第九話 おじさん、健康診断後に大男と戦闘
「た、助けて! ねえちゃんが冒険者に殺される!」
必死になって走ってきたゴウタ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「ゴウタ、落ち着け。なんだ、どういうことだ?!」
「でっかい冒険者に兄ちゃんがぶつかって、すごい怒ってて、で、金髪の綺麗なおねえちゃんが止めてくれたんだけど、その人見たらまたデカい冒険者が怒り始めて、ぶっころすって……!」
ゴウタが指をさすと遠くに大きな男が、遠めでも分かる。ドドだ。
あのバカ、またキレたのか!? 金髪の綺麗な姉ちゃんってもしかして……。
「……アレは、ユリエラさ……ん。マズい! あの冒険者から殺意があふれ出てる!」
物静かな雰囲気だったシアが慌てている。それだけ、ドドの様子がヤバいのだろう。
ドドのやつ! マジでキレやすい若者すぎるだろ!
シアはまだ解呪のせいか力が入らないようで身体がふらついている。
となると、今、動けるのは……!
「俺しかいねえよなあ……!」
俺は、意を決して立ち上がる。膝が痛い! 腰が痛い! 肩が痛い!
呪いはいくつか解けても身体は痛いし、内蔵もすっごい調子が悪い!
それでも。
体調不良なので俺は無理ですなんて……
「言えるわけないだろう……!」
いつも優しくしてくれたユリエラさんと、未来ある子供を守らねえ雑魚おっさんなんてただの雑魚ゴミおっさんだ!
俺は、足に力を込めて走り出そうとする。
その瞬間、シアに腕を掴まれる。
「一言忠告」
「なんだ!?」
「慣れない力に振り回されないようにね。ガンバ」
何を言ってるか分からねーが、応援してくれてることは分かった。
とにかく、早く止めに入らないと!
「分かった! がんばるぜ!」
シアの微笑みの意味は分からないが、なんとなく頷き俺はぼんやりと見えるドドを睨みつける。
そして、俺は魔水晶のタブレットをシアに渡す。これ壊したらすっごいお金かかりそうだし、多分俺ぼっこぼこにされるだろうから念のため預けておこう。あと、どうせ死ぬ可能性あるならクレイ爺のポーションも飲んどこう。一か八かだ!
めっちゃまずかった。
「まずい! もうのまない!」
あまりにも刺激的過ぎて全身にその苦みが充満していくような感覚で身体が震えている。だが、なんかキいてる気がする! ききすぎてる気もする!
そんな震える俺の背中をそっと押すシア。
「ダメ押し。一時的にさらに解呪する。だから、お願い……!」
シアの一声で俺の身体に白い魔法術式が俺を囲むように展開されていき、どんどん俺の身体が軽くなっていく。呪霊がゆっくりと眠りについていっているような感覚。身体の中の緑と外の白が中和されていき俺の身体に淡い緑の魔力が……
「無茶しすぎないでね。無茶しすぎたら、死ぬ」
「ええい! 健康万歳!」
覚悟を決めて地面を蹴ると……目の前にドドがいた。
「……え?」
「……え?」
「え?」
「え?」
意味が分からない。ドドが目の前にいる。危うくキスしそうな近さで。なんだコイツ一瞬で移動したのか? あのでかい図体で?
「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」
お互いに疑問符が浮かび続けただただえ?と言いあう時間に割り込んできたのは俺の後ろからの声だった。
「カイエンさん? いつの間に?」
ヒナを抱えたユリエラさんがそこにいた。え? じゃあ、俺がここにきたの?
なんで?
いや、なんでといえば、助けるためだけど、え?
一瞬で移動した?
「テメエ、か、カイエン!? 一瞬でどうやってここにきた!?」
ドドが相変わらずデカい声で叫んでいる。聞こえやすーい。
ていうか、え?
「え? 今、俺どうやってここにきた?」
「知らねえよ!」
誰もが首を傾げている。俺も首を傾げている。間違いなく俺がここにきた。
だが、どうやって来たんだ? わからなさすぎる。
「ああもう! なんでもいい! 邪魔するならテメエも殺すぞ!」
わからないことだらけだ。俺の身体の話もそうだが、なんでコイツはキレてるのか。今の瞬間移動の理由。そして、何より……なんで真面目に生きてるユリエラさんやがんばって生きているヒナたちがこんな目に遭わないといけないのか。だから、今やるべきことは……。
「悪いな、ドド」
俺は顔を歪ませ笑う。
「俺はな、見て見ぬ振りを医者に止められてんだよ。身体に悪いからって」
ただ、俺は……理不尽な苦しみを与える世界がだいっきらいだ!!!!
「いい加減にしろよ! 馬鹿野郎!」
「ああー! イライラする貧弱雑魚おっさんのくせによぉおおおおお!」
ドドがデカい拳を振り上げる。
この前、俺を殺したらマズいって教えたのに、もう忘れたのか!? 頭おかしいだろ!
「カイエンさん! 逃げて!」
逃げるわけにはいかない! 逃げれば、確実にこの話聞かない馬鹿が暴れてユリエラさん達は怪我をする。最悪、死ぬ。そんなの自分が死ぬより辛すぎる。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
こうなれば刺し違えてでもドドを止める!
俺は手を鋭く手刀の形にし、ドドの脇を狙う。俺の貧弱な力でも多少は痛みを感じさせられるはず! 防御なんてしても俺の貧弱な身体だと吹っ飛ぶだけだ。なら、攻撃全振りでやるしかない!
速さもGの俺ではドドの早さにはかなわない。防御力・体力Gの俺では攻撃に耐えきれない! 攻撃力だってGだ! それでも、やるしかない!
「カイエンさんっ!」
ドドの大きな拳が俺に届く! 前に、俺の手刀がドドの脇腹にめり込んだ。
「…………………………か、ひゅ……!」
「……………………………………………………………………………………………………………え?」
え? めり込んだ? そして、遅れてドドの拳。え? 遅れて?
ぺちん
俺の顔にぶつかるが軽い音が鳴るだけ。痛くない。え? 痛くない? え? 寸止め?
ドドの顔を見る。かなり近いので目を凝らせば表情も分かるがすっげえ驚いている。じゃあ、寸止めじゃないな。じゃあ、俺の一撃で? 一瞬遅れてドド白目。
そして、残像となり消えた。
早い! ドドのヤツいつの間にそんな素早さを!?
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ……!?」
「え?」
ドドが高速移動で向かった先には二階建ての宿屋が、その角にぶつかったらしいドドが空高く舞い上がっている。かなり高く飛んでいるようだが流石ドド。身体がデカいのでよく分かる。
「……え?」
ドドが飛んでいる。
何故か?
多分、俺が吹っ飛ばした。
「え?」
ぶっ壊した宿屋をみると崩れた壁の向こうにサエ&コウがいた。コウが縛られてて、サエがムチと蝋燭を持っている。え? そういうのがお好きなの? そんな二人の上にデカいドド落下。あー、痛そう。俺なら死んでるね、あれ。
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