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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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17.お酒で酔った兄妹に絡まれる話

 突然、露天風呂だけお酒に変わったという依頼を受け、どうしても外せない用事中の、水綺を除いた三人で、調査を兼ねて一泊するこになった。丑三つ時、他の宿泊客が寝静まった頃、貸し切りにしてもらって温泉に向かう。但し、缶ビール一本で酔ってしまうほど、メンバーの中で一番お酒に弱い白雪はお留守番だ。

 部屋に備え付けの風呂場でシャワーを浴びて浴衣に着替え、布団の上に寝転んで携帯を弄りながら兎舞と希威の帰りを待つ。一応、周りに配慮して妖怪の姿ではなく人間に化けている状態だ。が、二人ならそこまで苦戦することはないだろう。特に心配せずにゴロゴロしながら待っていた白雪は後悔することになった。


「おいこら、白雪。おれの酒が飲めねぇってかぁ!?」


「シロさん、何で一緒に温泉に来てくれなかったの?」


「うわあ、めっちゃ酔ってるやん」


 部屋に帰ってきた希威と兎舞が頬を色づかせて絡んでくる。泣きそうな不貞腐れた表情で白雪の右手を両手で包み、首を傾けて顔を覗き込んでくる兎舞は可愛らしい。が、温泉の調査で露天風呂の底にあったのか、水をお酒に変える道具を押しつけてくる希威が邪魔だった。

 寂しそうにギュッとくっついてきた兎舞を抱き締め返してやりつつ、苦虫を嚙み潰したような顔で希威を見る白雪。希威は気にした様子もなく、水をお酒に変える道具を口元に押しつけてくる。「それ、お酒ちゃうから飲まれへんで」なんてツッコんでも聞かないのだろう。


「シロさん、何でいつもみたいに頭を撫でてくんないの? とまのこと、嫌いになっちゃったです?」


「うちが兎舞ちゃんのこと嫌いになるわけないやん」


「おい、白雪。俺のことも好きだろー? 飲んでくれよぉ」


「もー。希威くんはさっさと寝てくれへん?」


 涙で潤んだ瞳を不安そうに揺らして、肩に額をグリグリ擦り付ける兎舞の頭を、白雪は告白と共に優しく撫でてあげる。これだけなら至福の時間なのだが、無遠慮に肩を抱いてきた希威まで、反対の肩に頭を擦り付けてきて顔を歪めた。確かに希威のことも仲間として好きだ。が、今だけは物凄く邪魔である。

 どうせ覚えていないだろうと冷たく突き放すと、希威がフラフラと兎舞の方へと移動した。肩口から離した顔をふにゃりと綻ばせ、「ふへへ」と嬉しそうに擽ったそうにしていた兎舞が、隣に来た希威を見て不思議そうにキョトンとする。まさか兎舞に道具を食べさせようとするつもりかと白雪は身体を強張らせた。


「ほら、兎舞。兎舞なら俺の酒を飲んでくれるよなぁ?」


「んー、いいよ」


「兎舞ちゃん、待っ……」


 予想通り道具を口元に近付けた希威と、酔っていてお酒だと判断している兎舞。白雪は慌てて兎舞の口を手で塞ごうとしたが、それよりも先に希威の指をカプっと甘噛みした。「へ?」と間抜けな声を漏らして固まる白雪の腕の中で、兎舞は希威の指をカプカプ噛んだりペロリと舐めたりしている。流石の希威も指を甘噛みされると思っていなかったのか硬直していた。


「んん、おいしいです」


 シーンと静まり返った部屋の固まった時が、兎舞の柔らかく無邪気な笑みで動き出す。もっと飲みたいのか希威の両手を掴み、人差し指をあーんと口の中に含もうとしたところで、白雪はハッと我に返って兎舞の口を手で塞いだ。半分ぐらいは嫉妬心である。


「兎舞ちゃん、そんなにお酒飲んだら危ないから終わりやで。ほら、お水飲んで。希威くんも」


「おみず、のむです」


「そんなことより酒だ、酒ぇ!」


 用意しておいたペットボトルの水を開けて渡すと、素直に受け取って飲み始める兎舞と裏腹に、希威がペットボトルをテーブルに置いて道具を食べようとした。口の中に入ってしまう大きさの球体故、誤って飲み込むと不味い。白雪は自分の言うことを聞かないならと、兎舞をけしかけた。


「兎舞ちゃん、希威くんにお水飲ませてあげて。このままやと、希威くんが死んでしまうかもしれへん」


「えっ、やだ。にいさん、おみず、のんで?」


「……お、おう」


 ちびちび水を飲んでいた兎舞が一気に泣き出しそうな顔になり、涙目で顔を覗き込みながら自分のペットボトルを希威に差し出す。不安を色濃く滲ませた潤んだ瞳で見上げられ、希威が面食らった表情をして大人しくペットボトルを受け取った。流石、最終兵器兎舞。今のうちに希威から水をお酒に変える道具を回収する。食べられると困る為、鞄の奥底に隠した。


「お水飲めたんやったら、もう寝るで」


「シロさん、いっしょにねよう?」


「おっ、ええよ」


 旅館の人が敷いてくれた布団を軽く叩く白雪の横に寝転がり、兎舞が不安と期待を織り交ぜた瞳で控えめに浴衣を掴む。普段から兎舞大好きな白雪は、勿論、即答で肯いた。「にいさんもいっしょ」と硬直している希威の裾も掴み、「お、おう」と隣に寝転ばせる。兎舞に指を甘噛みされた挙げ句、上目遣いで気遣われた効果か、希威の酔いが醒めていた。

 二人の間に寝転んで満足そうに破顔した兎舞は、酔って寂しがり屋になっているようで、希威と白雪の浴衣から手を離さない。きっとこっそり離れれば子供みたいに泣くのだろう。それが物凄く愛おしく感じて、白雪はフッと相好を崩して兎舞の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細めた兎舞は、満足感と酒精に酔っていることで、すぐに眠りに落ちた。


「……白雪、さっきは悪かったな」


「ええよ、酔ってたんやから。そんなに、強いお酒やったん?」


「ああ、妖怪の俺達ですら匂いだけで酔うぐらいやばかった」


 完全に酔いを醒ました希威が小声で謝ってきて、兎舞の寝顔を眺めていた白雪も声を潜めて返す。苦々しい表情の希威からお酒の強さを聞いて、行かなくて良かったと心の底から思った。三人とも酔った状態なんて調査どころではなくなってしまう。しかし、兎舞まで酔わせるほど強かったのだろうか。兎舞の穏やかな寝顔を見ながら、そんな疑問を投げかける。


「兎舞ちゃんでも?」


「いや、兎舞は匂いだけじゃ平気だったな。むしろ、温泉に浸かってゆっくりしてたぐらいだ。ただ、露天風呂の底にある道具を取る為に潜ったから、流石に酔ったんだろ」


 希威の言葉を聞いて胸を撫で下ろした。どうやらお酒に弱くなったわけではなかったらしい。兎舞が酔うなんて滅多にないことだが、人前でお酒を飲むのは禁止させるべきかもしれない。それをボソッと口に出した白雪に、希威が「あんなに寂しがり屋で甘えん坊な兎舞は、他の奴等に見せたくねぇもんなぁ」と同意を示した。


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