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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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6.妖怪化したカレーに狙われる話

 艶やかな光沢を放つ白米の上に若くて美人な鬼を盛り付け、その上から具だくさんのカレーを大量にかけて、生でも食べられるチーズをたっぷり振り掛けたい。そんな人間の願望の塊から生まれたカレー鍋の妖怪。中に溢れんばかりのカレーを入れた妖怪は、右手にお玉を持ち、左手に綺麗に盛られたライスを持っている。

 あとは、噂の若くて美人な鬼を乗せるだけの状態だ。鍋の部分に目鼻口がある為、興奮した眼差しを兎舞に突き刺している。「カレーを並々と詰め込んだ鍋が暴れている」と通報を受けた兎舞は、そのいやらしい目つきから逃げるみたく、希威の後ろに隠れていた。希威も嫌悪感を顕にカレー鍋を睨みつけている。


「いい加減に、鬼を寄越せ! そこらの子供を入れたぐらいじゃ物足りん!」


「うちらが来る途中に何人か被害に遭ってるみたいやね」


「もしかして、あのカレーの中に居るのかな」


 声を荒げて鬼を所望する妖怪の自白で、他にも被害者が居ると察する白雪と、額に手を翳して鍋を見上げる兎舞。しかし、空から見てみた水綺の視界に、カレーの中に沈んだ子供の姿はない。今までの流れから察するに、ジャガイモやニンジンにされている可能性がある。さて、どうやったら元に戻せるのだろうか。


「とまがカレーの中に入ったら、子供達は返してくれる?」


「馬鹿! 兎舞ちゃんをあんな奴に渡すわけないやん!」


「俺も嫌だね。何をされるか分かったもんじゃねぇ」


 水綺が助け方を考えていると、カレー鍋を見上げて名乗り出る兎舞。ちょっと入って見たいと物語っている瞳を、好奇心でキラキラ輝かせて提案した兎舞を、白雪と希威が不満げに抱きしめる。左右から抱き着いた二人によって動けなくなった兎舞を見下ろし、カレー鍋はニヤニヤと口元を緩めて条件を飲んだ。「鬼よ、子供達の為にこっちへ来るのだ」と、カレー鍋の妖怪が左右の手をわきわきと動かす。


「うぇぇ。行く気がなくなるから、その手やめて」


「あんな見るからに下心ある奴のところなんて行ったらアカン!」


「そうだぞ、兎舞! 行ったらカレーの中に入れられるだけじゃなく、服とか脱がされたり、熱々の具で涙目にされたり、身体の隅から隅まで堪能されるぞ!」


 苦虫を噛み潰したような顔で嫌がる兎舞に、白雪と希威が焦燥に駆られた表情で更に強く抱き締めた。それを見て表情から笑顔を消したカレー鍋が、おたまでカレーをたっぷりと掬って三人の上からぶっかける。着物の中に入ったジャガイモの熱さに、兎舞が涙目で水綺に縋るような眼差しを向けてきた。水綺は着物の中に手を突っ込んで、背中の滑らかさを堪能してから、ジャガイモを外に放る。


 一方、まさか自分達もカレー塗れにされると思っていなかったらしく、白雪と希威は、面食らった顔で目を瞬いていた。それにより一瞬できた二人の隙をついたカレー鍋が、涙を拭って安堵する兎舞をおたまで掬い上げて、ライスの上に乗せる。「あっ、しまった!」「兎舞ちゃん!」と希威と白雪が慌てる中、期待通りライスの上を体験できてはしゃぐ兎舞。

 「すげぇ! ベタベタして動けないです!」と身を捩る兎舞は、脱力させた身体を仰向けでライスに預け、落ちた際に挙げていた両腕も万歳の状態でくっついている。着物も重力に従って捲れたまま固定されており、角度によっては妖艶な二の腕や脇を拝めそうだ。カレー鍋も眼球に染みるビジュアルの良さに、カレーをかけるべきか否か物凄く葛藤している。


 が、「かけてくれないならもういいです」と自力で起き上がった兎舞の腕力に驚いて、カレーを勢いよくお玉で救って上からぶっかけた。念の為、口元を手の甲で覆ったからか、具材になることなくカレーまみれになる兎舞。まるで布団の中に潜り込むみたいに、嬉しそうにライスの上にうつぶせになる。カレーが掛け布団のようになっていた。

 上機嫌な兎舞の可愛さにやられたのか、カレー鍋が無言でチーズまでふりかけ始める。あっという間に、鬼を添えたドリア風のカレーライスが完成した。潜り込んでいる兎舞によってとても美味しそうに見え、周囲の野次馬の中からゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。兎舞がライスの上に頬杖をついて妖怪に尋ねた。


「これで子供達は元に戻してくれるです?」


「えっ、あっ、はい……いや、まだだ!」


「今、はいって言ったじゃん!」


 ニコッと微笑んだ兎舞に魅入られたカレー鍋は、一瞬、肯いたもののすぐに我に返る。一回、後衛したのに撤回された兎舞が、ライスの上に座って拗ね気味に抗議し、希威に「仲良く会話するな」とツッコまれていた。きっとベタベタなライスみたいに、かけられたカレーやチーズにも、何か拘束する効果があるのだろう。それなのに、普通に動いている兎舞に慄きつつ、カレー鍋は強気な態度で条件を出す。


「お前を添えたカレーライスを食わせろ。したら、元に戻してやる」


「うぇぇ? とま、食べ物じゃないんだけど」


「お前、調子に乗るのも大概にしろよ」


 嫌そうな兎舞の言葉を遮る勢いで口を開いた希威が、小鼻を膨らませて興奮するカレー鍋の縁に立った。殺気を放ってカレー鍋を睨め付けている希威に習い、その横にふわふわ浮いた白雪も、「兎舞ちゃん、もっと抵抗しないとアカンやろ?」と優しく言い聞かせつつ、鋭い目つきをカレー鍋に向けている。「落ち着いてよ、兄さんとシロさん」と、カレー鍋を青褪めた顔で怯えさせている元凶二人を宥めた兎舞は、ガクガク震えている可哀想な妖怪にふわりと相好を崩した。


「とまのこと、残さず食べてね?」


「ぐはっ!?」


 儚げに眉尻を下げて小首を傾けた兎舞の色気と、泡沫のように仄淡い存在を食べる罪悪感で、カレー鍋が後ろにひっくり返る。中のカレーを全てぶちまけて空っぽになった途端、目鼻口が消えて普通の鍋に戻っていった。と、地面に溢れたカレーの中で、具材が次々と子供の姿に変わっていく。どうやら兎舞の無自覚な色仕掛けで全て終わったらしい。


「チッ、俺がボコボコにしてやりたかったのに」


「兎舞ちゃんの色仕掛けでやられるなんて、アイツにはもったいないやられ方やん」


 不完全燃焼らしく顰めっ面をした希威と白雪が、ただのカレー鍋を睨みつけながら不平を鳴らす。「とま、色仕掛けなんてしてないよ?」と首を傾げる兎舞は、どこまで本気だったのだろうか。まさか本当に食べられるつもりなどなかったはずだ。が、水綺の中に不安が芽生えたのも事実。水綺はしばらく自分から敵の罠に飛び込むのを控えさせようと決めた。


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