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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第一部
40/66

40.幽霊屋敷の掃除を任される話

「今日は幽霊屋敷と呼ばれている家の掃除をします」


「私は留守番でお願いします」


「ダメです」


 ニッコリと有無を言わせぬ笑顔の希威に却下され、ホラー系統を苦手とする水綺が泣きそうな顔でガックリと項垂れる。もう一人のホラー不得意仲間である白雪は、水綺ほどではない為、兎舞と一緒に掃除道具を準備中だ。本当に怖いのだろう。縋るような涙目で見上げてくる水綺が、依頼人から四人で来てほしいと前金まで貰っている。


「大丈夫だって、ずっきーのことはとまが絶対守ってあげるです! ほら、こうやってずっと手を繋いでおけば、怖くないでしょ?」


「……私、今日は兎舞から離れないわ」


 ギュッと手を握ってふんわりと微笑む兎舞に、水綺が感極まった表情で力強く手を握り返した。ようやく地面に屈み込んで居た水綺が立ち上がり、ホッと安堵の息を吐いて眼前に目を向ける希威。今までのやり取りは既に依頼主の家の前で行われていた。正確には、家ではなく別荘らしい。依頼人は何年も前から住んでおらず、壊すに当たって掃除を依頼したようだ。業者に頼んだ方が早そうだが、続々と怪我をしたと聞く。そんな曰くつきの家を掃除するなら人外がいい。その判断は正しいと思う。ようやく水綺もやる気を出してくれたところで、いざ出陣しようとすると、借りてきた道具を車から持ってきた白雪がムッと頰を膨らませた。


「水綺ちゃん、ずるい! 兎舞ちゃん、うちも守って!」


「おわっ!? ちょっ、流石に二人は無理です! に、兄さーん!」


「はーい、白雪は俺が守ってあげるからねー」


「兎舞ちゃーん!」


 いくら兎舞でも両手を塞がれた状態で二人も守れない。ということで、飛びつかれた兎舞に助けを求められた希威は、後ろ髪を引かれた様子で両手を伸ばす白雪を回収した。そして、揃った掃除道具を超能力で浮かせ、やだやだと騒ぐ失礼な白雪と共に別荘に入る。その後ろに仲良く手を繋いだ兎舞と水綺が続いた。掃除するのに効率が悪いが、逸れてしまうまでは四人で行動するつもりだ。


「ひっ!? だ、誰かに背中を叩かれた!」


 すると、いきなり上擦った声で水綺が肩を跳ねさせた。そんな水綺を抱き寄せて幽霊から離し、「ずっきーに触んなです!」と反対の手で棍棒を叩きつける兎舞。「あれっ?」とどこか違和感を覚えた顔で首を傾げ、叩きつけた床を不思議そうに見ている。希威も兎舞の視線の先を確認すると、幽霊に物理攻撃を庇ってもらったかの如く、傷一つなかった。


「もしかして、幽霊に兎舞の攻撃が通った?」


「うん。なんか、殴った感触があったです」


「幽霊やのに?」


 ポツリと呟いた希威の言葉に兎舞が肯く。希威と手を繋いだままの白雪の言う通り、幽霊であれば攻撃が通るとおかしい。普通なら逆で、床にだけ打撃が通るはずだ。どうして兎舞の物理攻撃が当たったのか、思考を巡らせる希威。すると、一つの仮説が浮かんだ。もしも、希威の考え通りならば、ここに潜んでいるのは幽霊ではない。


「水綺、俺の結界の中に入ってみて」


「わ、わかったわ」


 ビクビクと怯えながら周囲を見渡していた水綺が、希威に従って結界の中に籠る。それと同時にタイミングよく襲ってきた幽霊が、バチっと結界に弾かれた。吹っ飛んだ幽霊に化けたナニカが、勢いよく身体を打ちつけた音を響かせる。


「えっ、何? どういうことです?」


「確か水綺ちゃんの結界って、幽霊は弾かれへんのちゃうかったっけ? だから、怖いんやろ?」


「幽霊じゃないからだ。多分、正体は薬か何かで透明になった人間だな」


 人間と推定した幽霊もどきが落ちた辺りに揃って屈み、希威の仮説を聞いて目を丸くする兎舞と白雪。「試しに攻撃してみたら?」と希威が勧めると、何もない場所から聞こえる引き攣った声。「シロさんがやっていいよ」と兎舞に譲ってもらった白雪が、巨大な鋏を召喚して刃先で突っつく。


「透明を解除して出てこれば、寿命を刈り取るのやめたるで」


「わ、分かった! 分かったからやめてくれ!」


 刹那、男の声で慌てた命乞いが聞こえた。その後、兎舞と白雪の目の前に、床に這いつくばった一人の男が姿を見せる。結界に弾かれた際、怪我を負い、動けないようだ。希威の予想だと幽霊の正体は依頼人だったが、残念ながら見知らぬ顔である。拍子抜けしたのか判官の二人を下がらせ、希威は逃げないように背中に座って質問をした。


「幽霊の正体は人間で間違いないか?」


「あ、ああ。俺達の組織が開発した透明化の薬だ」


「誰に雇われた?」


 青褪めた顔で必死に言葉を紡ぐ男は、少し逡巡した後、渋々と依頼人の名前を口に出す。「なるほどね。俺達四人を狙っているから、全員で来るように言ったのか」と希威が納得したところで、微かに近付いてくる足音。確実に希威を狙っている。這いつくばっている男の仲間だろうか。と、兎舞も足音を察知したようで、希威に辿り着く前に仲間を蹴り飛ばす。


「あっ、手加減した方が良かったです?」


「いや、どうせ全員、警察に引き渡すつもりだったし、いつも通り生きてても生きてなくても問題ないよ」


 鬼の腕力で蹴り飛ばされて壁にぶつかった今の人間は、確実に命を落としたことだろう。それを理解した兎舞が不安そうに首を傾げた為、優しく問題ないと告げて頭を撫でてあげる希威。気持ち良さそうに嬉しそうに目を細める兎舞に癒されつつ、妖故に鋭い聴覚を研ぎ澄ませてみると、家の軋む音に混じって呼吸音や足音が聞こえた。気付かれていることに困惑しているのか襲ってこないが、周囲に結構居るようだ。


「水綺、白雪、兎舞。耳をすませば音で居場所が分かるよ。あー、でも……水綺は敵と目を合わせないと何もできないなぁ」


 三人に居場所の突き止め方を教えた後、希威はわざとらしく大きな声で弱点を吐露し、水綺の周りから敢えて結界を消した。狙い通り、幾つもの呼吸音が水綺に近付いている。頑張って足音を消しているようだが、息遣いでどこに居るのかバレバレだ。耳敏く居場所を突き止めた希威と兎舞と白雪が、ほとんど同時に水綺の周囲に移動し、幽霊を模した人間達を撃退した。炎で炙られたり、寿命を刈り取られたり、容赦なく棍棒で殴られ、襲ってきた人間達は、総じて絶命したことだろう。周りからドタバタと慌ただしい足音が鳴り響く。まだ残っている人間達が、三人を恐れて逃げたらしい。


「何よ、幽霊じゃなかったのね。ビビって損したわ!」


「水綺ちゃんは兎舞ちゃんと手を繋げたんやから良えやん。うちなんて希威くんとやで?」


「白雪、酷くない?」


 怖がってしまって悔しそうに怒りを露わにする水綺と白雪。白雪が希威の少し寂しさを滲ませたツッコミを聞き、慌てて「希威くんのことは友達として好きやし頼りにしてるで!? ただ、うちも兎舞ちゃんと手を繋ぎたかっただけやねん!」と言ってくれた。本気で慌てふためく白雪に気にしてないこととお礼を告げ、希威は携帯電話で依頼人の住所を確認する。妖怪を狙うのであれば、このまま放っておくわけにはいかない。話し合いをしなければ。


「シロさん、とまと手を繋ぎたいの? いいよ?」


「兎舞ちゃん大好きー!」


「うわっ!? 手を繋ぐんじゃねぇの?」


 よく分かっていない顔で手を差し出した兎舞が、歓喜のあまり飛びついた白雪により、床に尻餅を突く。床に向かい合って座ったまま、仲良く手を繋いだり、兎舞の手を揉んだりする白雪。水綺が羨ましそうに二人のそばに屈み、反対の兎舞の手に指を絡める。敵地で呑気に何をしているのだろうか。呆れつつも微笑ましい光景に口元を緩めた希威は、遊んでいる三人に屋敷の掃除を任せる為、手を叩いて注目を集める。


「はいはい、続きは家でやってね。俺は依頼人のところに行ってくるから、三人には人間と屋敷の掃除を頼むよ」


「はーい」


「ほーい」


「了解です」


 兎舞、白雪、水綺の順番に返事を聞いてから、希威は依頼主の元へと向かう。透明人間には勝てないと思っていたのだろう。家で本を読んでいた依頼人が、希威の訪問に息を呑んで怯えていた。依頼人は一人暮らしの男。マンションで騒ぎを起こすと面倒故、炎で脅してリビングに案内させ、時間をかけて根掘り葉掘り自白してもらった。妖怪を恨んでいるわけではなく、ただ遊び半分で騙したらしい。冗談混じりで人外に手を出したようだ。呆れて命を奪う気も起きない希威は、水綺を怖がらせた分、一発殴ってから、馴染みの警察に電話して引き渡した。

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