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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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8.続・異空間を調査する話【Ⅱ】

 二の部屋は黒い長方形の棚の上に正方形のショーケースが置かれていた。その中に敷かれた小さなクッションの上に宝石が鎮座している。宝石はカタカナの『コ』を縦にしたような形で並べられていた。兎舞が部屋に入った瞬間、パッと顔を輝かせて宝石に駆け寄る。「うわっ、スゲェです! 宝石館だって!」と、入り口付近に掲載されたアクアマリンを、キラキラした瞳で見ていた。

 白雪も兎舞に続いて中に入って行く。「この宝石って本物なんかな」と、兎舞と一緒にショーケースを覗き込み、宝石談義を繰り広げている。ショーケースの前には、宝石の名前を記してくれていて、知識のない希威達でも楽しめそうだ。希威も鑑賞に参加した。兎舞達と逆側から回ることにし、アクアマリンの向かいに置かれたルビーを見下ろす。あまりの美しさにポツリと本音を溢した。


「凄い。このルビー、兎舞の瞳みたいに綺麗」


「キモいから兄さんの瞳の色と同じ色の宝石だけ割るです」


「俺の目に何の影響もないけど何となくやめて!?」


 ジトっとした目を突き刺し物騒な提案をする兎舞に泡を食う希威。だが、ほんの少しだけ頰を赤らめていて、含羞の色を宿していた。照れ隠しだと分かった途端、愛しさが込み上げてきて口を緩める。

 ニヤニヤと口元に弧を描いて兎舞に抱きつくも特に離されなかった。溢れ出る愛おしさのまま兎舞の背中に顔を埋めてスリスリと擦る。相変わらず、柔軟剤の柔らかくて優しい香りが鼻腔を満たした。


「でも、ホンマに兎舞ちゃんの瞳って綺麗やね」


「……シロさんの方が綺麗です」


「ホンマに!? ありがとう!」


 白雪が顔を覗き込んでニコリと微笑みながら兎舞を口説く。またもや冷ややかな瞳で、辛辣なことを言うかと思えば、顔を横に逸らして細い声で白雪を褒めた。

 一瞬、面食らった顔をした後、白雪が嬉しそうに破顔する。二人の間にほのぼのとした少しだけ甘くて酸っぱい雰囲気が漂っていた。兎舞の肩に顎を乗せて見ていた希威は、唇を尖らせて不平を鳴らす。


「何で、白雪に褒められたら照れるのさ! 俺の賞賛にも照れてよ、兎舞ぁ!」


「やめろ、鬱陶しいです!」


「撫で撫でさせてくれたらやめる!」


「分かったから擦り寄ってくんな、暑苦しい!」


 首筋で頭をグリグリさせて嫌がらせをすると、擽ったいのか肩を上げた兎舞が希威の要求を呑んだ。身体を回転させて引き剥がされてしまったが、なでなでの権利を得た希威は満足感に満たされた。兎舞はよっぽどゾワゾワしたらしく頰を色づかせ、首筋を手で押さえて涙目で希威を睨め付けている。


「やったー、兎舞の髪の毛触るの好きなんだよね」


「妹の頭を撫でて何が良いんだか」


 希威は喜色満面の笑みを浮かべ、兎舞の頭を前側から優しく撫でた。呆れたように文句を言いながらも、兎舞は気持ち良さそうに目を細める。無意識なのか気付いていないようで、恥ずかしそうにそっぽを向いて口を尖らせていた。が、嬉しそうに綻んだ顔と、手のひらに擦り寄ってくる時点で、本当は嫌がっていないと一目瞭然である。


「この宝石も何かのヒントになってるんかな?」


 白雪が室内に飾られている宝石を一通り見渡した。まず間違いなく何かのヒントだろう。ちなみに宝石は、入り口から順に、アクアマリン、アメジスト、エメラルド、オパール、ガーネット、サファイア、ダイヤモンド、ヒスイ、ペリドット、ラピスラズリ、ルビーだ。と、一人で部屋中を歩き回っていた白雪が何かを見つける。


「あっ、また金庫がある」


「パスワードは四つの数字ですね」


 全員で白雪の元に向かうと、ルビーの隣の台座に黒い正方形の金庫が鎮座していた。今回もダイアル式ではなく、代わりに一から九までの数字を羅列した、タッチパネルが埋め込まれている。その下に四つの空白がある為、水綺の言う通り四つの数字を入れろということだろう。希威は全く分からずお手上げだと両手を軽く上げた。


「全く分からん」


「それぞれの色の個数かな」


「四色以上あるし違うと思います」


 諦める希威の横で白雪と水綺が顎に手を当てて考え込む中、メモとペンを取り出し宝石の名前を書き出し始める兎舞。全て書き終えると、何かを指折り数え、名前の横に数字を記していく。アクアマリンからルビーまでの全ての宝石に数字を振った後は、新しいページに宝石の名前を並べ替えて書き始めた。

 五文字の宝石はアメジスト、エメラルド、ガーネット、サファイア、ペリドットで五つ。六文字の宝石はアクアマリン、ダイヤモンド、ラピスラズリで三つ。三文字の宝石はヒスイとルビーで二つ。そして、四文字の宝石がオパールで一つ。数が多い順に並べると、五文字のグループ、六文字のグループ、三文字のグループ、四文字のグループだ。

 カチッとペンを引っ込ませた兎舞が、「分かったです」と小さく呟き、金庫のタッチパネルの前に屈む。そして、何の迷いもなくしなやかな指を動かし、『五、六、三、四』と順番に入力した。ガチャっと鍵の開く音と共に金庫が自動的に口を開く。中にはカットされていない生のピーマンが入っていた。


「おお、開いた!」


「兎舞、凄いわ!」


「何で分かったの?」


「シロさんの考えがヒントになったです」


 白雪と水綺が目を輝かせて感心する中、希威の質問に得意気な表情で答える兎舞。鼻を高くしているが、直球で褒められて少し照れ気味だ。兎舞は羞恥を振り払うように、胸を張って人差し指を立てながら、説明を始める。兎舞が開いたメモ帳を四人で覗き込む。


「まず、文字数ごとに宝石の名前を分けるでしょ? その後、数が多いグループの文字数から順に並べれば、五、六、三、四」


「さっすが、兎舞ちゃん!」


「私達の中で一番賢いわね!」


「偉いぞー、ビスケットをあげよう」


 拍手喝采を送る白雪とわしゃわしゃと乱雑に頭を撫で回す水綺。希威はポケットから個包装のビスケットを取り出して食べさせてあげる。髪の毛を盛大に乱されてやめろと言いつつ、水綺の手を享受したままの兎舞は、口に突っ込まれたビスケットを飲み込んだ。希威が「美味しかった?」と聞けば、「ん。てか、兄さんは幾つお菓子持ってんだよ」と兎舞に問い返された。


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