7.続・異空間を調査する話【Ⅰ】
また謎の異空間調査を任された。しかも、昼食を食べながらゲームをしている最中、強引に転移させられた為、食べ物を持ったままだ。今居る部屋は、地面にラベンダーの絨毯を敷き詰めた花畑だった。観光名所にしても良いぐらいに素晴らしい景色だ。
「この花畑、何?」
「知らないです」
「すごいな、一面がラベンダーだらけやん」
「あっちは違う色みたいですよ」
食べかけのおにぎりを持ったまま首を傾ける希威に、兎舞が咀嚼したカップ焼きそばを嚥下して簡潔に答える。額に手を翳して感心する白雪と水綺と違って、食べることが何よりも大好き故、昼食タイムを邪魔されて不満気だ。水綺は飲もうと思って持っていた未開封の水を渡し、焼きそばを食べ続ける兎舞の頭を撫でて慰める。伸びる前に食べ切ってしまおうと思っての行動だろうが、緊張感を雲散霧消させていた。おかげで焦りに支配されずに花畑を観察できている。
「違う色っていうか違う花だな」
「白いチューリップ畑や」
「もしかして、あそこの二つも色違いじゃなくて、違う花なんでしょうか?」
「だろうな」
おにぎりを食べ切った希威と白雪の会話に参加し、水綺も遠くを見据えた。今までと違って一番端の壁が見えない広々とした部屋で、ラベンダー以外の花も咲き誇っている。ちなみに、四つに区切られた室内に広がる花の種類は、ラベンダーの他、チューリップ、コスモス、カーネーションだ。と、焼きそばを完食した兎舞が、手を合わせてご馳走様を告げた後、「見に行ってくるです」とラベンダー畑の向こうに駆け出そうとした。水綺は慌てて羽交締めにして阻止する。
「兎舞、一人じゃ危ないから逸れちゃダメよ」
「大人しく俺とくっついてなさい」
「何でとまだけ子供扱いすんの」
両腕を広げた希威に預けられた兎舞が、自由行動を禁止されて不平を鳴らした。しかし、「兎舞だから」と三人同時に答えられ、諦めたように大人しく希威の腕の中に居る。白雪が持っていたお菓子で餌付けをして、兎舞の機嫌を直しながら四人で練り歩き、ラベンダー以外の花畑を順に見て回った。チューリップばたけの風光明媚な景色をしっかり堪能してから、コスモスの花畑に行く。
「ここは、ピンクのコスモスですね」
「季節感がバラバラだな」
「最後の赤いカーネーションも綺麗やったで」
「白雪先輩も一人で勝手に先に行かないでください」
絶景に息を呑みつつもしっかりと情報を集める水綺と希威。そんな二人のそばを勝手に離れて、最後のカーネーション畑に向かった白雪の頭に、水綺は手刀を落とす。兄を背中にくっつけたまま、白雪に貰ったビスケットを食べていた兎舞が、希威を見て提案した。
「兄さん、シロさんも捕まえといた方が良いんじゃない?」
「そうだな。白雪、確保ー」
「わー」
「楽しそうに戯れないで下さい」
兎舞の細腰に右腕を回した希威の空いた左腕に、反省どころか満更でもなさそうな白雪が捕まる。仲良く団子みたいにくっついた三人に、水綺が少し羨望の眼差しを向けつつツッコむと、兎舞にビスケットを渡された。かと思いきや、空いた手で反対の手を握られる。面食らった水綺の視線を敢えて無視し、「あっ、あそこに金庫あるじゃん」と指差した。水綺はこっそり頰を緩ませる。
「さっき見てみたら、パスワードが必要やったで」「パスワード……」と、白雪の言葉に苦虫を噛み潰したような面倒臭そうな顔をする兎舞の手を折角だから堪能した。しなやかで細くて滑らかな肌触りで、爪は磨いているみたいにピカピカで艶やかだ。物凄くまめで努力家な兎舞のことだ。実際に磨いて美しさを保っているのだろう。
と、握り返さず楽しんでいる間に、「あれ? よく見たら、あそこのカーネーションだけピンクじゃね?」「ホンマや! 全然気付かんかった」「何か意味があるかもです」なんて、希威を発端に白雪と兎舞が話を進める。そのまま駆け出した三人に引っ張られる形で、水綺もピンクのカーネーションの元に向かう。希威が屈んで茎を確かめた。
「おっ、茎に紙が結んであったぞ」
「何で書いてるです?」
「数字の六……だな」
破けないように紙を外して開いた希威は、覗き込んだ兎舞の質問に困惑気味に答える。「もしかして、他の花畑にも色違いがあるんかな」という白雪の言葉に従い、各々で担当の花畑へと向かって探すことになった。ちなみに、真っ先に一人行動をしようとした兎舞は、過保護な希威に横抱きでコスモス畑に連れて行かれている。
「青いラベンダーと黄色のチューリップが数字の二で、紫のコスモスが数字の一……」
全員で集めた紙を眺めながら謎解きに挑戦する水綺。情報を整理する為に呟いた言葉に、白雪が「何か意味があるんかな」と首を傾ける。恐らく意味はあるはずだ。意味もなく一つだけ色違いの花を用意し、あまつさえ茎に紙なんて結ばないだろう。と、希威から解放された兎舞が、ポツリと呟いた。
「……——ベーコン?」
「急にどうしたん?」
「お腹でも空いたの?」
「俺、クッキー持ってるよ。はい、あーん」
「そうじゃな……んむっ」
静かな花畑にやけに大きく響いた兎舞の、低く小さな声を拾った白雪と水綺が視線を向ける。どういうことだろうか? 意味を聞く前に、希威がポケットから個包装のクッキーを取り出し、何か言いかけた兎舞の口に無理やり押し込む。ちなみに、何でポケットにクッキーを入れているんだというツッコミは無駄だ。どうせ兎舞の為に決まっている。
「美味しい?」
「ん」
「ベーコンじゃなくて良かったの?」
「腹減ってるわけじゃねぇから」
希威の質問にもぐもぐと口を動かしたまま肯いた兎舞が、白雪の素朴な疑問に嚥下してから答えて説明に入った。兎舞曰く、花の名前を抜き取るそうだ。ラベンダーとチューリップは二文字目、コスモスは一文字目で、カーネーションは六文字目。そうすると、兎舞が呟きた通りベーコンになる。水綺は一通り話を聞き終えてから、ハッと金庫に取り付けられた平仮名のパネルに目を向けた。
「もしかして、それが金庫の暗号?」
「試しに入れてみよう!」
心を踊らせる白雪に肯いて早速パネルを操作する。後ろで「パスワードがベーコンの金庫って何」「持ち主の頭が変わってるんだろ」と、希威と兎舞がヒソヒソと話していた。ダイアルの代わりにタッチパネルを付随した金庫が開く。真空パックに保存されたカット済みのベーコンが入っていた。
「中からベーコンが出てきたんだけど」
「「「何で?」」」
手に取って皆に見せると、全員から戸惑いの声が返ってくる。水綺だって分からない。が、前回のことを踏まえてみるに、何の意味もないわけがないだろう。ということで、意味は全く分からないが、話し合った結果、ベーコンを中央の部屋に持って行くことにした。




