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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第二部
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4.妖怪化した食パンの耳と戦う話

 捨てられてしまった食パンの耳が人間への恨みを糧に妖怪化した。大量の小さなパンの耳が合体して巨大な一本のパンの耳に変化し、逃げ惑う人々を等身大の食パンで挟んでいる。最も捨てられる可能性が高いからか、人々をサンドウィッチにして、定番の具材へと変化させていた。

 確かに、食パンでサンドウィッチを作る際、大概、パンの耳は切り落としてしまう。希威の場合、兎舞が全部もぐもぐとつまみ食いをする為、廃棄したことはないが。なんて考えている間にも、依頼主外中の街の人々が、パンの耳付きの巨大食パンに挟まれて、ハムや卵、レタスやチーズなどにされている。


「兄さん。とま、お昼ご飯は兄さんのサンドウィッチがいいです」


「俺もちょうど作ろうと思ってたところだし良いよ」


「私達が作ったサンドウィッチの方が美味しいに決まっているだろう! 食べてみろ!」


 兎舞とお昼ご飯談義をしていた希威は、巨大パンの耳に割り込まれて、顔を顰めた。が、「何言ってんのさ。兄さんが作ったサンドウィッチの方が美味しいに決まってるです!」と、兎舞がムッとして褒めてくれた。希威の機嫌が一瞬で良くなる。プライドを傷つけられた巨大パンの耳は、悔しそうに希威を睨みつけてきた。言い忘れていたが、妖怪化した巨大パンの耳は目鼻口付きだ。


「私達のサンドウィッチを食べずに決めつけるなら! 食え! さぁ、私達のサンドウィッチを食え! 鬼!」


「やだ! 食べたら元に戻せなくなるんでしょ!」


「何を言っている? むしろ、残さず食べなければ戻せんぞ」


 グイグイ顔を近付けて兎舞に美味さを認めさせようとする巨大パンの耳が、キョトンとした表情であっさりと戻し方を暴露する。よくよく考えれば、今回の巨大パンの耳も食べてもらえない恨みから妖怪化してきた。ならば、食べてほしがって迫ってくるのも当然だろう。本当に元に戻るのか不明だが。それに、今までの傾向的に、食べるとそれしか食べられなくされたり、パンの耳にされるかもしれない。


「水綺、どう思う?」


「うーん、信じ切って食べるのは危険でしょうね。聞いてみましょうか」


 兎舞とパンの耳の距離の近さに拗ねた白雪が、二人を無理やり引き離すのを見ながら、隣の水綺に意見を求める希威。水綺は希威に自分の考えを告げた後、兎舞を腕の中に閉じ込めた白雪と、何故か鬼を取り合って言い合う巨大パンの耳の元に行く。割って入った水綺を見上げる白雪に釣られ、バッチリ視線をかち合わせた巨大パンの耳が、水綺の催眠術にかかって不自然なほど静かになった。


「戻し方をもう一回教えてくれるかしら?」


「人間を挟んでいる食パンについたパンの耳を食べる」


「パンの耳だけでいいです?」


 目線を合わせて尋ねた水綺に答えた巨大パンの耳が兎舞の質問に肯く。具材にされた人間まで食べる必要はないらしい。「うぇぇ、これ全部食べなあかんの?」とげんなりする白雪と裏腹に、兎舞が「いいじゃん。食べても何ともならないんでしょ?」とワクワクしながら聞く。巨大パンの耳から、食べても問題ないとお墨付きをもらってから、兎舞は近くのサンドウィッチのパンの耳をちぎって食べた。


「兎舞ちゃん、お腹空いてたん?」


「ん。だって、朝ごはん食べれなかったもん」


「兎舞ちゃんがギリギリまで寝てたからやん」


 もぐもぐと躊躇なくパンの耳を食べ進める兎舞の横に屈む白雪。嚥下してから理由を述べた兎舞の頭に軽く手刀を落として苦笑を頰に含ませる。そして、渋々と兎舞と同じサンドウィッチのパンの耳を食べ始めた。希威も気乗りしないが二人の近くのパンの耳に齧り付く。催眠術を解いた水綺に動きを止められている巨大パンの耳が、感極まって震えていた。


「パ、パンの耳が……パンの耳があんなに美味しそうに食べてもらえている……」


「兎舞は基本的に何でも美味しく食べるからね。どう? 成仏できそうかしら?」


「ああ、当然だ。だが、全て食べ切るのを見終わるまで待ってくれ」


 水綺の優しい声に肯いた巨大パンの耳が食い入るように兎舞を見つめる。きちんと白雪の方にも視線を動かし、希威が食べる姿もしっかりと目に焼き付けていた。あんまりじっくり見られていると食べ辛い。希威は申し訳なく思いつつも、巨大パンの耳に背を向ける。と、怒涛の展開に着いて行けていないらしく、呆然と突っ立っている依頼主と目が合った。折角だから巻き込んでしまう。


「アンタも食べろ。自分の街の人間だろ」


「すっげぇ美味しいから絶対食べた方がいいよ!」


「確かに美味しいんやけど、流石に何も塗らずに食べるの飽きてきたなぁ」


 希威が誘うと兎舞も便乗して手招きする。白雪に至っては家から何か持ってこいと案に告げていた。裏返った声で返事をした依頼主がバタバタと慌ただしく家へと駆け込む。食パンに合いそうなものを持ってきてから、希威の横に屈んで恐る恐るパンの耳を食べる。それから、元に戻った町民にも手伝ってもらって全て食べ尽くし、巨大パンの耳の涙腺を無事に崩壊させることに成功した。身体からどんどん妖気を失っている巨大パンの耳が兎舞の前に移動する。


「ありがとう。君が一番美味しそうにたくさん食べてくれていた。お礼にパンと同じ柔らかさの布団を贈るよ」


「えっ、布団? うわっ!?」


 巨大パンの耳が兎舞を等身大の食パンを模した布団で挟む。驚いた兎舞がうつ伏せのまま顔だけ外に出した。キョトンとして何度か赤い瞳を瞬いた兎舞は、ボフボフと敷布団を軽く叩いた後、顔を埋める。希威も気になって触れてみると、本当に食パンと同じ柔らかさと手触りだった。


「ありがとう。スッゲェ気持ちいいです」


 ゆっくりと顔を上げた兎舞が、寝返りを打って仰向けになり、ふんわりと双眸を眇める。上目遣いの兎舞に優しく微笑まれた巨大なパンの耳が、ボンっと顔を赤らめた。寝返りを打ったことで、乱れた和服からチラッと素肌が見えていて、町民達の心も射止めている。兎舞の微笑みにより一気に妖気が抜けて聞き、巨大パンの耳をただのパンの耳へと戻していった。

 幾つもの小さなパンの耳が地面に散らばる。流石に食べることはできないが、捨ててまた妖怪化しても困る故、全て燃やして供養。ちなみにその作業中、パンを模した布団の中で、兎舞はスヤスヤと寝息を立てていた。そして、町民が端正な寝顔をカメラで撮ろうとして、白雪に全てでないにしろ大胆に寿命を刈り取られていた。

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