13.妖怪化したスイカに懐かれる話
スイカからウサギの耳が生えたうえピョンピョン飛び跳ねていると連絡を受けた。普通なら全く意味が分からず電話を切るところだ。が、食べ物が妖怪化することもある為、水綺にそんな失礼なことをする予定などない。早速、兎舞と希威、白雪を連れて目的地に向かうと、電話で聞いた通りスイカが飛び跳ねていた。
丸い緑と黒の身から白いウサ耳を生やし、畑の上を跳ねたり近くの人間に体当たりをお見舞いしている。目鼻口もなく喋らない為、いつもみたいに目的が分からない。ひとまず全て捕まえて妖怪化した理由を問いただすことにし、人間を襲っているスイカを中心に捕まえることにした。
が、目を持たないのに生物扱いで水綺はあまり役に立てそうにない。白雪も人間相手じゃない為、寿命を削って脅すことができない。つまり、希威と兎舞の独壇場だ。だが、今年の豊作を潰したり焼いて台無しにすると大赤字になる。故に、全員の得意技を封じられてしまったことになるわけだ。
「まぁ、あんまり苦労せぇへんやろうけどな」
「兎舞がいつものやつを発揮してますね」
「見てないで助けてよ!」
周りに大量のスイカを集めた兎舞が、呑気に見ている白雪と水綺に縋る。ウサ耳スイカの体当たりは愛情表現だったらしく、兎舞の身体に休む間もなくぶつかっていた。先程まで体当たりしまくられていた人々が、スイカたちの愛情表現だったと知って、満更でもなさそうに口元を緩めている。
「ちょっ、とまは痛くないけど、君たちが危ないです! 一旦、落ち着いて!」
溢れ出る歓喜と愛しみを訴えるみたいに乱暴にぶつかっているせいで、スイカたちの皮から赤い身が見えかけている。それでもスイカたちは止まらない。兎舞の何をそんなに気に入ったのか、我を忘れているらしい。と、兎舞が話を聞いてもらえないうえ和服を果汁で汚されて、我慢の限界だと言わんばかりに叫んだ。
「言うこと聞いてくれないなら、スイカのこと嫌いになるぞ!」
刹那、ピタッとスイカたちの動きが止まる。ついでに、スイカを育てている農家たちも固まった。兎舞を取り囲んだスイカたちが、その場でピョンピョン跳ねながら、謝るみたいに擦り寄ったりペコペコしている。農家たちも一斉に声を大にしてスイカの良さを語り始めた。兎舞は焦る人間を無視してスイカたちに尋ねる。
「何で妖怪化したの?」
「喋れないのに答えられるのか?」
「うん。スイカたちに触れてる間だけ、言葉が伝わったんです」
隣に屈んだ希威に肯いた兎舞は、近くのスイカを両手で掴んで額に当てた。それを羨ましそうにコロコロ転がったり、ピョンピョン跳ねながら見ている他のスイカたち。次の質問は自分が答えるぞ! と息巻いているように見える。と、白雪がスイカに嫉妬して兎舞の背中にピッタリくっついた。水綺も三人のところに向かう。
皆に見守られながらスイカから答えを得た兎舞がふわりと相好を崩す。「ありがとう」とツルツルしている頭を優しく撫でてからそっと時点に下ろした。それを見た他のスイカたちが、待ちきれないと言わんばかりにそわそわしている。背中に張り付いた白雪は手を持たないスイカたちに見せびらかすみたく、兎舞の頭を撫でてフフンと勝ち誇っていた。水綺は兎舞に答えを聞く。
「兎舞、スイカは何て言ってたのかしら?」
「毎年、大切に育ててくれる農家の人たちに感謝したかったんだって」
「そうなんや。それなら、何で兎舞ちゃんに懐いてるん?」
周囲の人間たちを感動させたところで、兎舞が次のスイカを両手で持って額に当て、白雪の疑問を尋ねた。否、尋ねようとした。が、横から割り込んだスイカに口元へと体当たりをされて、勢いの強さに後ろへと倒れる。瞬間、兎舞が吹き出したあと、笑いのツボに入ったように笑い始めた。仰向けに寝転んだまま涙を浮かべて笑い続けている。原因は間違いなくスイカだ。しかし、体当たりなら先程までも何度もされていた。何故、今回に限って笑い続けているのか。
水綺は体当たりしたスイカを真剣に観察する。このままだと兎舞が呼吸できない。希威と白雪が気絶させようと試みているが、兎舞のお腹を殴るなんて二人にできるはずもなく、殴る役を押し付け合っている。と、水綺は体当たりしたスイカに亀裂を見つけた。中から少しだけ果汁が溢れている。もしや、口の中に入った果汁によって、兎舞は無理やり笑いを引き起こされているのだろうか? 農家に聞いてみる。
「このスイカの商品名やキャッチコピーを教えてくれませんか?」
「た、食べると誰でも笑顔になる美味さの幸せスイカ……だ」
「なるほど。だから、兎舞は強制的に笑わされているのね」
笑う兎舞に見惚れていた一人の農家の説明を聞いて得心するかも水綺。体内の妖気によって、スイカを口に含むと本当に笑顔にする力を得たようだ。兎舞を苦しめたくないのか、それに気付いたスイカたちが一斉に離れていく。
兎舞に口付けをしたスイカがどれだったのかわからなくなってしまった。口に体当たりしたスイカから妖気をなくさねば、兎舞の笑声を止めることはできない。「み、水綺ちゃん。兎舞ちゃんが……」「水綺、兎舞が……」と、泣きそうな顔で不安げに瞳を濡らす二人にスイカを任せ、水綺は猫みたいに丸くなっている兎舞に呼びかけた。
「兎舞、私の目を見て?」
「な、何? ずっき……う、え?」
苦しそうに笑いつつ涙目で水綺を見た兎舞を催眠術で眠らせる。お腹を抱えて背中を丸めながら眠る兎舞から笑い声が消えた。代わりに寝息を立てている兎舞を背負って、白雪と希威から逃げ惑うスイカの方に向かう。兎舞は置いていってもよかったのだが、すっかり魅入られた野次馬たちに何をされるか分からない。それに、超能力は両手を支えずとも操れる為、兎舞を背負っていても何も問題はない。
妖気を失いたくないのか、ピョンピョン飛び跳ねて逃げるスイカを、白雪と希威が一つずつ手で捕まえて結界の中に閉じ込めている。始めはスイカを傷付けると農家に迷惑だと思っていたが、亀裂を作り土まみれのスイカに価値なんてあるのだろうか。
水綺はそう思いつつ、近くにあったネットを浮かせてスイカを捕獲する。目鼻口がなくても生物認定らしく、スイカ自体を操るには目の位置を把握する必要があった。つまり、捕獲したところで、自ら妖気を解放させることができないということだ。
「どうしたものかしらねぇ」
「水綺ちゃん、どうしたん?」
「何かあったのか?」
晴れ渡る空を見上げて困った顔をした水綺の元に、両手いっぱいにスイカを抱えた白雪と希威が来る。かくかくしかじかといつもの方法を使えないことを告げると、「ウサ耳を引きちぎったみたらええんちゃう?」「いっそのこと、割っちまおうぜ」と、とてつもなく物騒な提案をされた。
どうやら兎舞を笑わせて苦しめたスイカに、少しだけ敵意を芽生えさせてしまっているらしい。スイカたちに悪気はなさそうだから、潰したりするのはやめてあげたいところだ。ということを伝えてみると、「目の代わりになる器官がどこにあるのか分かればいいんやろ?」と白雪に拗ね気味に聞かれた。そんなにウサ耳を引きちぎりたかったのか。
「何とかできそうですか?」
「兎舞ちゃんの寝顔を見せたら一発やん」
引き締まった顔でグッと親指を立てて、期待の眼差しを向ける水綺に自信満々に答える白雪。確かにスイカたちは兎舞に懐いていたが、周囲の人間達同様、兎舞の寝顔で釣れるだろうか。水綺のそんな疑問など杞憂だといわんばかりに、「今だけ兎舞ちゃんの寝顔が見放題やで!」と指差した白雪に急かされ、スイカたちが結界の中で慌てふためきながら恐らく兎舞を見た。
しっかりと目に焼き付けようとしているのか、微動だにしなくなったスイカたちから熱い視線を感じる。水綺が試しに超能力を発動してみると、全てのスイカたちを操ることに成功。前のめりになって兎舞の寝顔を見るのに必死になっていたスイカたちから、あっさりと自ら妖気を手放させる。
ちなみに、ただのスイカに戻したものの、農家達に出荷できないと拒否され、全て持って帰ることになった。




