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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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10.続・異空間を調査する話【Ⅳ】

 漢数字の『四』が書かれた看板を掲げた部屋に入る四人。四分の三ほどを牢屋に占拠され、左右の長机に様々な拘束具が置かれている。鉄格子は本格的で鍵まで付いていた。先程の寝室と違って、随分と不気味で恐怖心を煽る部屋だ。


 と、ジャラジャラという音が聞こえた。視線を向けた先には、手錠を両手首に嵌めた兎舞。ピーマンを手に入れた瞬間、あんなに熟睡していたのに、いきなり目を覚ましたのだ。皆に見られていることに気付いた兎舞が、キョトンとして目を瞬いた後、ふにゃりと楽しそうに無邪気に顔を綻ばせて手錠を見せる。


「見てみて、捕まっちゃったー」


「貴女は本当に呑気ね」


 呆れを含ませつつも微笑ましさを隠しきれず頭を撫でる水綺。気持ちよさそうに満足そうに双眸を眇め、兎舞が悪戯気味に「いいじゃん。こういうのは、楽しんだもん勝ちでしょ?」と笑う。身体の前で拘束された兎舞は妙に扇情的で、見てはいけないものを見ている気分になる。と、白雪は数字を示したデジタル時計を見つけた。


「あっ、見て! デジタル時計に数字が書かれてる」


「二十……さっきと同じ展開か?」


「何? どうすんです?」


 白雪の方に駆け寄った希威の横から、兎舞がひょっこりと時計を覗き込む。眠らされていた為、一の部屋での出来事を知らない兎舞に、希威が「ここにあるものを使って数字を百にするんだ。兎舞、牢の中に入ってみて」と説明した。ついでに、デジタル時計の数字を増やそうと、欲望に従って鉄格子の方を指差す。

 首を傾げつつも「? 分かったです」なんて安易に頷き、兎舞が鉄格子の扉を開けて中に入った。真ん中まで歩いて行って座るだけで、デジタル時計の数字がぐんっと跳ね上がる。誰の感情を元にしているのか分からないが、確かに牢屋の中に居る手錠で拘束された兎舞は、高潔で清廉で清らかな存在を無理やり穢したように背徳的だ。と、また数字が増えた。


「あっ、四十になった」


 どうやら部屋の中に居る四人の感情を元にしているらしい。得心する白雪の視界で、「その数字、何なのさ?」と首を傾げる兎舞に、希威が「兎舞が可愛いと増えていく数字」と説明しながら首輪をつける。早くこの部屋から出たいからか、拘束されたといえど抵抗できるはずなのに、兎舞はされるがままだ。


「捕まったとまのどこが可愛いんだよ」


「まぁ、どちらかと言うと色っぽいわよね」


「どっちでも増えるんじゃね?」


 自分の容姿の良さを分かっていない兎舞に、水綺と希威が曇りなき眼差しで的外れな回答をする。「いや、そうじゃなくて……」なんて言いたそうに呆れる兎舞だが、何を言っても無駄だと判断したらしく深々と溜息を吐いた。白雪はデジタル時計を水綺に渡し、浮立つ気持ちで自分も兎舞を拘束しようと駆け寄る。


「よーし、うちも数字増やすで。兎舞ちゃん、万歳」


「ん」


 白雪はやる気を漲らせて鉄格子の中に入り、大人しく両手を挙げた兎舞を壁際に連れて行った。そして、柱に手錠を繋げて壁に身体を固定する。素晴らしい光景だ。隙のないビジュアルが眼球に染みる。自分自身に拍手喝采を送った。親指を立てた希威からも賞賛を貰う。


「ナイス、白雪。六十になった」


「何もしてないのは私だけになったわね」


「いいよ、しなくて」


 デジタル時計に目を落としていた水綺が仏頂面で考え込む。それに答えた兎舞は、精神的に疲弊したようで、気怠げに面倒臭そうに水綺へと半眼を向けていた。両腕を挙げた状態で身体を脱力させて壁に背を預けた無防備な姿が色っぽい。刹那、デジタル時計の数字が八十に変わった。


「えっ、八十に増えた」


「何で?」


「あっ、分かった。兎舞がお疲れだからか」


 ジトっとした目をデジタル時計に突き刺す兎舞を見て、希威が理由を察して壁際の長机の方へと向かう。「兎舞を疲れさせればいいんだろ、任せろ」と、楽しそうに用意されたアイテムを物色していき、両手いっぱいに抱えながら兎舞の前に行く。兎舞が心を躍らせる希威を嫌そうに見て、「ええー……何する気だよ」と軽く身を引いた。

 「変なことはしないから安心しろ!」なんて信用度ゼロのことを言いながら、希威が兎舞の前に屈み込んで疲弊させる為の行動を始める。希威の背中で何をされているのか見えない。が、デジタル時計の数字を一気に増やしたくて、白雪は水綺と一緒に敢えて見ないよう後ろを向いた。ギャーギャーと希威と兎舞の騒ぐ声が聞こえ、胸の中に芽生えた期待をどんどん膨らませていく。


「よし、できた!」


 時折、聞こえる兎舞の甘く艶やかな声や、擽ったそうな笑い声で、振り向きたい衝動に駆られつつ待っていると、希威が完成を告げた。水綺と顔を見合わせた白雪は、心拍数を増幅させながら恐る恐る振り返る。視界に映った疲弊し切った兎舞の破壊力で、ピシリとメデューサに見られたみたいに硬直してしまった。爆弾というのは、気配を察知していたところで、直撃を避けられないと思い知らされる。


 色気を撒き散らすほんのり色づいた頰に、目薬によって涙目になった弱々しい赤い瞳。形のいい唇から溢れる熱っぽい小さな吐息。先程よりも気怠げな空気を醸し出しており、無防備な色気は思わず生唾を飲み込ませる。切なげな悩ましげな表情で息を切らす姿は、牢の中で何をされたのか想像を駆り立てた。

 「どうよ!?」と得意満面な笑顔で振り返った希威に、水綺と白雪は無言で拍手を送る。デジタル時計も降参を認めるみたいに百になった。何をされたのか見えなかったが、蕩けた熱っぽい瞳で流し目を寄越した兎舞が、拍手の意味を理解できていない様子で小首を傾ける。それが更に、点数を伸ばした結果、デジタル時計が壊れた。同時に、机に茹でる前のパスタが現れる。


「拘束具が置いてある台にパスタがあったよ」


「どういう仕組みよ」


 机の方に向かった白雪によって、左右に振られるパスタに、水綺が半眼を突き刺して律儀にツッコミを入れる。ちなみに、とても倒錯的で目に毒なほど壮絶な色香を醸し出している兎舞は、無言で連写する希威に「撮るな」とぐったりとしたままツッコミを入れていた。

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