21.着物変換機能が壊れた話
人間に化ける術を解いた際、妖怪の姿に戻ると同時、服も洋服から和服に戻る。それは、水綺が造った着物変換機能のおかげだ。これを組み込むことで、いつ何処で術を解いたとしても、きちんと着慣れた和服と武器を召喚できるのである。ブレスレットとなっており、妖怪だと露見しない指輪同様、装備することが可能だ。
そんな優秀すぎる着物変換機能が、兎舞の分だけ何らかの原因でぶっ壊れていた。それに気付かないまま、先に一人で依頼に向かった兎舞。鬼の姿に戻って奇襲を仕掛けようとした刹那、ようやく普段と違う格好に気づいた。赤色のビキニに黒いラッシュガードを着ている自分に、兎舞は棍棒を振り上げた体勢で目を丸くする。
「へあっ!?」
研究施設の天井を破壊して着地した場所は、よりにもよって大勢の人が集まる食堂だった。近くでうどんを食べていた男が、吹き出した所為で汚れた口元を手で拭い、紅潮した顔でビシッと指を差してくる。
「おっまえ、なんて格好で襲ってきてんだ!」
「とまの意思じゃねぇです!」
そんな男に、兎舞は頰に一重梅を咲かせて、ツッコミと共に棍棒を叩き込んだ。男が長机にうどんごとめり込むが、誰も心配したり助けたりしない。空から降ってきた水着姿の鬼に、食堂で食事中だった研究員は、軒並み、紅葉を散らした阿呆面で、唖然としているからだ。
女物の水着なんて、女である兎舞にとっては、何も恥ずかしい衣装ではない。のに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、大勢から視線を突き刺されて、身体がジワジワと羞恥に侵されていく。何となく落ち着かなくなり、紅い顔を伏せてしまう。鬼の動きを止めたのを良いことに、男達が好き勝手に感想を言い始めた。
「かわいい……」
「水着だから棍棒を振り回してる姿がそそる」
「とまだって好きで水着を着てるわけじゃねぇよ、ばーか!」
「へぶっ!」
含羞に背中を押された兎舞はテーブルを踏み台に跳躍し、顎に手を当ててじっくり見てくる男を棍棒で殴り飛ばす。トンっと軽やかに別のテーブルへと着地し、今し方、壁にめり込んだ男を涙目で睨んだ。
ムスッと唇を尖らせた不満そうな顔が、更に食堂に集まる研究員の心を掴んでいるなど、夢にも思っていない。と、さっさと終わらせて帰ろうと決めた兎舞を、嘲笑うかのようなタイミングで水着が光り、ポンっというポップな音と共に姿を変える。
「ほあっ!?」
「おお、今度はジェラートピケだ!」
「しかも、萌え袖!」
「いい……」
研究員達が恍惚とした表情で感想会を開き始めた。今の格好は、少しゆったりとした白いジェラートピケ。パーカーのフードと袖、長ズボンの裾に、薄い赤色が入っている。見るからにフワフワで手触り良さそうなフードは猫耳付き。
何故か被った状態にされており、先程までの妖艶さと一変し、可愛らしさが溢れ出ている。モコモコとした素材に少しだけ顔を緩めていた兎舞は、ハット我に返って四方八方からの熱い視線に顰めっ面をした。あまりにも見られすぎて、遂に恥じらいよりも不快が勝っている。
「ジロジロ見んなです」
「ぶふっ」
「ぐああっ」
テーブルの上に屈んで位置を合わせ、真正面に居る男二人の顔に拳を入れた。ドサッと崩れ落ちて失神したものの、手の甲を覆うモコモコの袖に邪魔されて、威力が半減したように感じる。パンチの反動と頭から伸びる角で、猫耳付きのパーカーも頭から落ちていた。袖を殴りやすい位置まで捲り上げて、ニヤリと口角を吊り上げる。
「これなら水着よりは動き回れるです」
「ぐはっ」
見られてもまだ恥ずかしくない格好を利用した兎舞は、ズボンの裾から下着を覗こうとする男の顎を、下から上蹴り上げた。そのまま、隣のテーブルに移動してから床に降り、兎舞目当てで集まった研究員を拳と脚で沈めていく。ある程度、死屍累々にしたところで、ジェラートピケが光を帯びた。
「うわっ、今度はスカートだ!」
思わずスカートを抑えテーブルに屈み込む兎舞。青襟と桃色のリボンを付随した白のセーラー服に、襟と同色の膝上付近に裾がある短いプリーツスカート。そんな明らかに年齢に合っていない服を着せられ、流石に今までの中で一番の羞恥に支配された。と、そんな兎舞に追い打ちをかけるように、セーラー服に興奮するタイプらしき一人の男が、両腕を高く突き上げて歓喜の雄叫びを上げる。
「おっしゃあ、セーラー服だあぁぁぁぁぁ!」
「めちゃくちゃ似合ってんじゃん!」
「学生でも十分イケる」
「誰の顔が童顔だ!」
兎舞は机を踏み台にして軽く跳躍すると、身体を横に旋回させて鼻息荒い変態達を棍棒で殴った。そして、そのままの勢いで、凛然とした表情で高らかに宣言した男を、思いっきり蹴り飛ばして壁に激突させる。
照れていて力加減が上手く出来ず、施設の壁にヒビを入れてしまった。組織の崩壊が依頼故、特に問題ないのだが、水綺からなるべく殺さず捕まえるよう言われている。力自慢である鬼の自分には難しい指示だ。
「えあっ!? 何この格好!」
子供扱いしてきた男を蹴り飛ばした後、兎舞はまた姿を変えた服装に目を丸くする。机の上に着地し、慌てて自身を観察した。次のコーデは、オフショルダーの白い服に、デニムのショートパンツという爽やかな格好だ。肩から胸、背中にかけて、それに加えて太腿辺りまで露出している。
剥き出しになった肩は、噛みつきたくなるほど真っ白で、綺麗な背中も物凄く唆られる。ショートパンツから伸びる脚は見事な曲線美を描き、思わず蹴られたくなる衝動に駆られる美しさだった。当然、そんな滑らかで妖艶な生脚に視線が注がれる。
「オフショルダーにショートパンツだと!?」
「そんな私服まで見せてくれるのかよ」
「脚が長すぎるし綺麗すぎるし細すぎるだろ」
「あの太股舐めたい」
「キモいんだよ、脚フェチ共!」
視線だけでジワリと脚を犯す変態達に、兎舞は近くにあったテーブルを直撃させた。八人ほどで使える広い長机を顔面で受け、男達が鼻血を噴出させてドサドサと沈む。可愛くて綺麗で魅力的な格好のままだが、テーブルを片手で持ち上げて投げ飛ばす。
そんな鬼の力を間近で見せつけたのに、まだ視線を固定し鼻血を垂らす男達にも、テーブルを投げつけようと片手で持った。刹那、兎舞によって空いた天井の大穴から、白雪がふわりと降りて隣に着地し苦笑する。それに続いて水綺と希威も穴から降りてきた。
「兎舞ちゃん、荒れとるなぁ」
「うえーん、シロさーん」
「おいおい、俺の可愛い妹を泣かせやがったのは誰だぁ?」
「ちなみに、兎舞に欲情した奴は、もれなく全員ぶっ潰すから」
ドッと溢れ出た安心感により脱力した身体を白雪に預け、兎舞は涙目で彼の肩口にグリグリと額を擦り付けて甘える。よしよしと背中を一定の調律で優しく叩き、白雪が片手でぎゅっと抱きしめて慰めてくれる中、低く暗い声色で変態達を咎める希威と水綺。
「誰がこんな奴に欲情なんかするかよ」
「そ、そうそう。人間様が妖怪如きに劣情するわけねぇだろ」
「身を弁えろよ、妖怪」
「ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃねぇ!」
「あっ」
吹き荒れる悪口雑言の嵐の中、またもや兎舞の洋服が光を帯びて、チャイナドレスへと姿を変える。スリット入りのノースリーブの赤いドレスは、折れそうな身体をくっきりと露わにしていた。細長い腕や脚は艶かしくて滑らかで扇状的だ。ノースリーブ故、蠱惑的な肩から脇まで晒されている。
「中華キタァァァァァ!!」
「スリットから覗く脚が堪んねぇ!」
「腕から脇に掛けて撫で回してぇ!」
「テメェ等全員、アウトじゃねぇか!」
チャイナドレスに興奮して歓声を上げる男達を、カァーっと顔を赤らめた兎舞は棍棒で弾き飛ばした。怒りと羞恥で加減を忘れた鬼の一撃による風圧で、棍棒を逃れた周囲の変態達のほとんども吹き飛ぶ。壁を壊す勢いで身体を叩きつけられた処罰対象は、軒並み血を吐いて満身創痍な状態で失神している。が、瀕死状態に合わない幸せそうな顔をしており、ムカついた様子の希威や白雪に無言で悪戯されていた。




