?」


「私の為に怒ってくれるのは嬉しいですけど落ち着いてください」


 満更でもなく思いつつ白雪の頭を撫でた水綺が止めると同時、希威に小脇に抱えられた状態で遅れて到着する眠そうな目の兎舞。「離してよ、兄さん。妖怪の魅力を伝えるだけなら、四人で行く必要ないじゃん」と気怠げに抗議して、「ダメだ、兎舞も此処に居ろ」と希威に一刀両断されている。と、子供に敵意を向けていた白雪の興味が兎舞に移った。


「おっ、兎舞ちゃん。起きれたん?」


「ねぇ、聞いて。兄さんってば、とまのことどうやって起こしたと思うです?」


 どんな風に叩き起こされたのか、ムスッと頰を膨らませた兎舞が、小脇に抱えられたまま不平を鳴らす。一体、何をされたのか物凄く気になるが、水綺は聞きたい欲を堪えて、妖怪嫌いの少年の方に目を向けた。

 てっきり新たに増えた妖怪に敵意剥き出しで睨んでいるかと思いきや、何故か頰を色づかせて鳩が豆鉄砲を食ったような顔で呆然としている。視線の先を辿った結果、兎舞に見惚れているのだと察する水綺。これは、妖怪嫌いの治療に使えるかもしれない。そう思った矢先、少年がハッと我に返る。


「お、俺は騙されないぞ! どうせ魅了の術でも使ったんだろ!」


「……とま、そんな術使えないけど」


「う、嘘を吐くな! 小細工なしに俺が妖怪に見惚れるわけがないだろ!? 言っとくけど、魅了の術を使ったって、妖怪なんか好きにならないからな!」


 言いがかりをつけられて戸惑う兎舞の否定を受け、狼狽えながら見惚れていたことを暴露した少年は、真っ赤な顔で叫んだ捨て台詞と共に走って行った。兎舞は本当に魅了の術なんて使えない為、面食らった表情でキョトンとしている。何度も目を瞬く兎舞と走り去る少年の背中を交互に見ていた水綺は、とある作戦を思いついた。


「兎舞はそこで寝てて。私たち三人で子供を探してくるわ」


「マジで!? やったぁ!」


 兎舞が頭を撫でた水綺の言葉にパアッと顔を明るくさせて喜ぶ。兎舞を敢えて無防備にして逃げた少年を誘き出す作戦だ。ひとまず、兎舞が眠れる場所を探そうと、近くにあるという公園に向かった。中央に集まる遊具や、端に用意されたテーブルを、グルリと取り囲む形で、みっちりと草木が生い茂っている。水綺達が隠れるのにうってつけだ。


 水綺は公園のベンチに眠たそうな兎舞を残し、少年を探しに行くと見せかけて、近くの茂みに隠れる。何をするつもりなのかと目で問いかけてくる希威と白雪に作戦を説明。その間に、兎舞は投げ出したしなやかな足を組んで、ベンチに預けた身体を脱力させて、早速、顔を伏せて目を閉じる。

 スヤスヤと寝息を立てている兎舞は、水綺の言葉に甘えて本当に寝ていた。ズズズッと身体が横に倒れていき、椅子にコテンとくの字で横たわる。横向きで足を組むと寝辛いようで、兎舞が両膝と背中を曲げ丸くなった。と、少年が周りを慎重に見渡しながら、抜き足差し足で近付いてくる。


「おっ、水綺の予想通り、寝てる兎舞に釣られて来たな」


「あのまま兎舞を通じて妖怪への嫌悪感をなくしてくれるといいんですけど」


 茂みから観察をする希威と水綺の視界で、少年が兎舞の前に屈み込んだ。猫みたいに丸くなっている兎舞の寝顔をじーっと見ている。頬がほんの少しだけ色付いていた。そーっと手を伸ばして頰を突く。それでも起きない兎舞を見て、白雪がある可能性に気付いた。


「ていうか、兎舞ちゃん。ガチで寝てへん?」


「まぁ、寝ていいって言いましたからね」


「あんなに寝といてまだ寝れるのか」


 苦笑を頬に含ませる水綺と希威。寝坊で遅刻までしといて熟睡とは、一体どれだけ眠るつもりだろうか。兎舞が本当に寝ていると分かって、白雪と希威の身体が少しだけ強張る。少年が兎舞に変なことをしないようにか、観察する瞳も鋭くなった。勿論、水綺もだ。


「ん、ぅ? だれ……」


 兎舞がゆっくりと瞼を上げて、ベンチに倒れていた身体を起こし、寝起きの掠れた声で尋ねる。赤い瞳に見つめられた途端、石にされたみたいに固まり、逃げ遅れた少年と目が合った。「……あっ、さっきの」と呟いた後、水綺達を探しているのか周囲を見渡す。そして、まだ戻って来ていないのを確認し、悪戯をする前の子供みたいにニヤリと口角を上げる。


「えいっ!」


「えっ!? あ、う、えあ……」


 揶揄を孕んだ瞳を眇めた兎舞に両手で抱き締められて、少年が目を白黒させながら顔を真っ赤にして固まった。きっと兎舞から香る柔らかくていい匂いに鼻腔をやられ、咄嗟に腕を回してしまった腰の細さに思考を凍らされ、悪戯っぽく破顔した綺麗な顔が眼球に染みているのだろう。「ずっきーたち、遅いねー」と兎舞に話しかけられているが、抱擁によりまともに返事できていない。


「あっ、妖怪が嫌いだったら抱き締められるなんて嫌だよね。でも、ずっきー達が来るまで、捕まえとかなきゃダメだしなぁ」


 兎舞がプシューっと沸騰寸前の少年を気遣う。少年はその問いに答えるどころではない。グルグル目と真っ赤な顔が、もう限界だと訴えている。いい加減に助けてあげるべきかもしれない。

 そう思って動こうとした水綺よりも先に、兎舞が少年を離して手をぎゅっと握る。手のひらを合わせる形で指をしっかりと絡めあっていた。所謂、恋人繋ぎというやつだ。逃がさない為だろう。


「これで我慢してくれるです?」


 兎舞が可愛らしく首を傾けて顔を覗き込む。少年は恋人繋ぎになった手と兎舞を交互に見つめ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。そして、キッと凛然とした眼差しを、ふんわりと微笑む兎舞に真っ直ぐ向ける。

 兎舞でも妖怪嫌いは治せなかったか。少年が兎舞に罵詈雑言を浴びせる。なんてことになったら、たとえ子供相手でも、白雪と希威は容赦しない。その前に手助けに向かうべきか。水綺はやれやれと腰を上げる。と、茂みから飛び出すよりも先に、少年が動いた。


「……こっちのままでいい」


 兎舞と手を繋いだまま、ギュッと正面から飛びつく少年。突然の体当たりに驚いた兎舞が、ベンチに押し倒される。少年は故意か偶然か恋人繋ぎをした手をベンチに縫い付けて兎舞を起き上がれなくしていた。キョトンとする兎舞の身体に乗っかって、小袖に顔を擦り付けながら匂いを堪能している。


「とま、妖怪だけど……」


「知ってる」


「妖怪、平気になったです?」


「うん、大好き」


 困惑する兎舞に顔を上げた少年が告白をした。恐らく妖怪ではなく兎舞に好意を抱いているのだろう。妖怪が好きになったというより、兎舞が好きになっただけだ。作戦的には成功である。しかし、兎舞以外の妖怪には相変わらず悪態を吐くなら、依頼はまだまだ成功といえない。先は長そうだ。

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