24.そうめんの巣を攻略する話
そうめんで出来た巨大な巣を移動して、絡まっている天ぷらになった人々を救出中。上からバケツをひっくり返したような量の麺汁が降ってきて四人をびしょ濡れにした。何故か兎舞だけ量が多い気がした。
何を言っているのか分からないだろうが、そうめんの巣も天ぷら化も麺汁の雨も、全て事実である。本日も警察から依頼を受けた水綺は、三人を連れてそうめんを無駄遣いする変な組織の討伐に来ていた。
「もー、何すんです!」
「うぇぇ、びっしょびしょ」
「汁がかかって麺が解れてきましたね」
「早く天ぷらにされた人達を集めねぇと、この高さから落ちたらヤベェぞ」
一番多く麺汁を浴びた兎舞が拗ね気味に頰を膨らませ、隣に居たことで被害を受けた白雪も嫌そうに顔を顰める。固まっていた麺が解れてしまい、巣の形を保てなくなっており、水綺と希威は落ちかけの天ぷらの救出を急ぐ。衣も柔らかくなっている為、落ちた際、緩和剤の役割は果たせない。
「妨害されないようにとまが……って、あれ?」と、不満を敵にぶつける気満々の兎舞が眼下の研究員を睨む。が、巣を見上げて揚力を削る水を撃ってきていた敵は、全員、兎舞に視線を釘付けにしていた。頰を色づかせて鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。濡れて妖艶な兎舞に見惚れている。
「うにゃっ!?」
かと思いきや、ドバーッと第二弾の麺汁が兎舞の上にだけ降ってきた。研究員の一人が片手を挙げている為、その男の仕業だろう。どうやら、もっとびしょ濡れになった兎舞を見たくなったようだ。
隣に居た白雪は即座に避難し、遠くから「おおっ、集中砲火」と見守る体勢に入っていた。敵の目が兎舞に集中している隙に、希威と顔を見合わせて頷いた後、捕まった人々を助ける水綺。ようやく麺汁の滝から解放された兎舞が敵を睨んだ。
「何でとまばっかり狙うんです! びしょ濡れじゃねぇか!」
「立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花なのが悪い」
「水も滴る良い女だから濡らすしかないだろ」
「ことわざで言い訳すんなです!」
割と同意見な言い訳で責任転嫁されて更に不貞腐れ、ツッコミだけじゃ気が済まないらしく巣から下りる兎舞。巣から一人でも離れると絡まった天ぷらが全て落ちる。そう伝えられていたにも関わらず殴る為に下りた鬼に、驚いて目を見開く研究員達の間でどよめきが起こった。
「なっ、巣から抜け出した!?」
「馬鹿な、一人でも離れたら落ちると言ったはずだぞ!」
「お前らが馬鹿なことを言ってる間に、兄さん達が全員助け終わったです」
軽やかに地面に着地した兎舞が勝ち誇り、驚く研究員達に狙いを定めて棍棒を回す。どうやら他の三人が天ぷらを片っ端から救出したことに気付いていなかったようだ。それほど、兎舞にばかり意識を向けていたということになる。確かに、兎舞は端整な顔立ちと華奢で艶やかな身体の持ち主だが、仮にも敵同士なのだから目を釘付けにするなと言いたい。
「しまった、鬼に気を取られすぎたか!」
「気を取られすぎたっていうか、兎舞ちゃんしか見てへんかったな」
「おかげで麺と複雑に絡まった人達も全員助けられたし結果オーライじゃね?」
兎舞を見ていたことを自覚している研究員が頭を抱える。天ぷらになった人々を一カ所に集めて結界を張っていた希威が、ほんの少しだけ不満そうな白雪を宥めた。しかし、兎舞に欲を抱かれて不機嫌なのは白雪だけじゃない。水綺はニコリと笑みを浮かべて希威に同意しつつ、人質を解放して誰も居なくなったそうめんの巣を操る。
「そうですね。まぁ、兎舞をいやらしい目で見たのは許せませんけど」
「うわあぁぁぁ、そうめんの逆襲だ!」
「何で俺たちを!」
「あの妖怪の仕業か!」
慌てふためく研究員を一人残らずそうめんでグルグル巻きにして芋虫を量産する水綺。全員縛り終えたところで、希威と白雪から「一人で一網打尽とは流石」「水綺ちゃん最強説」と賞賛を得た。兎舞に至ってはびしょ濡れにされた怒りからか、「いいぞ、もっとやれー」という声援が飛んでくる。
「そうね。兎舞の要望に応えようかしら」
それに応えることにした水綺は、そうめんを巧みに操り、普通に縛っていた研究員を、亀甲縛りに変えていった。折れそうで折れないギリギリの海老反りが実に苦しそうである。白雪と希威が「うわぁ、子ども達にはお見せできない縛り方されとる」「リアルで初めて見た」と軽く身を引いている。
そんな中、兎舞だけ「ざまぁみろです、ばーか!」なんて喜びながら舌を出す。可愛い可愛い兎舞のご機嫌な姿を見られて水綺も満足だ。不貞腐れている兎舞も愛らしくて庇護欲を擽られるが、やはり兎舞は上機嫌に笑っている方が良い。木の枝を利用して全員を吊し上げた水綺は、嬉しそうな兎舞の頭を撫でる。
「そういえば、天ぷらになった人達って、どうやったら元に戻るんだ?」
「そこの鬼もそうめんで拘束すれば教えてやる」
「兎舞、ごめんね」
結界を解除した希威の言葉を聞いた敵がボソッと呟き、間髪入れずにそうめんを操り兎舞の両腕を頭上で縛る水綺。いきなり裏切られた兎舞は、理解できていない様子で、何度か赤い瞳を瞬いてキョトンとしている。無理やり挙げさせられた両腕を見上げ、グイグイと動かして外そうと試みた後、ようやく理解したらしく目を丸くして叫喚した。
「ずっきー!?」
「何の躊躇もなく拘束したな」
「拘束されとる兎舞ちゃん、ええわぁ」
「撮るなです!」
希威と白雪が携帯を構えてフラッシュを焚く。恥ずかしいのか頬に一重梅を咲かせた兎舞は、腕を挙げさせられていて隠せない代わりに顔を背けていた。鬼の力ならそうめんの拘束など一瞬で解けるはずだが、縛られていないと天ぷら化の解除方法を聞き出せない。
故に、兎舞は含羞の色を滲ませた顔を横に逸らして、フラッシュから逃げるしかできないのだ。耐えきれなくなってきたのか、「早く言え、馬鹿」と言わんばかりに、拘束を命じた敵を涙目で睨めつけ始める。男は殺気に肩を竦ませると、慌てて解除方法を白状した。
「天ぷら化の解除方法は、衣を全て落とすことだ。そうすれば、中にある具材になった人間は元に戻る」
「ありがとう。それじゃあ、兎舞に熱い視線を送る邪な目は閉じましょうか」
「ぐふっ」
縛り上げられた兎舞に見惚れていた為、男の目をそうめんで隠して地面に落とす。緩和剤もなく腹を打ち付けた男は、苦しそうな呻き声を上げた後、気を失った。耐久力が人間なうえ、亀甲縛りで受け身も取れないのだ。当然だろう。希威がヒューッと口笛を吹いた。
「水綺、容赦ねぇー」
「確かに不快やったし、うちも協力しよ」
「寿命を刈り取る気満々じゃねぇか」
揶揄うような口調だった希威が、巨大な鋏を召喚した白雪に苦笑する。超能力を操る妖怪と違って、人間相手なら最強な死神故、きっと敵は寿命を根刮ぎ奪われるだろう。別に生きて捕獲しろという命令は受けていない。そのため、苦笑しつつも希威




