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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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5.身体の中に溜まった邪気を祓う話

 強い負の感情を持つ者は、人間でも妖怪でも邪気となって身体から放たれる。邪気は負の感情が強ければ強いほど周囲の人々に悪影響を及ぼす。特に幼い子供の場合、邪気に触れただけで体内にそれを取り込んでしまったり、目を覚まさなくなったりしてしまう。負の感情が邪気に変わるほど強くなることは滅多にないが、ないと言い切れない。邪気は視認不可能だ。故に、怪しい人物に子供を近付けさせない方がいい。


「ということは、私の息子は誰かの邪気に触れて高熱を?」


「そういうことになります。すぐに身体から祓いましょう」


 一通り邪気の説明と注意喚起を終えた水綺は、青褪める依頼人に微笑んでから兎舞を呼んだ。邪気の祓い方は至ってシンプル。妖怪が持つ妖気を邪気にぶつけて混ぜ合わせ、妖気を吸い込む専用の道具を使って一緒に吸い込むだけだ。ただし、人間の体に注ぎ込む妖気は邪気よりも多くなければ、道具に妖気と見なしてもらえず吸い出せない。

 ということで、こういった依頼を受けた場合、妖気の量が多い種族である鬼の兎舞に任せることになる。兎舞が子供のそばに座り、「ちょっとごめんな」と断りを入れて抱き締めた。布団の上で上半身だけ起こしていた子供が、目を丸くして赤面する。高熱と羞恥のダブルコンボで、熟したトマトみたいに真っ赤だ。


「うちも兎舞ちゃんのにおい嗅ぐ!」


「なら、俺も抱きつかせてくれ」


「ちょっと、シロさんに兄さん。邪魔しないでよ」


 ピシリと硬直した少年を抱き締める兎舞の背中にくっつく白雪と、左後ろから腰に腕を回す希威。邪気の量を確認中で動かない兎舞が、二人にジトッとした半顔を向ける。すると、いきなり端正な顔立ちの美人で若い鬼に抱き締められて固まっていた少年が、微かに期待を込めた眼差しでジッと希威の腕に抱かれた兎舞の腰を見つめた。

 それに気付いた希威が、ニヤリと口角を上げ、腰から手を離す。瞬間、少年が恐る恐る兎舞の腰にギューっと抱きついた。そして、肩に顔を埋めてにおいを嗅ぐ白雪の真似もして、兎舞の胸元に顔を埋めてスゥーッと吸い始める。


「……邪気の測定、終わったんだけど」


「まぁ、少しぐらい良いじゃねぇか」


「兎舞ちゃんは一回くっついたら離れ難いからなぁ」


 勇気を振り絞った少年の行動に面食らっていた兎舞が、助けを求めたのに誰も助けてくれず、大人しく少年の満足を待つ。その間に、関係ないのに背中に擦り寄ったままの白雪を引き剥がす水綺。「嫌やぁ! うちも兎舞ちゃんにくっつくー!」と騒ぐ白雪を、「家で好きなだけくっついていいですから」と慰めた。

 勝手に売られた兎舞が「ずっきー!?」と目を丸くする。「早く邪気を祓った方がいいから、君もそろそろ離れてね素っ頓狂な声で驚く兎舞から少年も引き剥がした。物凄く不満気な表情だ。水綺は羽交締めにして離した少年を兎舞の対面に下ろして向かい合わせる。


「ちょっとジッとしててね」


 と、相好を崩して少年と距離を詰めた兎舞は、コクリと肯いた彼の額と自分の額を合わせた。瞼を閉じた兎舞の整った顔の近さに少年が息を呑む。兎舞の顔に釘付けになっている少年に、「手、繋いで?」と両手を差し出す兎舞。きっと少年の心臓は怖いほど早鐘を打っていることだろう。依頼人の母親が熱を冷ませるものを取りに行った。


「よしっ、邪気にとまの妖気を混ぜれたです。ずっきー、道具貸して」


「はいはーい」


 少年から離れた兎舞が水綺から箱を受け取る。箱の中に入っているのは湿布のようなシール。兎舞は遠慮なく着物の裾を捲り上げて、それを一枚ずつ左右の艶やかで滑らかな前腿にぺたりと貼った。美しい曲線を描いた脚を付け根まで惜しげもなく晒され、少年の鼻からポタポタと赤い液体が垂れ落ちる。今、体温を測ったら、四十度近くありそうだ。が、これから少更なる試練が待ち受けている。


「少年、とまの太腿に寝転んで?」


「へあっ!?」


 正座した兎舞に膝枕をしてもらう権利を手に入れた少年がまたもやピシリと固まった。曝け出された生の太腿に釘付けな少年に、白雪が「兎舞ちゃんの膝枕ずるい……」とムッとしながら不平を鳴らす。「あとでやってもらえばいいだろ」「シールの大きさ的に太腿が一番綺麗に貼れますからね」と、希威と水綺は邪魔しないよう白雪の腕を二人で掴みながら宥める。すると、「今日会ったばっかの他人の膝枕なんて嫌です? なら、内腿に貼り直すから手を挟ませて?」と、兎舞にトドメを刺され、少年が沸騰しすぎて遂に気を失った。


「なんで!?」


「刺激が強すぎたんだろ」


 突然の失神に目を瞠る兎舞の太腿に気絶した少年の頭を乗せる希威。ちなみに白雪に、頭と手のどちらがいいか聞いた結果だ。妖気と混じった邪気を吸う為には、両方のシールに少年の体の一部を触れさせる。膝枕なら頭で両方のシールに触れさせられるが、手を当てる場合、内腿に貼り直して手を挟む必要があった。ちなみに、それぞれの太腿に両手を触れさせると、妖気意外に生気や血液などを吸ってしまう。


「兎舞ちゃんの太腿に手を挟んでもらうなんてまだ早い!」


「まぁ確かに、この年齢でそんなことされたらなぁ」


「狂って壊れちゃうかもしれないわねぇ」


「シロさん達は大丈夫なの?」


 少年の寝顔を見ながら拗ねる白雪と苦笑する希威、水綺。よく太腿を触られている兎舞が、心配そうに首を傾げる。大切な三人が狂ったら壊れるなんて嫌だと、不安気に揺れる赤い瞳が物語っていた。狂ったら壊れるのは性癖や嗜好の話なのだが、わかっていないのであれば下手に教えなくてもいいだろう。水綺は兎舞の頭を撫でて顔を綻ばせた。


「私たちは大丈夫よ」


「そうそう。とっくの昔に少年の年齢なんて超えてるしな」


「けど、人外のうちらやから大丈夫やねん。他の人には、触らせたりしたらアカンで?」


「はーい」


 水綺に便乗して頭を撫でる希威に続き、白雪が他人に触らせないよう言い聞かせる。あまりちゃんと理解していないまま素直に返事をした兎舞に、希威がご褒美としてビスケットを口の中に突っ込んだ。と、それと同時に、邪気を吸い終わり、少年が小さく呻いて目を覚ます。兎舞がビスケットを嚥下してから、「もう大丈夫だよ」と花が咲き綻ぶように柔らかく微笑む。生足の膝枕で兎舞に微笑まれた少年は、ボッと満面に火を灯してまた気を失った。

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