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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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21.洞窟の調査をする話

 見渡す限り緑色の絨毯を敷き詰めた草原の中央、ポツンと聳え立つ洞窟の前で、希威は額に手を翳して大きな外壁を見上げた。奥までの道が割と長いのか真っ暗で何も見えない。

 今回の依頼は、この突如現れた洞窟が、安全か危険か調べることだ。依頼人は近くの村に住む村長。もしも此処が安全な洞窟だった場合、有効活用する予定だと言っていた。


「普通の洞窟にしか見えへんけどな」


「誰が入るです?」


「ジャンケンだろ」


 キョロキョロと中を見ながら呟く白雪と一緒に、洞窟の入り口を覗き込んでいた兎舞の言葉に拳を構える希威。思っていたよりも広く大きな洞窟だが、特に妖気も感じないし毒のにおいもしない。つまり、四人で行く必要がないということだ。希威の提案に賛同した他三人も手を前に出し、掛け声と共に四人同時に手の形を変える。


「ああっ、負けたぁ!」


「マジかよ」


「いってらっしゃーい」


「私達、持ってきたお弁当を食べておくわね」


 結果は兎舞と希威の負け。苦虫を噛み潰したような顔をする二人から離れ、白雪と水綺がレジャーシートを敷いたりお弁当を準備し始める。ピクニック気分の二人に苦笑する希威と違って、お弁当のおかずを楽しみにしていた兎舞が、二人のそばに駆け寄って不平を鳴らした。


「あっ、ずるいです! ちゃんと残しといてよ!」


「兎舞、速攻で確認して戻ってくるぞ」


 重箱の蓋を開けた水綺と卵焼きを摘み食いする白雪のそばから兎舞を回収し、希威は身長に反し軽い身体を小脇に抱えたまま洞窟の中に足を踏み入れる。「兄さん、下ろしてよ」とジタバタ暴れる兎舞を下ろした瞬間、洞窟の入口にシャッターが降りた。兎舞が嫌そうな面倒臭そうな顔をする。


「うぇぇ、閉じ込められたです」


「こりゃあ、すぐには終わりそうにねぇな」


「洞窟に攻撃してみる?」


「だな」


 面倒ごとの予感がして希威も顔を歪めた。手のひらから炎を出して、真っ暗な洞窟内を照らし、壁を指差した兎舞に肯く。鬼の腕力でも壊せないようであれば、何か条件を満たして脱出するしかない。兎舞は早速、棍棒を召喚して両手で持ち、バッティングをするみたいに思いっきり振った。大きな音を轟かせてぶつかった棍棒は、洞窟の壁に弾かれて兎舞の手から離れる。


「壊れない、ね……あ、えっ……?」


 押し負けた棍棒を回収した兎舞が、ふらりと身体を傾けた。希威は地面に打ち付けられる前に慌てて受け止める。不思議そうにキョトンとしている兎舞の身体に全く力が入っていない。それに、物凄い勢いで妖気が減っている。

 だから力を十分に発揮できず、洞窟の壁に押し負けたのだろう。本来の力を発揮できれば出られるかもしれない。が、恐らく兎舞はそれどころではない。希威はぼんやりしている兎舞の身体を少し揺らし、意識があるか確認した。


「兎舞?」


「う、あっ。なんか、妖気が吸われてるです」


「洞窟の仕業か。しっかり掴まってろよ」


 希威は小さく舌打ちをしてから兎舞の脱力した身体を背負う。「ん……」と力なく返事をした兎舞は、妖気を吸われすぎた疲弊で、今にも眠ってしまいそうなほどうとうとしている。グッタリと希威の背中に身を預けた兎舞が、「うう。力、入んない……」と手を動かそうと試みていた。


「けど、何で兎舞だけなんだ?」


「兄さんは平気なの?」


「俺は何ともないな」


 長い通路を進んで最奥を目指しながら、希威は兎舞の質問に答える。何故、兎舞だけ妖気を吸われているのだろうか。疑問の答えを探しているうちに拓けた場所に出た。

 周囲の壁に水晶が埋め込まれた神秘的な場所だ。思わず見惚れてしまう神々しさに一瞬惚けてしまい、真ん中の巨大水晶から放たれた水色の光線に気付かなかった。


「兄さん、危ない!」


「うおっ、兎舞!?」


 ドンっと押し飛ばされて尻餅を突いた希威の前で兎舞の身体が大きな水晶の中に閉じ込められる。ガンガンと叩いても火で炙ってみても壊れない。冷や汗を垂らして焦燥に駆られていた希威は、小さく息を吐いてから深呼吸をする。焦っていても兎舞は取り戻せない。

 地面から突如生えてきた水晶を睨むと、脱力した身体を中で浮かせ、気を失っている兎舞が視界に映る。押し飛ばした時に落としたらしく、酒呑童子の証として持っている瓢箪がない。視線を周囲に走らせて瓢箪を見つけた希威は片膝を突いて覚悟を決める。


「兎舞。この酒、借りるぞ」


 希威は瓢箪を拝借して中のお酒を一気に煽った。この瓢箪の酒は、兎舞の妖力によって無限に沸き続けるうえ、人間でも妖怪でもどんな酒豪でも一瞬で酔い潰す。その代わり、妖怪が飲むと一時的に鬼と同等かそれ以上の力を得る。希威は真っ赤な顔でフラリと立ち上がると、拳を作って兎舞を閉じ込めた水晶を思いっきり殴った。


「どこの誰の仕業か知らねぇけどな、俺から兎舞を奪ってんじゃねぇ!」


 水晶が核となっていたらしく、呆気なく崩壊を始める洞窟。希威は今にも酔い潰れそうなのを意地で踏ん張り、気を失った兎舞を背負って全力で洞窟を駆け抜ける。そのまま、真っ直ぐ撃たれた鉄砲玉の如く顔から草原に飛び込んだ。


「な、何があったん?」


「あれ? 兎舞、気絶してません?」


「で、出れた、か……」


 どしゃっと崩れ落ちた希威を見て、呑気にピクニック中だった二人が、目を丸くして驚く。燦々と輝く太陽の光と柔らかな風により、外に出られたと認識した希威は、隣に投げ出された兎舞の頰に手を当て胸を撫で下ろした。無事に兎舞を取り戻せたようだ。水綺が水のペットボトルを持って駆け寄ってきた。


「希威先輩! 何で酔ってるんですか!?」


「ていうか、兎舞ちゃんも妖気すっからかんやん」


 倒れた希威により草原へと放り出された兎舞を、すぐに横抱きでレジャーシートに運び、膝枕をしながら介抱していた白雪が息を呑む。四人の中で一番多く妖気を持つ兎舞がこんな状態になる程、危険な洞窟だったのかと目が問いかけていた。希威は水綺から貰った水を飲み干して肯く。


「この洞窟、入ったらやばい」


「語彙力までどっかいっちゃってますね」


「人間が入ったら何を吸われるかわかったもんじゃねぇ。それに、奥に進むと水晶にされる」


 妖怪の場合、妖気だったが、妖気を持たない人間の場合、血液やら生気を吸われる可能性がある。ボーッとする頭で拙い語彙を使いながら情報を共有する希威。水綺の言う通り、酒精に酔っていて、まともな言葉が浮かんでこない。白雪がスヤスヤと寝息を立てる兎舞の頭を撫でながら眉間に皺を寄せる。


「めっちゃ危険やん」


「まぁ、希威先輩が壊してくれましたし、誰も入ろうとしないでしょうけど、念の為に依頼人には近付かないよう伝えておきましょうか」


 水綺が顎に人差し指を当てて結論を出した。「頼んだ」という言葉を最後に希威の意識がなくなる。妖怪故、人間より強いはずなのだが、こんな状態にされるとは、流石、鬼の酒である。酒呑童子だからか、瓢箪の酒を飲んでもすぐに潰れない兎舞の凄さを、身を以て知らされた。

 ちなみに、酔い潰れて寝ている間にどう伝えたのか、村の人達は顔を青褪めさせてめちゃくちゃ怯えていた。しかし、危険だと広めてもらったはいいものの、恐らくあの洞窟の狙いは兎舞だけだろう。妖気を吸われていたのも水晶にされたのも兎舞だけだ。まぁ、怯えているくらいがちょうどいい為、村人達には教えないが。

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