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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第一部
37/66

37.依頼人に狙われる話【Ⅳ】

 業火の炎に全身を焼かれて、悲痛な叫び声を上げる饅頭を見ていた兎舞が、ふと何か閃いたように白雪の方に視線を向ける。「にゃあにゃあ、んにゃにゃあ?(ねぇねぇ、餡子食えなくないです?)」と、白雪の黒色のローブを控えめに掴んで頭を垂れた。猫語で話しかけられた白雪が、何故か理解した様子で同意を示す。


「ホンマやな。嘘ってことやん」


「何で会話が成立してるんだよ」


 水綺同様、兎舞の言葉を理解できなかったらしい希威が、少し羨ましそうな瞳を半眼にしてツッコミを入れた。自分も兎舞と意思疎通がしたいとありありと顔に書かれている。何を言っているのか分からなかったものの、依頼人が嘘を吐いたことを察した水綺。ギクっと身体を強張らせて視線を背ける依頼人に視線を向け、白雪に指示を出す。


「白雪先輩。嘘を吐いた罪として、依頼人さんの寿命を削ってあげて下さい」


「そいやっ」


「ぎゃあぁぁぁっ!? な、何の前触れもなく、人の寿命を刈り取るな!」


 軽いノリでとんでもないことを指示した水綺に従い、白雪が身の丈ほどの鋏を召喚して依頼人の寿命を奪う。死神の鋏で頭上に浮かぶ寿命を切っただけなのに、本当に身体を切られたみたいに大騒ぎする依頼人。目を大きく見開いて周章狼狽しながら、返してくれと言わんばかりの顔で、縋るような泣きそうな眼差しで白雪の両腕を掴む。


「嘘吐くからやん。ほれ、早く教えないと、もっと刈り取ってゼロにするで」


 白雪は苛立ちを醸し出しながら、巨大鋏の刃を開いたり閉じたりして威嚇する。が、「おっ、おねむか?」なんて揶揄う希威の太腿に頭を乗せ、眠たそうに瞼を閉じて丸くなった兎舞を見て怒気を消した。

 本物の猫みたいに背中を丸めて横向きで寝息を立て始めた兎舞は、希威のお腹に顔を擦り付けてふにゃりと気の抜けた寝顔を晒す。見事に直撃した希威にクリティカルヒットした。生えているのは角のはずなのに、猫の耳と尻尾の幻影が見える。


「兎舞ちゃん、かっわええ〜〜ッ」


「こ、これは想像以上のかわいさだ」


 火の粉を浴びた白雪も例外ではなく、甘く蕩けた顔面で静かに悶えていた。更には、依頼主まで見事に落として、胸を撃ち抜かれた彼を絶句させている。叫び出したいのを必死に堪えている白雪に倣い、希威も依頼人も緩み切った口から声が出ないよう口を抑えて悶えていた。兎舞の為に頑張っている。すると、神々しい光を醸し出す金銀財宝でも見ているように、口をぽかんと開けて眩しそうに目を細める依頼主に、白雪がジトッとした怒りの視線を向けて寿命を切った。


「お前は見んな」


「ああぁぁぁぁっ!? だ、だから予告なく寿命を奪うな! 何年!? 何年分奪われたんだ!?」


「うるさいなぁ。たった二十年分だけやで」


「罪が重すぎる!」


 全ての生き物にとって大切な寿命を、何の躊躇も容赦もなく刈り取られた依頼主が、顔を青褪めさせて自分の変化を確かめる。寿命を奪われても急激に老いるわけではなく、尽きた時点の年齢で突然死するだけだ。どれだけ調べても死因不明となる。

 故に、身体をこれでもかとペタペタ触って老いていないか確かめても無駄だった。二十年分も失ったショックで嘆く依頼人を、鬱陶しそうに顔を歪めて一瞥した白雪が、スヤスヤ眠る兎舞のそばに屈んで携帯を構えた。そのまま癒されるべく連写する。水綺は撮影会に参加したいのを堪え、酷く思い詰めた表情で落胆する依頼人に尋ねた。


「それより早く教えてくれますか? 早くしないと、希威先輩が饅頭を燃やし尽くしてしまいますよ」


「猫になった鬼を愛でながら、淡々と饅頭を炙るな!?」


 てっきり燃やすのを中断したとでも思ったのだろう。水綺の質問を聞いた依頼人が、目を大きく見開いて勢いよく希威の方を見る。水綺の言う通り、希威はスヤスヤ寝息を立てている兎舞を膝枕して、慈愛に満ちた眼差しで頭を撫でながら、空いた手で炎を操作して饅頭を燃やし続けていた。それを視界に収めた依頼人が顔を青褪めさせ、悲痛な絶叫を上げる饅頭を救うべく叫喚する。


「お、鬼の戻し方は、言いなりにできる人が、元に戻れと指示を出すだけだ!」


「じゃあ、兎舞を存分にかわいがってからでいいか」


「念の為、依頼人さんも一緒に居てもらいますね。お金も口座に振り込んでほしいし」


「お金振り込むの!?」


 饅頭を燃やし尽くす必要がないことを知り、炎を鎮火させて兎舞を愛でる作業に集中する希威。だが、ほとんど灰になりかけていた饅頭は虫の息で、妖怪化する薬も抜けてしまったのかピクリとも動かない。饅頭を無理やり妖怪に変えた依頼主は、何の心配もすることなく水綺の請求に魂消る。

 「当然でしょう。成功報酬と滞在時間に一万円を乗じた額、きっちり貰いますよ」と、水綺に続き、「あっ、猫になった兎舞は、一日愛でる予定だから」と希威が追い打ちをかけた。未だに携帯で兎舞の寝顔を色々な角度で撮りながら、白雪もボソッと呟く。


「最低でも四十四万円必要ってことやな」


「よろしくー」


「そ、そんなあァァァァァァァーーッ!」


「ふにゃっ!?」


 白雪と水綺からの死刑宣告にも似た請求に、依頼主がガックリと項垂れて叫んだ。四つん這いで意気消沈している依頼主の、耳を劈くような近所迷惑にも程がある大声で、兎舞がビクッと身体を揺らして目を覚ます。何事かと周りに目を走らせながら、希威の着物をギュッと掴んで抱き着く。兎舞の頭を撫でて落ち着かせながら、希威が地を這うような低く怒気を宿した声で依頼人を責めた。


「おい、兎舞が起きちまっただろーが。静かにしてろ」


「まだ兎舞ちゃんの寝顔、撮り足りひんのに」


「罰として腹筋を百回」


 携帯を構えたままムッと頬を膨らませた白雪と同じ意見の水綺は、超能力で依頼人の身体を操って無理やり腹筋を始めさせた。どれだけ腹筋が痛くても苦しくても吐きそうでも、身体の所有権は水綺故、強制的に腹筋を続けさせられる。意外と鍛えているらしく余裕の色を失っていない依頼人は、悔しそうに歯を食い縛って恨み言を吐いた。


「く、くそっ! 好き勝手させやがって! どうせなら、猫になった鬼を目に焼き付けてやる!」


「みゃう(やだ)」


「目隠ししたまま腹筋を千回!」


 嫌そうな顔で希威の背に隠れた兎舞の鳴き声とほぼ同時、水綺は冷たい色を醸し出した満面の笑みで回数を増やす。どうやら心の中で不平を鳴らしていたらしく、「ああァァァァァァァ! 声に出てしまっていたァァァァァァァ!!」と、近所迷惑なぐらい大声で叫びながら腹筋を続ける依頼人。勿論、一秒も余すことなく二十四時間しっかり兎舞を愛で、お金もたっぷりいただいた。

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