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人外たちの日常  作者: 甘夏 みかん
第一部
28/66

28.異空間を調査する話【Ⅲ】

 順番にシャワーを浴びて全員お揃いの浴衣を着たところで、手に入れたパン粉を中央の部屋に置いて四の部屋に行く四人。どこを見渡しても真っ白な正方形の部屋。今までみたいに台座などないし、大量の食べ物が床を跳梁跋扈していない。

 が、部屋の奥に冷蔵庫がポツンと置かれている。そして、ドアの近くから冷蔵庫までの間に、長い平均台が鎮座していた。平均台を通らずとも冷蔵庫に行けそうだが、今までの流れからするとダメなのだろう。キョロキョロと周囲に目を走らせていた希威が、冷蔵庫を指差して言った。


「冷蔵庫があるから、食べ物は中に入ってるのかな」


「あっ、壁に何か書いてるです」


 白雪が答える前にドア横の壁に何かを見つける兎舞。視線の先には、マジックペンで乱雑に書かれた文字の羅列。『他の三人が平均台の上を渡り切らないと、残りの一人にアイテムが増える部屋。成功すれば牛乳をプレゼント』と記されている。兎舞が代表としてそれを読み上げた刹那、彼女の尾骶骨からぴょこんっと何か生えた。


「ほあっ!?」


「凄い、猫の尻尾が出てきた!」


「めちゃくちゃかわいい!」


 尾骶骨から何か生える感覚に驚いたのか、兎舞がビクッと小さく身体を震わせ瞠目する。ゆらゆらと揺れる黒猫の尻尾と、頭の上にちょこんと乗った黒猫の耳に、水綺と希威が興奮気味に目をキラキラと輝かせた。

 希威に至っては、顔を両手で覆い隠し、天を仰ぎ見た状態で崩れ落ちている。兎舞も興味津々に猫の耳をつついたり、尻尾を自分の意思で揺らしたりしていた。それを見ていた白雪は、自分も触りたくなって尋ねる。きっと双眸が爛々としていることだろう。


「なぁ、うちも触って良い?」


「神経が通ってるから優しくしてね」


「う、うん」


 猫耳をぺたりと垂れさせて両手で庇い、兎舞が不安そうに小首を傾けて頭を下げた。庇護欲を刺激されてうっかり抱き締めたくなった白雪は、下げてくれた頭で緊張気味に動く猫耳に恐る恐る触れる。本物の猫と遜色ない触り心地だ。擽ったいのか偶に身体を震わせているが、気持ち良さそうに目を細めて尻尾を左右に揺らしている。


「人質みたいな状態なのは兎舞ってことで良いのか?」


「じゃあ、うちらがこれを渡り切れば良えんやね」


「サクッと済ませましょう」


 撫でられて喜ぶ兎舞を撮影した希威に肯き、白雪と水綺は改めて平均台へと視線を向けた。何の変哲もない至って普通な台。仕掛けも何もない体育の授業などでよく見る物だ。両腕を広げて集中すれば、苦労せずに全員クリアできるだろう。

 ということで、猫耳付きの兎舞を堪能し終えた希威が、「うしっ」と気合を入れて平均台に足を乗せた。途中までサクサクと進んでいたが、不意に右側へとバランスを崩して台から落ちる。わざとらしく「おっと」と声を漏らし、よろけながら床に着地した。それと同時に、兎舞の細い首に小さな鈴付きの首輪が現れる。


「うわっ、首輪が出てきたです。兄さん、何やってんのさ!」


「ごめんごめん、意外と難しくて」


 希威が拗ね気味に不平を鳴らす兎舞の頭を撫でて謝罪した。反省の色も後悔や誠意の色もこれっぽっちも感じられない。兎舞がどうなるのか気になり、わざと失敗したに違いない。小さな鈴を付随した首輪は黒猫になった兎舞によく似合う。

 白雪も失敗した場合、彼女がどんな姿になるのか気になった。「次はうちが行くわ」と宣言して、邪な気持ちのまま平均台の上に立つ。わざと落ちなくとも、普通によろけて失敗した。均衡を失った身体が平均台から離れ、床に尻餅を突く。


「あれ?」


「ちょっ、手錠!? シロさんの馬鹿! 変なものを召喚すんなです!」


「うちが選んだわけちゃうよ!?」


 瞬間、兎舞の手首がフワフワとした黒色の手錠で繋がれた。ガシャガシャと揺らして外そうとしながら睨んでくる兎舞に、白雪は首を横に振り自分の趣味でないことを全力で主張する。それはともかく、黒色の猫の耳と尻尾を生やし、鈴付きの首輪と手錠で拘束された兎舞は可愛くて、構い倒したり甘やかしたり少し意地悪したくなった。というか、既に希威は兎舞の頭を撫でて愛でている。

 「にゃあって鳴いてよ」「やだです」「鳴いてくれたら撫で続けてあげる」「……にゃあ」なんて、何とも混ざりたくなる会話をしていた。白雪は己の中に芽生えた欲に従って、希威の隣に向かい兎舞の耳を優しく包み込む。ピクピクと手の中で震える猫耳を、痛くないように丁寧に撫でてあげた。「ふにゃあぁぁ」と蕩けた顔で気持ち良さそうにしている。その間に水綺が平均台に挑む。


「きゃっ」


 兎舞の甘い声で集中力を欠いたのか、普通に驚いた声を出して平均台から落ちる水綺。それと同時に、兎舞の恍惚としていた瞳が、真っ黒な布で目隠しされた。「わっ、何も見えねぇです。お前ら、わざとだろ!」と兎舞がムスッと口を尖らせる。

 黒い猫耳を不満げに立てているのに、不安そうに尻尾を揺らしており、目元を覆われた状態で唇を突き出した姿は、キスしたくなるほど妖艶で愛らしい。嫌われたくない一心で唇を合わせたい衝動を抑えて、反省の色を全く見せずに白雪は言う。


「だって、どんどん増えていくアイテムが気になったんやもん」


「兎舞、かわいい!」


「中々に唆るわね」


 白雪に乗っかる形で謝罪せずに感想を述べる希威と水綺。兎舞に対して本音を隠さない希威は当然のこと、水綺も顎に手を当てて感心した表情をしている。どうやら今の兎舞は、希威や白雪の暴走を止める側に回る水綺でも、普段であれば隠し通せる本心を暴露せざるを得ないらしい。全員から賞賛を浴びせられて微かに頬を色づかせ、フイッと落ち着きなく顔を横に逸らした兎舞が、照れ隠しでとんでもないことを吐露した。


「真面目にやらないと嫌いになるからな」


「ごめん、それはやめて!」


「真剣にやるから!」


「あと一回! 一回チャンスをちょうだい!」


 途端、三人の顔が焦りの感情一色に染まる。動けないし見えない兎舞をギュッと抱き締めて謝る希威に続き、白雪と水綺も焦燥に駆られた表情で必死に訴えた。兎舞に嫌われてしまうなど、三人にとっては死活問題なのだ。今後、生きていく希望を全て失う勢いで絶望してしまう。

 特に涙目で縋り付いている希威は、絶望のあまり兎舞に何をしでかすか分からないほどだ。誰の目にも留まらないように、兎舞を監禁しそうなぐらい危険である。それを直感で察したか、本気ではなかったのか、兎舞が希威の肩に顎を乗せて、含羞を滲ませた声でボソッと呟いた。


「……次、失敗したら、二度と口利かねぇです」


「おい、絶対に牛乳を手に入れるぞ!」


「落ちそうになったら意地で踏ん張ります!」


「クリアして見せるから嫌いにならんといてな!」


 手に入れた希望を決して逃がさないように、双眸をギラリと光らせてヤル気を漲らせる希威。絶対に失敗など許されない緊張感に包まれて、まるで親の敵でも見るように平均台を睨んだ。希威に倣って細長い棒状の台を見る水綺に肯き、白雪は居心地悪そうにしている兎舞へと叫んだ。兎舞の「分かったから早くやれです」という声で、先程同様、希威から順番に平均台に挑戦する。

 さっきよりも失敗禁止のプレッシャーに襲われているにも関わらず、全身の感覚が研ぎ澄まされており過去最高の集中力を醸し出していた。白雪は両腕を広げて真剣な顔つきで進んでいく希威の背中を追い掛ける。驚くほど揺らがない自分の身体に激励を送りながらも油断などせずに、無事に渡り終えて張り詰めた息を吐き出した希威に続いて成功を遂げた。水綺も同様だ。


「一回で合格できるならしろ、馬鹿」


「いてっ、何で俺だけ蹴るんだよ!」


 三人とも成功した為か全てのアイテムから解放された兎舞が、不満とほんの少しの面映ゆさを含んだ複雑な表情で希威を蹴る。兎舞は信頼しているが故に、希威にだけ特別に遠慮がなく厳しい。白雪は兎舞にそんな風に絡まれてみたいと少し希威を羨ましく思う。希威に羨望の眼差しを向けている間に水綺が牛乳をゲットしていた。

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