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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第一部
36/66

36.依頼人に狙われる話【Ⅲ】

 白雪と水綺が寝惚け眼でボーッと希威を見上げる兎舞を覗き込む。「おっ、起きたか」「兎舞ちゃん、大丈夫?」「取り敢えず、起きてくれて良かったわ」と希威から順番に、安堵と気遣いを滲ませた瞳で兎舞に体調を尋ねた。何度か目を瞬いた後、徐に起き上がった兎舞が、三人の質問に答えるべく口を開く。


「にゃあ、うにゃあ(うん、大丈夫です)」


 唇から出た言葉に全員が硬直した。いち早く我に返った兎舞が「みゃっ!?(何これ!?)」と周章狼狽している。どうやら日本語を喋れなくなってしまったらしい。一生懸命、話そうとして、困惑気味に「にゃーにゃー」と鳴いていて凄く可愛い。自分ではどうしようもないと理解したのか、面食らっている三人に縋るような目を向ける。それにより、と胸を突かれた白雪が、戸惑う兎舞の頭を撫でながら落ち着かせた。


「ありゃ、猫になってもうてるやん」


「やっぱり鬼じゃなくて猫又だったな」


「ふにゃあっ!(猫じゃねぇです!)」


 希威がどこからともなくエノコログサを取り出して振ると、ぷんすこと怒りながらも本能に逆らえない様子で戯れる兎舞。「エノコログサに戯れながら怒んなって、かわいいな」と、希威が蕩けた瞳と緩みまくった口元で兎舞を可愛がる。身体が勝手に動くらしい兎舞が「うにゃにゃあっ!(やめろぉ!)」と怒っていても可愛いだけだ。

 だが、いつまでも猫になった兎舞を愛でているわけにもいかない。鬼に戻してあげなければ。ということで、水綺は希威に遊ばれている兎舞に釘付けな依頼主に目を戻す。重力に圧し潰されそうな空気で水綺を見上げた瞬間、超能力で身体の自由を奪う。そして、威圧的な冷たい貼り付けた笑みを浮かべ、有無を言わせぬオーラを纏いつつ尋ねた。

 

「で、これはどういうことですか?」


「なっ!? う、動けな……」


「兎舞に薬を盛った理由を教えてくれないなら——」


「痛い痛い痛い痛い! 強制長座体前屈はキツい! 言う! 言います!」


 凍りついた身体を懸命に動かそうとする依頼主に顔を近付け、強制的に足を投げ出した状態で座らせると身体を前に倒させる。目論見通り長座体前屈に屈した依頼人が、折れそうな痛みに悲鳴を上げながら、涙目で目的を語り出した。ちなみに、希威と白雪は猫になった兎舞に夢中で、エノコログサで遊んだり顎を撫でたりして愛でている。


「……つまり、兎舞をペットとして飼いたくて、お茶に妖怪化する薬を盛り、兎舞を猫化させた。そして、兎舞は時間が経つにつれてどんどん猫化が進み、最終的に見た目はそのまま、最初に見た人の言いなりになってしまう——と」


「はい、その通りで御座います。ちなみに、最初に見た人は妖狐の方になります」


「ええー、希威くんだけずるいやん。うちも兎舞ちゃんに猫の仕草とかさせたい」


 長々とした説明を要約した水綺に肯いた依頼人の補足に、聞き耳を立てていた白雪が不満そうな顔で不平を鳴らした。水綺はもう兎舞を可愛がらなくていいのかと、話に参加した白雪から兎舞の方に視線を向ける。遊び疲れたのか希威の腕の中でぐったりとしていた。

 愛でつつきちんと話を聞いていたらしい希威が、遊ばれたり猫扱いされて唇を尖らせている兎舞を離す。そして、不思議そうに首を傾げる兎舞に揶揄を孕んだ目を細め、「兎舞、俺に甘えてみて」と指示を出した。途端、兎舞がゲッという顔をしつつも、撫でてほしくてお腹を見せる猫みたく、地面に仰向けに寝転んで物欲しそうに見上げる。


「おっ、もう猫化が進んでるのか」


「みゃあ……(とまがにゃんこ……)」


 慈愛に満ちた眼差しを向ける希威に頭を撫でられ、苦虫を噛み潰したような顔をしていた兎舞が、気持ち良さそうに目を閉じた。元々、頭を撫でられるのを好む為、猫化の影響か素なのか判別が難しい。それでも、可愛いもの好きな希威は、楽しそうに愛おしそうに、兎舞の頭を撫で続けている。


「戻し方は?」


「ま、饅頭を完全に倒して、中に捩じ込んだ解毒薬入りの餡子を食べると戻ります」


 希威と兎舞の微笑ましい光景に双眸を眇めていた水綺は、正反対なほど冷たく鋭い視線を依頼人に突き刺した。ビクッと大きく肩を跳ねさせた依頼人が、兎舞により落ち着いていた心を再び乱され、可哀想なほど真っ青になった顔で答える。依頼人の指差す方向に散らばる饅頭の破片達に全員の瞳が集まった。


「やっぱりまだ倒せてなかったんやな」


「その割には、ぜんっぜん復活する気配がねぇんだけど」


「にゃあにゃ、うにゃにゃあ(お茶をかけたら、復活するかもです)」


 地面に潰れた饅頭を取り囲んで覗き込む白雪と希威の近くを離れ、兎舞が依頼人のお盆から湯呑みを手に取って上から容赦なくかける。熱々のお茶をぶっかけられた饅頭の破片は、次第にプルプルと震え出したかと思えば、身体を生成する為に一箇所に集まり始めた。希威が顰めっ面で軽く身を引く。


「うげぇ、動いた」


「うぇぇ、気持ち悪っ」


「にゃあ……(うわぁ……)」


「三人揃ってドン引きするな、バカタレ! 傷付く!」


 苦虫を噛み潰したような顔で立ち上がり徐に離れる三人に、見事に合体して復活を遂げた饅頭が心なしが涙声で叫喚した。「喋んな、余計キモい」と希威に辛辣な言葉で一刀両断され、精神的ダメージを負った饅頭が苦し気な声で呻いて他に伏せる。水綺は嫌悪感を剥き出しにする三人を背に庇い、落ち込んでいる饅頭に話しかけた。


「ちなみに、話は全て聞こえてたわよね? 自爆してくれる気はあるかしら?」


「あるわけないだろう! 我もそこの猫? 鬼? が欲しい!」


 強気な態度で踏ん反り返りながら、猫語しか喋れない兎舞を狙うと高らかに宣言する饅頭。思いっきり地雷を踏み抜いた為、間髪入れず「あげるわけないやろ、ばーか!」「みゃあぁぁぁっ!(とまは猫じゃねぇ!)」と白雪と兎舞から非難が殺到した。水綺も同意見だ。ということで、邪悪な含みのある笑いを湛えて、重圧を突き刺す。


「そう。じゃあ、苦しんでもらうことになるわね」


「えっ?」


「依頼人さん、饅頭の弱点は?」


 口の端を吊り上げて笑っているはずなのに、嫌な予感を覚える笑顔に饅頭が慄然とする中、隙を見て逃げようと踠く依頼人に目を戻す水綺。超能力により地面に縫い付けられて動けない依頼人が、ビクッと大きく肩を揺らしてヒュッと息を呑んだ。

 身体を蝋で塗り固めたみたく硬直させているだけなのに、あまりにも怯えすぎではないだろうか。早く教えてほしいのに、恐怖で喉が張り付いているのか、声を出せない様子の依頼人にスッと手のひらを向ける。刹那、涙目の依頼人が叫んだ。


「ひ、火です! 炭になるまで炎で燃やすと倒せます! 一つも欠片を残さないで下さい!」


「よしっ。希威先輩、炙ってください」


「了解」


 耳を劈く大声に顔を顰めつつ、希威に聞き出した倒し方を任せる。希威が何の躊躇いもなく着火し、「おい、協力して鬼を手に入れるんじゃなかったのか!?」と、裏切られて狼狽える饅頭を燃やした。

 「アッヅアァァァァ!?」と喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げて、燃え盛る饅頭がゴロゴロと庭を転がり回る。炎を操れる希威によって饅頭の周囲にだけ集まっている為、絶対に逃げられないし燃え移ったりすることもない。近所からうるさいと苦情が届かないかだけが懸念材料だ。

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