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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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11.続・異空間を調査する話【Ⅴ】

「次は子供部屋か」


「また兎舞ちゃんを可愛くすれば良いんかな?」


 八の部屋は、壁際に並んだ箪笥へと視線を走らせた希威の言う通り、床にまでおもちゃを散らかしたカラフルな子供部屋だ。デジタル時計の数字に目を落とした白雪が、親指で軽く撫でて疑点を吐露する。それに聞き覚えのない声が不平を鳴らした。


「なんで、とまなんだよ」


 何だか妙に高い声が混ざったことに疑問を抱き、水綺は足元に目線を落とす。兎舞をそのまま小さくしたような幼児が、ダボダボの服に身を包んでちょこんと座っていた。鳩が豆鉄砲を食ったような顔で硬直する水綺を見上げ、兎舞が「なに?」と不思議そうなキョトンとした表情で小首を傾ける。


「……なんか兎舞、小さいわね?」


「へやにはいったら、ちっちゃくなったです」


「次はこの可愛らしい子どもの兎舞を着飾れってことかしら?」


 頰をむぅっと膨らませて不貞腐れる兎舞を持ち上げ、水綺は何となく高い高いをして機嫌を直そうと試みた。余計に拗ねてしまった為、頭を撫でる作戦に切り替える。子供になって素直なのか、普段よりもふにゃふにゃした顔で、気持ち良さそうに目を細めた。。相変わらず、頭を撫でられるのに酷く弱い。と、兎舞と戯れていた水綺の耳に、興奮した様子の白雪と希威の弾んだ声が届いた。


「おもちゃとか持たせてみようや」


「ここはやっぱりぬいぐるみだろ」


「ぬいぐるみはさっきやったやん」


 両手に積み木やブロックを持った白雪と、ぬいぐるみを抱いた希威が喧嘩を始める。水綺の脳裏に浮かんだ姿によれば、どちらの兎舞も可愛い為、デジタル時計の数字は増加できるだろう。ギャーギャーと理想の姿を叫喚し合う二人に、兎舞が半眼を向けた。


「なんのけんかしてるんだ、あいつら」


「そんなことしなくても兎舞は可愛くできるのにね」


「ほんと?」


「うっ」


 見た目に合わせて精神年齢も少し下がってしまっているらしい。「ずっきー、すげぇです!」とありありと書かれた赤い瞳を、期待と尊敬でこれでもかと輝かせている。そんな表情で見上げられて首を傾けられた。

 例え中身が成人女性だとしてもときめく。苦しげな呻き声を漏らした水綺にキョトンとした兎舞が、何かを察した顔をしてキョロキョロと周囲を見渡す。そして、目当てのものを見つけ、視線を固定して呟く。


「あっ、すうじがふえてるです」


 そして、水綺を見上げ考え込み始めた。こういう時の兎舞は、大抵、何か良からぬことを考えている。何をするつもりか警戒する水綺の手を両手で掴み、薔薇のようにありったけの笑みを浮かべたかと思えば、兎舞が少しはにかむように頰を色づかせて言った。


「みずきおねえちゃん、だいすき!」


「うあぁぁぁっ!? 兎舞、貴女……」


「ふへへっ」


 無事に水綺を沈めることができて、ご満悦な様子で悪戯っぽく笑う兎舞。兎舞にしてやられてときめいてしまったのが悔しい。水綺は犠牲者仲間を増やそうと目論んだ 。「よしっ、今の調子で私が言ったことを希威先輩にやってきなさい」と、満足げに破顔する兎舞を唆した。悪戯気味に楽しそうに笑った兎舞が、予定通り白雪と討論する希威の元に駆けていく。


「ねぇ、にいさん」


「どうした、兎舞」


 そのまま、ドンっと希威の背にぶつかり、彼の視線を白雪から自分に変える。何か言いたいことがあると察した希威が、膝を曲げて目線を合わせて問うた。何度か視線を彷徨わせてもじもじとしてから、面映さを含んだ顔で希威を見上げて両手を広げ、兎舞が恥ずかしそうにおずおずとか細い声で答える。


「だっこ」


「うぐっふぅぅぅぅ!?」


 しかも、首を小さく傾けるオプション付きである。兎舞大好きな希威が耐え切れるはずもなく、心臓部を両手で押さえながら膝から崩れ落ちた。鼻が口から血でも噴出したのか、真っ白なはずのマスクが真っ赤だ。

 兎舞は背中を丸めて蹲る希威の上に腰掛け、小さな足をぶらぶらと揺らしている。希威の心臓も撃ち抜くことに成功したからか、鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌だ。水綺の中で悔しい感情と愛らしさが鬩ぎ合う。 


「見て、数字が跳ね上がってるで」


 と、二十だった数字が一気に八十に上がったデジタル時計を抱えて皆に見せる白雪。揶揄を孕んだ目をわざとらしく丸めて、水綺と希威にニヤニヤしながら見せつけてくる。二人が紛れもなく兎舞に萌えた結果故、何も言い返せない水綺は歯を食いしばった。

 希威は「俺は成人済みの妹に萌えましたが何か?」といったスタンスだ。完全に開き直ったからか悔しさなど微塵もなく、小さくなった兎舞を両腕でギュッと抱き締めている。抜け出そうともがく兎舞だったが、希威の手に頭を撫でられて大人しくなった。むしろ、自分から掌に擦り寄っている。


「この数字って百にしないとアカンねんやんな? せやったら、あと一回、兎舞ちゃんが子供らしいことをしないとアカンのちゃう?」


「うえー、もうやだ。はずかしいです」


「さっきまでノリノリだったわよね?」


「よしっ、ならばこの恋愛マスター希威様が、可愛らしい甘え方を伝授してやろう」


 得意満面に胸を張った希威が、兎舞の耳元でアドバイスを告げた。もう乗り気じゃない兎舞は、「やだっていってんじゃん」と首を横に振るが、「やってくれたら焼肉奢るぞ?」と言う言葉に乗って交渉成立。焼肉に釣られた兎舞が、てってってと白雪の元に駆け寄る。白雪は何をされるのかと身構えた。

 兎舞は白雪の服をクイクイっと引っ張って屈むように告げる。白雪は身体を強張らせて迷いに迷った後、何をしてもらえるのか気になるのか恐る恐る従った。兎舞が膝を曲げて目線を合わせた白雪の耳元に唇を寄せ、口横に手を当てて伝授した甘え方を実践する。


「おおきくなったら、しろさんのおよめさんにしてね」


「うぐぅ」


 水綺や希威にも聞こえる声量の告白。しかも、くすぐったそうな無邪気な笑みで小さな小指を立て、「やくそくだよ?」と首をコテンと小さく傾げる追い打ち付き。白雪に耐え切れるはずもなく、呆気なく撃沈した。両手で顔を覆い隠して天を仰ぎ見る白雪は、緩んだ口元を引き締めていることだろう。


「あら、上がったわね」


「どうだ、白雪! 参ったか!」


「ま、参りました」


 全く耐えきれず沈んだ白雪に胸を張る希威。白雪が背中を丸めて蹲りながら降参する。そんな中、「みて、まっしゅるーむがあった!」と、兎舞がどこからともなくマッシュルームを持ってきた。早速、四人で中央の部屋に戻って、残りの窪みにマッシュルームを入れる。瞬間、視界がぐにゃりと歪んだかと思えば、社務所に移動していた。どうやら戻って来れたらしい。

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